ロザリタ視点で焼き直した感じになりますがどうぞ。
革命の果てに訪れる朝を信じていた。
血に塗れたこの身は、犯した罪諸共に浄められるのだと……そう願っていた。
けれど現実は醜悪で、そして残酷だった。
戦いに身を置く理由は極めて単純で、私にはその才能があった。ただそれだけ。
主義や思想はとても正しく余りに眩しく映り、いとも容易く私の目を灼いた。
正しき未来の為に銃を手にした。
報われるべき人々の為に刃を振るった。
より善き明日の為に命を奪った。
けれど、そうじゃなかった。
流した血の量は罪の重さで、奪った命の数は罪の大きさでしかなかった。
主義も思想も、フローレンシアの猟犬を繋ぎ止める
無知な私はそんな事にすら気付かず、よりによって最悪の形で思い知ったのである。
それは、マグダレナでの任務で
同県に活動する同志達が、悉く襲われ命を落としたのだ。
ある者は眉間に穴を穿たれ路地裏に転がされていた。
ある者は車ごと生きたまま焼かれて灰になった。
ある者は家屋ごと瓦礫の中で肉片となり果てた。
最初こそ軍による粛清かと思われていたそれは、次第に人の手によるモノとは思えぬ惨たらしさを見せ始め、第三者の仕業であると判断された。
春先にマグダレナへ派遣された頃には、マグダレナ各地の支部は半壊と言っていい状況だった。
敵は容赦なく、苛烈に、残酷に、徹底的に破壊と殺戮をばら撒いていた。
マグダレナの同志達は、私の姿を見るといくらか落ち着きを取り戻した様だが、見えぬ敵にすっかり脅え切っていた。
私はすぐさま捜索を行ったが、標的の行方は杳として知れず、逆に私達をあざ笑うが如く同士達に手をかけていった。
対象は既にこの地を離れており、翌月にはフローレンシアで行動を始めていたのだ。
一人一人丁寧に、迅速に、眉間に穴を空けるだけの簡単な作業だと言わんばかり。
悉く私達の裏をかいてくる知性、姿はおろか影すら踏ませぬ手際、まるで判を押したように眉間に穴を空けられた同志達の亡骸。
姿は見えずとも明確な殺意を以て屍と瓦礫を積み上げて行く悪夢の如き存在に、私を含めた誰もが夜の訪れに怖気を感じる始末だった。
そんな革命の同志達を恐怖のドン底に陥れた悪夢は、翌年の春に終わりを告げる。
そこで私は罪と相見えたのだ。
扉を蹴破って侵入したと同時に感じた冷たい感覚に身を伏せたおかげで、私は生き残った。
フードを目深に被った顔をこちらに向けるまでもなく、ただ両の手に握られた銃口だけが私達に牙を剥いたのだ。
ゆっくりと立ち上がる私に今気付いたと言った風に首を傾げ、ゆっくりと正対する影。
「
フードから覗いた顔は見た事もなく……否、
その事実を脳が認識し、全身に冷たいモノが広がるにつれて私の体は小刻みに震えだす。
喉が干上がり、嫌な汗が噴き出し、銃を握った両手は最早地面に向けられ、力の入り切らない両脚でどうにか踏みとどまった。
「フローレンシアの猟犬さんでいいのかな? ……いやま、そうじゃなくてもいいんだけれど」
「貴女の殺した命でどれだけ革命に近付けた? どれだけの人が幸せになれた? 是非とも答えて欲しい」
いっそ場違いなまでに穏やかな表情で吐き出されたソレは、私に過去の光景を思い出させた。
そうだ。私は彼を知っている。血に濡れた写真の中で笑う彼を。私が殺したあの男と母親であろう女性と肩を並べ、照れ臭そうに笑っていた彼を。
そしてその写真を踏みにじった私を──!
膝を付き頭を抱え、私は絶叫した。
彼がその時どんな顔で私を見下ろしていたかは窺い知れない。ただ困惑した様な「えぇ……」と言う声を聞いた気がする。
私は罪を告白した。全てを曝け出した。
犯した大罪が生きて姿を現した今、そうして償いの為の言葉を重ねるしかなかったのだ。
私は理想に殉じる勇士ではなかった。
私は革命を志す女ではなかった。
私は眩しいナニカに目を灼かれた愚物だった。
……私は未来の為に猟犬になったと勘違いした道化だったのだと。
「そっか」
彼の返答はそれだけ。
少しの間を置いて彼はこう告げた。
「結果から言うと赦さんが殺さん。じゃ、そういう事で……」
銃をしまってこの場から去ろうとする彼の脚に縋りつき、私は哀願した。
もうこんな世界は嫌だと。
赦さないと言うのなら、この命でもって少しでも贖わせて欲しいのだと。
そんな私を見詰める彼の視線に温度は無く、先程浮かべていた穏やかさも消えていた。
……今なら分かるけれど、この時の彼は大層困惑していたのだ。
彼は軽く息を吐き出すと、それならばと私に福音を授けた。
「そんなに償いたいなら、
貴男の意のままに生き、そして死ねと。
そうすれば赦されるのだ。私の罪を浄めてくれるのだ。
私は痛い程の静寂の中で、密かに……静かに達した。
腹を見せる代わりに彼の爪先に唇を落とし、服従の証とした。またも「えぇ……」と困惑の声が聞こえた気がしたけれど、気のせいに違いなかった。
見上げた彼の眼には、確かに愉し気な色が見えたのだから。
こうして主従の契りを交わして、最初にもらった命令は「服を脱げ」だった。
こんな場所で致すのかと躊躇っていたら、よく聞けば死を偽装する為の準備だと言う。
とんでもない勘違いだった。
……思うに、この頃から少し……そう、ほんの少し私は壊れてしまったのかも知れない。とは言え元から欠けた器だったのだ。壊れ切りさえしなければ、大事に丁寧に扱ってくれるに違いない。
彼が選んだ飼い犬である限り、私が選んだご主人様なのだから。
そうして二人分の偽装工作を施し、父の友人を頼って故郷を捨てた。
私達は遠く離れたアジアの地へと旅立ったのだ。
その道行で、私は多くの事を知る。
彼の優しさだとか残酷さだとか、私が芽吹かせてしまった
普段は穏やかそのもので、タバコを燻らせながら遠くを見つめる時に浮かべる表情だとか、実は朝に弱かったりだとか……些細な事から大事な事まで、本当に色々な事を教えられた。
同時に、彼も私の事を知ってくれただろう。
但し、
ただ、彼が誰かを傷つける度に……その際に何ら呵責を感じていない事を感じる度に、心が軋む様な感覚になるのは知られていない、と思う。
私のご主人様はある種の異端であった。
清濁併せ呑む……否、併せ持つと言った感じだろうか。
彼は穏やかな気持ちのまま命を奪う事が出来る。
都合がいいとか悪いとか、好き嫌いだとかそういった感情を持たぬままに、息をする様に容易く行えるのだ。
曰く「俺の為に死んでくれてありがとう、ぐらいは思ってるけれど」だそうだが、ソレを行う様は余りにも自然過ぎて、初めて顔を合わせたあの日感じた重く冷たく仄昏い殺意はなんだったのだろうかと思わざるを得ない。
そんな彼だけれど……私を選んでくれたご主人様だ。私が選んだご主人様なのだ。
ならばそれを受け入れよう。彼の犯した罪を赦す……などと大層な事は言わないし、出来ない。
彼の温かさも冷たさも、怒りも喜びも、情も無情も肯定しよう。
私の罪はまだ消えないけれど、それ以外の全てを受け入れてくれたのだから。
最期には死を以て償いとしてくれるのだから。
私はそうやって、雌犬として媚び、猟犬として牙を剥き、彼の腕の中で幸せに野垂れ死ぬのだ。
この悪徳の都、ロアナプラで。
飼い主:何気ない一撃が他者の命を傷つけた! なシチュが世界一似合うかも知れない男。なんでやねんとシバいたら頸椎イカれたとか普通にやりかねんので普段はリミッターをかけている。一年ちょい暴れ回った成果か否か、その辺の加減は割と出来ているらしい。得物は南米で入手しやすいだろうトーラスPT92あたりを考えてるけど、それだとレヴィとちょい被る(正確にはあくまで原案がPT92だった)から、同じトーラスでもPT100なり101とか、スペイン製のラーマだかリャマだかあたりを検討中。
肝心の名前はない。必要ならそん時考えよう精神。
ロザリタ:人の皮を被ったゴリラをご主人様認定しちゃった猟犬さん。彼女視点で描いてみたものの、粘度も湿度も足りない気がして物足りない……いや続きを描けばいくらでも追加出来r……出来るか? まぁうん(?)
尚、本文で語った罪を重ねる才能ってのは単純に戦闘能力だったりセンスを指しており、罪の重ね方は知識や手段だったりを指してます。