猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 ちょっと話挟むかぐらいのはずが気付けば3話使ってるし1話あたりの文字数増えてるしで作者本人も困惑しましたが今回で原作本編外のエピソードは一旦終了。


 snake hunt Ⅲ / crane hunt

 双頭蛇が咆える度に首から上をブチ抜かれた死体が崩れ落ち、大振りのククリナイフが唸りを上げる毎に首や手が切り裂かれて行く。

 

「十人どころか倍はいないですかねー? シェンホアさん」

「他から合流しましたか。様子見がよいなかったか?」

「終わらせてから考えましょっか」

 

 シェンホアが太腿のベルトに手を伸ばすとほぼ同時、それを見たバイパーはその異名よろしく地を這う様にヘッドスライディング。

 視界から敵が消え、スーツ姿の男が動きを止めた所に投擲された鏢がその身体に突き刺さった。

 スーツ姿が倒れる横を器用に前転しながら通り過ぎ、尻で床掃除しながら双頭蛇をブン回す。

 膝立ちになってリロードしながら周囲を探るが、物音も気配も無く静けさだけが残っていた。

 

「……片付いた、かな?」

「結局皆殺しなったね。まあよいね、ここからが御馳走様の時間」

 

 ククリナイフが唸りを上げて、毒蛇の首を断ち切らんと襲い掛かる。それを愛銃のグリップ底で弾き、続いて飛んで来た鏢を両手の得物の銃身で逸らしながらバックステップ。シェンホアは索を操ってククリナイフを手元に戻すと一旦追撃を止めて毒蛇をじっと見つめる。

 全弾回避とまでは行かず、右肩に突き刺さった一本を親指と中指で摘まむ様に持って無理矢理引き抜いた。

 

「一応聞いとくけれど、張さんの命令?」

「答えはノーね。大哥は了解するしましたけど、別件よ」

「オッケー分かった。()()と俺が的だったと。張さんがオッケー出したってことは……」

 

 右肩を回しながら会話を交わす。流石に痛みはあるが、()()()()()()()()()程ではないし、動かせるなら問題無しと言ったところだろう。

 

「おう賢いな。お兄さんお仕事した中の身内ね。その人私雇って、大哥に大枚叩いてお兄さん売ってもらったよ」

「思ってたんと違う上に何かややこしい事になってる……」

 

 男はそうぼやいたものの、()()()()()()()()()の遺族がシェンホアを雇い、張から情報を買ったと言うだけの何処にでもありそうな話だった。

 

「まー気持ちは分かるかな」

「潔く首差し出すますか?」

「なんで?」

 

 首を傾げて毒蛇は言葉を続ける。

 

「復讐つーか仇討ちしたい気持ちは分かりますよ? 俺もそうだったから。じゃあ大人しく討たれろって言われてもねぇ? 何回殺されりゃいいんよって話で」

 

 肘を軽く曲げ両腕をダラリと下げると、肩幅ぐらいに足を広げて少し腰を落とし、前傾の姿勢を取る。対するシェンホアはハイヒールを脱ぎ捨てると、その場で軽くステップを踏んだ。

 

「殺し殺されで飯食ってんなら、()()()()()()()()()()()()でしょ」

「……お兄さんの言う通りね」

「んじゃま、やりましょっか」

(えぇ)我们一起跳舞吧(一緒に踊りましょう)?」

 

 シェンホアの返答を合図に、互いに口元には笑みを、眼には戦意を漲らせる。

 空気が張り詰めて行く中、こちらへ向かって来る足音が響いて来た。

 

「ケリが付くまで手出し無用ね」

 

 シェンホアは男の言葉から、誰が駆け付けたのかを理解する。他の誰かであれば、きっと彼は腰の得物を再び抜いただろうから。

 

「……死んだら死ぬわ」

「泣きそうな顔しない」

 

 男の視線がふっと和らぐ。

 それを好機と鶴が地を蹴り刃の翼を広げたが、それよりも更に速く毒蛇が地を這い襲い掛かる。

 鋭い呼気と共に、脱力していた右腕が鞭の様に撥ね上がった。狙いは右脇腹。

 その拳を断ち切らんと振るったククリナイフの先で男の拳が軌道を変える。動きの鈍ったククリナイフを素通りして手首をガッチリと掴む。

 瞠目するシェンホアを他所に、空いていた左手が発条仕掛けの如く撥ね上がりもう片方の手首を掴んだ。

 

「歯ァ食い縛って」

 

 言いながら手首を捻じり上げると、伸びあがる様に地面を蹴って片足を浮かせ、前傾していた上半身を弓なりに反らす。

 

(──頭突き!?)

 

 万力に挟まれた様な痛みと捻じり上げる剛力に手首と肘が悲鳴を上げているのを感じながら、シェンホアは毒蛇の一撃を予測する。

 激痛に悶えつつも直撃だけは避けようと身をよじり上半身と首を反らすが、毒蛇の牙が狙ったのは頭ではなかった。

 

「ッラアァァ!!」

 

 気合一閃。

 床を踏み抜かんばかりの震脚と共に繰り出された一撃は、シェンホアの胸元に向かって放たれた。

 

「ギッ!?」

 

 回避を試みて背を反らしたのが災いしたのだろう。

 胸の谷間に男の鼻先を突っ込ませた様なものだ。全身のバネと身長差に体重を乗せた頭蓋の一撃は、彼女の胸骨体のみならず肋骨を巻き添えにした。

 更には、両手を拘束されて衝撃を逃がす事も出来ず、内臓にも尋常ならざるダメージを齎した。

 ゴポリと鮮血を蛇の頭にブチ撒けたシェンホアは、彼によりかかる様に膝をついた。

 自身によりかかる女の体勢を入れ替えて、背を支える様に地面に座らせると、バイパーは改めて口を開いた。

 

「勝負ありでいい? あぁ声出さなくてもいいよ。続けるなら1回、終わりなら2回タップで」

 

 掠れた息をしながらシェンホアは苦笑を浮かべると、ゆっくりと男の腕に2回触れた。

 バイパーは一度頷くと、しばし虚空を眺めてから再び口を開いた。

 

「改めて聞くけれど、俺を的にしたのは張さんの命令でなく、他の人で間違いない? イエスなら1回、ノーなら2回で」

 

 シェンホアの返事は1回。

 

「んじゃ最後、かな? 死ぬ覚悟が出来てるなら1回、死にたくないなら2回」

 

 シェンホアは穏やかな顔でこちらを窺う蛇と、突き刺す様な視線を飛ばして来る猟犬の前で身動ぎ一つせず苦し気な呼吸をしていたが、バイパーの手に己のそれを重ね、一度だけ叩くとほんの少しだけ重ねた手に力を入れた。

 

「ロージィ、ハートランドさんに連絡お願い」

「……ねぇ?」

「お願いでダメなら命令、ほらはよ」

 

 猟犬は天井を見上げながら歯を食い縛る。色が変わる程に拳を握って全身を震わせたが、不意に脱力すると肩を落として項垂れた。

 そして恐ろしく深く長い溜め息を吐くと、携帯を取り出した。

 

「言いたい事もしたい事もあるけど……私が言えた義理じゃなかったわね」

「それはそれ、これはこれでしょ。ごめんて」

 

 互いに苦笑交じりで首を振る様子を、シェンホアはじっと見つめていた。

 一体、何が始まるんだと疑問が湧いて来るも、想像以上のダメージに口を開くのすら億劫な状況だ。

 そんな彼女を他所に、バイパーも携帯を取り出して何処かへと連絡を入れる。

 

「あ、張さんですか? 例の場所制圧しました。生き残りは……あ、いますね大丈夫です」

 

 ロージィとアイコンタクトで確認を取りながら、バイパーは張との通話を続ける。

 

「それでシェンホアさんと別口の仕事でやり合ったんですけれど、2つ確認させてもらってもいいですかね?」

『……2つ?』

「別件で関わったのは情報提供のみで張さんの依頼でない事かってのが1つ。彼女の処遇は俺に任せてくれるかどうか、ってのがもう1つです」

『1つ目についちゃその通りだ。お前を始末したいなら迂遠な手を使う必要もないからな。2つ目は……そうだな、生殺与奪は勝者の権利だ。お前に任せる』

 

 張の返答にバイパーは口角を上げると、それならばと口を開いた。

 

「んじゃま、俺が飼いますね」

『……は?』

「あ、仕事の件は後でまた連絡入れますね」

 

 一方的に通話を切り上げると、苦し気な呼吸をしながら驚愕の眼差しを向けるシェンホアと視線がぶつかる。

 

「細かい話は回復してからって事で。まずは治療せんと」

「ドクなら時間空いてるそうよ」

「サンキュ」

 

 シェンホアの背中と膝裏を支えて抱き上げると、バイパーは歩き出す。

 

「運転お願い。キーは尻ポケット……あぁ、()()()()()もよろしく」

「はいはい」

 

 呆れ気味のロージィが男のポケットからカムリのキーを取り出す。彼の脇腹を一度殴りつけると、そのまま足を速めて先に向かう。

 

「さて今回はどんくらいで機嫌直してもらえるやら……?」

 

 シャツの袖を引く弱い力に視線を向けると、困惑しきったシェンホアと目が合った。

 

「死ぬ覚悟が出来てるんなら捨てたも同義でしょ? なら()()()()()()()()()()()()()? 斬った張ったとか気にしなくてもいいよ。俺だって一昨年ぐらいまでロージィの命狙ってたしね」

 

 爆弾発言にギョッとするシェンホアに苦笑しながら、毒蛇は言葉を続ける。

 

「……ま、そこら辺は興味があるなら話すよ。とりあえず病院だね、病院」

 

 何が何だか分からないが、頭を働かせるのも辛くなって来たシェンホアは、男に身を委ねて目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日後。

 

「おっぱいが無ければ死んでたって。ツイてるね、おっぱいだけに」

 

 スパーン! といっそ小気味良い音を立てて、男の頭が叩かれた。

 

「今殴られるような事言った?」

「言ったわね」

 

 叩かれた頭を摩る男と腕組みして男を睨む女の前には、折り畳みベッドを起こして背を預けるシェンホアの姿があった。

 

「胸骨体骨折に肋骨4本にヒビ。左右の前腕部捻挫に両手首に手形まで……1~2ヶ月は動けないのよ、彼女」

「両手首は折れてなかったんだ? やった俺が言うこっちゃないけれど、仕事に響く様な怪我じゃなくて良かったねー」

「1ヶ月安静の時点で十分響いてるわよね?」

「死ななきゃ安いし後遺症の心配が無いならセーフ」

 

 ロージィは溜息を吐くとシェンホアに視線を向ける。

 

「三合会からの仕事に関しては、一両日中には片が付くそうよ。報酬と見舞い金は預かっているから、今はゆっくりして」

「おうそれは助かるね。……けど本当によいか?」

「いいのよ。私も飼われている身だもの」

「何の話?」

 

 女二人は呑気な男の顔を見て、互いの顔を見て、揃って溜め息を吐いた。

 

()()()()()は気にする事ないよ」

「そうね。それよりお粥吹き零れてないかしら? お願いね()()()()

「立場的に給仕だよねこれ」

 

 言いながら鼻歌交じりにキッチンへ姿を消す男の背を見送り、女達はまた溜め息を吐いた。

 

「いつもあんな感じか?」

「24時間あんな感じよ」

 

 眉間を揉み解すロージィを見ながら、シェンホアはこれからの生活が少し心配になって来る。

 

「勢いだけで生きてるないか」

「……そうね。それに私と彼の関係は話したでしょう?」

 

 肩を竦めるロージィに頷きながら、()()()()()()()の事を思い出す。

 毒蛇と呼ばれる男の過去だとか連れ添う女の過去だとか、その二人が出会ってからロアナプラに着くまでの諸々を。

 

「前世でどれだけ悪い事しましたか、ご主人サマは」

「現在進行中で悪い事をし続けているのは確かね」

 

 正論であった。

 

「まぁ……捨てたと思ったら拾われました。だから仕方ないね」

「それでいいんじゃないかしら。これからよろしくね? シェン」

 

 二人は苦い笑みを浮かべながらも、握手を交わすのだった。 




 〇毒蛇VS仙鶴× 決まり手:セクハラ(正確ではないが嘘でもない)


 飼い主:ペットが増えたよ!やったねご主人!!
 猟犬:色々言いたいけど、自分は親の仇だし死んで償おうとしたら飼われる事になった手前、強くは言えない模様
 鶴さん:ペット2号(暫定?)セクハラで死を覚悟したのに命を拾われた挙句に飼われる事に。普段のアレっぷりに面倒見の良さが炸裂する可能性は高い。

 蛇に犬に鶴……動物園とかサーカス的な異名付きそうだなこの人達。原作本編のエピソードの合間に今回の様なエピソードを挟んで掘り下げて行きたいなとは思ってます。

 次回よりRasta Blasta編に入ります。またお会いしましょう。
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