猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 明日更新予定だった22話です。明日ちょっと現場に出なければいけなくなったので前倒しの投稿となります。よって08/15の投稿はございませんので、予めご了承下さい。
 飼い主がゲロった直後のお話になります。


 El pesadilla de Magdalena

 ガルシア君と別れを告げ、自宅に戻ったその夜。

 俺は居間のド真ん中で正座をさせられている。流石に履いたままだと尻が危険なので、許可を得た上で靴は脱いだ。

 向かって左には腕を組み谷間を強調するロージィ、右には腰に手を当てたシェンホアが仁王立ちしていらっしゃる。チャイナドレスの大胆なスリットから伸びる脚が、とてもエッチです。

 

 ……現実逃避はさておき。

 何でこんな事になってるかと言うと、勿論埠頭でのカミングアウトが原因だろう。ロージィの素性はともかく、俺の事までゲロっちゃう必要なかったな……いやま、信じたかどーかは疑問が残るんだけれど。

 

「何か申し開きはあるかしら?」

「無いよ?」

「何で無いか」

 

 揃って顔をグッと近付けてくる。そんな前屈みんなっていいの? 谷間主張されると話に集中出来ないんだけれど? それにしても甲乙付け難いモノをお持ちですねみんな違っていいおっぱい。

 

「どこ見てるね」

「おっぱい」

「真面目な話をしてるのだけど?」

 

 知ってる。

 

「んじゃま、話戻して……そもそも俺がマグダレナの悪夢だっつって、あの場にいた何割が信じたと思う?」

 

 俺がそう言うと、二人は難しそうな表情で互いを見やり元の立ち姿に戻った。

 

「……半信半疑、と言った所かしら」

「信じる信じないは別にしても、莫斯科大飯店(ホテル・モスクワ)の兵隊さん、ビビってるのいたね。バラライカの命令無しに銃向けてたの、そこそこいたよ」

 

 思い出すと地味に凹むから、シェンホアの反応は置いといて……。

 

「バラライカさんはやたら真剣な顔してたっけね」

「それなんだけど、麻薬絡みの件があるからじゃないかしらね」

「なんで?」

 

 コカイン畑の方はオマケ要素だしなぁ。

 

「……人的被害はFARCの方が上だけど、被害額で言えばメデジンの方が遥かに上よ? 畑が再生するまでどれだけの時間がかかるやら」

 

 塩撒いた所もあるから二次被害とかってレベルじゃないだろなーと、当時の事をぼんやり思い出す。まぁアレを機に真っ当な仕事に就いた人もいるんじゃないかな。職があればだけれど。

 

「麻薬撲滅に血道上げつつテロ粛清って、()()()()()()()()()()()()()でウケるよね」

 

 但し、その内容は見せられないよってレベルじゃないわけだけれど。そもそも善悪の話じゃない? それもそーだね。今ならロアナプラで築いたコネを利用して、更に被害拡大させられると思うんだけれど、別に麻薬をどーこーしたいってのはないからなぁ。

 ……っと、いかんいかん。話が逸れてんな。

 

「やってた事は本職も恐れ戦く残虐振りだったのだけど」

「や、それほどでも」

「ロージィは褒めてないよ」

 

 知ってた。

 俺の顔を見ながらロージィは呆れた視線を寄越したけれど、肩を竦めてこう続けた。

 

「……内容はともかく、マグダレナの悪夢に対して好意的な見方も一定数はあったわ。内容はともかくとして」

 

 そこ大事な事? いやま、大事(オオゴト)ではあるけれど。言いたい事は分かってるし、続きを自分で口にする。

 

「結局さー、日本の大学生がテロに親を殺された仇討ちで一年かけて四桁殺してコカイン畑を焼き払いまくった結果がマグダレナの悪夢ですって言われて、そうはならんやろ? と思うかなっとるやろがい! って納得するかなんだけれど」

 

 言って人差し指を立ててクルクル回す。

 

「本当に個人でやったのか? とか、実は壮大な計画のピースなのでは? なんて風に深読みしてくれたら、とっても助かるよね」

 

 願わくば、()()()()()()()()を探り続けて欲しいなーって。それこそ永遠に。

 ついでにFARCもメデジンも、寝小便漏らしながら毎晩悪夢に脅えていて欲しい。

 

「普通ならどっちもホラ話だ、で終わりですだよ。ご主人サマ」

「ほんとにねー」

 

 ところがどっこい、これが現実。

 夢も希望もない? ()()()()()()()()()()()()()()()。そう、ここロアナプラにね。

 漏れなく瓦礫とか死体がセットになってるけれど、人生そんなもんだと思う。

 

「私達の始末を優先してきたら?」

「可能性は低いと思うけれど、面倒だったら逃げよっか。ヨランダさんにお願いして、居心地のよさげなとこ探してもらっといてもいいし」

 

 出来れば引っ越ししないで済めばいーんだけれど、こればっかりはなー。

 

「ご主人サマもだけど、ロージィの件はどうするか?」

「多分どーもならんと思うよ。マニサレラ・カルテルはほぼ瀕死みたいだし」

 

 年末に()()()()()()()()()に手痛い出費を強いられ、半年そこらで今度は戦争狂(ウォーモンガー)が群れなして喰らいついて来たとか、本当にご愁傷様である。

 

「バラライカさんが南米のカルテルと共闘するのも無いと思うし、情報提供したらしたでロアナプラが荒れるの分かってるから、余計な事しないんじゃないかなー」

 

 予想でしかないし、予想外な出来事がいくらでも起きるのがロアナプラである。

 考えすぎてもハゲるだけだから、考えてもしょーがない。

 

「ま、しばらく様子見って事で。身の周りには気を付けよっか」

隠れ家(セーフハウス)に不備がないか見ておくわ」

「私はどうすればよいか?」

「一応、ロージィと二人で動く様にして。高跳びセットと()()()は俺がみとく」

 

 二人が頷くのを見て立ち上がった。硬い床の上でやんのはキツかったけれど、正座の一つや二つくらい、安いモンである。

 この際多少のデメリットを抱えても、ロアナプラに残り続けられるのがベストなんだけれど、そうそううまい話があるわけはないんだよなぁ。

 

「ま、どーにかなるか」

 

 たとえどーなるかは分からなくても、それっくらいは口にしても許されるだろう。

 誰が許すかは知らんけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 貴重な毒蛇の正座シーンが塒で披露された頃、埠頭の一角にて色気の無い逢瀬(デート)が交わされていた。

 

「……もうちょっと笑える話かと思ったんだが」

「冗談の類じゃないのよ、ベイブ」 

 

 嫌いな呼び名で呼ばれた男──張は顔を顰めた。

 

「その名前で呼ばれるのは好きじゃないんだ。どうせなら、件の坊やをそう呼んでやればいい」

「坊や……坊やね。それが擬態なのが分かった今、私がそう扱う機会はもう無いさ」

 

 さてどうしたものか。

 張維新は胸中でそう呟いた。毒蛇の正体はマグダレナの悪夢と言う化け物で、その情婦はフローレンシアの猟犬と言う揃いも揃って大悪党である二人の所に、同郷の殺し屋が飼われているわけだが、まぁそれはそれとしてである。

 

「奴らがCIAと繋がっているってのは、まだ推測の内か?」

「一応は、ね。そもそも日本人の坊やが個人であれだけの事をしたとは思えない」

「成程な……。だがCIAの手先だとして、何か問題があるのか?」

 

 張個人としては、アンクルサムの走狗である可能性はゼロに近いのだが、火傷顔(フライフェイス)の女傑はそうではないらしい。

 

「確かに個人としての戦力も侮り難いのは確かよ。けど、親の仇を探して多くの犠牲を出したにも関わらず、肝心の仇と連れ立ってロアナプラにいるなんて正気を疑うわ。何らかの取引を経て懐に引き入れたのでしょう」

 

 本人が聞いたら腹を抱えて爆笑する事間違い無しだった。ついでに何処ぞのクソ尼が、突然の流れ弾に目を剥いた事だろう。

 バラライカの見立てでは、テロリストの始末は司法の側にいるなら言うに及ばず、そこに麻薬撲滅も加わるならば、日本人(ヤポンスキ)を隠れ蓑に暗躍する何者かを想定してもおかしくはないと言った所らしい。

 フローレンシアの猟犬とは早い段階で接触しており、予め襲撃の手引きをしていたと考えれば、あれだけの戦果を挙げられるのでは? とも推測している。どちらも個人の戦闘力が高い点も、その推測の裏付けになっている様だった。

 

「勿論、裏取りをした後に動くつもりではいるけど……三合会はどうするつもりかしら」

「何もせんよ」

 

 張の返答に、バラライカの眉間に皺が寄る。

 

「ここは……ロアナプラは世界から拒まれた者共の最後の地だ。俺達の様な無法者も、国と国を繋ぐ闇の親善大使でも、アンクルサムの覗き屋すら受け入れ呑みこむ……そんな場所だ」

 

 張維新と言う男は、元々法の番人であった。

 バラライカと呼ばれる女は、祖国の為に戦場を駆け抜ける女傑であった。

 そんな二人が余人に聞かせる事の無い紆余曲折を以てこの地を訪れた。ならば、元日本人の化け物とテロリスト崩れを拒む道理など存在しない筈である。

 

「とは言え、だ。この箱庭を日向に引きずり出そうって魂胆なら俺達も動くさ。……ま、そんな事は無いと思うがね」

「随分と自信がある様ね。その根拠は?」

「勘さ」

 

 不機嫌そうに眉根を寄せるバラライカを他所に、張は毒蛇の言葉を思い出す。

 

『悪党だらけのこの街にいる方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どんな生き方をしたらそんな考えに至るのか、張には想像も付かなかった。しかしあの青二才が、下らないモノを下らないままに楽しめる男がこの街の意思に生かされると言うのなら、一体何処に辿り着くのか見届けるのも一興だと、そう思えてしまう。

 

「……何が可笑しいのかしら?」

「あぁすまん。思い出したら、ついな」

 

 穏やかな笑みそのままに、ここでなくては満足に呼吸も出来ないなどと宣う毒蛇の顔を思い出したせいで、つい顔に出てしまった様だ。

 

「とにかく、三合会としては静観する。必要ならいくらか探りを入れてもいいが」

「結構よ」

 

 言うと背を向け、バラライカは場を離れていく。

 

「やれやれ……面倒な女に目を付けられたもんだな、バイパー」

 

 そう呟くと、皮肉げに口角を上げる。

 

「いや、親の仇と連れ添う様な男だ。案外喜ぶかも知れん」

 

 当人が聞いたら割と本気で嫌な顔をしそうな事を呟く。

 伊達男の評判高い男と言えど、ジョークのセンスは今一つの様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、間違いないんだなロック?」

「……あぁ、間違いない。と言うか、アレを見間違うなんてあるわけないだろう?」 

 

 埠頭で見た毒蛇の素顔……とでも言えばいいのだろうか、ともかくそれを見せられたラグーン商会の面々は、イエローフラッグで一杯引っかけるわけにもいかずに、オフィスで顔を突き合わせて夕食を取っていた。馴染みの店に行けない理由は至極単純で、数時間前に蜂の巣もかくやと言う惨状だからだ。

 

「しかしとんでもねぇ面を隠し持ってたな、蛇野郎」

 

 蜂の巣の原因その1が、飲み干したグラスをテーブルに叩きつける。

 

「本人に言わないでくれよ、それ。でもまぁ、隠してくれてて良かったと言うか、隠されたままの方がマシだったと言うか……」

「お前もそれを口にすんじゃねぇぞ、ベニーボーイ。あの顔で見詰められたらと思うと、おっかなくて漏らしちまいそうだ」

 

 本人が聞いたら静かにキレながら例の顔で見詰めそうな事を口にする中、ロックだけは何かを考える様に下を向いていた。

 

「どうしたロック? まさか漏らしてんじゃねぇだろうな」

「漏らしてないよ!? そうじゃなくて彼のアレなんだけど……()()()()()()()()()()()()

 

 ロックの言葉に、3人が顔を見合わせる。

 

「そりゃどう言う意味だ」

「俺はあんまり彼の事知ってるわけじゃないけど、アレを見たのはみんな初めてなんだよな?」

「あぁ。初めて会った時から今日まで、いっつもニヤニヤして胡散臭ぇ感じだったぜ」

「レヴィその言い方は誤解があるんじゃないかな……? ともかく、基本的に場違いなぐらい穏やかな印象しかなかったよ、彼」

 

 ベニーの言葉を聞いてロックは右手で口元を隠す。

 

「……だとしたら、やっぱり? いやいくらなんでもな……」

「何だロック、思う所があるなら口にしてみろ。出来れば笑い話(ジョーク)だと助かるぜ」

 

 ダッチの言葉に苦笑いを見せたロックは、3人の顔色を窺う様に視線を巡らせ口を開く。

 

「いや彼のアレって不機嫌なだけなんじゃないかなって」

「何言ってんだ手前」

 

 秒で突っ込むレヴィと、追従するような顔を見せるベニーとダッチを前に頬を掻きながらロックは続ける。

 

「いや彼のアレを見たのって、ご両親が亡くなられた頃のニュースだったんだけど……マスコミが物凄い感じで彼を囲んでインタビューって言うか公開処刑? みたいな空気だったんだ。それで近付き過ぎたカメラが彼にぶつかったんだけど」

 

 そこで一旦口を閉ざしたロックは、嫌な事を思い出した様に顔を顰めた。

 

「ンだよ、その場でマスコミ共を殴り殺したってのか?」

「……それはなかなかショッキングだ。そこまではしなかったけど、まぁ凄まじいもんだったよ」

 

 深い溜め息を吐くロックを前に、3人は顔を見合わせる。

 

「で、バイパーは何したってんだ」

 

 ダッチが先を促せば、ロックはかつて見た光景に顔を引き攣らせながら口を開いた。

 

「ぶつかったカメラ……よくある肩に担ぐ様な奴。あれのレンズを握り潰したんだよ。あの顔で無言で」

 

 オフィスがシンと静まった。

 

「一気にグシャッ! って感じじゃなくてさ、こうゆっくり少しずつ軋みながらフレームが曲がっていってね。レンズにヒビが入って、持ってたカメラマンが危険を感じてカメラを手放したんだけど、カメラを最初に掴んだ状態を保ったままで、カメラを軋ませ続けてたんだ。で、レンズが割れて掌とカメラの間から破片が零れた所で頭上に掲げて、そのまま地面に投げ付けたんだ。どれだけの力が込められてたのか想像もつかないけど……カメラはグシャグシャ、しかもバラバラに飛び散った部品なんかが散乱しててね。その場にいた誰もが固まってたわけだけど、一番近くにいたカメラマンに気付いた彼が無言でカメラに顔近づけてさ……」

 

 当時の光景を思い出したせいだろうか、ロックの額には汗が浮かんでいた。

 

「よしこの話はやめよう。涼しくなるのは歓迎だが、生憎今日はホラーの気分じゃねぇんだ」

 

 ダッチの言葉にロックは力なく頷いた。

 

「そうだね……それで話の続きだけど」

「おいロック?」

 

 レヴィの怪訝そうな声を知ってか知らずか、ロックは額の汗を拭って苦笑する。

 

「ホラーの続きじゃなくて、彼の話さ。当時のアレは不機嫌だったから、ここでの彼が終始穏やかなのは機嫌が良いから。それだけじゃないかって思ったんだ」

「それじゃまるで顔芸の達人みたいじゃないか」

 

 ベニーが引き攣った顔で軽口を叩けば、ロックは苦笑を深めて頷く。

 

「それ絶対彼に言わないでくれよベニー。と言うか、顔に出易いって言うのかな……取り繕うのが苦手とか嫌いとか、そんな感じだと思うよ。俺はね」

「そういう事なら、精々イエローフラッグを繁盛させてやれば安泰だな」

 

 ダッチが肩を竦めてそう言えば、レヴィが半眼でボソリと呟く。

 

「……肝心の店が蜂の巣になっちまったんだけどな」

 

 お 前 が 言 う な。

 男衆は心の中で一致団結するのだった。




 ロージィ:背格好似た死体だけじゃ偽装出来なかったかと反省中。次はもっと上手くやる(次があるかは未定)
 シェンホア:このご主人ほっといたらそこらで野垂れ死ぬかも知れないし、飼い主に死なれるのは困るから私が守護らねばと思い始めてる。
 バラライカ:個々の戦力は認めるけど、一年の成果がアレすぎるので深読みした結果『存在しない黒幕』の姿が脳裏に溢れた模様。今後はおはようからおやすみまで毒蛇の暮らしを見詰める監視体制を築きつつ、ありもしない黒幕の尻尾を掴むべく動く模様。
 張:彼奴そこまで大袈裟なもんじゃないよと思ってるし、別に誰が背後にいてもロアナプラの平和が保てるなら構わないスタンス。立ち位置自体は原作本編とほぼ変わらない。
 ラグーン商会:日本の怖い話を聞かされて涼しくなった。蜂の巣になったイエローフラッグの弁償をどうするか、頭を悩ませる事になりそう。
 エダ:出番はなかったが流れ弾はあった。当人が知ったら実に深い極まる誤解ですとキレる。それはそれとしてバイパーを目眩しに利用するぐらいはして来そう。

 次回更新23話は08/18予定です。それではまたお会いしましょう。
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