原作コミック2巻のナチ残党の話及びロックとレヴィの痴話喧嘩は一身上の都合により略させていただきました。飼い主達が絡む要素が無かったので……。
それではどうぞ。
暴力教会でのお仕事を済ませ、ラチャダ・ストリートで暇を持て余していたある日の事。
「それにしても
小遣いくれたし、
ま、久々にソーヤーとご飯出来たし、彼女が元気にしてるのを確認出来たから良しとしよう。
相変わらず独特な笑い方だったけれど、あれはあれで味があると言うか、はにかみながらあの笑い声って言うギャップがなんかクセになるんだよね。
「ねぇ、お兄さん」
ソーヤーと言えば
大切に扱ってくれるならと答えたら、満面の笑みで何度も頷いてたっけ。
「お兄さん?」
暴力教会と言えばエダの機嫌がすこぶる悪かったんだけれど、なんだったんだろ? 人の顔見るなりグロック向けて来るわ、訳の分からんキレ方してるわで、お薬かご宣託でもキメてたんかな。
『お前……! 誰のおかげでアタシが苦労してると…………!?』
とか言いながら胸を押さえてたけれど、恋の病か何かでいらっしゃる? 無い無い、彼女に限ってそれはない。大方飲み過ぎで胃も心も荒れてるだけなんだろう。ヨランダさんも放っとけっつってたし、今はそっとしておこう。
「もう、お兄さんってば」
「おん?」
マリリン・モンローのバックプリントが入ったシャツの裾を引かれ、思わず立ち止まる。
おい誰か知らんが止めろ、今日のコイツは数あるお気に入りの中でもレア物なんだから。破けたり伸びたりしたらロアナプラを更地にする事も辞さんぞ。
そんな気持ちで振り返った俺の視界に飛び込んで来たのは、ロアナプラに不似合いの二人組。
よく似た顔立ちの男の子と女の子。銀髪に紫交じりの灰色の瞳、黒のロングコートにドレスと季節感台無しの恰好だったけれど、良く似合っている。女の子の方はショール? ストール? 何か布を巻いた長物を抱えてる。
「酷いよお兄さん、何度も呼んだのに素通りしようとするなんて」
短髪の男の子? の方が頬を膨らませてそんな事を言う。
「おーごめんね坊ちゃん。世界平和について考えてたらついね」
なんて言いながら膨らんだ両の頬を包んで萎ませてやる。口から漏れた間抜けな空気音に、思わず笑ってしまった。
「うふふ。こんな場所でもそんな事考えられるなんて、お兄さんとっても素敵な人なのね?」
「さてどーだろね?
例えば、君達と話してる俺みたいな奴とかね。
「ねぇお兄さん。私達ここに来たばかりで右も左も分からないの」
「だからちょっと道案内を頼みたいんだ。お願いだよお兄さん」
「ふむ? ま、いーけれど」
荷物がやけに少ないけれど、宿に着いて即行動って感じかな? 若いっていいね。
「ありがとうお兄さん」
「優しいのねお兄さん」
ニッコリ笑ってそんな風に言う双子。
「そんで何処に向かうんかな? 観光にはちょっと不向きな土地だけれど」
言えば二人は顔を見合わせて笑い合った。
「ちょっと蛇狩りしに行くの」
「イエローフラッグって言う店にいるって聞いたんだ」
「
俺が小首を傾げてそう言うと、二人はニッコリ笑顔のまま固まった。
はて、これだけ可愛げのある双子なら一度見れば忘れるとは思わんのだけれど、記憶を探った所で「目の前の二人は初対面です」としか脳味噌は返答しない。
となると刺客かなんかか?
「どうしよう姉様、いきなりビンゴだよ」
「困ったわ兄様、ここで始めたら目立って仕方ないわ」
「イエローフラッグでならおっ始めてもいいわけじゃないからね?」
一体、何をおっ始めようと言うのか。
万が一店を汚したり壊したりしたら、原因連れて来た俺の危険が危ないでしょーが。
なんて会話を繰り広げていたら、お嬢ちゃんのお腹から可愛らしいアピールが響く。
「どっかでお茶なりご飯なりする? お兄さんが奢ったげるよ。二人とも好き嫌いがあるなら今言ってね? なるべく好みに合うとこへ行こっか」
「……えっと、お兄さん?」
「育ち盛りだとやっぱり肉かな? それとも甘いモノの方がいい? 俺はさっきご飯済ませてるから、気にしないでリクエストどーぞ?」
「あの、お兄さん?」
困惑しきりの双子に首を傾げる。
「君ら刺客かハニートラップの類でしょ?」
「えぇそうよ。そうなんだけど……そんな私達とご飯とかお茶の話になるのは何故なのかしら?」
「どっちが死ぬにしても、美味いもん食ってから死にたくない?」
俺がそう答えると、二人はニッコリと……濁った瞳で嗤い合う。
「おかしいわお兄さん、何を言ってるの?」
「僕達は死なないよ、
手を取り合った二人は黒衣を翻してクルクルと回る。
「いっぱいいっぱい殺してきたの」
「僕らはそれだけ生きる事が出来るの」
「殺した数だけ命を増やせるの」
『
そう嘯く双子に若干……そう、ほんのちょっと苛ついた俺は、深い深い溜め息を吐いた。
どう言えば伝わるか分からんくて、思わず頭を掻きむしる。
「永遠なんざこの世にゃねェよ。命をいくら積もうと
殺した数だけ命が増える? ふざけんなド畜生。一つしか無ェから他を殺して引き延ばすんだろうが。永遠なんて
無限残機は赤い帽子の配管工だけで十分だ。
「ま、信仰の自由はあるもんな。悪いね、気分がささくれたもんで……とりあえず飯だ飯。美味いモン食って気分変えよう」
言って双子に背を向ける。やはりご飯、ご飯で全てを解決しろ。
双子達は目付きの悪いお兄さんに付いてくるか迷ってたみたいだけれど、やはり空腹には抗えなかったのだろう。数秒の後、軽い足音を2つ響かせて俺の後を追って来た。
一秒後に死ぬ身だとしても、生きる事に一生懸命であって欲しい。殺した命を無駄に貯める事無く、一秒でも長く生きる為の糧にするのだと。
それこそが唯一、等しく軽い命の価値を重く尊く変えるコツなのだから。
せめて双子がそうあれます様に。いるかも分からん神様って奴にそう祈るのだった。
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「ってなわけで、一緒にご飯食ってたヘンゼル君とグレーテルちゃんです」
「ねぇご主人様?」
「このバカチン、ストコドコイ!」
「ハハッ」
3人でご飯してからイエローフラッグに到着するや否や、店内は騒めきに満ちていた。おいおい、ロアナプラが誇るチンピラ一同が何ビビってんの? 何俺の隠し子? 年の差考えてもろて。まだ精通どころか勃起すら知らん頃の子になるやろ。
なわけで事情を説明したら前述のやり取りである。
バオ? またやらかしやがったみたいな顔して天を仰いでたけれど、今は仕事に戻ってるよ。こっちには一切視線寄越さないあたり、色々察してくれた様である。
にしてもロージィもシェンホアも臨戦態勢解きな? お客さん通夜に参列したみたいな顔してんじゃんか。
肝心の双子はどーしてるかってーと、酒場に入ったのは初めてなのか、落ち着き無くキョロキョロして忙しない感じ。
おっかないお姉さん達が怒ってるのは気にしてない様なので、そこは安心した。
「……それで、これからどうするつもり?」
「ロージィ、諦めるの早いね。犬猫ならともかく、すぐ拾って来るのよくないね」
シェンホアの言葉に双子が顔を見合わせた。
「兄様どうしましょう、私達拾われちゃったみたい」
「困ったね姉様。仕事はまだあるのに」
双子の会話に、とうとうロージィとシェンホアが殺気を放ち始めた。おいバカ止めろ、売り上げが減るでしょうが。あーお客様困ります! 待って! せめてもう一瓶頼んでから帰って!!
俺の心の叫びも虚しく、また一人、また一人とお客がお帰りして行く。
「またのご来店をお待ちしております……」
「お帰り願った原因が言うこっちゃねェだろうが、バイパー」
……それもそーだね?
「仕方ない。ちゃちゃっと済まそうか? 二人とも」
言いながら双頭蛇を抜き、シリンダーから一度弾丸を全て抜く。
「お兄さん、何で弾丸を抜くのかしら? それじゃただの鈍器になってしまうわ」
「それとも素手で相手してくれるの? 腕力に自信があるのかなお兄さん」
「ロシアンルーレットって知ってる?」
言いながら双子に見える様、一発だけ.44マグナム弾をシリンダーに放り込む。
二挺とも双子の目の前に置いて、片方を取る様促した。
「普通は弾丸一つだけ、互いにトリガーを引いてくわけだけれど、ちょっと変則ルールでやろっか」
揃って首を傾げる双子に、ちょっと変わった度胸試しについて説明してあげるべく言葉を続ける。
「互いにコイツを自分の頭に向けて一回ずつ引鉄を引くだけの簡単なゲームさ。六回撃ったら流石に死ぬから、引くのは五回まで。俺が死ねば君らの勝ち、君達が死ぬか棄権したら俺の勝ち。分かりやすいでしょ?」
「運と確率を無視すれば、そうなるわね」
ロージィのツッコミは今日もキレッキレだ。シェンホアに至ってはバカに付ける薬はないとばかりに首を振っていた。
「墓には付ける薬の無いバカ此処に眠るでよいか?」
「最愛なるご主人サマ此処に眠るでよろしく」
シェンホアの憎まれ口に軽口で答えると、双子達はまた濁った眼になって嗤い始める。
「ご飯の時に言った筈だよ? お兄さん」
「私達は死なないの。殺した数だけ命を増やしていくのよお兄さん」
「そう言うのいいから。やるかやらないか? 聞きたいのはその答えだけだよ」
バッサリ切って右の双頭蛇を取ると、シリンダーを勢い良く回す。
「ロージィ、合図」
溜め息をついた愛しの猟犬が、しばしの間をおいて口を開く。
「そこ」
「あいよ」
言って撃鉄を起こす。さてさて、この子達は乗るか反るか。
「言い方変えれば納得するかい? 俺の命は俺だけのモンだから、
お子ちゃま相手に煽るのも大人気ないなーと思いつつ、そう言って口角を上げてみせた。
そんな俺に触発されたのか、ヘンゼル君が双頭蛇を手に取ると自ら撃鉄を起こす。
「……兄様?」
「大丈夫だよ姉様。僕達は死なない、死なないんだ」
不安そうなグレーテルちゃんを他所に、険しい顔をしたヘンゼル君は両手に握った双頭蛇を額に当て、何かに祈る様に目を瞑る。
「……いいよお兄さん、一緒に遊ぼう?」
「んじゃ始め」
目を開け引き攣った笑顔を見せたヘンゼル君の言葉に、開始宣言と同時にまず一発。
ゴツイ外見にそぐわぬ軽い音を立てて、撃鉄が空撃ちされた。
バオもロージィもシェンホアも、そして双子もかろうじて残っていた連中も、みんながみんなギョッとした顔で俺を見詰めていた。視線の圧が強いな?
「どした? ほらはよ」
右手でそう促してやると、ヘンゼル君は信じられないモノを見た様な顔になって首をゆるゆると振った。まだ6分の1だろ? 死ななきゃ安いって。
「棄権する? 違うなら次行くぞー?」
そう言いおいて2回目のチャレンジ。そして空撃ちされる双頭蛇。
「永遠の命なんて信仰じゃ救われないぞ? 二人とも」
言いながら3回目を引くべく撃鉄を起こす。シェンホアが止めようと動き出したけれど、ロージィが背後から羽交い絞めにした。
「ロージィ! 何で止めるね!? このバカチン止めないと本当に死ぬよ!」
「……その時は後を追うわ」
「死ぬ前提の発言は止めてもろて」
二人の会話に若干傷付きつつ引鉄を引く。用心棒二人の言い争いが続く中、カチンと小さな音が零れた。
「普く命は等しく軽い。だからこそ大事に大事に奪うんだ。相手に感謝しながらね」
微かに震える双子に言い聞かせる様に、視線を合わせながらゆっくりと撃鉄を起こす。
「でもって、いつか誰かの糧になるんだ。俺も君達も……そうやって世界は回ってるわけ」
4回目。よしまだ生きてる、まだ
「お兄さんもういいの」
「もう止めてお兄さん」
何を言い出すかと思えばそんな事? 俺が聞きたいのは参りましたなんだけれど。
「これが最期の言葉……になるかも知れないから、二人ともよく覚えといて?」
言いながら撃鉄を起こし、天を仰ぐ。5回目の確率は2分の1……せめて言いたい事だけはちゃんと言っておかないとね? 息を吐いて双子をしっかり見つめて、いつもの顔で笑ってみせる。
「命は軽い。だからこそ大事にね」
双子の悲鳴を聞きながら5回目の引鉄を引く。
カチリと、呆気なく軽い音が耳朶を打った。
「ッシャオラァ!! 完ッ全ッ勝利ィィィア!!」
思わずガッツポーズを決めながら立ち上がる。いきなりのテンションと大声に周囲がギョッとするけれど、そんなの関係ねェ! 俺はやった! してやったぞこの野郎!!
……いや待て、落ち着け俺。まだ一勝だった、グレーテルちゃんが残ってる。
「ごめん先走った。んじゃま、気を取り直して2回戦をだな」
「すんな」
バオのツッコミと同時にゴリッと物凄い音が後頭部で響いた。
「いってぇ!? 頭蓋骨無かったら怪我してるよソレ!?」
「五月蠅ェ。そんな事より餓鬼共を良く見ろバカタレ。完全にブルってるじゃねェか」
いつ持ち出したのか、レミントンМ1100片手に顎で双子の方を示す。銃床じゃなくて銃口で小突いたな? 何て危ない事を……。
後頭部を摩りながら双子に視線をやれば、抱き合って床に座り込んでいた。……なんかこう、仄かに香るこの匂いは……ありゃ、漏らしちゃった?
「漏らす様な事してないでしょ、二人とも」
「口閉じるね、このストコドコイ」
スパーンと小気味良い音を立てて後頭部が叩かれた。もしかして、俺の頭を打楽器か何かと勘違いしていらっしゃる?
「ごめんて」
「ごめんで済んだら病院要らないね」
そこは警察じゃなく? あぁ、俺の頭に必要って事か成程ふざけんな。
「誰の頭に病院が必要だって?」
「お前以外の誰がいるんだよ」
あらやだ店長、キレッキレ。
そんなやりとりをしてる中、ゆらりと横に立つ人影が。いやま、誰なんだか言うまでもないんだけれど。
「ごめんて。機嫌直してよ」
言えば俺の胸倉掴んで額を押し付けて来るロージィ。空いてる手で背中を軽く叩き、彼女を宥めてやる。
「イチャつくなら家でやれ、家で。餓鬼共の始末も忘れんなよ」
始末と聞いて双子がビクリと身を震わせたけれど、俺は肩を竦めて苦笑を浮かべる。
「女子供は一回見逃せって祖父ちゃんが言ってた」
「……俺が言ってんのは床の方だよ。餓鬼共は手前ん家に連れてくなり、フローラに預けるなりしとけ」
あーそー言う事。
「信じられねぇ……実は弾丸入れてねぇんだろ? 本当は」
「おいバカ止めろ」
聞こえてんぞー?
イカサマを疑った奴の方へ顔と銃口を向け、6度目の引鉄を引いてやる。
すっかり耳に馴染んだ銃声と頼もしい衝撃と共に、双頭蛇が牙を剥いた。
安心しろ、峰撃ちならぬ
「今度はオタクが相手してくれんの?」
「ツレが悪かった! 疑う様な真似した野郎にゃしっかり言い聞かせておくから金と命だけは……!」
「酒代はちゃんと払ってね」
「勿論だ! 本当に済まなかった! また来る!!」
右耳を押さえて喚くアホンダラを引きずる様に、ご友人一同が店から出て行く。
「イカサマなんぞするかっつーの。運試しは命懸けでやってナンボだろーに」
真剣勝負に水を差されて若干消化不良な感じだけれど、ひとまずロシアンルーレットは俺の勝利で終わったのだった。
飼い主:ロシアンルーレットで5回弾いたバカ。普く命は等しく軽く、だからこそ殺し殺される事で命が巡ると言う信仰が故に、命の独占禁止法を唱えるタイプ。この後猟犬にめちゃくちゃ搾られた(意味深)
エダ:今日も元気だ胃が痛い。
ロージィ:生き延びた飼い主の胸倉掴んで渾身のマーキング。
シェンホア:ノリで五回弾いたご主人サマの教育に頭を悩ませている。
バオ:客 を 帰 す な 店 を 汚 す な
不幸なお客様:イカサマじゃなかったろ?と耳打ち(意味深)された。
双子:ターゲットに飯を奢られ、命の尊さを(力業で)説かれ、おしっこチビッた。
08/18中に24話を投稿する予定です。それではまた次回。