「最初の事を思い出してごらんよ? そう、君達の
僕達を両脇に寝かせて、ゆっくりと背中をさすってくれる。その手は酷く優しいのに、口から出た言葉はとっても残酷で。
「別に言ったからどーとも思わんよ? 今更だよ、今更。因みに俺の初めては……4年ぐらい前だったかな? 頭と心臓に1発ずつぶち込むつもりだったんだけれど、当時はちょっと興奮してたんだろうねぇ……二挺とも弾倉が空になるまで撃ち尽くしちゃったよ。……えーと確か13発入りだから、26発か? 頭から心臓にかけてミンチみたいになって……今考えるとエグいな?」
私達の背中を優しくさすりながら、お兄さんは自分のハジメテを苦笑いしながら話してくれた。
「あの頃はとにかく怒って、憎んで、それをぶつける相手を探して、吐き出す事しか頭に無かった。そうだね……親父を殺してお袋を死なせたテロリストが生きるのを赦されて、贔屓目に見ても善人だった両親が赦されなかったのに怒って、のうのうと生きてる連中が憎かったんだ」
だから手当たり次第に殺してやったんだ。そう言うお兄さんの顔はとても穏やかなのに、私は泣いている様に見えて、胸がきゅうっと苦しくなって、お兄さんにしがみついた。
「よしよし……。まぁ、それも3ヶ月かそこらで頭のネジが緩んじゃって……いやとっくに外れてたな? さておき、殺したいから殺すってのかな?
お兄さんの言葉を心の中で繰り返す。誰が憎いのか、何に怒っていたのか。
僕達はどうだったっけ? ハジメテの時はすごく怖くて、悲しくてどうしようもなくて……。
思い出せば思い出す程身体が震えて、お兄さんの肌に縋りついた。お兄さんの体温がじんわりと伝わって来て、なんだかとてもほっとする。……ふと姉様と視線が合わさる。寂しそうで、けど暖かそうなふんわりとした笑顔を浮かべていた。
僕も
「殺したいから殺す。楽しいから殺すってのは……あんまり良かないけれど、まー好いとして。何でソレがしたいのか? そーするのが楽しいのは何故かってのは結構大切だぞー? でないと、
「……お兄さんは、今もそうなの?」
兄様が口にしたのは、私も気になった事。
お兄さんは憎くて仕方なくて、どうしようもなく怒っていたって、そう言っていた。なのにそれを忘れて生きているとしたら……
「んー? 今はそーでもないよ。ロージィがいて、シェンホアがいて、バオとマダム・フローラに、スローピィ・スウィングの子らに……。うん、俺が誰かは分かってるし、区別出来てるかな」
そう答えるお兄さんの小さな笑い声。
私も兄様も、それにつられて同じ様に笑った。
「多分だけれど、二人とも自分達が大切で大切で、だから二人きりの世界に閉じこもっちゃったんだろうね。悪くはない、仕方ないとか
お兄さんは
「
嗚呼、ダメだ。そう思った。
私はとっくに分かってたの。僕はもう気付いてたんだ。
灰色の壁から飛び出した筈の
歯を食い縛ったけど漏れ出る泣き声は止まらなくて。
ギュッと瞑った眼から零れる涙をどうしようもなくて。
お兄さんはそんな
「よーしよしよし。今日は我慢しなくていーぞー? 泣いて喚いて、スッキリしちゃえ?」
その言葉に背中を押されて、声を張り上げて何度も謝ったの。
僕達のせいで死んじゃった人達に、大事な命をゴミの様に扱ってごめんなさいって何度も口にしたんだ。
「反省出来るのはいー事さ。まー死んだ人らに届くかは知らんけれど、少なくとも
そう言うお兄さんの言葉は酷く素っ気なくて、でも不思議と暖かくて……
嗚呼、と
この人は
それはとてもか細くて、少しだけ
目を灼く熱さも眩しさもないけど、確かに目の前にあると信じられるモノ。
「誰も彼もを殺さなくてもいいの?」
「
お兄さんが優しい毒を耳朶へと流し込む。
「僕は生きてていいんだよね?」
「そりゃ当然。
頭を撫でてくれる手に思考が溶かされていく。
何て悪い人なのかしら……何て酷い人なんだ……こんな
私はがんじがらめに縛られて、僕はこのまま丸呑みにされて、この人の中で
たとえ世界に嫌われても、彼だけには好まれる
「ぐえぇ……。ベタベタする」
「楽しかったね姉様」
「ご機嫌だわ兄様」
海が見たい。
と言う双子を連れてカムリを走らせいざ鎌倉……もとい、海へ。生まれてこの方見た事もないし、お兄さんと一緒に行きたいとねだられたので仕方なく……でもないな? 鼻歌交じりにハンドルを握るぐらいにはご機嫌で付き添った。
そう、頭の天辺から爪先まで海水塗れにされるまでは。
まー二人とも年相応どころか幼児退行したかってレベルではしゃぐはしゃぐ。服着たまま膝ぐらいまで入るわ水かけ合ったりと仲睦まじい様子を見せてくれてたんだけれど、波打ち際で止まってた俺にご不満だった様で強引に引っ張られてそのまま3人仲良くドボンである。
しかし君ら見かけによらず力強いな? 俺も大概? ゴリラだからね仕方ないね。
一頻り遊んで満足した様だったので、今は仲良く下着一枚となって服はボンネットやルーフの上で干されてる。どーせなら水着でも買ってから来るべきだったなー。
「ところでお兄さん? 私達行きたい所がもう一つあるの」
「お兄さんにも関係ある所だから、僕達と一緒に来て欲しいんだ」
「ほーん? 着替えてからならいいけれど、一体どこじゃらほい」
昨日の露店かな。さては君らもチャーハンの虜に……? と首を傾げる俺に、双子はニンマリと悪い顔で嗤う。
「蛇狩りと狐狩りを頼んだ人の所」
成程? それを聞いた俺の顔も、似たり寄ったりの笑みを浮かべたのだろう。双子は笑みを深めて見つめ合う。
「姉様、お兄さんもご機嫌だね」
「私もとってもご機嫌だわ、兄様」
「そういう事なら話は早い。とっとと帰ってパパッと着替えて、カチコミかけますか」
おー、と掛け声も可愛く拳を付き上げる双子達。昨日に比べて随分険が取れたなー。
ロージィとシェンホアの反対を押し切ってまで同衾した甲斐もあろうってもんだ。
生乾きの衣服を助手席に放り込み、下着一丁でカムリへと乗り込む。持ってて良かったビーチサンダル。尚、助手席を服で埋めたのは「どっちが助手席に座るか」で双子が揉めるからである。運転出来るなら俺が後部座席でも良かったんだけれどね。え、二人とも運転出来るの? ルーマニアは未来に生きてるなぁ。
「と言う訳で、ヴェロッキオファミリーの事務所前から中継です。悪党しかいないな、ヨシ!」
「「ヨシ!」」
「何を見てヨシって言ってるのかしら……」
「誰もこんな中継見る事ないね」
帰宅・着替え・連絡数件を爆速で済ませ、目的地の前で謎アピールの3人にツッコミ担当の2人が奇麗にオチをつける。
「んじゃま、手筈通りにシェンは入口、ロージィは裏口固めてどーぞ。
「準備は万全だよお兄さん」
「いつでも行けるわお兄さん」
2人が名前を欲しいと言うので、ヘンゼルとグレーテルをもじった愛称で呼ぶ事にしたんだけれど、存外双子の耳には馴染んだ様で、兄様・姉様を止めて
「皆殺しが目的じゃないから、そこは気を付けて」
「作戦はいのちだいじに。二人とも心するね」
俺への言葉は? ない? そっすか。
「大丈夫よ怖いお姉さん。お兄さんに損な事はしないもの」
「命は大事に奪うから、心配しないで目隠れお姉さん」
頼もしい返事と共にヘイズがフランキスカを、グレイがブローニングМ1918──通称BARを掲げてニッコリと笑う。何で俺を睨むんロージィ? シェンホアまで。解せぬ。
「よっしんじゃま、行くぞー」
ドアに駆け寄り良い所でジャンプ。ライダーキックでダイナミックエントリーをキメ込んだ。ノックはどうした? 派手に音立ててんだから気付くでしょ。
「ンだ手前ェ!?」
「待てコイツ……蛇野郎だ! あの双子まで一緒!?」
両手の双頭蛇が火を噴くと同時、室内に飛び込んだヘイズがフランキスカを上段に振りかぶり、グレイが細身にそぐわぬ長物の銃口を定める。
俺に気を取られた連中は
「お兄さんのお願いなの。死んで?」
「お兄さんの為に、いただきます」
おいコラ俺は免罪符じゃないぞ? いやま、いーけれど。
「ここは任せたー」
いつも通りスイカ割り、とはせずに適当に弾倉の中身を吐き出して、2階目指して走り出す。情緒グチャグチャになっているであろう双子にルーティンワークをさせる事で、メンタルリセットを促そうと言う俺の粋な計らいである。嘘だけれど。
「任せて頂戴お兄さん」
「ご褒美楽しみにしてるよお兄さん」
このおねだり上手め☆
そんな意味を込めて二人に向かってバチコーンとウィンク。階段を足音立てずに駆け上がり、リロードを済ませながら一番奥の扉の前へ。
何か騒々しいな? 扉の向こうから響く怒声に耳を傾け、懐に入れてたあるモノのスイッチを押した。
「バレルモの親分衆はな!! このクソッタレのチンケな街をえらく気にかけてんだよ!! この街で身動き取れねぇ俺に、連中
ほーん? それと俺に何の関係が……いや確か狐狩りつってたか……本命がそっちで俺がオマケの可能性もあるのか。それはそれでイラッと来るな?
そんな事を考えてる間にも、怒声と殴る蹴るしてるであろう音は響き続けた。
「いいか良く聞けクソ野郎!! ……今、どうにかしねェとな、次の最高幹部会で俺は、カモメの餌にされちまうンだぞ。分かったらイカれた双子を捕まえて、毒蛇と女狐のタマをここに持って来い!!」
……
にしても動きがトロいなーと思ったけれど、部屋ん中でドッタンバッタンやってりゃ気付くのも遅れて当たり前か。それはさておき、ご挨拶はしとかないと……と、小さな足音が背後から響いた。
「あらお兄さん、ご挨拶がまだなら私に任せて頂戴?」
おーい!? と止める間もなくこちらへBARの銃口を向けるグレイ。慌てて壁に張り付けば、それを合図とばかりに扉へと斉射を始める。
「ふふ、お兄さんまるで蜥蜴みたいだ」
「
「アハハッ」
屈託なく笑うのはいいけれど、俺の寿命縮んだからね? 具体的には3秒ぐらい。
「何処のどいつだ!?」
「どいつもこいつもふざけやがって!!」
ヴェロッキオと愉快なその他がいきり立つ中、そんな空気もどこ吹く風と双子が入室する。
「僕達は大真面目だよおじさん達」
「そうよおじさん達。お兄さんだって真剣なの」
まーそーね。
オイスーとばかりに片手を挙げて入室すれば、ヴェロッキオさんが顎外れんじゃないかって程口をかっ開いて俺を指差した。
「手前バイパー!? なんでこの餓鬼共と一緒にいやがる!」
「昨日ご飯とベッドを共にした結果、かな?」
俺の言葉にその他大勢も目ン玉引ん剝いて驚いた。あらヤダ、イイリアクション。
おいこら双子? 赤らめた頬に両手当ててイヤンイヤンじゃないでしょ。
「一応聞いときたいんですけれど、蛇は俺として女狐って誰の事です?」
まーあの人だろーなってアテが一つっかないんだけれど、確認は大事。
「何でそこまで……。まさか餓鬼共が吐いたってのか!?」
ヴェロッキオの叫びにクスクス嗤いながら、ヘイズが口を開いた。
「違うよおじさん。教えて上げたんだよね?
「
言って顔を見合わせた双子達は、ねー? とでも言わんばかりに体を横に傾けた。この場面でそのリアクションはなかなかメンタルにクると思うぞ。主に相手側が。
青筋立てて銃を抜いた連中が銃口を向けるよりも早く、双頭蛇が咆哮する。
案山子の頭を吹き飛ばすなんてお手の物だ。いつもの如く二挺の排莢を済ませながら、双子の拍手を耳にする。
「すごいわお兄さん」
「西部劇より鮮やかだよ」
「次の金メダルは俺のモンだな?」
そんなやり取りを他所にヴェロッキオは背を向けて、紐無しダイブをキメるつもりか窓を大きく開け放った。
「ああ駄目だよ」
「逃げたりしてはいけないの」
二人は口々に言いながら、フランキスカをブン投げBARをブッ放す。腰から下に斧と鉛玉を御馳走された哀れな魚の餌は、中途半端に窓から身を乗り出す格好で喚き散らした。
「ふざけんな! ふざけんな畜生!! 俺の背後に誰がいるのか分かってンのか!?」
「次の会議で魚の餌になる予定の人にすごまれてもなー……」
デスクを蹴飛ばして横に退かし、小汚いケツを蹴り上げ……たら落ちそうだったのでストンピングを一発お見舞いする。
潰れた蛙みたいな声を上げるヴェロッキオに追撃しようと再度足を上げた所で尻ポケットから呼び出し音が響く。ケツを踏み付けながら携帯を取り出して、通話ボタンをポチっとな。
「もしもーし」
『俺だ。連絡の通り兵隊連れて来てはみたが……何がどうなってる?』
「見たまんまですよ張さん。余所者の仕業に見せかけてロアナプラの景色を変えようと一発逆転狙ったアホンダラの身柄を引き渡したくて」
言いながら窓から顔を出せば、三合会とホテル・モスクワの皆様と、その頭である張さんとバラライカさんの姿が。
とりあえず「上です上」と二人がこちらを見たのを確認しながら手を振った。
「とりあえず証拠として雇われた可愛い刺客の双子と、部下の不手際にキレてるヴェロッキオさんの録音もありますけれど、要ります?」
『……あのな、バイパー? それは何処で手に入れたんだ』
携帯片手に蟀谷を掻く張さんを視界に収めながら、俺は答えを返す。
「録音の方はつい今しがたですね。刺客の方はたまたまって奴で、この子達が声を掛けたのが標的その1の俺だったってだけで」
『…………シェンホアの件といい今回といい、何なんだお前は』
何なんだって言われても……。
「イエローフラッグの用心棒。それ以上でもそれ以下でも無いですよ」
こちらを睨み付けるバラライカさんに肩を竦めながら、俺はそう答えるのだった。
飼い主:双子と同衾キメて名前も付けた。ただの用心棒と言い張るけど黄金夜会の内2つの組織にガッツリ喰らい付いた自覚はあんまりない。
ロージィ:双子編ではほぼツッコミしかしてないし、最近あまり出番が無いのでそろそろ飼い主とイチャコラさせたい気持ちはある。
シェンホア:薄っすらと頭痛の種が増える気配を感じて戦々恐々としている。彼女単体の出番が殆ど無いので、原作本編エピソードの方でガッツリ絡ませる予定。
双子:ヘンゼルとグレーテル改め、ヘイズとグレイ。赦すでも責めるでもなく、それでも認めてくれた毒蛇に双子大感激。互いだけが存在する世界にダイナミックエントリーをキメた初めての人に救いを見出した。因みに性根はそんなに変わってない。具体的にはマイナス100がマイナス70程度になった。
張:ま た お 前 か
バラライカ:CIAの狙いとは……毒蛇の目的とは……と誤解がまた一つ積み重なった。この世界線ではメニショフ&サハロフ両氏とその他5人の命が助かっていたりするけど、その事実は作者と読者のみが知る。
ヴェロッキオ:毒蛇の予言通り魚の餌になった。彼の亡骸は故郷に送られる事無く海の藻屑となるのだった。アーメン。
以下独り語り。
双子編に関しては描き始めた頃、具体的には短編を連載に切り替えたあたりからずっと悩んでました。二人は報われるべきなのか?とかその道筋をどう示せばいいのか?主人公が取れる選択肢はどうか?など色々と。初期の構想では原作エピソードをなぞる形でロージィが負傷、バイパー怒りのロアナプラ編な感じで双子にはご退場願うつもりでいました。登場人物を増やしていくと各自のエピソードが薄まってタイトル詐欺とも言える事態になるしなーと思ってましたし。でも二次創作だしこの主人公ならではの示し方で、何とかなるんじゃなかろーかと思い直して。描き上げたのが23・24話となります。結局何とかしたって言うか、ご都合主義と力業と双子が見せた謎の湿度で多少はマシな形になった?って感じではあるんですけど。作者の中で二番目に悩んだエピソードを描き上げられたのは個人的に一段落した気持ちでいっぱいです。一番悩んでるのは何処か? 原作本編で言うロベルタリターンズです。そもそもこの世界線ではメイドですら無いんですよね、猟犬さん。まぁ何とか辻褄合わせて「ほぉんそう来たか成程分からん」と思っていただける形でお出し出来ればなーと思ってます。
25話の投稿予定は08/24となります。それではまた次回お会いしましょう。