チャウシェスクの落とし子と呼ばれる孤児達がいる。
1966年のルーマニアで、とある政権下において人口増加=経済成長と言う考えから結婚・多産を奨励した法案が可決された。しかしその法案は、避妊・堕胎・離婚を原則禁止と言う負の面も持ち合わせていた。
結果として翌年からおよそ3年間の出生率は大きく上昇したが、出生率の急増は多くの捨て子を生み出した。正確な資料は存在しないが、その数は10万とも20万とも言われている。
1989年の政権崩壊後に諸外国が知る事となった孤児問題は、国際養子や慈善団体の設立などの解決策を以てしても、後世に多くの問題を残した。
政権下の彼らは孤児院に預けられてもネグレクト・身体的虐待・性的虐待などの危険にさらされ、維持の出来なくなった施設から闇に売られる子供も存在したと言う。
とある双子も、その中のほんの一例だった。
ド変態どものオモチャとなり、挙句の果てには豚の餌となる……そんな一例だ。
しかし
バカ共が余興のつもりで、始末の片棒を担がせたのである。
双子は生き延びる為に、変態共の喜ぶ殺し方を覚えて、夜を一つずつ越えて行き──そして
そんな二人に目を付けたのは、クソったれのチンケな街で身動きの取れないマフィアだった。
彼はカモメの餌となる未来を避けるべく、一発逆転の策に打って出る。街を取り仕切る一大勢力の女傑の命を的に掛けたのだ。ついでに目障りな日本人も。
しかし、結果として彼が呼び込んだのは
変態共の見世物となる事を選び、何もかもを巻き添えにする厄種の双子は、他ならぬ毒蛇に誑かされたのである。彼は常軌を逸した手管で以て命の尊さを叩き込み、怒りと憎しみで茹で上がった双子の頭に冷水を浴びせたのだ。そして彼らの在り方を否定せず、ほんの少し生き易い道を示してみせた。それは救いと言うには歪で、正しさからは程遠いモノだったが、双子が失ったはずの歯車を噛み合わせる事となる。
見方を変えれば、双子の依存先が歪んだ死生観から男へと移っただけの事なのだが、それでも彼らは自らの心に従った。双子にとって真に必要だったモノは、自分達を受け入れてくれる存在だったが為に。
加えて、娼館の女主人を始めとする嬢達に気に入られた事が、双子にとって幸いした。彼女達は何かと双子を気にかけ、スキンシップと餌付けを以て二人の懐柔に成功。最初こそ戸惑っていたものの、一月と経たず年相応の愛らしさを見せる様になっていた。
とは言え、一度は堕ちた身である。自ら培った殺傷本能は、未だ彼らの手の中にあった。
それを飼い慣らす事を教え込んだのは、意外にも猟犬だった。彼女は根気よく丁寧に、事あるごとに彼らを諫めては滾々と言い聞かせた。曰く『それはご主人様の望む所ではない』と。毒蛇だけには嫌われたくない双子にとって効果抜群、正しく魔法の言葉であった。
ロージィを鞭とするなら、シェンは飴の役割を果たしていた。3人の中でも一番常識の持ち主であり、本人は自覚していないが、世話焼きな一面を持つ彼女である。何かと自由なご主人サマの真似をしない様、また毒蛇の枷を増やすと言う意味でも使命感を燃やしたらしい。
肝心の毒蛇は特に口を挟むでもなく、双子の
もっとも、ご主人様の情操教育はちゃんと日向で済んでいるので、それを当人がまるっと無視していただけの所に、精神的に幼い二人が身近にいる事で相応? の振る舞いを思い出しただけの話ではあったのだが、誤解であれ何であれ、周囲が安堵出来るのは良い事であった。
そうしてイエローフラッグとスローピィ・スウィングが『毒蛇の塒』なる暗喩で呼ばれ始めた頃である。
双子は毒蛇に、とあるおねだりを希望した。曰く、里帰りしたいので同行して欲しいと。
と言っても、二人は自分の両親の顔すら覚えていない。つまりは元の飼い主……変態御用達ビデオを制作、販売を営む元締めの所に顔を出したいと言う事だった。
僅か1月程ですっかり絆されたロージィとシェンは、猛反対した。ついでにスローピィ・スウィングの嬢達も。一方でバオは難しい顔をしながらも静観、肝心のご主人様は「いーよ?」の3文字であっさりと了承する。イエローフラッグは客も逃げ出す黄色い大ブーイングに包まれた。そんな中でも穏やかに笑う毒蛇は、双子と視線を合わせて問いを投げる。
「付き添いだけでいーの?
かつて埠頭で見せた何物も寄せ付けぬ虚ろな双眸のまま穏やかに笑う毒蛇に、大ブーイングは即座に鎮圧され、ロージィとシェンは引き攣った顔で互いを見やり、バオは静かに天を仰いだ。
何てことだ、もう(元締めは)助からないぞ。むしろ元締めどころか末端組織まで死に絶える未来が見えたと、バオは当時を振り返る。
尚、毒蛇は義憤にかられたとかではなく、復讐するなら後腐れなく根絶やしにするのがいんじゃない? ぐらいの認識だったのだが、目付きがヤバくなってた事に関しては無自覚であり、そこまでキレ散らかしてなかった事は明記しておく。たぶん当人にもよく分かってない。
バオと同じく沈黙を貫いていたマダム・フローラは、一つの答えを出す。
「みんなちゃんと帰って来なさいね? 特にヘイズちゃんとグレイちゃん」
そう言っていつもの様な力ずくでなく、優しい抱擁でもって双子を肉壁に埋めた。この時双子はうっかり窒息しかけたが、マダム・フローラから母の温もりを感じた様だった。
話が決まれば、そこからは早かった。
暴力教会に様々な準備を頼みながらエダの胃にダメージを与え、ラグーン商会を行きの足に使いつつロックに日陰のルールを叩きつけ、2日ほどで双子の里帰りが実行された。
ビデオの元締めはメインディッシュと言う事で、まずは彼らの資金源であるビデオの焼却ついでに、倉庫番達が淡々と始末された。
淡々と……とは言ったものの、殺され方は多種多様であった。
ある者は鋭利な刃物で首を落とされ、ある者は四肢を砕かれ腸を床にブチ撒けた。
ある者は. 44マグナム弾で、または12.7mm弾で頭部を吹き飛ばされた。
確実に元締めの首を噛み千切るべく、5人の恐るべき刺客は迅速果断に処理を済ませていった。
そして現地到着から10日目の深夜。
双子と3人の保護者達(一人は要監視対象)は、スムーズに元締めの隠れ家を襲撃。
用心棒も護衛もその他大勢として実に雑に始末され、残るは元締めだけとなった所で双子がこう告げる。
「ここだけは
そこから始まったのは、凄惨極まるスナッフビデオの如き拷問ショーであった。
元締めは最初に顎を砕かれ、気道の確保だけはキッチリ行った上で椅子に縛り付ける、
まずは足の指、一本一本切り落としては傷口を焼いて止血し、それが済めば次は手の指を同じ様に処理した。
次に麻酔を施した上で腹を割き、大腸を引きずり出して元締めの身体に巻き付けて行く。
双子は実に手際よく、嗜虐的に、そしてにこやかにそれらを行った。
傍観していたロージィは沈鬱な表情で俯き、シェンは眉間に皺を寄せながらもその光景から視線を外す事なく見守った。毒蛇は酸鼻極まる悪鬼の所業を前に、常と変わらぬ穏やかな笑みのままそれらをじっと見るだけだ。
「まだ生きてるかしらおじさま?」
「僕達の声は聞こえてるかな?」
双子は穏やかに笑いながら、血の泡を零しながらか細い呼吸を漏らす元締めに囁きかける。
「流石にしぶといねグレイ」
「おじさまが仕込んでくれたのだもの。これぐらいで音を上げてもらっては困るわ」
口々にそう言いながら、床に転がっていたバットを拾い上げる。血に塗れ凹んだりひん曲がったりしているそれを手にしたのは、最初に仕込まれた手口だから。
彼らはゆっくりとそれを振り上げると、狙いを定めてこう告げる。
「もっと楽しみたいけれど、そろそろお暇するわねおじさま」
「これで僕達の精算はお終い。お兄様に愛されるだけの玩具になるんだ」
元締めは涙と鼻水と血の泡と小便を垂れ流し、毒蛇は十字を切り、シェンは目ん玉かっ開いてご主人サマに視線を向け、そしてロージィの伊達眼鏡がピシリと罅割れた。
「
それまでの表情をかなぐり捨てて悪鬼のソレを表に出し、双子は凶器を振り落とした。何度も何度も。
元締めの頭蓋が砕け、眼玉と脳味噌が磨り潰され、原形を留めぬ程になるまで、それは繰り返された。
やがて二人の体力が限界に達したのか、彼らの手からバットがすっぽ抜けた所で全てが終わった。ロージィはヘイズを後ろから抱き締め、シェンはグレイの目を覆う様に手を翳した。
「お疲れ」
毒蛇は双子の頭を一撫でしながらそう言って、用意していた灯油缶の中身を床にまき始めた。
「さ、後は俺がやっとくからみんな撤収」
4人がその場を後にするのを見送ってから、男は準備を進めていく。
「や、ホント怖いねー? 自業自得か因果応報か……俺もいずれこーなるんかと想像しちゃうと、チ〇チン縮むわ」
死に方を選べるような生き方をしていないとは言え、流石にこうはなりたくないと毒蛇は苦笑する。まぁ死んだらそれまでだからして、どうでもいいと言えばどうでもいい話ではあるのだが。死ぬまで程々楽しむしかない。
「同じ死ぬなら踊らにゃ損損ってね。アンタも散々楽しんだろうから、ここで満足しときなよ?」
後悔してようが満足しきってなかろうが、毒蛇にとってはどうでもいい事だが。
最後にC4爆弾をセットすると、彼は部屋を後にした。
こうして毒蛇のやらかし伝説がまた一つ。今回の主犯は双子だけどしっかり協力してるしヤベー奴扱いは変わらないのでプラマイゼロぐらいに考えてそうな主人公。
次回の原作エピソード(竹中&イブラハ編)で二章は終了。章間エピソードとして、2話から3話の間にあたる飼い主と猟犬の過去エピソードを挟んで日本編に入る予定です。
次回投稿は09/08予定となります。それではまた。