裏タイトルは前後編併せて「バイパーイライラバシラン編」となります。それではどうぞ。
「ク ッ ソ ダ ル」
チェロキーのルーフから身を乗り出してバレットМ82を構える男の機嫌は、島国から飛び出して以来の最底辺を這いずっていた。その様は正しく毒蛇の如く。
助手席に座るシェンの肩身は狭まる一方である。張大哥の粋な計らいにより、オマケ付きとは言えロージィも双子も付いて来ていない
二人とは対照的に、火星の向こうまで飛び出したであろうレガーチだけは、テンションが天元突破していらっしゃるのが腹立たしい。
「うおぉぉぉぉ! 待ってろキャプテン・ハーロックウゥゥゥッ!! トチローとエメラルダスは俺がキッチリ送ってやるぜぇェェェェェッ!!!」
「トチローって確か、死後に魂だけハーロックと宇宙を股にかけるんじゃなかったっけ」
雑なフラグ立ては止めてもろて、と零しながらグレネードをブッ放す。直撃を喰らったジープが胡瓜に驚いた猫の如く跳ね飛び、後続の1台を巻き添えに汚い花火と化した。これで大破させた追手は6台になるが、まだ6台程残っている。
「ロージィに借りといて正解だったけれど、やっぱ大物は性に合わんなーもー」
愚痴りながらマガジンを装填するバイパーだが、1台に付き2~3発で沈めている事を考えると、ロクに舗装もされてない道を駆ける車上からの狙撃としては大した成果と思われる。普段が大体一撃ヘッドショットな事を考えると、当人からすると満足出来ないのだろう。
「この仕事終わったら長物の練習もすっかな……
個としての戦闘能力を語るなら、テレビやスクリーンから飛び出して来た殺戮機械と大差無い男は、しかし更なる進化を求めて止まない様である。彼は一体、何と戦うつもりなのだろうか?
「はいラスト―」
サービスとばかりに残弾全てを吐き出して、最後の一台を鉄屑に変えたバイパーは、溜め息交じりに後部座席へと身を預けた。
「今度から
「……同感ですだよ」
お薬キメたレガーチの世迷言に掻き消されそうな小声で、シェンが答えた。
それを耳にしながら、バイパーは背後を振り返る。
「俺の足元でくたばってろバーカ」
舌を出して嗤うその顔に、いつもの穏やかさは欠片もなかった。
事の発端は、三合会の縄張りで
そのブルガリア人は、張の警告を洒落やジョークの類とカン違いした挙句に金玉をナッツよろしく割られる寸前で、取引を持ち掛けた。彼の本職は諜報員──アンクル・サムが目障りな国と組織を繋ぐ親善大使と言った所か。
そんな彼が金玉惜しさに差し出したのは、一つの文書。『ヒズボラ』の愉快なハイキングの予定表だった。
張は親切に
彼は一計を案じ、ケースを
因みに正解は
それぞれがバシランを目指す中、最も警戒すべき陸路を交ぜたバイパー達だったが、ヤる気に溢れたご主人サマによる荒野のキャンプファイヤーの甲斐もあって、予定より早くバシラン入りを果たした。
「後はラグーン商会と合流してハイサヨナラと」
イサベルの街で安宿を取り、バイパーはベッドでゴロゴロとしていた。
今頃ロージィはイエローフラッグの用心棒、ヘイズとグレイはスローピィ・スウィングのマスコットとして愛でられてる最中であろう。
「そう言や何気に初めてかー……ペットロス起こしそ」
彼女と出会って二年程になるが、こうして遠く離れた場所で夜を過ごすのは初めてだなと思う。
最初こそ悪夢に魘されたり、夜中に飛び起きて只管に懺悔を繰り返すヤバ目な症状で心配したものだが、ここ最近は快調の様で何よりだと、バイパーは苦笑する。
意外と言えば意外な程に、彼女に執着してるのだなと改めて感じたからだ。
日本には知り合いこそいるものの、それ以上の関係性を築く事は終ぞ無かったゴリラである。いつぞやの恐怖映像で思い出した元級友などはいたかも知れないが、あれから3年以上経った今では名前と顔が一致させられないだろうと思ったりもする。
「あの人らはそうでもない、か?」
頭文字Yな
一人でいるとどうにも良くないな、と自嘲する。
南米にいた頃は
「うーむ、人肌恋しい」
などと、口走ったせいだろうか? 控え目なノックが彼の耳に届いた。
「……まさか直接脳内に?」
はて、
「どなたー?」
「…………」
返事はなかった。
わざわざ在室か否かを確かめてから来る刺客もないだろう、と思いながら無言で扉を開ければ、そこにいたのはシェンだった。風呂上りなのかやや湿り気を帯びた黒髪と、上気した頬が何処か艶めかしい。
「……? どしたん」
「
何処か気まずげに視線を泳がせる彼女を前に、小首を傾げて頬を掻く。
「
言って招き入れれば、広東語が出ていた事に気付いたシェンが更に気まずげに俯く。
「んでどしたん? 何かしおらしいっつーか、気落ちしてない?」
そんな事を言いながら、彼女に椅子をすすめて自身はベッドに腰掛ける。
シェンはしばらく黙って視線を泳がせていたが、やがておずおずと口を開いた。
「ご主人サマは……本当にテロリストが大嫌いね」
「まーそーね。セロリの100万倍ぐらい?」
とは言え、仕事は仕事である。
道中の安全を考えれば、相手がテロリストだろうが山賊の類だろうが、発見即撃破は当たり前の事だ。自分自身、いつも通りとは行かず愚痴が零れたし、態度に出るほどの拒否反応を起こすとは思っていなかったのだが。
それを言い出したらキリがないし、相手は荒野で虫やら何やらの飯になっているだろうから、割と本気でどうでもいい。所詮は済んだ話なのだから。
「ま、こっちに転がり込んだきっかけがきっかけだからねー……その主な原因とひとつ屋根の下で暮らしてるのは、流れと言うか何と言うか」
「……本当の所は?」
「
割とぶっちゃけた。まぁいくら好みだったからとは言え、牙を剥いて来たら躊躇の欠片もなく殺していただろうし、無様に命乞いされても結果はやはり一緒だったろうと、バイパーは振り返る。いざ行動を共にしてみれば、気付けば愛称で呼ぶ程度には絆されており、彼女の方もすっかり懐いてくれた。あくまで結果論ではあった。
「他人が聞いたら、分かるされない話ですだよ」
「当人同士の納得ありきじゃないん? 人間関係ってさ」
「納得…………」
「そんな難しい話かな。
軽い調子でそう返せば、シェンは溜め息を吐いて椅子から立ち上がった。
「……? どしたん」
無言で近付いて来た彼女は、そのまま徐に男へと抱き着いた。
構図的には押し倒される格好のバイパーだったが、腹筋と背筋を駆使してベッドに転がされる事態を回避するあたり、流石のゴリラっぷりである。
「私は好いないか」
「いんや?」
シェンの柔らかさと体温、微かな石鹸の匂いを感じながら、女の問いに3文字で答える。
「口にした方がいいんかな、こういうのは」
「……言葉にするだけ野暮ないか。日本で何て言うましたか……」
「百聞は一見に如かず、かな?」
「それでいいですだよ」
何処か頼りない笑みを浮かべ、互いの影は重なり合うのだった。
飼い主:過去一の不機嫌さでМ82乱射。心に余裕がある分、余計な事考えてるせいでイラついた模様。良いか悪いか、正しいか間違ってるか。そんなん答え出やしないんだから好きか嫌いかで生きて行くスタイル。
レガーチ:白いお薬超サイコー!
シェン:デレた。何か百回口説かれるより一回抱いてみたいなドストレートな展開になってしまったが、心理的な推移は個別エピソードにて掘り下げる予定。
次話投稿予定は09/14もしくは15の予定となります。また、次話前書きにて改めて描きますが、タグの「原作生存キャラ死亡」及び「原作死亡キャラ生存」の2つが仕事しますので、予めご了承をば。
それではまた、次回お会いしましょう。