猟犬と飼い主   作:嘆きの大平原

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 尚、歓迎するとは言ってない。


 イエローフラッグへようこそ!

 ロアナプラと言う名の港町がある。

 放逐されたもの、捨てられたもの、居心地の悪いもの、必要のない屑達──それら全てが吹き溜まった()()()()()()()などと評される、悪党共には大好評な場所であった。

 

 そんな界隈でも()()()()()()()がある。

 やくざ者達がこぞって溜まり場にしているそうで、極めて下品でガラの悪い店だと言う。

 

 その歴史は意外と古く、もともとは南ベトナムの敗残兵が開いた店であり、逃亡兵を匿ったりしている内に娼婦(フッカー)ヤク中(ジャンキー)などに加え、傭兵(マーシー)だの殺し屋(ジョブキラー)など、どうしようもない無法者ばっかりが集まる吹き溜まりと化したのである。

 

 聞けば聞くほど二の足を踏みそうな噂など何する物ぞ、とばかりに件の場所へ向かう一組の男女がいた。

 女は伸ばせば腰に届きそうな黒髪を三つ編みにし、尻尾の先端をうなじのあたりで結わえる形にしていた。白い袖無しのシャツに黒のベストとスラックスに手袋と言った出で立ちである。

 しなやかな健康美を醸し出すメリハリの利いた肉体の持ち主であったが、野暮ったい伊達眼鏡とその奥に収まる目付きの鋭さが、彼女の魅力を著しく損なっているのがいただけない。

 目付きの悪さについては、この界隈に相応しいモノではあったが。

 

 一方の男はと言うと、何とも異様な雰囲気を身に纏っていた。

 ネイビーカラーの袖無しジップパーカーに同色の半袖ティーシャツ、下は色落ちしたジーンズ。

 艶の無い黒髪は、クルーカットをそのまま伸ばしたのか中途半端にボサボサだったが、不思議と清潔感は損なっていない。

 琥珀色の双眸は、ここが何処だか分かってないのか愉し気な色を宿しており、浮かべる表情も穏やかその物であった。女より頭半分ほど高い上背は、180台前半と言ったところか。傍目から見ると不思議と長身に思えないのは、恐らく猫背気味のせいだろう。

 

 何ともちぐはぐなカップルはそれだけで耳目を集めそうなものだが、そこは悪の吹き溜まり。

 自ら厄介事に頭を突っ込む輩はあまりいない様であった。

 

「しかし長かった……もう夕方じゃんよ。いやま、酒場に向かうには丁度いい頃合いだけれど」

 

 男が苦笑交じりにそう零す。

 空港でタクシーを捕まえようとするも、行先を告げると誰も彼もが乗車拒否である。

 多めのチップを支払う事でどうにか乗り込んだ一台も、街に入る遥か手前で降ろされる始末だったのだ。

 

「私も噂程度でしか知らないけど、それだけ危険な街なんじゃないかしら?」

「そんな場所だからこそ足を運んだって話だねぇ」

 

 ちぐはぐな二人が言葉を交わす。

 彼らは語るほどもない紆余曲折を経て、この地を終の棲家として選んだのである。

 物好きと言えば物好きであるが、それなりの事情と言うモノが二人にはあったのだ。

 

「ゴミはゴミ箱へってどこぞの救い主も言ってたし。お誂え向きでしょ」

「主が仰ったのは、そう言う事じゃないわよ」

「そっかー」

 

 色んな意味で近寄りがたい空気を漂わせる二人は、何とも緩い会話を続ける。

 

「ひとまず仮宿も決めにゃならんし、得物の手入れに口入れ屋探し、身元固めのニンベン師……やる事山積みだ。落ち着けるのはもう少し先だけれど、今夜は呑んで一息つきたいねぇ」

「そうね……ところで、店の名前は何て言ったかしら」

「あーなんだっけ? 南ベトナム出身の人が付けそうな如何にもな奴……」

 

 男は虚空を睨んで唸っていたが、視線の先にとらえた看板を指差してこう言った。

 

「あーあそこ、イエローフラッグだったわ」

 

 どこの世界線でも、その店は厄介事の起点になる運命にある様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 バオはここ一月ほど大した騒ぎも起きず、それなりに順調な商いを歓迎していた。

 ちょっとした喧嘩は最早日常茶飯事なので気にしない。()()()()()()()()()限り、許容範囲としていられる程度には寛容な気分である。

 逆に言うならば、気が緩んでいたのだろう。

 

 目付きの悪いヒスパニック系の女と、この街では酷く浮いた空気のアジア人の男などと言う奇妙な組み合わせの二人と、世間話に興じるなどしてしまったのだ。

 

「とまぁ、そんなわけでニンベン師と銃の手入れしてくれる店、それからオススメの宿とか教えて欲しいんですよ。観光案内じゃないんだし、お礼はするんで教えてもらえません?」

 

 ここらではとんと聞けない()()()()口調で語る男からはこちら側とは違う雰囲気を感じるものの、店の雰囲気に呑まれるでもなく、かと言って委縮した感じもしなかった。

 女の方は静かにテキーラの入ったグラスを傾けている。目付きの鋭さや身に纏う空気は本物(・・)だ。 

 

「部屋を貸すだけならここの2階でも使うか? 上は娼館だが、空き部屋の1つくらいなら融通出来るぞ。銃の手入れなら、プライヤチャットの爺さんがオススメだ。ニンベン師は……ブローニィの野郎だな。丁寧な仕事をしやがる」

「なるほどなるほど……部屋貸してくれるならありがたいけれど、どうする? ロージィ」

「壁が厚いのなら」

「なら他をあたんな。ここらの宿は大抵似た様なもんだから、お上品なホテルでも探せ」

 

 そう返せば女は無言で肩を竦め、男はそんな彼女を見て苦笑いを浮かべた。

 

「ありがとう店主さん(マスター)

「バオでいい。店主さん呼びなんざ、背中がむず痒くてかなわねぇ。ところでグラスが空いてんぞ、兄ちゃん」

 

 テーブルに置かれた数枚の札を受け取りながら、バオは男におかわりを催促する。

 

さっきと同じの(ジムビーム)を」

 

 東洋人は若く見えがちだが、それにしても青臭く見える男だった。だと言うのに美味そうにグラスを呷る様は実に堂に入ったものである。当人の纏う空気はともかく、この場の雰囲気に浮いてるわけでもない。

 受け答えから察するに、それなりに上等な教育を受けている様だ。そのクセこちら側のやり取りを心得ているフシもある。

 何ともちぐはぐでうすら寒いモノを感じるが、店に厄介事を持ち込むわけでもないだろうと詮索する事をしなかった。

 幸い部屋を取る雰囲気でもなかったし、今後関わる事も恐らくはないだろうと。

 結果から言えばそれは勘違いであった。

 この二人は厄介事の種どころか疫病神そのものだったのだから。

 

「……? バオさん、何か騒がしくない? 上」

「あん?」

 

 男の何気ない一言に眉を寄せると、店内に流れるオールドロックに紛れて銃声が響いた。




 飼い主:早速厄介事に遭遇する模様。巻き込まれ型ではなく、自ら首を突っ込むタイプなのでタップダンス(意味深)は得意らしい。相変わらず名前はない。

 ロザリタ:愛称ロージィ。壁の厚さを気にしたのは自分達の情事を聞かれたくないからでなく、他人のそれを聞きたくないからである。尚、二人が致すのかについては作者にも分からない。因みに髪型はFGОの婦長さん参照のこと。意外と似合うと思う(個人の感想)

 バオ:油断大敵火がボーボー。原作世界線に比べると面倒見は良いかも知れない。
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