「上の店って
「ンなわけあるか! クソッタレが」
「
「あー確かに」
「そんなお上品な場所に見えるかよ」
「いいえ、全く」
「ハハッ」
ショットガン片手に階段を駆け上がりながら、何故かついてきた二人の軽口に悪態で答える。
「何笑ってんだこの能天気。こっから先は観光地じゃねぇぞ」
「そういう場所じゃないのは知ってるし、だからこそ
男の言葉を遮る様に、スキンヘッドにいかつい刺青を施した男が扉を蹴破って廊下に飛び出して来た。
その手にはゴツいリボルバーが握られている。
スキンヘッドがこちらを向くよりも早くバオが銃口を向けるが、二人よりも早く放たれた.40S&W弾が、スキンヘッドの手首と肘に牙を剥いた。
「ここでヌいていいマグナムは股座のだけだろ、ハゲチャビン」
驚いたバオが東洋人に視線を向ける。
何時の間に抜いたのか、彼の両手にはトーラスPT100が握られている。右手にはシルバー、左手のモノは黒だ。
ロージィの方もインベルМ911を手にしていた。
「どしたんバオさん。確保はよ」
「……おう」
東洋人の言葉にいくらか尻込みしつつ、バオは答えを返す。
如何にもお花畑の住人ですと言った体で、なかなかどうして大したタマである。
「クッソ……何だってこんな目に」
「ヌかなくていいモンぶら下げてるオメエが悪いんだろうが」
「ふざけんな酒場の店主風情ガッ!?」
スキンヘッドの口にジャングルブーツの爪先が突っ込まれる。
「うっせ」
爪先を御馳走した方は相変わらず穏やかな表情だった。
「……そのザマじゃ受け答えすら出来ないでしょ?
「口要らんくない?」
「ツレがいるかどうか、それが分からないと解決しないでしょう」
呆れた様に溜息を吐いたロージィの言葉に反応し、バオが口を開く。
「ご主人様?」
「あー
「ツレがいるなら人数を。手で答えられるわね?」
スキンヘッドは左手を上げる。立てられた指の数は3だった。
「思うんだけれど風俗に連れ立ってくのって何か気まずくない? 俺だけなんかな」
「知らねぇよ」
推定ご主人様の呟きに、バオは悪態で答える。
「一人一殺で解決かな」
「人質さえ取られてなければ、かしら」
「つーか殺すな。後始末が面倒臭ぇ」
「下手に生かした方が面倒じゃない?」
などと話してると、乱暴に扉を開ける音が続けて鳴った。
そして後を追う様に響く銃声。
「あーごめん。結局ヤっちゃった……
瞬く間に死体を3つ増やした東洋人は、この期に及んでも穏やかな笑みのままであった。
「……相変わらず見事な手際ね」
「ここに住むなら必須だと思うよ?」
言いながらヒップホルスターに得物を仕舞うと、東洋人は死体の尻や胸ポケットを漁り出す。
財布だけでなく得物までしっかり取り上げると、徐にこう呟いた。
「
「待て待て兄ちゃん、
「こっちも?」
頂戴したゴツいリボルバーを手の中で弄んで見せる。
「そっちはくれてやる。小遣い程度にゃなるだろ」
「毎度ありー。でいいのかな?」
そんなやりとりをする二人を他所に、ロージィはスキンヘッドに視線をやった。
相手はそれに気付いた様で、彼女を見上げる。
「ツイてるわね貴方。彼がその気だったら最初に転がっていたわよ?」
果たして本当に幸運だったと言えるのだろうか。
自分も彼も、
せめて人目の付かない場所で再会します様に。
かつて信仰を捧げていた何処ぞの誰かに対して、ロージィはそんな事を祈るのだった。
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「いや強烈だった。ダース単位で兵隊相手した方がまだマシだったかな」
「そこまで?」
「そこまで」
ロージィとそのご主人様は『スローピー・スウィング』の一室にいた。
結果として店は
店の主たるマダム・フローラは二人を──特にご主人様を甚く気に入った様子で、ちゃんとした住まいを見つけるまでは店の一室を格安提供してくれる事になったのだ。
最初こそ遠慮していたのだが、マダム・フローラの押しと何より圧の強さ(物理)に負けた……否、厚意に甘えたのである。
「人の好さを疑ってるわけじゃないんだけれどね……ハグはハグでもベア・ハッグなんよ」
「満更でも無かったでしょ?」
「止めて」
男は苦笑交じりにジムビームを呷る。
ロージィの何処か浮かない表情に片眉を上げると、グラスをテーブルに置いて問いを投げた。
「どしたん? やっぱ壁の薄さが気になる?」
「違うわ……そうじゃないの」
ベッドに腰掛けていたロージィは俯いて両手を擦り合わせる。
三つ編みを解いて下ろされた黒髪が、彼女の表情を覆い隠した。
「……また手を染めさせたから」
「あーね。仕方なくない? 手が速いのはもうクセだよ、クセ」
と言うか、自分でやるのが文字通り手っ取り早いんだからいいんじゃないのか? 男はそんな風に思っていた。自分にしろ彼女にしろ『暴力で全てを解決する』のが
(ソレを曲げて生きるなら、此処は一番来ちゃいけない場所なんよなー)
「飼うとは言ったけれど、猟犬として使う気はあんまりないんよ。今回みたく、自分から首突っ込んだ時は自分から動くの当たり前でしょ。前にも言ったよね? ま、いずれにしてもついて来てもらう事にはなんだけれどさ」
「本当に頑固ね。そういう所」
「そーかなー?」
「えぇそうよ」
ロージィが視線を合わせて弱々しく笑う。
「……ご主人様?」
椅子から立ち上がった男は彼女に近付くと、徐に頭を撫でた。
その手付きは驚く程に繊細で、優し気なモノだ。
「よーしよしよし」
「…………」
物憂げな表情が穏やかになるまで、それは続けられる。
大きく硬い手のひらの感触は、不思議と彼女の軋む心を宥めてくれる。
している事は幼子か
「一っ風呂浴びて寝よっか。腰落ち着けたせいか気も抜けたんかねー。先に浴びるわ」
欠伸交じりに背を向けた男の手を取り、ロージィはベッドから腰を上げる。
「一緒に浴びてはダメかしら?」
「おや珍しい」
耳朶をくすぐる甘える様な声と、鼻孔をくすぐる彼女の香り。そして背中に押し付けられた柔らかいモノを感じながら、男は目を大きくする。
「スキンシップがご所望の様で」
「そういう気分なの……
男は肩を竦めるだけに留め、彼女の肩を抱いてシャワールームへ向かうのだった。
飼い主:名前はまだない。無いままでおいときたい気持ちもあるけど、今後名無しのまま通せるかは不透明。作中の彼はどれだけエグい事をしようと穏やかな笑みは忘れないサイコな紳士で通したい(作者の願望)釣った魚は即リリース派だが、飼い犬のケアとスキンシップは大事にしているタイプ。因みに作者はトーラスPT100が92の口径違いなのか、ベレッタ96シリーズのライセンスコビー品なのかよく分かってません。
ロザリタ:さらっと流された戦闘後にちょっとしっとりを見せてくれた。狩りなら全て任せて欲しいが、文字通り手の早い彼の先を越せず不甲斐なさを感じている。その内単独の戦闘とかあれば少しは落ち着くかも知れない。ところでおっぱいの付いたイケメンが甘えて来るのっていいと思いませんか。
バオ:二人の関係性や力関係がよく分からない上に男の立ち振る舞いに寒気を感じる今日この頃。今回は店がちょっと汚れた程度で済んだけど、こんなの序の口ですらないのは大体運命とかそういう奴のせい。
マダム・フローラ:原作ではあまり触れられないけど結構いいキャラしてんじゃないかな?と作者は思っている。二人の新居が決まるまではちょくちょく出していきたい。