第1節:荒船哲次(村上視点)
オレは昔から、人より上達が早かった。
みんなから色々教えてもらって、オレが楽しくなってくると・・・
だんだん最初からいた人間はいなくなっていく。
場が、壊れていく。
そんなオレは十五歳のころ、剣術道場に入門した。
その時出会ったのが、後に親友となる、荒船哲次だった。
彼はオレに剣の技術を叩きこんでくれた。
荒船は強かった。
すぐに追い越すことはできなかった。
だから、荒船との稽古の日々は楽しかった。
もちろん、それだけじゃない。
オレにとって武道や剣術が性に合っていたのもある。
それに、周りも良い人ばかりだった。
何より、荒船とは気が合った。
ずっとこの日が続けば良いと思った。
しかしある日から。
オレは荒船に勝ち越すようになっていた。
その時期からだ。
荒船が道場に来なくなったのは。
◇
第2節:来馬辰也(村上視点)
道場の隅っこで落ち込んでいるオレの元へ、同じ門下生の来馬さんがやってくる。
「うわっ!?鋼!?どうしたの!?」
来馬さんがオレの様子を見て、驚く。
さらに、元から近くにいた、花さんと太一がそれぞれ続いた。
「なんかわかんないけど、荒船くんが急に道場来なくなっちゃったって・・・」
「鋼さんにあっという間に追い抜かれたから、才能の差感じちゃったんじゃないですかね!?」
太一の言葉はオレの心にぐさりと刺さった。
本人に、悪気は無いのだけれど。
視界の端で、太一が花さんに小突かれているのが見える。
そんな中、オレはつい弱音を漏らしてしまう。
「オレは・・・みんなの努力を盗んでいるだけなんだ・・・」
「うーん・・・あの荒船君がそんな風に考えるかなあ?」
◇
第3節:伝言
村上が所属する道場の先輩である来馬は、荒船へ話を聞くために、彼と蕎麦屋で会っていた。
「それは、あの馬鹿の考えすぎですね」
荒船は来馬に対して、誤解である、とハッキリ言いきった。
「もともと、士官学校の受験(飛び級)に専念するため、道場に行くのを一旦やめようと思ってたんですよ。言い訳くさいんで他人には言ってないですけど」
「じゃあ、鋼が原因ってことはないんだね」
「まあ、実力が抜かれたのは少し悲しいですが・・・俺は士官学校に行って、この皇国の戦術をより洗練させたいんです。剣術を習ってたのは、あくまで士官でも戦えないと部下がついてこないと判断したためです。だから俺が目指すところは個の強さじゃない。鋼とは方向性が違うんです」
「おお・・・遠大だね・・・!じゃあ・・・それを鋼にも言ってやってもらえないかな?」
「・・・?伝言ってことですか?」
「うん、そうだね」
「分かりました・・・じゃあ・・・ゴホン。おいコラ鋼。強くなった自分に酔ってるらしいな。俺一人に勝った程度で何様だお前は。"他人の努力を盗んでる"だあ?俺の教え方がうまいんだよ!自惚れんな!・・・こんな感じですかね?」
「うん!ありがとう!」
◇
第4節:オレはオレなりに(村上視点)
「以上が、荒船君からの伝言だよ」
「荒船さん・・・ただのいい人じゃないっすか・・・!」
「鋼は鋼のやり方で強くなってもいいんだよ」
オレは荒船の伝言、そして来馬さんの言葉を耳にしたとき、目から涙があふれた。
◇
第5節:自分の道
いつも通り、オレは道場に通った。
オレの実力はあれからも伸び続け、道場内でオレとまともに稽古できる人間はいなくなった。
それでも、道場のみんなはオレを受け入れてくれていた。
そんなある日。
道場内に、鬼が侵入した。
後から分かったことだが、その日の当番だった太一が、藤のお香を焚き忘れたことが理由だ。
オレは、鬼に立ち向かった。
勝てると思っていた。
オレの居場所を、悪い奴から守るために。
そのために強くなった。
そのはずだった。
オレは、鬼にあっけなくやられた。
木刀はへし折られ、胸の肉を裂かれた。
だが、そんなことよりも。
(太一・・・来馬さん・・・)
腰が抜け、逃げれなくなった太一を、来馬さんがかばう様に立っていた。
「これ以上、この道場にいる人は誰一人傷つけさせない!」
来馬さんは口では勇ましいことをいうが、目には涙を浮かべ、遠くからでも分かるほど足が震えていた。
(やめてくれ・・・オレの大事な人たちを殺さないでくれ・・・どうか・・・神様お願いだ・・・)
その時だった。
ぼさぼさ頭の黒髪の男が、まるで蛇のような太刀筋で、鬼の頸を一瞬の内に落とした。
ゴトン、と頭が道場の床に落ち、転がる。
すると、鬼と目が合った
「くそっ、お前さえ・・・お前が変にしぶといから鬼狩りが来てしまったんだろ・・・」
鬼は、オレに恨み言を言った。
(そうか・・・オレも少しは役に立って・・・)
奇妙な話だが、鬼の言葉で少しだけ心が楽になった。
そんな中、慈悲もない判決が鬼に下されることになる。
「知るか。黙って死ね」
鬼狩りの男は、鬼の頭を刀で串刺しにした。
すると、ぼろぼろと、灰のように崩れていく頭と身体。
ひとまずこれで、危機は去ったことになる。
オレは眠るように、気を失った。
これが、カゲこと影浦雅人との出会い。
そして、オレが鬼殺隊への入隊に至った経緯だ。