第1節:朝が来た(村上視点)
──────朝が来た。
暖かな日の光に照らされながら、オレは安堵感と疲労感で今にも全身が脱力しそうな感覚に陥る。
なにせ、相手はあの上弦だ。
全員が今こうして朝を迎えられているのは、奇跡と言う他ないだろう。
もちろん、決して平穏無事というわけではなかった。
竈門は煉獄さんの前で膝をつき、悲痛な面持ちを浮かべている。
「煉獄さん・・・目が・・・」
「ああ、俺はもう戦えないだろう。だが俺も、村上も、竈門少年も、猪頭少年も、黄色い少年も、そして乗客も。誰も死ななかった。素晴らしいことだ」
煉獄さんは、竈門を励まそうと、やさしく微笑む。
竈門は涙を流しながら、でも、と言いった。
だが、その後の言葉は、煉獄さんが遮った。
「竈門少年。俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中である少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は、誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ」
煉獄さんの言葉一つ一つに、竈門だけでなく、オレと、すぐ隣に立つ嘴平も耳を傾ける。
おそらくは、煉獄さんが現役の隊士として最後に発する言葉になるだろう。
さらに続く。
「胸を張って生きろ。己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない。俺のこの負傷は気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。竈門少年、猪頭少年、黄色い少年」
煉獄さんは、竈門と、嘴平が立っている辺りに、それぞれ顔を向けた。
「もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。俺は信じる。君たちを信じる。それと、村上」
そして今度は、オレに向けて。
「彼らをうまく導いてやってくれ。後は頼んだぞ」
「・・・はい」
オレは、煉獄さんの言葉を深く胸に刻んだ。
◇
第2節:無限列車編:エピローグ(村上視点)
やはり、煉獄さんの視力は戻らなかった。
左目は全く見えず、右目はほとんど焦点が合わないとのことだ。
そして、煉獄さんは、現役を引退した。
だが、さすがは元柱。
無限列車での任務を受けた隊士の中で一番の重症だったにもかかわらず、竈門たちよりも先に退院していった。
するとすぐに、後を追うような形で竈門が蝶屋敷を脱走していった。
おそらく、煉獄さんが言っていたあのセリフ。
『思い出したことがあるんだ。昔の夢を見た時に。俺の生家、煉獄家に来てみるといい』
・・・竈門は本当に無茶をする奴だ。
だがオレも人のことを言えないか。
オレは、猗窩座との戦闘で、骨や内臓に傷を負っており思いのほか入院が長かった。
だが、入院が長い分、強化睡眠記憶で、あの時の戦いを何度もおさらいすることができた。
そんなある日、オレはある予測によって、居ても立ってもいられなくなり、煉獄さんや竈門よりも早く蝶屋敷を抜け出してしまった。
行った先は、蛇屋敷。
「カゲ、ちょっと試したいことがあるんだ。付き合ってくれ」
「・・・ケッ!お前からのお誘いとは珍しいじゃねーか。鋼」
「以前戦った上弦の血鬼術、お前の"感情受信体質"と近いと思ってな」
オレがそう言うと、カゲは一瞬目を見開いた。
そして。
「・・・初めて見たぜ。お前のそんな表情はよ」
カゲにそう言わせるほど。
オレの決意は硬かった。
そうだ。オレが。
──────オレが、猗窩座を斃す。