第1節:生きてほしい
背には蟲柱・胡蝶しのぶを背負い、鎹烏の誘導を受けながら。
恋柱・甘露寺密璃は、無限城をひたすら走る。
「もうすぐ・・・もうすぐだからね・・・しのぶちゃん・・・」
安心させるように、優しく言葉をかける。
だが、甘露寺の表情からは激しい焦燥感が見て取れた。
それは、胡蝶しのぶの容態が理由だろう。
元々白かった肌は、さらに白みを増し、もはや血の気が感じられないほど。
青息吐息で、一刻を争う事態だというのが一目で分かる。
そんな中、甘露寺が走る長い廊下をしばらく進んだ先に小さな人影が複数見えた。
距離としては、100メートルほど。
それに対し甘露寺は気が付いたようで、彼女の表情が少し和らいだように見えた。
そして次の瞬間、廊下の板が爆ぜるような音がしたかと思えば。
瞬く間に、甘露寺は人影の元へ到着。
「よかったあああああ!救護班の人だよね!しのぶちゃんをお願いします!」
「分かった。だがこの女、助かるか分からないぞ。呼吸も上手くできていないし、出血も多い。それにどうやら、元々毒も服用していたみたいだしな」
そう話す男の瞳は、猫のよう縦長だった。
その男の話の内容と容姿、どちらも衝撃的だったのだろう。
甘露寺の大きな瞳がさらに見開かれる。
「アナタ・・・その瞳・・・鬼なのね?それに、しのぶちゃんが毒を・・・?」
「俺は鬼だが味方だ。だからこいつのことは俺に任せろ。それと、毒については大方、鬼と心中する腹積もりだったんだろうな。お前と伊黒が駆けつけてこの女も命拾いしたというわけだ」
「そうなのね・・・しのぶちゃん・・・そこまでしてあの鬼を・・・」
甘露寺はそう言って、しのぶのことを見つめた。
すると、タイミングよく、しのぶが意識を取り戻した。
そして、甘露寺と視線を交差させる。
「甘露寺・・・さん・・・今あなたがここに居るということは・・・きっと伊黒さんがあの鬼の相手をしているのですね・・・あの鬼の血鬼術は、目に見えない氷を散布し、呼吸を阻害することができる・・・あなたも、伊黒さんも・・・とっても強いけど、私の毒なしで殺せるほど・・・」
「しのぶちゃん・・・無理に話さないで・・・!」
「私は、甘露寺さんのことを、大事な大事な親友だと思っています・・・死んでほしくない・・・だから、傷が癒えたらまた私をあの鬼の元へ・・・」
「そんなのダメだよ・・・大丈夫!私と伊黒さんが必ず倒すから・・・!」
甘露寺は、しのぶの手を優しく握る。
瞳からは、大粒の涙がこぼれていた。
だが、しのぶからの返答はない。
眠るように瞳を閉じて、手の力は抜けていた。
それを見て、甘露寺が取り乱す。
「しのぶちゃん・・・!?しのぶちゃん・・・!ねえ・・・どうしたの・・・?返事をして・・・」
「うるさい、この女は気を失っただけだ。血鬼止めに止血もお前らが話している内に処置した。あとはコイツの運次第だな」
「・・・ありがとう、しのぶちゃんを、どうか、お願いします!」
甘露寺はそう言って、男に頭を下げる。
そして、涙をぬぐい、しのぶの頭に手を置いた。
「行ってくるね・・・しのぶちゃん。私、伊黒さんを助けないと」
甘露寺はしのぶの頭を数回撫でた後、立ち上がり、その場を後にした。