第1節:斜陽転身(村上視点)
不可避ともいえる、ほぼ同時に百発の乱れ打ち。
(盾すら破壊してくるとは・・・骨や内臓の損傷は避けれた・・・が)
全身の打撲、出血もひどく、膝をついてしまう。
(くそっ・・・すぐには立てない・・・それに竈門は無事か・・・?)
そんなことを考えている間にも、猗窩座はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「大したものだ。生きているとは流石だな。致命傷は何とか躱せたか。杏寿郎や炭治郎のように死ぬことは無い。お前も鬼になれ、鋼」
そう言って、鬼の勧誘をしてくる猗窩座。
その後ろ。
(気づいてない・・・?・・・背後の竈門に・・・気配が無いのか?これは・・・)
血だらけの竈門が立ち上がり、日輪刀を構えていた。
「猗窩座!!今からお前の頸を斬る!」
背後から襲えば良いものを、馬鹿正直に竈門は猗窩座を呼んだ。
すると猗窩座は振り返り、薙ぐような裏拳を繰り出す。
しかし竈門は屈んで回避し、低い体勢のまま猗窩座の懐へ踏み出す。
そして次の瞬間、俺の瞳に飛び込んできたのは。──────
まるで、上下逆様に映し出された写像のような型をした竈門。
そして、猗窩座の頸に刀身を通し終えた後の光景だった。
◇
第2節:至高の領域(猗窩座視点)
闘気の無い人間を、この数百年一度も見たことは無い。
赤子にすら薄い闘気があった。
だというのにコイツはあの一瞬全く闘気が無くなった。
そこにいるはずのない異物と対面しているような状態に。
感覚が混乱を起こした。
俺の羅針は無反応。
だがそんなことは問題ではない。
戦いの場においては。
予期せぬこと、初めて遭遇する事態全てを。
即座に理解し対処しなければならない。
俺はそれができる。
・・・はずだった。
しかし。
この短時間の戦闘でコイツは何かを掴み俺の速度を上回った。
数百年間の武術の粋を、正々堂々真正面から打ち砕かれた。
その瞳の中には憎しみも怒りもなく、殺気も闘気もなかった。
恐らくその瞳が捉えていたものは。
俺の求めていた"至高の領域"、"無我の境地”に他ならない。
その境地があるということを漠然と感じていたが、今尚俺はそこへ辿りつけずにいた。
◇
第3節:赫刀(村上)
ズルッ・・・と、猗窩座の頸が胴体から落ちようとしていた。
しかしそれを、猗窩座は頭部を掴んで、無理矢理命をつなごうとする。
(盾の呼吸・弐ノ型──────守護断進)
破壊され、随分小さくなった盾を投擲。
猗窩座の後頭部に突き刺さると、怒りに満ちた表情のまま、床に転がっていった。
そして、ボロボロと頭部が崩れ始める。
(終わった・・・勝った・・・)
しかし。
(体の崩壊が始まらない・・・これは・・・)
──────ドン。
鬼の足が床を砕き、そこから雪の結晶が広がっていく。
さらに、首の断面がメキメキと再生を始めている始末。
そして、まず最初に標的になったのは竈門。
猗窩座の手刀が、竈門の頭部目がけて振り下ろされる。
それをなんとか、身体ごと回転させて回避する竈門。
しかし、限界が来たようで、ぐらりとよろけてしまう。
その隙を付いた猗窩座。
竈門の横腹に足をめり込ませ、壁まで吹き飛ばした。
もちろん、それだけでは終わらない。
とどめを刺すべく、すでに気を失った炭治郎の元へ、猗窩座は駆け出す。
(・・・させるか・・・弧の呼吸・弐の型──────閃空・弐閃)
猗窩座の右横めがけ、十字の斬撃を放つ。
しかし即座に再生。
その後、猗窩座は俺に狙いを定める。
首が無くても衰えを知らない猗窩座の徒手空拳を、なんとか剣術で凌ぎ続ける。
(竈門がなんとか頚を落とした・・・この後はオレが・・・)
「う・・・おおおおおお!」
がらにもなく、気持ちが高ぶってしまったのか、刀の柄を強く握ってしまう。
そしてそれを、猗窩座の腹部に横から叩きつけた。
しかし、鍛え上げられた腹筋により、途中で止まってしまう。
(くっ・・・抜けない・・・まずい)
さらに刀を強く握って、抜こうとした。
すると。
刀身が深紅に染まり、猗窩座の身体が硬直した。