第1節:軟弱千万
無限城の中、無数の黒い柱がそびえたつ広い空間で、重厚な声が響いた。
「猗窩座の・・・気配が・・・消えた・・・」
その声の主は、腰に刀を差し、長い髪を後ろでひとつで束ねた、若武者のような男だった。
だが、その顔は異様だ。
"上弦""壱"と刻まれた、本来の位置にある目の他に、額と頬に二つずつ、合わせて六つの赤い目がある。
そしてその目が、苛立ちのせいか、わずかに歪む。
「敗北するとは・・・猗窩座・・・私に勝つのでは・・・なかったか・・・さらなる高みへの・・・開けた道をも・・・自ら放棄するとは・・・」
そうつぶやき、男が刀を鞘に納めた。
いつの間に抜刀したのだろうか。
「軟弱千万」
その言葉と同時に。
ズズゥン・・・・
何本もの黒い柱が音を立てて倒れていった。
大木のように太い柱なのだが、どれも途中からスッパリと断ち切られていた。
◇
第2節:結晶ノ御子
同じとき、別の場所で戦っていたもう一人の鬼も、異変を感じ取っていた。
そこは、床一面が池のように水で満たされ、あちこちに蓮の花が咲いている不思議な空間で、池には板で出来た橋がジグザグに渡されていた。
橋の上に、整った顔だちの若い男が立っている。
「あれぇ」
長い
虹色の瞳は、左に"上弦"、右に"弐"と刻まれている。
両手には金色の扇──────上弦の弐、童磨である。
「猗窩座殿、もしかして死んじゃった?一瞬変な気配になったけど、気のせいだよね。猗窩座殿が何か別の生き物になるような・・・死んじゃったからもうわかんないや」
神妙な表情で考え込むような仕草を見せたと思えば、その直後ケラケラと楽し気にする童磨。
一通り笑った後は、虹色に光る瞳で、遠くに立つ鬼殺隊士──────伊黒小芭内を見つめた。
「それにしても、俺の結晶ノ御子を三体同時に相手取れるなんて、本当に強いね。そろそろ教えてくれても良いんじゃないか?君の名前を」
「鬼に名乗る名前など無い」
「じゃあ、その"蛇"の名前なら良いかな?」
童磨は口を扇で隠しながら、目を細めてそう言った。
対照的に、伊黒は一瞬目を見開いた後、黙り込む。
「・・・」
「だんだんと分かってきたぜ。君はその蛇と頻繁に目配せしていることから、何か情報をもらっているんだね?蛇は皮膚感覚が鋭いから、俺の粉凍りに関するものかな?」
童磨が問いかける。
しかし、伊黒は答えない。
それを見て、童磨は再び笑った。
「アハハ、図星かな?まあいいや──────やることは、変わらないからね」
そう言って、二対の扇を面同士で重ね合わせた。
そして、上下に開くように、扇を動かすと、氷の人形が一体作り出された。
「結晶ノ御子──────これで四体だね」
シャリン、と床に足を付ける氷像。
それと見た伊黒は、眉をひそめた。
そんな中で。
「伊黒さああああああん!!!よかった間に合ったよおおおおお!!!」
桃色の髪を前で二つ結んだ女隊士──────甘露寺蜜璃が駆けつけた。