第1節:右目(伊黒視点)
「良かったよおおお!」
「甘露寺・・・!」
甘露寺が無事なことと柱の増援が到着した事実に、ほっと胸を撫でおろす。
(俺だけでは、とてもじゃないが目の前の鬼には勝てない・・・呼吸を阻害する"粉凍り"、そして、この氷像・・・)
曰く、氷像は目の前の上弦と同等の威力の血鬼術を使えるとのこと。
それが四体も。
(三体を同時に相手取るだけで防戦一方だったからな・・・しかも、本体が傍観している状況下で・・・だ)
「甘露寺、来てくれてありがとう。助かった。胡蝶の容態・・・は今は聞かないでおこう。それよりも、目の前の鬼は氷の粉を散布する。絶対に吸ってはいけないぞ」
「分かったわ!伊黒さん!」
そう言って、甘露寺は早速頬を膨らませ、呼吸を止めた。
それを見て、俺は慌てて止めに入る。
「いやいや・・・今は息を止めなくて良いんだぞ」
「やだ・・・私ったら・・・!」
羞恥心のあまり思わず顔を赤らめる甘露寺。
戦いの最中にもかかわらず、俺は不覚にもときめいてしまった。
そんな一連のやり取りを見ていた鬼は、咳払いをした。
「・・・え~っと・・・そろそろ良いかな?」
鬼にこんなことを言われてしまった。
俺と甘露寺は黙って頷くしかなかった。
そして、刀を構えると、目の前の氷像も扇を構えた。
「それじゃあ・・・血鬼術──────散り蓮華」
鬼の言葉の後、氷像四体が、一斉に花吹雪のような血鬼術を放つ。
視界いっぱいに広がる敵の攻撃。
それを、甘露寺の超高速の太刀筋が冷気を払い、花弁を砕いていく。
すると、一筋の道が見えた。
(流石甘露寺・・・相手の攻撃を無効化するだけでなく、進路まで切り開いてくれるとは・・・)
俺は、その道が閉じ切ってしまう前に、弾かれるようにして吹雪から飛び出した。
(狙うは本体・・・甘露寺ばかり負担をかけるわけにはいかない・・・!)
すると待ち構えていたかのように。
「ほら、来た来た」
俺の首を目掛け、鬼の扇が横一文字を描いていた。
それを、回避しようと真後ろに身体をひねるが──────
「ぐっ・・・」
視界に激痛が走り、真っ赤に染まった。
(右目を潰されたか・・・!?)
傷口を抑えながら、俺は後ろに飛び退く。
左の手のひらには、べちゃり、と生暖かい感触があった。
鬼の作戦にはまったこと、それによって片側の視界を奪われたこと。
これらは俺の軽率さが招いたことだ。
「鬼にまんまと騙されたということか・・・」
自分自身を皮肉るかのように、そう吐き捨てた。
それに対し、鬼はというと。
「今回は、あえて攻撃に密度の薄い部分を作っただけだよ。なにせ柱が二人。俺も油断は捨てたぜ」
そう言ってのけた。
(氷像もやっかいだが、一番はやはり"本体"。頭はキレるし、速度に関してはどの柱をも超えている。"油断を捨てた"、と言っている以上は甘露寺に任せるのは怖いな、死んでほしくない。だから、俺が・・・)
息を大きく吸う。
心拍数はいつもより高く、体温も高く感じた。
(これは・・・まさか・・・)