第1節:劣勢(伊黒視点)
(力が湧き出てくる・・・)
今なら、目の前の鬼と斬り結ぶ自信がある。
心配なのは・・・
「甘露寺・・・!無事か・・・!?俺は本体をやるから、君には氷像を任せたい。出来るか?」
「・・・っ!・・・分かったわ、伊黒さん、気を付けてね!」
「ああ・・・!君も気を付けて!」
声色から、少し無茶をしていることが読み取れるが無事ではありそうだ。
心の底から安堵を覚える。
だが、決着を早くつけないと、甘露寺も持たないだろう。
そのことに、鬼も気が付いているようで──────
「なるほど、役割分担かあ。でも、彼女もさすがに四体はきついみたい。だから──────あと二体増やすことにするよ」
その言葉の後、鈴のような音を奏でながら二体の氷像が鬼の左右にそれぞれ立った。
(さらに増やせるのか・・・その可能性も考えていたが、本当にデタラメな奴だ・・・クソッ・・・!これを行かせたら・・・!)
氷像は、二手に分かれ、甘露寺の元へ走り出す。
それを俺は、追撃しようとする。
しかし。
「させないよ~」
本体が俺と甘露寺を遮るように移動し、さらに。
「血鬼術──────凍て曇」
冷気の煙幕が、勢いよく吹き出す。
肌が凍てつき、体温が下がっていく。
(まずい・・・コイツは呼吸だけじゃなく、"痣"に対しても・・・)
鬼殺隊の天敵のような血鬼術の数々に、苛立ちを覚える。
そして、それを見透かすかのように。
「あ~あ、君の想い人の元へ、俺の結晶ノ御子が二体到着したようだよ。合計六体だから、あの娘もそろそろだね」
「貴様・・・!」
「うん、でも君の判断は正解だよ。結晶ノ御子六体より、”本気を出した俺の方が強い”しね。それに君、片目が見えなくなってから強さが随分と変わったね。直前までは桃色の髪の娘より弱いなぁと思ってたけど、今は違うから、強い方が俺の相手をするのは当たり前だもんね」
鬼から明かされる事実に、ぐらり、と身体が揺れる。
(考えたくなかったが、あの氷像六体よりも強い・・・か。確かに頭の回転や身体能力は脅威だが・・・まだ見せていない切り札があるということか・・・)
つまり。
甘露寺がつぶれる前に。
本体が切り札を見せる前に。
俺が、決着をつける必要があるということ。
「どんなに強くても、貴様は俺が倒す。それは絶対に変えるつもりはない」
刀を構える。
そして、俺は真正面から敵に突き進んだ。
「蛇の呼吸 肆ノ型──────頸蛇双生」
二方向からの斬撃を放つ。
それに対し、鬼は二対の扇で防ぎ、お返しだと言わんばかりに。
「血鬼術──────枯園垂り」
氷をまとった斬撃が幾重にも繰り出される。
それを一つ一つ、慎重に刀で受けて対処する。
しかし。
腹部から血が噴き出た。
(クソッ・・・見逃した・・・一段と速度が上がっている・・・俺の目で捉えきれなくなっているのか・・・!)
一度鬼から距離を取るために、出血部を抑えながら後ろに飛んだ。
それを鬼は追いかけることもなく、ケラケラと笑い始めた。
「アハハ、俺も久しぶりに本気で扇を振ったかもなあ。どう?見えなかっただろ?」
"本気で"
そう言いながらも、俺が体勢を立て直す時間は与えるということか。
それは願ってもいないこと。
(ただ、もう一度突っ込んでも、敵の攻撃が見えない以上、さっきと同じ結果、傷が増えるだけだ。だからせめて、敵の攻撃が目で追えるように・・・)
その刹那。
緊急柱合会議で耳にした、"ある言葉"が頭によぎった。
(・・・"透き通る世界"・・・か)