村上鋼と影浦雅人は鬼を狩る   作:白澄星火

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第37話:睡蓮菩薩

第1節:覚醒(伊黒)

 

(村上の言っていた通りだ・・・時間の流れが遅い。不思議な感覚だ)

 

さらに、眼前の敵の、骨格・筋肉・内臓の働きさえも、手に取るように分かる。

そして何より。

 

(心と体、どちらも"自然体"。これを知ってしまえば、今までの俺は"その瞬間"は一度も無かったと言っても良い。それくらいに、今の俺は"自由"だ)

 

甘露寺や時透も影浦との稽古で"入った"ようだが、まさか、この俺が入れるとは。

 

刀を握り直し、敵と正面から向かい合う。

どうやら鬼も、俺の変化に気づいたようで、瞳を細めていた。

 

「さっきの俺の攻撃・・・絶対当たったと思ったんだけどなあ・・・どうしちゃったんだい君」

 

「五月蠅い。もう終わらせる」

 

その言葉と共に、敵の方へと自身の身体をはじき出す。

しかし、真正面ではなく、自身から見て敵の左側へ。

 

「蛇の呼吸 弐ノ型──────狭頭の毒牙」

 

敵の真横から首を狙い、刀身を振る。

 

しかし。

 

最後まで振り抜く前に、敵の姿が消えた。

 

(いや──────というよりも)

 

どうやら俺が斬ったのは、巨大な氷の壁のようだった。

 

氷に通された刀身を最後まで振りぬく。

そんな中、頭上から声がした。

 

「危ない危ない。咄嗟に氷蓮菩薩を出して正解だったぜ」

 

その声の方向に、俺は視線を向ける。

すると視界に飛び込んできたのは、巨大な仏像とその型の花に座る鬼の姿だった。

 

「これを出すのは、それこそ"入れ替わりの血戦"ぶりかなぁ?いやあ、急に君が強くなるもんだから、俺も焦ったぜ。でも、そろそろ"御終い"かなあ?」

 

そう言って、大きな花の上で立ち上がると、鬼は大きく扇を振った。

すると、仏像の口から、とてつもない勢いで冷気が吐き出される。

 

(まずい・・・この温度と量・・・一気のこの部屋ごと氷漬けにするつもりか・・・!?)

 

そんなことを考える間にも。

いや、それより早かったかもしれない。

 

──────地獄が、訪れた。

 

 

第2節:睡蓮菩薩(伊黒)

 

視界が晴れる。

 

まるでこの部屋だけ、世界が違うようだ。

凍てつく空気が充満し、さらには仏像の周囲は呼吸すら出来ないほどだ。

 

敵から距離をとり、甘露寺の安否を確認する。

すると。

 

氷柱に腹部と右の太腿を貫かれ、壁にもたれ掛かっている甘露寺の姿が目に入った。

 

(甘露寺・・・甘露寺・・・!!)

 

俺は、今にも叫び出しそうなほど取り乱し、彼女の元へ走り出した。

しかしそれを。

 

「伊黒さん!」

 

と、止める声。

栗花落カナヲだった。

 

不甲斐ないことに、近くまで来ていた彼女の存在さえ、俺は気づかなかったのだ。

そんな俺に対して栗花落は、目をそらすのを許さないかのよう、真っ直ぐと視線を向けてきた。

 

「・・・私も伊黒さんのことを責められません。だって、甘露寺さんの負傷は私を庇ったことによるものですから。だから正直、自分の至らなさに腸が煮えくり返りそうです。でも、感情に任せて戦うのは違う。それに、"まだ間に合います"。だから今は、敵を倒すことに集中しましょう」

 

栗花落はカタカタと身体を震わせ、白い息を吐きながらも、さらに続ける。

 

「さっきも、凄かったですよ。甘露寺さんは伊黒さんを見て、"自分も頑張らないと"と一層奮起して、その後は伊黒さんに負けないくらの戦いぶりでした」

 

そんな言葉を口にする栗花落だったが、片目は濁った色をしており、血が流れ出ている。

 

(栗花落・・・片目が見えていない・・・のか)

 

そんな状態でも俺を諭そうとする姿を見てしまっては、冷静にならざるを得ない。

そして俺は、周りを見渡すと、六体いたはずの氷像は、いつの間にか三体まで減っていた。

 

それを見た後、甘露寺と栗花落に一言礼を述べ、俺は再び、鬼の方へ身体を向けた。

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