あの怪物との鬼ごっこを終え、篝火で休んで数十分経ちました。
不思議なことに、この篝火、体力を回復させてくれたのです。擦りむいた手足の傷も、篝火にあたっていればそのうち消えて元通りに。すごく便利です。
とはいえこのままずっと篝火にあたったまま行動しないわけにも生きません。私は個々から出てやるべきことやらなければならないのですから。
「さて行きまし――てわぁ!?」
篝火の合った部屋を出てすぐ、前方から矢が飛んできました。
速度は遅いし制度も悪いですが廊下が狭いので油断してるとしっかりあたってしまいます。
ちなみにその矢を放っているのはあのミイラの中身でした。
「いやなんで死体如きが動いて矢を放つんですか」
文句を言いながら飛んでくる矢を横に避け進む。しかし狭いのでなかなか避けづらい。仕方ないので途中にあった部屋に入ります。
「あ」
恐らくここで死んだであろうミイラが盾をもっていました。
死体漁りが趣味なわけではないです。死んだ者の戦利品は、相手に敬意がある限り、その者の墓に供えて弔うのが礼儀。
ですが今は緊急事態です。それに限りなく危機的な状況なので少し拝借させていただきましょう。弔うのは何時でも良い。覚えていたらやっておきましょう。
早速盾を構えながらあの弓を撃ってくるミイラに近づきます。
矢が盾に当たってカァーンという警戒な音が何回か響く。
ついにミイラの直ぐ側まで来ましたが、まだ弓を撃ってこようとするので、
「えいっ」
取り敢えず殴りつけて黙らせます。武器があったら良かったのですが…仕方ないです。
しかし、
「あ、ああぁ」
「ええ?なんで生きてるんですか」
普通の女性でも本気の一発を叩き込めば死にそうなほどガリガリで見窄らしい見た目なのに、まるで痛みを感じていないようにゆらりと立ち上がり、再度至近距離から弓を放とうとしています。
でもこういうときは、
「殴ち続けるに限ります」
「あぁ…ゑ?」
ドガッ バキッ ベキッ ガゴッ バガッ…
「あぁ…ぁ」
ようやく倒すことができました。何発殴ったんでしょう。こんなミイラを倒すのに何発も殴らないといけないなんて、私はどれほど弱くなったんでしょうか。それにミイラの返り血で手が汚くなった上に変な匂いがします。
ミイラが倒れると私の体に白い煙のような、霧のような透明な何かが出てきました。そしてそれは吸い込まれるようにして、私の体の中に入ってきました。
慌てましたが幸いこれといった害があるわけでも無いらしく、私の体の中に入ってすぐに消えました。
すると体の中に、なにか不思議なエネルギー?が宿るのを感じました。先ほど吸収した光の粒子が体の中に溜まっているようです。
「一体何なんでしょう」
少し考えてみましたが、全くもって検討がつきません。害もないので特に何かがあるわけでは無いのでしょう。というわけで私はまた先を進むことにします。
「あ、剣」
足下に健が転がっているのを見て、さっさと取ればよかったと思いました。
† † †
「…もう駄目だ」
床下から数センチ程度水が溜まり、石壁に覆われ、松明一本だけの部屋で掠れた独り言が響く。
発声源をたどると、瓦礫のようなものに背中を預け、今にも死にそうな鎧を着た男がいる。
彼はアストラの上級騎士、その名をオスカー。
アストラという地で彼はその身に纏う質の良い装備から見て分かる通り、上級騎士だ。
上級騎士。そう、彼はアストラの地にて確かな腕を持つ騎士であった。上級と言われるからにはきっと誉れ高き騎士であったに違いない。
そんな彼がなぜ独房の様なこの狭い空間で、なおかつ死にかけで瓦礫に背を預けているのか。
理由は鎧越しで見えないが、彼の瞳の奥で燃えるダークリングを見れば分かる。
彼は不死人として呪われたのだ。
不死とは呪いだ。
人々は始めこそ死ぬことが無くなった、死ぬ心配を消し去ったこの呪いを歓喜した。
だが後に、恐ろしい事実が確認された。
死を重ねるごとに身体は枯れた様に。まるで生きた死体のような生物が生まれる。
時が経てばいつの間にか記憶が失われていく。 記憶は最後、自分が何者なのかどころか記憶を失ったことさえ失われる。
そうして果に、呪われた者たちは理性が消え、ただただソウルを求める亡者となり、人々を襲う。
それが不死の呪い。呪われた者たちのが迫害を受ける理由だ。
オスカーも、その身に病とも言える咒いを宿したが故に迫害を受け、住んでいた故郷を追い出された身だ。
だが彼には使命があった。
不死として呪われ、だがその罹患者は“不死の使命”を倶に課せられる。
ロードラン。神々の華々しい時代を描いていた地。火の時代が始まった神域。しかし今は嘗ての栄華などとう廃れ、そこには神々がいた軌跡が残っているだけで抜け殻のような世界だ。
不死人は皆この地に趣き、二つある勇者の鐘をというものを鳴らす巡礼をする。それが“不死の使命”である。
―――その使命の始まりは、長過ぎる時によって廃れ、しかし果てに何があるか忘れられてしまったが…
古くから言われる得体のしれないこの使命を果たそうと、オスカーはこの呪われた地にやってきた。
オスカーの旅はゼロからだった。
亡者たちが彷徨う場所の近くに人が住んでいる訳が無い。当然アストラの地からロードランまでかなり離れている。使命を背負う者しか呪われた地へ至る道を通らないので、そもそも地図もなければ道を知る者すらとうに亡者と化している。
そしてロードランへ至る道も、また苛酷。
人が―――不死人がいるが―――足を踏み入れない深山幽谷。ロードラン付近に凶悪な住む生物達。道半ばで力尽いて亡者に成り下がった不死人。億劫になるほど遠いロードランへの道のり。 そのうえで、己を蝕む亡者化。
常人であれば、我が身一つでロードランへと辿り着くには、至難の道だった。
しかしオスカーは、騎士として果たすべき使命を果たそうと、巡礼へと参ろうとした。
そしてオスカーはロードランへと、しかしあと一歩のところで、辿り着くことができず、この独房にて最後に迎える羽目になった。
「…」
虚空を見つめるオスカー。
人は死ぬ間際、走馬灯を見るものだ。
だが彼はそれを見ることができない。彼の亡者化が進み、過去の記憶の殆どは失われている。
精々覚えているのは、自分の名前と故郷がどんな場所だったか。それとこの独房の様な場所に入る前に自分が助けようとした白髪の女性。
それだけだった。
だがふと、その白髪の女性のことが少し気になった。
実は彼女が亡者だったかどうか、少しわからないのだ。
亡者化が進んで目がはっきりと見えてなかったからかも知れないが、亡者にしては妙に血色が良いし服も清潔。数日前に牢に入ったと言われても不思議だとは思わない。
だがここにいるということは彼女も不死人なのだろう。そう思ったオスカーは偶々そこら辺に転がっていた死体を落とし、その死体ごと鍵を渡したつもりなのだが。
「彼女は…無事だろうか…」
無事であれば良いな、とオスカーは思う。
彼は騎士。それも誉れ高き上級騎士。
であるならば、騎士として、人を救うのが彼の信条。そして騎士としての生業だ。
だから彼は亡者になるすんざんだが最後に騎士として人を助けたのだ。
だが彼は最後の最後に不死人として、願う。
そしてどうか、俺の代わりに使命を果たしてほしい。と。
この、救いの無い呪いを背負って。
その時、轟音とともに反対側の壁がぶち破られた。
なんかオスカーの話が妙に長くなってしまった。
文章力がカスなのに投稿が遅れるとはこれ如何にと思う今日このごろ。