若干吐き気を覚えながら、椛は霧の門の前に立った。
後ろを振り返ればそこからでも飛べばなんとか脱出できそうではある。だが椛はこの院に来てから大幅な弱体化をしてる。落ちたら死ぬぞと本能は言っているのだ。
椛は先程オスカーから渡されたエスト瓶を取り出しじっと見つめる。
薄緑色の瓶の中にてらてらした琥珀色の液体が瓶の五分の四ほどの量入っている。
「これは、不死の宝」
オスカーから言われた言葉を復唱する。
不死の宝、エスト瓶。
逆に読めば、エスト瓶とは、不死の宝。
そう、
椛は瓶を中身を飲むと体にあった大痣やかすり傷などがすべて治った。
つまり、だ。
「私は…不死になった…?」
その言葉に、獣耳の先から爪先まで、自分の自慢の純白の白い尾の毛先までが逆立ったのを自覚した。まるで虫が全身を這うようなその感覚に椛は戦慄した。
幻想郷にも竹林に住む不死がいる。
彼女らは皆、蓬莱の薬と言われる物を服用して蓬莱人になったのだとか。
その不死者の一人、藤原妹紅は言っていた。
不死なんて良いことはない。孤独で救われないのだと。
椛も何度か話は不死のことについて聞いたことがあった。その度に、やはり不死は呪いの様なものだと彼女は思った。
だから彼女は自分が不死になったと、天地がひっくり返っても、亀の甲羅に毛が生えようが兎に角が生えようが、そんなこと有り得ないと思いたかった。
だが彼女は不死の宝、エスト瓶を飲みそれで体のあらゆる傷を回復させたのだ。
であれば、自分は不死になった可能性が高いということだ。
「けど…本当に?」
ただし彼女の正体は妖怪、白狼天狗。
オスカーや亡者たちを見る限り、不死全員元は人間であった。それに聞いた感じでは蓬莱の薬を飲んで不死になるのとは別でオスカーの不死は呪いである。だから一応、彼女が不死になったというのは少し早計である。
それに彼女はまだ死から蘇った覚えはない。自ら死して不死になった証明などしたくないがもし死んで復活したら自分は不死になったんだと覚悟しようと彼女は思う。
「だから」
彼女は霧の門を潜る。今度はあっさりと侵入できたことから、恐らく霧の効果は侵入は出来るが入ったら出られない仕組みなのだろう。
そして霧が出た条件は…
「…」
その眼下に見えるは、あのデーモン。
血色の目玉をギラつかせ、椛をじっと見上げる。どっしりと大鎚を構える姿はかつて見た鬼とそっくりである。
霧の門のが出現したのはそのデーモンが現れてからだった。
であるならば、デーモンを倒せば霧は消えるのではないだろうか。
椛はそう考え、一歩下がり、腰に差していた剣を右手で抜き、背負っていた盾を左手に持つ。
恐ろしい。先程の出来事を考えたら弱体化した自分には手に余るのでは、と、椛は思案する。
だが、奴を倒さねば先に進めない。
そして、もう後戻りはできないのだ。
であるならば―――
「はっ!」
石床を駆り、飛び降りる。
そして堕ちて行く先には、彼のデーモンの顔。
いきなり飛び出してきた椛にデーモンは数瞬硬直した。
その隙に、椛は落下する勢いを剣に乗せ、デーモンの顔面に深々と突き刺す。
「ガァアアアア!?」
突然顔面に剣をぶっ刺され、痛みと怒りで叫び声を上げるデーモン。
頭を振って椛を取っ払おうとするが、椛はすかさず顔面から剣を抜きデーモンから離れる。
飛び退いた椛はデーモンからある程度距離を取り、デーモンを観察する。
見れば見るほど恐ろしい。いくら武器を持って、回復手段を得たからって、そうそう勝てる相手ではない。
けど。
「参ります!」
気合の一喝と倶に、椛はデーモンに向かって走る。
往々にして生きていれば立ち向かわなければならない脅威というものがある。それがたとえ自分とは全く関係ないことだったとしても、直面しなければ進まなければならない。
それに今の彼女にはオスカーから託された使命がある。
ならばこそ、彼女は進まなければならないのだ。
「ガァアア!」
怒り狂って振るわれたデーモンの大鎚を、椛はバックステップやローリングで躱していく。
デーモンの攻撃は、威力こそ凄まじい物だ。喰らったら一発でお陀仏してもおかしくない。
ただそれは、攻撃力という面だけを見ればの話だ。その振るわれている攻撃は怒りで力一杯ぶん回してるだけで遅い。良く見ていれば足の速さに自信がある者なら楽々交わせるだろう。椛は普段から山の中を走り回っているので問題はない。
あとは、恐れず、憂いなく、戦うのみ。
「はぁッ!」
躱し、二、三撃ほど足に打ち込まれる。分厚い皮膚だがどうやら剣で十分に切れるらしく、斬られた皮膚の合間から黒ずんだ肉が見えた。
その事実は椛を奮い立たせた。
そして椛は思う。
(よくよく考えたら、あんまり怖くありませんね)
ビジュアルが怖いかといえばまるで悪の権化の様な見た目をしているデーモンを怖くない訳が無い。現に始めて見た時は恐怖で慄き、無様に逃げ回ったというのだから。
ではなぜ彼女はデーモンに対して恐怖を感じなくなったというのか。というのも、
(だってあの博麗の巫女と比べれば…)
一昔前のことだ。
外の世界から幻想入りしてきた神々の神社が山の上に神社を越させ山中が大騒ぎする異変が起きた。
何やら外の世界での信仰が薄く存在を保つのが困難になっらしく、信仰を集めようと幻想郷にやってきたらしい。が、その神社の風祝がどうやら幻想郷の信仰は私達のものだとかなんだとかで博麗の巫女に喧嘩を売ったらしく、博麗の巫女が異変解決もとい倍返しもとい制裁のために妖怪の山に無断で侵入してきた。
一早く博麗の巫女の存在を感知した椛はすぐに博麗の巫女の対応に動いたが、「待ってください」の一言すら言えず、出会って三秒も立たず、数十、数百枚の御札を叩き込まれ、挙げ句ついてこられても面倒だからと崖で磔にされたのだ。はたてが助けに来てくれたが博麗の巫女の封魔陣がはたてに解除出来るはずがなく、その後異変を解決した博麗の巫女が戻って来るで半日そのままだったのだ。
まさに理不尽の権化である。うら若き巫女がこんな蛮行に及んで良いのかと椛は思うがそれを言って彼女が変わることはない。きっとそれも彼女を
それと比べて今目の前に対峙しているデーモンはどうだろう。
攻撃方法はただ大鎚振り回すだけの単純なもの。
破壊力など鬼のそれとは全く違う。弱いという意味でだ。
そして見た目…だけはしっかり悪役してるかも知れない。
以上の理由で悪の権化と
そんなふうに考えるうちに全くもって此のデーモンが怖くなくなった椛はさらに畳み掛ける。
一撃、また一撃と攻撃を加えるたび、デーモンの皮膚は大きく裂かれていく。
「グァアア!」
地団駄踏みもう後一撃叩き込もうとした椛。しかしいきなりデーモンの姿が消えた。
否、消えたのではなく。
「上!」
大きな影が椛を覆う。彼女を叩き潰さんと、デーモンが。
だが同じ技に何度もくらう椛ではないが、彼女は攻撃しようと前のめりの体勢を作っていたので勢いを殺せない。
―――ならば殺さず突き進むのみ!
「ハァッ!」
加速。勢いを殺さず更に進む。
大きなデーモンの影の半ばほどに進んだところでデーモンが落ちてきた。
すぐ頭上に来る重圧に椛は一瞬死ぬかと思った。
ただ彼女は死にたくなかった。片時も、死にたいなどと思ったことはなかった。
そしてこんなところで、彼女は死にたくない。
だから、
「ああぁあッ!」
ギリギリのところでローリング。地響きによろけながらも彼女は素早く立ち上がり、
「終わりですッ!」
ザクッと深い一撃がデーモンに刺さる。
デーモンの手足から眩い光が溢れ出し、それは瞬きする間にその巨躯を包み、あっという間に消え去った。
拙作は短めで投稿する予定です。
次回はちょこっと東方要素出るぜぃ。