拙作はこのすばとスクライドの能力だけクロス作品です。
シェルブリットと言えばカズマさん。なのでこのすばのカズマさんにシェルブリット使わせたろ! というノリで生まれました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それではまたあとがきで。
『シェルブリット』のカズマさん
~プロローグ~
────少年は、絶望の只中に居た。
「あああ────!! あああぁああぁ────!!?」
少年はありとあらゆる怨嗟、慟哭、悲哀の籠った絶望の叫び──悲鳴──を上げ続ける。
彼の眼前の少女、女神を名乗った彼女は言った。何が起こったのか分からず、周囲を見回す少年に「あなたは死んだのだ」────と。
「あぁああぁ……!! ────っぐ、ううううぅ……!!」
頭を抱え、髪を振り乱し、嘆き、悲しみ、苦しむ少年を前に、青髪の女神────アクアは静かに目を閉じ、俯いて肩を震わせている。
少年の名は
幼い頃に結婚を約束した幼馴染みの少女が、不良で有名な人物と仲睦まじく過ごしている所を目撃し、引きこもりとなってしまった少年だ。
その幼馴染みの少女とは恋人同士であった────という訳では全くないが、多感な年頃のカズマにとって、目撃した際に受けたショックは計り知れないものがあったのだ。
そうして引きこもりとなってしまったカズマはアニメやネットゲームに傾倒し、楽しくはあるが空虚で陰鬱とした毎日を過ごす事になるのだが、それでもカズマは優しさというものを失う事はなかった。
何せ、カズマが十六歳という若さで命を落とす事になったのも、彼の持つ優しさが故であるからだ。
まあ、もっとも。────その死にざまが、誉れあるものだとは限らないのだが。
「本当はトラクターだったのにトラックに轢かれたと思い込んでショック死したとか受け入れられねえええええぇーーーーーーっ!!!」
「ぶふぉっ!!!www あっははははははは!!www しかもwww 失禁www 顔芸www 医者からも家族からも笑われてwww」
「いやあああああぁぁーーーーーーっ!!?」
「あはははははははははっ!!!www ふひっ、ひ、ひひふふふwww ふぶふっ!? げほっ……ひっ……ひゅーっ、ひゅっ、ひ、ひひwww い、息www 息、できなっ……www」
「呼吸困難に陥る程笑ってんじゃねええええええ!!」
────そう。カズマの死に様とは、猛スピードで突っ込んでくるトラックから女子高生を庇って轢かれてしまった……といったものではなく。ゆっくりと運転していたトラクターをトラックと勘違いして女子高生を突き飛ばして足を骨折させてしまった挙句、本人はトラックに轢かれたと思い込んで失禁からのショック死……という、ある意味とんでもなく悲惨なものであったのだ────。
女神アクアはそれを思い出し、ついに限界が来たのか思い切り噴き出し、座っていた椅子から転げ落ちて呼吸困難に陥る程に笑い出す。
息が出来ないせいもあるのか、その目には涙が浮かんでいるがどう考えても泣きたいのはカズマの方だ。
結局アクアは数分間呼吸困難と闘いながら笑い続け、何とか落ち着きを取り戻した。何度も何度も深呼吸をして、改めてカズマに向き直りその顔を見てまたも噴き出して笑い出し────。
それを数回やった後、アクアは今度こそ本当に落ち着きを取り戻した。
「いやー、こんなに笑ったのっていつ以来かしら。笑うのがストレス解消に良いっていうのは本当だったのねー」
「ああそうかい……」
スッキリとした表情で朗らかに語りかけてくるアクアに対し、カズマの頬やこめかみはピクピクと引きつっている。これは今にも溢れ出しそうな怒りを何とか押し止めているからだ。
本来ならいくら温厚と言えるカズマでも助走をつけて殴りかかるくらいには怒りの感情を溜め込んでいるのだが、目の前の女神、アクアはそれを躊躇わせるくらいには美しかった。
あと他人が自分と同じ死に方をしたら、自分だって笑ってしまうだろうという自覚があったからだったりする。
今は互いに元々座っていた椅子に腰かけ、最初のように向き合っている。アクアから死後のカズマの処遇について話があるからだ。
「さて、それでは佐藤和真さん。あなたは不幸にも死ん────んふっw ふぅー、ふぅー……死んでしまいました」
「いい加減張っ倒すぞ」
「うっさいわねー、アンタの死に方が面白いのが悪いのよ……こほん。えー、あなたには二つの選択肢があります」
アクア曰く、死後の人間には二つの道があるという。一つは天国に行くこと。もう一つは全ての記憶を消して、もう一度地球に生まれ変わること。
しかしアクアはこの二つの道にカズマを進ませるのではなく、更にもう一つの道を提示する。
「……異世界に転生……?」
「そう! 引きニートやってたんだし、アンタもアニメやゲームは好きでしょ? 転生するのは正にそういうファンタジーな世界なの!」
そうして始まるアクアの異世界への転生に関する説明。
その異世界にはいわゆる魔王が存在し、世界の平和を脅かしているとのこと。そのせいで向こうの世界で死んだ者達はその世界で生まれ変わることを望まず、どんどんと人口が減少してしまっている。
そうして徐々に滅びゆく世界を何とかする為に考え出されたのが、他の世界で若くして死んだ魂に
「ま、他の転生者もわりと自由気ままに生活してるし、何が何でも絶対にアンタが魔王を倒せーってわけじゃないんだけどね」
「それでいいのかよ?」
「そりゃあまあ、あの世界は私の後輩が担当してる世界だから何とかなってほしいけどね。私を神体とする宗派もあるわけだし……」
「へぇ」
少しばつが悪そうな顔で呟くアクアに、カズマは素直に感心を示した。そのアクアの表情は今まで自分に見せていた小憎らしいようなものではなく、心優しい女神としての一面を覗かせていたからだ。
「……まあ、本当にそんなゆるい感じでもいいのならその異世界に転生したいけど」
「あらそう? それじゃ、これが特典の
「……別にいいけど、何か有難みが少ないな」
さっきの表情と言葉は何だったのかとツッコミたくなるカズマであった。
そうしてカタログを眺めること数分。いつの間に用意したのか、ソファーに寝っ転がってポテトチップスを食べていたアクアが気怠そうに声を掛けてくる。
「ねー、いつまで時間掛けてんのー? 引きニートやってたアンタが何選んだってどーせ一緒なんだから、さっさと決めなさいよー」
「こ、の、や、ろ、う……!!」
流石のカズマさんも、これには男女平等ドロップキックをその綺麗な顔面に叩き込みたくなる。
だが、カズマはその怒りをぐっと飲み込んだ。彼は紳士なのだ。ソファーに横になり、片足を前に出しているという不安定な体勢のアクアを蹴り飛ばすなんてとても出来ない。
そんなことをすれば超ミニスカートから伸びる、白くてややムッチリとした太ももや、アクアも気付かぬ内に少しめくれ上がったスカートからチラリと覗く白い三角形を拝められなくなってしまうからだ。
「はぁ……。そんなに言うなら何かお勧めとかねーのかよ? 良さそうなやつならそれにするからさ」
「私のお勧め? んー、そうねぇ……」
ここでカズマはアクアにそう問うた。手の中のカタログは嫌に分厚い。これではなかを全て確認するのに数時間は掛かってしまうだろう。だったら内容を全て把握しているであろうアクアに丸投げすればいいや、と考えた故だ。神がおススメする能力ならばそうそう下手な物ではないだろう。
カズマは知らぬ事だが、当然アクアはカタログの中身などほとんど覚えてはいない。その時々にカタログを見て求められた能力をちょいちょいと授けるのである。
「んー、やっぱり鉄板なのはすんごい強い武器とか魔法の才能とか……。でもこれはちょっと前にやったし、連続で同じことやるのは私が面白くないし……」
軽い気持ちでお勧めを聞いたカズマであったが、意外と真剣(?)に考えてくれているアクアの姿に今までの印象から少し上方修正する。
正直未だに怒りはあるが、それでも後輩や自分の信者達、転生する者への面倒見の良さそうな姿を見たからだ。
「────あ! そういえばアンタの名前って“カズマ”よね!?」
「カズマだよ」
突然ガバリと身体を起こしたアクアの問いにカズマは頷く。
「ふっふっふ……私、一つすんごいのお勧めしちゃおうかしら」
「すんごいの……?」
不敵な笑みと共にそう語るアクアにカズマは不安を覚える。
「そっ。以前私が担当してる日本とは別の時空の日本を担当している女神から「この子が凄い! あの子も凄い!」って散々に自慢されたんだけどさ、その中で特に熱弁された男の子の事を思い出したの」
「はあ」
「その時空の日本はこっちの日本とは全然違う歴史を辿っててね。えーっと……何か、どっかの県に何かが起こって、そこで産まれる子供の何パーセントかが何か変な能力を持って生まれてくるようになったの」
「……うん。それで?」
詳しい事はまったくもって分からなかったが、それを指摘しても話が進まないのでとりあえずスルーする。カズマ自身もこの部分はそこまで重要ではないと察し、大人しく続きを促した。
「それでね、その能力っていうのが……えーっと……そこら辺の物を、こう、細かくして……別の形にして……」
「……んー?」
どうやらアクアは上手く言語化することが出来ないようだ。そこでカズマは豊富な漫画・アニメ・ゲーム知識から似たような能力を導き出す。
「……物質を分解、再構成する能力ってことか? ハガ○ンの錬金術みたいな」
「そうそうそんな感じそんな感じ!」
カズマの予想は当たっていたらしく、アクアは手を叩いて肯定する。しかし、当のカズマは予想が当たってしまったことに渋面を作った。
何せかの錬金術にはあまりにも莫大な知識が必要になるからだ。カズマ自身学校の成績は良い方なのだが、それも今や過去の話。家に引き籠っていたし、理科や化学の知識などはそれこそ人並程度でしかない。
あの作品の主人公兄弟が活躍したのは父から受け継いだ天賦の才と、それを十全に使いこなせるほどに幼い頃から決して努力を惜しまなかったが為、そして自分達の身体を取り戻す為に死に物狂いだったが故だ。
カズマは楽が出来るなら楽をしたい。若い頃の苦労は他人に買ってもらって楽をしたいと考える人間だ。そんな自分ではその能力を扱う事は出来ない……といった事をカズマはアクアに告げたのだが。
「ああ、大丈夫大丈夫。その能力で作られるのは各人につき固有の一つだけだし、その能力を持ってる子達もほとんどが何でこんなことが出来るのか、なんて理解してないから」
「ええ……?」
そんなことある? とカズマはツッコむ。アクアが聞いたところ、どうやらまだまだ研究中の能力であるらしく、詳細を知っている者はほとんどいないという事らしい。
「まあ、それでも能力者達で構成された治安維持組織とかがあって、色々と頑張ってるらしいのよ」
「へー、何かすげえ話だなぁ」
ボールド? の、ホーライ? とかって名前だったかな? とアクアは首を傾げながら呟く。色んな意味で良い匂いがしそうな組織だ。カズマにとっても色々と興味深い話であり、続きを聞いてみたくはあるのだが……。
「……それで、俺へのお勧め能力っていうのは結局どういう能力なんだよ?」
「あ、そうだった。ごめんごめん」
頭をカリカリと掻きながら笑顔で謝ってくるアクアに、カズマは溜息を一つ。こうして話していて、カズマはアクアについて分かったことがある。
口や頭が悪い……残念ではあるが、一応は他人を思いやれる心を持っていること。普通に話してさえいれば、意外とナチュラルに楽しく会話ができるということ。
ただ調子に乗りやすく、相手が失敗をしたり自分の価値観に合わないと……。
「それにしても細かいことで一々口を挟んできて……そんなんじゃ女の子にモテないわよ? あっ、そっかー! モテないからお家に引き籠ってたんだもんねー? プークスクスwww」
「────っ! ………………っ!!」
思わず殴り掛かりそうになる身体を必死に押し止めるカズマ。ここで殴ってしまえば能力を授けてもらえなくなる可能性もあり得る。それだけは避けなくてはならない。
そう、この煽り癖さえなければ二人の相性も悪くなく、円滑に話が進むのであるが。
「……で、俺へのお勧めの能力ってのは?」
「……あの、今説明するからそんな怖い顔しないでほしいなって……」
余程恐ろしい形相をしていたのか、アクアは委縮してしまう。カズマとしては余計なことを言わずにとっとと話せと言いたいところだが、今のカズマは怒りのあまり吐き気すら催しているので、あまり口を開きたくないのだ。
「えーっと……向こうの日本にね? アンタと同じ十六歳の“カズマ”って男の子がいるの。それでその子の能力が……物凄く簡単に言うと、パンチ力がすんごいアップするっていうか、そんな感じの能力なのよ」
「……パンチ力ぅ?」
「そうそう。ぶっしつをぶんかいしてさいこーせーして、右腕に鎧? みたいなのを造り出して」
「……え、そんだけ?」
あまりにもシンプル過ぎる能力に思わず怒りも忘れて素の口調でカズマは聞き返す。お勧めしてくるわりには凄くないし、正直拍子抜けと言ったところだ。
「いやいや、これが馬鹿にしたもんじゃないのよ。能力発動中ならコンクリ程度なんて簡単に殴り壊せるし、地面を殴った反動で十数メートル以上跳び上がったりも出来るし」
「マジかよ!? 思ったよりとんでもねー強化具合だな!?」
最初の印象とはあまりにもかけ離れたパワーにカズマは感心しきりだ。これにアクアは気分が良くなり、どんどんと口も軽くなる。
「それでね? この能力の凄さはそれだけじゃないの。背中……えっと、右肩の後ろ辺りかな? そこに三枚の羽がこーせーされるんだけど、その羽を一枚ずつ消費して相手に猛スピードで突っ込むの! こう……ロケットみたいな感じで羽のところからブワーって!! その勢いを利用して相手をぶん殴るの!!」
「お、おお……!!」
両手をブンブンと振り回して説明するアクアに、カズマは感嘆の声を上げる。
アクアの説明は決して上手い物ではなかったのだが、何故だかカズマはまるで見たことがあるかのように容易く想像することが出来た。右腕に鎧を纏った自分が、三枚羽の一枚を使い、噴射炎を棚引かせて敵に突っ込み、全力の拳を叩き込んで打ち倒す……そんな姿を。
「おお……め、めちゃくちゃかっこいいな……!!」
「でしょ!? それに能力を鍛えていけば、右腕だけじゃなくて全身を覆う鎧に進化するんですって! 向こうの“カズマ”はそれで世界最強クラスの能力者になったらしいわよ!」
「おお、マジか!? つまり俺も頑張ればそれくらい強くなれるってわけか……!!」
「はー? 引きニートで貧弱なボーヤのアンタにそんなこと出来るわけないでしょ? 身の程って言葉をご存じないのかしら? プークスクスwww」
「さっきからいい加減にしろよテメェえええーーーーーー!!!
カズマ、ついにキレる。むしろ今までよく持ったと言えるだろう。椅子を蹴倒して立ち上がり、アクアの顔をぶん殴る────とまではせず、張りがありながらもモチモチと柔らかそうなその頬を引っ張り、減らず口を叩けなくしてやろうと迫る。
カズマのことを誰かに手を上げることの出来ないヘタレ男子だと侮っていたアクアはこれに動揺し、慌てふためいてしまう。
「ちょちょちょ、待って待って!?
「────っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、カズマの頭に上った血は一瞬で下がり、怒りの感情も一気に失せる。
そのままカズマは硬直。心なしか顔色も悪く、青白くなっている。
「……え、あ、あれ……?」
この変化に戸惑ったのは誰あろうアクアだ。何せアクアは自分が何を言ったのか覚えていない。アクアにとって先の言葉は、子供が親に叱られようとした時に咄嗟に口にする、意味のない言葉にも等しい中身のない言葉だったからだ。
いつもの煽り癖が災いしたと言えるアクアだが、そんなアクアでも今のカズマを見ていると自分では形容のし難い居心地の悪さ、何とも言えない罪悪感がその背に圧し掛かってくるのだった。
「……悪い」
「え、いや、あの……わ、分かればいいのよ。分かれば……」
カズマは椅子を置き直し、そこに座ると俯いた状態でぽつりとアクアに謝罪した。アクアは未だ戸惑いの中に居るものの、ついいつものように言葉を返す。────いつもと違って、その胸に痛みを覚えながら。
カズマの心は打ちのめされていた。
アクアの言葉によって、と言うよりはそれによって自覚させられた、自分が仕出かしてしまったことに、である。
良かれと思った行動により、助けることが出来たと思った相手は自分のせいで重傷を負ってしまった。場合によっては後遺症などにより、日常生活に支障を来たす可能性だって考えられる。
カズマは本来心優しい少年だ。それ故に今の彼は思考がネガティブスパイラルに囚われる。
動悸が激しくなる。手が震える。指先の感覚がなくなる。……胸に、心に激しい痛みが走る。そんな思考の海に溺れるカズマを掬い上げるのは、今この場にはアクアしかいない。
「……そ、それで、あのね? カズマに渡す能力のことなんだけど……」
「……ん、ああ。どうしたんだよ?」
少し反応が遅れ気味ではあるが、ちゃんと答えてくれるカズマにアクアはホッと息を吐く。
「えっと……これから向こうの“カズマ”の能力を再現して渡そうと思うんだけど、その影響でアンタの身体能力もそれ相応にアップすると思うの。そうじゃないと能力を使いこなせないしね。……とは言っても、最初っから完全に使いこなせるわけじゃないし、少しずつ鍛えていかないとダメなんだけど……」
「ああ。それは……そうだよな。でも、最初からある程度は使えるっていうのはありがたいな」
まだ少し表情は暗いが、それでも顔を上げて会話をしてくれるようになったカズマに、アクアの頬が少しだけ緩んだ。
「んじゃ、今から能力を造るから待っててね」
「ああ、よろしく」
そうしてアクアは目を瞑り、何事かをぶつぶつと呟きながら胸の前に光球を出現させる。アクア自身も薄っすらと光っており、その姿は彼女が真正の女神であると納得せざるを得ない程に神々しく、美しい。
────こうして黙ってたら本当に可愛いんだけどな。
カズマはそんなアクアの姿を見て、彼女の口の悪さや残念さに改めて溜息を吐いた。
「……んー? これは……これがこうだから……何か通りが悪いわね? 向こうの世界の法則が関係してんのかしら? ならこれをこうして……ん? ああ、アレがこっちにはいないから……じゃあこれをこうして繋げれば……? あれ? これで大丈夫よね?」
「何か急に怖くなってきた……」
自分が授かる能力の作成中にこんなことを呟かれればさもありなん。ただでさえテンションが下がっているカズマは不安で胸がいっぱいになる。
「ん? んー……よし、これでOK! 出来たわよカズマ!」
アクアはピンポン玉程のサイズの淡い光を放つ球体を前に胸を張る。
「……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だってば! この女神アクアを信じなさい!」
「……」
今までのやり取りを振り返ってみても、信じるに値する部分がほとんど見られない。見た目だけならば女神と信じられるくらいには美しいのだが……。(ただし真剣な時に限る)
「それじゃ、この青い光の玉を胸に押し込んで。そうすればアンタに向こうの“カズマ”の能力────『シェルブリット』が宿るから」
「────シェルブリット……」
カズマはアクアの元からゆっくりと飛んできた光の玉を掴むと、少しの逡巡の後、徐に自らの胸へ押し付ける。すると光の玉は音もなくカズマの胸に沈み込み、彼の身体が光を放つ。
言いようのない高揚感、例えようのない万能感がカズマの全身を包むが、それも一瞬。光はすぐに収まり、胸に温かく、しかし力強い何かの存在を感じるのみとなった。
「ん。無事にシェルブリットが宿ったわね。後は……何か聞いておきたいこととかある?」
「え? あー……転生する世界の言葉とか」
「それは神様パワーで会話も読み書きも出来るようになるから大丈夫! まあもしかしたら頭がパーになるかもだけど」
「さっきからちょくちょく不安にさせるのやめてくれよ」
言っても無駄だろうけど、とは言わなかった。
その後、カズマはアクアにいくつかの質問をし、転生してからの予定を組み立てる。
「転生する場所は駆け出し冒険者の街『アクセル』。まずは街のギルドで冒険者登録をする。冒険者についての詳しい説明や規則なんかはそっちで確認する。そんで、後はギルドの依頼をこなしたり、能力を鍛えたりしながら毎日を頑張って生きなさい……と。こんな感じか」
「そんな感じで」
「シェルブリットに関しても発動の仕方やら何やらは転生直後に頭……脳とか魂に直接インストールされる……と」
「そうそう」
かなり大雑把ではあるが、アクアのお陰で何をすればいいか分からないといった状況に陥ることは避けられたようだ。
改めてカズマはアクアのことを思い返す。あれだけ徹底的に煽られ、馬鹿にされて、それでもこうして冷静に話し合えるとは思わなかった。ある意味
「それじゃあそろそろ……心の準備は良いかしら?」
「おう。よろしく」
その言葉を皮切りに、カズマの足元に複雑な紋様の魔法陣が浮かび上がる。徐々に強くなる光に目が眩む。
「────佐藤和真さん。願わくば数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう」
今、カズマの目に映るアクアは魔法陣の光にも負けない程に輝いて見える。その美しさ、その神々しさに改めてカズマは目を奪われる。
「……はぁ。本当にさ、何度も何度も思ったけど────」
────そうやって真面目な時は、本当に美人なんだけどな。
その思考を最後に、カズマの意識は途切れた。
一人きりになった転生の間。アクアはカズマについて思考に耽る。
「……む~。何か……何というか、何なのかしらこの感じ」
アクアにとってカズマは死に方が面白かった人間だった。反応が面白かった人間だった。煽るのが気持ちよい人間だった。────久々に、話していて楽しい男の子だった。
そのせいもあってか、普段他の人間を相手にするよりもテンションが上がり過ぎてしまい、無駄に煽り過ぎてしまったと自覚している。ただ、それでも普段のアクアは気にも留めないのだが……。
────
自分はいったい何を言ってしまったのか。それを本気で気にしてしまう程に、アクアはそれに対しての罪悪感を覚えていた。
「んー……んん~……あー……よしっ! こういうスッキリしない気分の時は、スッキリする行動を取らないとねっ!」
アクアはムンッ! と気合を入れると、空間に穴を作り出し、そこを覗き込む。
その穴から見える物は、とある街の一画だ。
「うーん、カズマの転生が完了するまであと少しってところね。待ってなさいカズマ! 何だかよく分からないけど私がスッキリするためにも特大の祝福をしてあげるからね!」
アクアの考えはこうだ。何だかよく分からないがカズマに酷いことをしてしまったらしい。だったら神の祝福を授けてチャラにしてもらおう! むしろ感謝してもらっちゃおう! ……とまあ、そんな考えだ。
神たるアクアにはカズマがいつ
「────今っ!! その身に受けなさいカズマ!! この女神アクアの全力全開の祝福を────っ!!!」
アクアは両手から神の祝福パワーをズァオッ!! と放ち、ちょうど転生を果たしたカズマへと直撃させる。
その世界の主神である“エリス”をも超える超パワーの祝福。しかし、それを感知出来た者は少なかった。
己の身に何が起こったのかも知らぬまま、カズマの意識は覚醒し、閉じていた目を開く。
「お、おお……!? マジか? マジで異世界だ……! 夢じゃなかったんだな……! ────色々な意味で複雑な気分……!!」
今この時より物語は始まる。彼、カズマが織りなす物語がどういった結末を迎えるのかは、それこそ“神”ですら分からないだろう。
何せ当の
「何でよおおおおおーーーーーーっ!? 私が何をしたっていうのよおおおおおおおーーーーーーっ!!?」
本日犯したいくつもの
~了~
お疲れ様でした。
アクアの台詞に思いっきり草を生やしてますが、正直あんまりしたくはなかったんですよね。
でも試しに草を生やしてみたら「こ、これや! うちのアクア様に足りんかったんはこれやったんや!」となるくらいしっくりと来てしまったのでとりあえず今回は生やしておきます。
拙作のカズマさんはちょっとメンタルが弱めかもです。また変に曇らせてしまいそうだ……。
これから『シェルブリット』のカズマさんをよろしくお願いします。
それではまた次回。