今話は前回の四分の一程の文量となっております。
前回が長すぎたのに加え、今回も長かったのでキリの良いところで分割したのですが、長い時と短い時で極端過ぎて草生える。
でもこのくらいが暇な時にサクサク読めていい感じなのでしょうか……?
さて、今回ようやく『シェルブリット』が登場します。
果たして、その威力の程は……!?
それではまたあとがきで。
第二話
『始まりの一発』
カズマが冒険者登録をした翌日。彼は早速ギルドにてクエストを受注しようとしていた。
昨晩は宿を取ることが出来ずに馬小屋を間借りすることになり、馬糞の臭いに辟易しながら夜を明かした。
「馬小屋生活は冒険者の常らしいけど俺はベッドで快適に寝たい。
思考を口にすることで一つ一つ整理していくカズマ。依頼が色々と貼られている掲示板を眺め、内容を確認しているのだが。
「どれが初心者でも出来るクエストなのかさっぱり分からん」
カズマは元々別の世界で安穏と生きてきた少年だ。昨日フレアから色々と教えてもらいはしたが、こういったクエストに関してはまだ何も教わっていない。であるならば、カズマの取る行動は一つ。
「という訳で、どういったクエストがお勧めなのか教えて下さい」
「は、はいっ。わ、私で良ければ、よろ、喜んでっ」
受付嬢のフレアに教えてもらうのだ。
フレアは現在依頼されている全てのクエストの内容を把握している。そんな彼女がカズマに勧めたのは『ジャイアントトードの討伐』だった。
「ジャイアントトード……つまり、でかい蛙ですか」
「は、はい。……体高三メートルはある、大きな蛙さんです」
「でかっ!?」
予想以上の大きさにカズマは驚く。『ビッグ』ではなく『ジャイアント』なのも納得の大きさだ。
そうしてフレアから解説されるジャイアントトードの生態。特に注意すべきなのは腹部への打撃が極端に効きにくいこと、食事や狩りなどで活動する時以外は地面に潜って休んでおり、獲物の気配を察知した時や地表から何か大きな刺激を受けた時に這い出てくること。
「うーん、なるほど……打撃耐性か……。極端に、ってことはほぼ無効化と考えてもいいんですかね?」
「い、一応ギルドで武器の貸し出しも、お、行っていますので……」
カズマは脳内で
更に言えば、ここは駆け出し冒険者の街。ゲームで言うところの序盤辺りの街だ。そんな街の周辺にシェルブリットの一撃を受け止め切れるモンスターが居る訳がない。……と、
「……よし、受けます。せっかくフレアさんがお勧めしてくれた訳ですしね」
「あ、ありがとう、ご、ごございます……」
何故か顔を真っ赤にするフレア。
「……あ、レンタル武器はどうします?」
「んー……片手剣とか、ナイフやダガーとかあります?」
「は、はいっ。では、クエストの手続きの後に、ご、ご案内させていただきますればこれ至上の幸福に存じま候……っ!?」
「今の会話のどこに慌てる要素が!?」
フレアは今まで冒険者をレンタル武器置き場に案内したことがないからである。
「おお……! こうして見ると壮観だ……!」
冒険者ギルド内レンタル武器置き場。
フレアに案内されたその場所には、所狭しと様々な武器が置かれている。それらを見るカズマの目はキラキラと輝いており、フレアはそんなカズマを微笑ましそうに眺めている。
カズマが言った片手剣にナイフ、ダガー。更に両手剣、細剣、片手斧、両手斧、ハンマー、槍、フレイル、モーニングスター等々。
遠距離用の武器も弓、大弓、ボーガン、
部屋の片隅には大鎌やブーメランなども僅かながら存在した。
「そうか、この世界にも居るのか。ブーメランハンターが……」
某狩猟ゲームを思い出し、カズマは感慨深く呟く。そのまま視線を横にやれば、そこには何種類もの盾が置かれていた。
「うーん……一番扱えそうなのはナイフ系なんだけど……やっぱこういうのに憧れるなぁ……!」
色々と見て回ったカズマが手に取ったのは、飾り気もほとんど無いオーソドックスな片手剣。
ギルドのレンタル武器は安価な物であるとはいえ、それなりの品質を持った物だ。駆け出し冒険者が店で買うのは中々難しいが、レンタルであれば安く済む。当然破損した場合の修繕費用は冒険者持ちであるし、全損すれば買取だ。分割での支払いも可能なのは良心的だろう。
カズマは最初に選んだ片手剣を借りることにした。レンタル料はクエストの成功報酬からの天引きにしてもらう。
「で、では、くれぐれも剣の扱いには気を付けて下さい。クエストが成功しても、か、カズマさんが怪我をしたら、何にもなりませんから……っ」
「……はい。そうですね……肝に銘じます」
最後にフレアからの注意を受け、浮かれていた気持ちを引き締める。そう。今自分が手にしているのは剣────人の命を容易く奪える武器だ。それを己が扱うことの意味を強く認識しなければならない。
当初はフレアからの心証を良くしたい、という考えで借りていくつもりだったのだが、これはそのように軽い気持ちで借りていく物ではない。
手にした剣は重く。脳裏に過ぎるのは自分が大怪我を負わせた女の子のこと。────心臓が跳ねる。心を戒める。
そうして、カズマはクエストへと向かった。
「────の前に、一つ確認だな」
現在カズマが居るのは受けたクエストとは関係のない森の中。
「お、これは良さそうだな」
おおよそ一メートル四方程の大きさの岩と、その少し奥にある見上げる程に巨大な岩。目算で高さ十メートルはあるだろう。周囲を見れば、少し遠くに何やら大きな力……そう、まるで爆発でもあったかのように抉れたような形状の崖が見える。その崖の破片がそこから飛んできたか、あるいは転げ落ちてきた物だろう。そういえば昨晩、遠雷のような音が聞こえたな、とカズマは頭の隅に思い浮かべる。恐らくはこの崖に雷でも落ちたのだろうと当たりを付けた。
さて、カズマがここまで来た目的は
昨晩、カズマは馬小屋にて夢を見た。とても荒々しく、雄々しく、激しい夢を。カズマは見続けていた。
それは一人の少年の────否、一人の『男』の人生の追体験とでもいうべき夢だ。
「ふぅー……っし! やるか!」
カズマは気合を入れると、夢に倣って右手を突き出し、人差し指から一本一本丁寧に指を曲げ、拳を握り込んでいく。
カズマの背後で地面や石、倒木が弾ける音と共に輝く粒子に変換された。髪が逆立ち、突き出された右腕に二本の亀裂が走る。
背中────右肩甲骨の辺りから三枚の
────右腕が亀裂から三つに裂ける。かと思えばいくつもの金色の輪が裂けた腕を縛っていき、輪から滲むように装甲が腕を包んでいく。
そして、拳が装甲を纏った時────『シェルブリット』が完成した。
「おお……! こ、これが……!!」
カズマは変質した己の腕を見て感嘆の声を上げる。夢で見た通りの格好良さ、無骨さ。そして夢よりも……
「うわー、これ凄え鋭い爪だ。うっかり頭とか掻いたら頭皮がベロンといきそう……」
中々に分かりやすく、そして恐ろしい想像だ。カズマは頭を振って嫌な考えを振り払うと、シェルブリットの拳を握り込み、まずは小さい方の岩を睨み付ける。
「行くぞ……────っらぁ!!」
思い切りシェルブリットで岩を殴りつける────瞬間、鈍い音と共に一メートル程はあった岩が粉々に砕け散った。
「ぅ……おおっ!? す、凄え……」
岩を殴ったことによる痛みなど微塵もない。ついついカズマの口が緩く弧を描く。
「こ……これはいけちゃうんじゃないか!? 勇者カズマの伝説が始まってしまうんじゃないか!?」
夢でそのパワーを知っていたつもりではあったが、やはり実際に体感してみるのとでは感じ方も変わってくる。
「よ、よし! 次はあの大岩だ!! せっかくだから
カズマはぐんぐんと高まっていく興奮のままに地面を殴りつけ、その反動で跳び上がり、大岩から更に距離を取る。
「うおぉっ!? た、高っ!! 怖っ!?」
ちょっと自分が想定していた以上に跳んでしまったせいか、半泣きになってしまうが難なく着地は出来た。
「……シェルブリットの為の補正ってこんな凄いのか。素の俺だったら多分大怪我してたか死んでたな」
興奮から一転、先程までとは別の意味で胸が高鳴っている。出鼻をくじかれたような感じではあるが、カズマは気を取り直して遠く離れた大岩に狙いを付ける。
腰を落とし、拳を引いて、視線は真っ直ぐに。
「スゥー……」
大きく大きく息を吸う。
異世界での、冒険者としての人生の始まり。それを告げる拳という名の弾丸を、あの大岩に叩き込む────!!
「────衝撃のおぉっ……!!」
三枚の
視界の中でぐんぐんと大きくなる大岩。勢いをつける為、威力を高める為、カズマはその身を回転させる。
視界が動く────左方────後方────右方────
「ファースト・ブリットォオオオーーーーーッ!!!」
「────っ!? 何だ……っ!?」
むりやり身体を捩じって背後を見やれば、そこには自分が通ったであろう大穴を中心に
「……ははっ!」
思わず笑みが零れる。冒険者人生の始まりに相応しい一発だ。
もはや推進エネルギーも尽き、あとは着地をするだけ。カズマは再び身体を捩じって正面を向くと、そこには太く! 長く!! 堅い!!! そんな木が目の前にあった。
「────キィィヤアアアァアアァ~~~~~~っ!!?」(汚い高音)
咄嗟に右腕を振るい、その木を粉砕! またも木が現れた。木を粉砕! またも木が現れた。何とか身を捩ってその木を右腕で掴み、そこを起点に爪で樹皮をギャリギャリと削りながら三回転程して慣性を殺すことに成功。無事、着地を果たした。
「────っ、────っ、────っ、ひっく、ぐすっ……こ、怖かったよぅ……」
四つん這いになって荒い息を吐き、生きていることを実感して涙を流すカズマ。その萎れてしまった心の表れか、シェルブリットは霧散してしまう。
「……解除、された、か……。やっぱり、元々の石とか倒木に戻るってことはないんだな……」
元に戻った右腕を矯めつ眇めつ、変わりがないかどうかを調べる……問題なし。
「……あっ!? 剣!! 剣は大丈夫か!?」
慌てて腰に手をやり、佩いていた片手剣を確認。
「……良かった。傷一つない。ありがとう幸運の神様……」
派手なアクションの連続だった割に傷一つない片手剣を見て、カズマはその幸運とどこかに居るだろう幸運の神に感謝した。
「ふぅ……もう森ではシェルブリットは使わないようにしよう。命がいくつあっても足りやしない」
今回は運良く何ともなかったが、こんな幸運が毎回あるとは限らない。ちゃんと能力を使いこなせるようになるまでは、見通しの悪い場所でのシェルブリットの使用は控えた方が良いだろう。
「よし、それじゃ────蛙退治と行きますか」
カズマは来た道を戻り、アクセルの街周辺のジャイアントトード退治へと向かう。
期限は三日。狩猟する数は五匹。記念すべき、カズマの最初のクエストだ。
第二話
『始まりの一発』
~了~
お疲れ様でした。
今回はシェルブリットの試し撃ち回でした。ジャイアントトードとの手に汗握る空前絶後の大死闘(超誇張表現)は次回に持ち越しです。
そういえば融合装着型のアルターはほんの少し動くだけでも身体に激痛が走るって設定をどこかで見たことがあったような気がするのですが……。
没ネタとしてカズマがシェルブリットを展開→「よし!」と思い切り拳を振り上げる→あまりの激痛に再びショック死からのエリス様と邂逅……という展開を考えていたのですが、流石にそれは……と考え直し、格好良い路線で行こうと決めました。可愛い路線もありかな?
それではまた次回。