『シェルブリット』のカズマさん   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

快復してきたのでこちらも更新です。
今回はジャイアントトードとの戦いですね。シェルブリット持ちのカズマさんならば圧勝のはずですが……?

それではまたあとがきで。


第三話『心に留めておくもの』

第三話

『心に留めておくもの』

 

 

 

「……で、あれがジャイアントトードか。マジででかいな」

 

 現在、カズマはアクセル周辺の草原でジャイアントトードの姿を隠れ見ている。

 彼我の距離は三○メートルほどとやや遠く、小高い丘の上から眺めている分にはカラフルで可愛いカエルさんだ。

 

「あれで人食いのモンスターなんだよな……。油断せず、最初からシェルブリットでいこう」

 

 破裂音と共にカズマの周囲の地面の一部や岩が粒子となり、右腕に纏わりつく。拳をぎゅっと握り締めたカズマは一匹のジャイアントトードへと駆ける。今のカズマの身体能力ならば三○メートルなどほんの一瞬だ。

 右腕を振りかぶる。既にシェルブリットは構成済みだ。ジャイアントトードがカズマに気付く────が、そこは既にカズマの間合いだ。

 

「遅いっ! 喰らえぇっ!!」

 

 カズマの右腕(シェルブリット)がジャイアントトードの腹に沈む。三枚ある“(フィン)”の推進エネルギーこそ使用していないが、それでも全力の一撃だ。哀れカエルさんはゴム毬のように吹き飛んで────。

 

「……おやぁ?」

 

 カズマの右腕(シェルブリット)はカエルさんのお腹に沈んでいる。……今も沈んでいる。全くもって吹き飛ばない。ふと上を見上げてみれば可愛いカエルさんと目が合い、大きく口を開いてきたので慌てて後方へと飛び退る。

 

「マジかよ!? 全力で殴ったんだぞ!? ……ええい、だったらこいつで────っ!!」

 

 地面を殴り後方跳躍。十分に距離を取ったところで最下部の羽を消費!

 

「衝撃の……!!」

 

 爆発的な勢いで前方へ加速。地面を削りながら回転し、今度こそ貫かんとその大きな腹へと拳を叩き込む!!

 

「ファースト・ブリットぉぉあああ!!」

 

 シェルブリット全力の一撃がジャイアントトードの腹に沈み込んだ!! そして────カズマの身体も勢いのままにそのまま沈み込み、ボヨンと跳ね返されて地面に落下。

 

「べみっ!?」

 

 カズマは鼻を打ったのか珍妙な声を上げる。うつぶせで倒れ伏したその身はやがてぷるぷると震え、がばりと勢いよく身を起こし……。

 

「おっかしいだろ!! “(フィン)”を使ったんだぞ!? あの大岩を砕くシェルブリット全力全開の一撃が通用しないってなんだよ!? ここは駆け出し冒険者の街(アクセル)の近くだぞ!? 難易度調整バグってんじゃねーのか!!?」

 

 ────感情のままに世の理不尽を叫んだ。

 だがカズマの言うことも尤もである。もしゲームの序盤に攻撃属性の一つを完全に無効化するモンスターが大量に出現したら非難囂々だ。場合によってはゲーム開始数分で詰みである。

 しかしこれはカズマのせいでもある。カズマの特典であるシェルブリットを構築する“アルター”能力の正式名称は“精神感応性物質変換能力”といい、自らの精神が反映された力を具現化する能力なのだ。

 当然このアルターを使用する際にはその時の精神状態も反映されてしまう。

 つまり、先の一撃がジャイアントトードに通じなかった理由は────カズマがジャイアントトードのことを思っっっっっっっっっっくそ嘗め腐っていたからだ。

 シェルブリットの展開はいいだろう。だがその後がいけなかった。何せシェルブリットの一撃は大岩を粉砕する威力を持つ。ただの大きいカエルさんなんて簡単に倒せると考えていたのだ。故に現在のシェルブリットは言わばスカスカの状態。羽の推進に勢いはないし、更には地面を削って回転するという特大ブレーキをかまし、ついでにクリティカルヒットすらさせられなかった。

 おそらく先の一撃は最大威力の十分の一すら出ていなかっただろう。それほどの驕りである。

 

「……ん?」

 

 カズマの身体に影が差す。ふと見上げてみれば、そこには既に大口を開けたジャイアントトードが迫っていた。

 

「あ────」

 

 カズマは動けなかった。心の空隙を突かれた。カズマはそのまま頭から食われ、何回も行内で咀嚼され────。

 

「────ぺっ!」

「ぶぎゃっ!?」

 

 くっっっそ不味い!! とばかりに吐き出され、またも地面に叩きつけられた。ジャイアントトードはまるで汚い物を口に含んでしまったかのように何度もぺっぺっぺっと唾を吐き、最後にカズマをちらりと見やると。

 

「フンッ」

 

 と、鼻を鳴らしてその場から去っていく。

 

「……」

 

 またもカズマの身体がプルプルと震え出した。

 

「ふ、ふふふ……俺には食う価値もないってか……? ────上等だこのクソガエルがぁ!! 腹には打撃が効かないってんなら────!!」

 

 もはや生かしては帰さん! とカズマは怒りに燃え、激情のままに右手で地面を殴りつける。地面は砕け、その反動でカズマは高く跳び上がった。

 ────シェルブリットを覆う粒子の輝き。地面を殴ったことにより砕けた石や土が粒子化され、シェルブリットに補充されていく。怒りによって完全に慢心を捨てたカズマの意思は、必殺の威力をその右腕に宿らせた。

 跳び上がったカズマは猛烈な勢いでジャイアントトードの頭上を越えるとトンボを切り。

 

「その頭にならどうだああぁーーー!!」

 

 思い切り、全力で、拳槌打ちを叩き込んだ!

 ジャイアントトードの頭に拳がめり込む。頭頂から頭蓋骨は砕かれ、脳髄は攪拌され耳と鼻から噴き出し、内側の圧力から量の眼球が勢いよく飛び出した。

 頭部が完全に破壊されたジャイアントトードは振り抜かれたシェルブリットのパワーそのままに地面に叩きつけられ、血とそれ以外の()()()を周囲にぶち撒ける。

 幸いにも返り血をほとんど浴びずに済んだカズマは難なく着地を決めると、たった今殺害したジャイアントトードに向き直り、自らが生み出した惨状を見つめる。

 

「……ぅえっ」

 

 吐きそうになった。

 

「グロい……当たり前だけどグロい……あと臭いが凄い……」

 

 カズマは左手で口元を押さえながら、この惨状を生み出したシェルブリットを見つめる。こんなにも容易く死を、破壊を齎す右腕を。

 

「……そういやアクアが言ってたっけ」

 

 転生の間での説明中にこんなことを言っていた。

 

『時々だけど、向こうの世界の生物……モンスターを殺したせいで精神的にまいっちゃう子がいるの。だから道徳心とか倫理観とかは向こうの世界の基準に上書きされるようにしたのよねー』

 

 道徳心、倫理観の上書き。カズマは今まさにそれを実感していた。

 元の世界のままのカズマならば生物を凄惨に殺せば、それだけ心に相応の傷を負っただろう。しかし、今のカズマにそれはない。

 頭を潰したジャイアントトードの死体をグロテスクだと思いはするが、ただそれだけだ。人を殺せばどうなるか……それを考えたくはない。

 

「これが良いことか悪いことかは俺には分からないけど……まあ、助かってるのは確か、か」

 

 カズマはぎゅっと拳を握ると、遠くから自分へと向かって来ている二匹のジャイアントトードへと目を向ける。ここで、アクアとの会話を一つ思い出した。

 

『まあ? 日本で引きニートやってたカズマがモンスターと戦えるわけがないし、いらない処置かも知れないけどねー? プークスクスwww』

『何なの? お前は一々相手を煽らないと死んじゃう生態なの?』

 

 ……といったやり取りがあったのだ。

 

「……思い出したらムカついてきた」

 

 見た目だけなら最高なのに、あのクソ女神め。とは心の中で呟いておく。悪態混じりとは言え、あまり口に出して褒めたくはないらしい。

 

「とりあえずお前らには八つ当たりの相手になってもらう!」

 

 迫る二匹のジャイアントトードの中、一匹を目掛けて力強く地を蹴りだす。ほんの数秒で埋まる距離、驚きに目を見開くジャイアントトードに向けて、カズマは右腕を繰り出した。狙うは顔面、鼻っ面。

 

「ぅおらぁっ!!」

 

 跳躍して繰り出した右拳は見事に直撃。ジャイアントトードは砕けた頭部から血を噴き出しながら、今度こそゴム毬のように吹き飛んでいく。

 

「次っ!」

 

 着地の勢いをドリフトのようにスライドしながら回転していなし、現状最後の標的に狙いを定める。

 右腕を引いて()()()の準備。中央部・二枚目の“(フィン)”を発動!

 

「撃滅の……!!」

 

 “(フィン)”が粒子へと還り、エネルギーが放出。先の一発目とは何もかもが違う、必殺の力。そのパワーによって瞬く間に彼我の距離はゼロへと変わる。

 

「セカンドブリットォオオーーーーーーッ!!!」

 

 必殺の拳は狙い通り、ジャイアントトードの顔面に着弾。大岩を砕いた時のように空間が捻じれたような感覚を再び味わい、着地。何メートルも地面を削りながらようやく止まる。

 

「……」

 

 カズマは無言で振り返る。そこにあったのはジャイアントトードの死骸。頭部を含め、上半身が粉砕されて────否、()()()()()()

 それを見やり、カズマは先程の感覚を反芻する。あの、空間が捻じれたような何とも言えない不思議な感覚。恐らくではあるが、あの感覚こそがクリティカルヒットの証なのだろうとあたりをつける。

 

「……ちょっとクセになりそう、あの感覚」

 

 カズマは右手を開いては握り、開いては握り、その時の感覚を反芻する。狙って繰り出せるようになれば、さぞかし気持ち良いだろう。

 

「……さて」

 

 カズマはさっと周囲を見やる。今のところ他にジャイアントトードの姿は見えない。

 

「んー……これは、地面に埋まってる……のか? どうすっかな……」

 

 例えば地面をシェルブリットで思い切り殴れば誘い出せそうではある。しかしその場合問題となってくるのは数だ。もし実行して想定以上の数のジャイアントトードが現れた場合、実戦経験がこの一日だけのカズマでは苦戦は必至。下手をすれば死を覚悟しなければならない。

 

「……藪をつついて蛇を出すこともないか。いや、この場合は地面を殴って蛙を出す、か? 全然上手くもないけど」

 

 カズマは街の近くの安全圏とも言える場所まで戻ると、ようやく一息ついてシェルブリットを霧散させる。一気に疲れが湧き上がってくるかのような感覚だ。

 それも仕方がないだろう。カズマは今日というこの日に、生まれて初めて命のやり取りをしたのだ。戦闘時間は短く、また結果的に圧勝ではあったが、それでも一度食われかけたのだ。

 肉体的には何ともなくとも、精神的には莫大な負担が掛かっている。

 

「……うわっ、生臭い。ギルドに途中経過の報告に行く前にティファの所に寄るか……」

 

 カズマはジャイアントトードの粘液に塗れた自分の身体の臭いを嗅ぎ、顔を顰める。こんな状態でギルドに行けば、フレアを始め美人の受付嬢たちの顰蹙を買ってしまう。

 せっかくフレアと仲良く出来ているのだし、このままモテてもっと仲良く(意味深)したいと考えるカズマは、ティファにクリーニングしてもらうことにする。

 

「えっと、確かここから近かったな」

 

 カズマは覚えたての街道を足早に進む。ティファのことを思い出し、あの魔法を使った洗浄の気持ち良さを再び体験出来るのが楽しみになったのだ。

 軽くなった足取りのまま、カズマは腰に佩いた剣を見やる。

 

「……俺の考えって空回りしてるかな」

 

 剣を選んだ時のこと、シェルブリットの威力、生物(モンスター)を殺したこと、アクアとの会話。それらが脳内をぐるぐると回り、思考は答えの無い渦の中へと誘い込んでいく。

 カズマは頭を振り、それらの思考を散らすと、とりあえずの結論を出した。

 

「心に留めておいても良いはずだよな。こっちの価値観とはまた違うけど……ま、悪いことじゃないだろ」

 

 一度剣の柄をぎゅっと握り、手を離す。武器、剣、シェルブリット、命を容易く奪えるもの。

 何に対して、誰に対して振るわれるかは、カズマ次第だ。

 

 

第三話

『心に留めておくもの』

~了~




お疲れ様でした。

カズマさんは慢心しての辛勝って感じです。
地味にジャイアントトードの耐久力が上がってる……? まあお腹以外はそうでもありませんが。
途中報告とかあの世界の冒険者たちは行ってるのかな……?

それではまた次回。
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