アノスは2000年前の転生するときのアノスです。
ふむ、ここは何処だ?
俺は気がつけば真っ白な空間にいた。
俺は確かニ〇〇〇年後に転生しようとしていた筈だが……。
俺はそう思いながら辺りをじっくりと見渡す。
『アノス・ヴォルディゴード、私はまずあなたに謝罪をしなくてはならない』
しばらくして、そのような声が聞こえてきた。
『私の都合で、あなたを巻き込んでしまったことを申し訳なく思う。私は罪を犯した。その罪は私一人ではどうにもならなかった。だから私はあなたが転生するのを利用し、あなたにこのような頼みごとをすることにした』
『時間が足りないので手短に言おう。あなたは、あなたが元いた世界とはまるで違う、別の世界に転移してもらう。そこであなたには………』
最後まで言い切る前に、空間が崩れ始める。
その影響か、声の一部が聞き取れない。
『………を助けてあげて欲しい!』
続いて聞こえた言葉に、俺は短く答えた。
「任せろ」
肝心な誰を助ければ良いのか分からぬが、そのくらいで助けられぬ俺ではない。
俺がそう言うと、白い空間は役目を果たしたかのように完全に崩壊した。
◇
鬱蒼とした森の中を一人の男が駆ける。
その息はひどく荒れているようで、しかしどこか一定のリズムを感じさせた。
しかし足取りは激しく、男の後ろに眼を凝らせば人影が見える。
追われているのだろう。
俺は男に目線を向ける。
男の手には青色に染まった刀が握られているが、その刃は折れて短くなっており、刀としての役割を果たすには不十分な存在となっていた。
そんな事を考えていると、ふと男と目線が交差する。
男は驚いた様な表情を見せるとともに、声を張り上げた。
「ここは危険です!早くどこかへ逃げてください!」
男がそう云うのと同時に、後ろに大きな影が現れる。
先ほどの人影だ。
男は右足を軸に体の向きをぐるりと変えると、刃が折れた刀を構えた。
「水の呼吸──肆ノ型」
音が、いや呼吸が変わった。
「打ち潮!」
男は荒波のような動きで刀を振るい、現れた影に一太刀を浴びせる。
「折れた刀なんかで俺の首を切れるわけねぇだろ!」
男の一振りは現れた存在の首に届いてはいたが、その刃は首に少し入ったところで止まっていた。
そいつはそのまま刺さった刀の刃を折り、首に残った刃を指で取り出す。
「これでもまだ俺の首を切れると思ってんのか?」
そいつはそう云うと、クツクツと喉を鳴らした。
月の光が差し込み、その姿が露わになる。
灰色の皮膚に頭には二本のツノが生えており、目は猫のような瞳孔でジロリと男を睨んでいた。
「じゃあなクソ鬼殺隊っ!死ね!」
男に向かって、腕が振り下ろされる。
ふむ、このままではあの男は死ぬな。
俺はそう思い二人の間に飛び出し、振り下ろされている腕を掴んで止めた。
「お前たちがどういった関係かは知らぬが、俺の前で好き勝手できると思うな」
俺がそう声をかけると、目の前の奴は「なんだテメェ!邪魔すんじゃねぇ!」と声を荒げ、俺の手を振りほどき警戒するように後ろに飛ぶ。
「助けていただきありがとうございます!」
男が俺に礼を云う。
先ほどの行動といい、どうやら礼儀正しい性格のようだ。
「何、ただの人助けだ。それよりあれは一体何だ?」
俺は男に聞く。
「あれは鬼です。人を喰らい、身体能力は僕ら人間より遥かに高く危険です。助けていただいたことには感謝していますが、僕のことは気にせず今のうちに逃げてください」
そう云うと、男は再び刀を構える。
ふむ、鬼か。
なかなかどうして初めて見る存在だ。
「アレは人しか食えぬのか?」
男はこの質問に若干驚きながらも肯定の意を示す。
人以外が食べられるならともかく、人しか食えぬのなら争いは避けられぬという訳か。話し合いでの解決は無理そうだ。
「ところで、その折れた刀でどうする気だ?」
俺がそう聞くと、男はギクリとした表情を見せる。
やはりこの状態の刀ではまともに戦えぬのだろう。
「俺も協力しよう」
俺はそう男に声をかけると、男は絶句したような表情を見せた。
「何、多少だが武術の心得はある。まあそこで見ておけ」
俺はそう言うと正面に佇んでいる鬼に指を向ける。
「来い。俺が叩き潰してやる」
俺の言葉に、鬼は怒りの形相を浮かべ口を動かす。
「テメェ、舐めやがって……!ぶっ殺してやる!」
そう云うと鬼は俺に向かって真正面から素早く走ってくる。
俺にぶつかるかという直前、鬼は横に曲がった。
「オイオイ、後ろがガラ空きだぜ?」
見た目に反して、少しは頭を回せるようだ。
あのまま俺にぶつかっていたら、その衝撃により体が粉々に崩れていたぞ。
鬼は俺の後ろに回り込むと、オラァ!と威勢よく腕を振るう。
「避けろっ!そいつの腕の振る速度は音よりも速いっ!」
男が俺に向かって声を荒げる。
「今更言ったところでおせぇんだよ!」
ブチッ!
肉の裂ける音が山に響く。
「え、な、あ………………」
鬼から息を飲むような声が漏れる。
鬼の腕は、俺の頭と衝突したことにより
「なかなか見事な腕の振りだった。だが狙いどころが悪かったな、頭は硬いぞ」
「ハ、ハハハ。嘘だろ……そんな……バカな……」
鬼は腰が引けたように一歩下がる。
「もう終わりか?次はこちらの番だぞ」
俺はゆるりと歩き鬼の後ろに回り込む。
「なっ……!いつの間に後ろに……!」
「そう驚くな。ゆっくりと歩いただけだ」
俺がそう言ってやれば鬼はガッと地面を蹴り自身の千切れた腕を拾う。
「クソがッ!」
鬼はそう言い残すと山の奥の方へ向かって走っていく。
逃げたが、良いのか?
俺がそう聞く前に、男は逃げた鬼に向かって走り出していた。
「鬼にとどめを刺すのは普通の方法ではできません」
俺も後を追うと男が話しかけてくる。
「ふむ。では何ならできるのだ?」
「鬼にどどめを刺す方法は主に二つあります。一つは僕も持っているこの日輪刀と呼ばれる刀で首を切ること。もう一つは太陽の光に当てることです」
俺は男の手に持つ刀に視線を向ける。
その視線に気付いてか、男も苦笑いを浮かべた。
「確かに、この短くなった刀で鬼を倒すのは無理かもしれません。けれど、鬼を野放しにする訳にはいかない。幸い、もう少しで日が明けます。あの鬼をなんとかして日の元に晒すことができれば……」
男はそう云うと少し考え、何か思いついたように前を向き直した。
「何か作戦があるのか」
俺がそう聞くと男ははいと頷く。
「この道を真っ直ぐ進むとかなり開けた場所に出ます。僕たちが上手く鬼を追いかけてそこに誘導し、日の出の時間と上手く重ねさせることができれば倒せると思います」
なるほどな。開けた場所というのがどれほどの広さかは分からぬが、鬼がそこの中央にいったところで日が昇れば確かに倒すことはできるかもしれぬ。だが、成功させるのはかなり難しいだろう。
俺は太陽が昇る方角を見つめる。
「少し追いかける速度を落としましょう。このままでは少し速いです」
俺は男と共にうまい具合に鬼を追い込んでいく。
そうして、開けた場所にまで着いた。
日はあと少しといったところだろうか。
鬼は後ろから追いかける俺たちと微かに見え始める太陽から逃れようとペースを早めた。
このままでは太陽が昇る前に鬼は再び山に隠れてしまうだろう。
間に合わぬな。
それを男も感じとったのか、男の走るペースはかなり遅くなっていた。
「失敗した……!」
男が悔しそうに呟いた。
「失敗したからと言って、成功でないと思ったか」
俺は一〇〇ほど魔法陣を重ねた多重魔法陣を展開し、そのに指先をくぐらせた。
右手が、蒼白い輝きを纏わせる。
それは距離を越え、あらゆる物をこの手に収め、掌握する魔法。
《
俺はその手で微かに光る空をぐっと掴む。
そしてゆっくりと動かした。
驚きの光景に、男、いや鬼すらも足を動かすことをやめ立ち止まっていた。
光はだんだんと強くなっていく。
鬼は慌てたように走り出すが、もう遅い。
足に魔力を込め、ぐっと大地を踏みしめながら、少しずつ腕を動かしていけば、太陽は完全に姿を現した。
「俺には知らぬことが二つある」
そう言いながら俺は目線を地上に戻す。
「後悔と不可能だ」
そこに鬼の姿はもうなかった。
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