曇らせれば曇らせるほど強くなれるこの能力でくそったれな世界にて一時の幸せを!   作:ヒナまつり

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 眩い光の後、朧気に風景が浮かんできた。ただ、音も匂いもなく色もない風景は現実とは掛け離れている。

 

 多分これは夢なんだろう。

 

 良く良く周りを見渡してみると、これは…ミニュルが狐の妖魔と暗澹病により、闇落ちしてしまった時のスチルみたいだ。

 

 ただ、ゲームで見ていたスチルとは違うのだ。

 

 このシーンに居なかった筈のミニュルに捕まっている俺と揺れゆく炎の隙間から血だらけになったカノンがいるのだから。

 

 捕まっている俺はカノンに向けて泣き叫び、ミニュルの手を振りほどこうとしているが叶わず、気絶させられていた。

 

 そして、ミニュルはカノンの方に行き…彼女を痛めつけ始めた。

 

 魔力で回復させ死なないように、それでいて苦しみは消えないように。何度も何度も許しを乞う彼女を無視して…

 

 どんどん彼女の血が辺りに広がってゆく。そして、俺の足に血がついた瞬間、視界に色が付いた。

 

 彼女の悲鳴も辺りから漂う血の匂いもまるでこれが現実になる、そう表しているかのように色付き始めた。

 

 ─あぁ、こんなの…でも…これは…違う、そう違うんだ!これは夢だ!!

 

 必死に自らにそういい聞かせる。出ないと、心がポックリと折れてしまいそうだったから。

 

 それに、もともと優しい人だったお陰で闇落ちしたミニュルは此処まで残虐な行為は行わない。

 

 それにこのスチルが起きるのは後2カ月後の話だ!

 

 でも、そう否定したいのにカノンの悲鳴はどんどんと大きくなり、支離滅裂な言葉へ変わってゆく。

 

 そして彼女のいつも綺麗に輝いていた目も濁っていって、いつしか彼女は死にたい、そう叫んでいた。

 

 助けようと走り出そうとするも足が動かない。ならばと思い立ち必死に手を伸ばし彼女に触れようとしたがスルリとすり抜けた。

 

 それはこれが夢であることの証明なのか、はたまた俺には助けることが出来ないという予期の様なものなのか…。

 

 理解が追い付かない間に彼女の光は消え去ってしまった。

 

 辺りに残ったのは彼女の血といつも大切にしていた杖だけだった。深い…深い闇に包み込まれ、俺を抱えたミニュルは何処かを目指し歩いてゆく。

 

 俺はカノンが痛め付けられるのを眺めることしか出来なかった。

 

 それはまるでお姉ちゃんが見た光景の様で、きっと、お姉ちゃんも今の俺みたいな無力感と絶望に包まれていたのだろうと、漠然にそう思った。

 

 流れ出る滴が、地面を濡らす。その滴をミニュルは撫でるように掬い取ってくれる。

 

 そして、頭を撫でなれながら、何らかの妖術を掛けられ心地よく揺れる身体に目を閉じた。

 

 


 

 「…ズ…ウィズ…?起きて、もう皆帰ってきたわよ…?」

 

 優しく身体を揺すられる感覚で、目が覚める。目に写るのはカノンの姿だった。

 

 だけど、何だかその声が、その黄金の瞳が酷く恋しく感じた。

 

 「カノン…カノン…俺、俺ぇ…」

 

 寝起きだからか、それとも心にぽっかりと穴が空いているようなこの感情からか口が回らず、俺は泣きながらカノンへ抱きついた。

 

 カノンは、直ぐに抱き締めて俺の頭を背中を優しく撫でてくれる。

 

 「…大丈夫よ、大丈夫。私はここにいるわ…怖い夢でも見たの?」

 

 「うん、うん…思い出したくもないような…そんな夢を見たんだ。…ごめん、少しこのままでいさせて…」

 

 この暖かさは嘘じゃない、夢じゃない。生きてる…カノンは生きているんだ。

 

 ─あぁ、くそっ、多分これあの精神安定剤の副作用だな…?まさか、10分の1の確率を引いちまうとは…。

 

 「…ねぇ、これ私たち隠れてた方がいい感じ?…てか、カノンって、あんな顔出来たんだ…」

 

 「あ、あ…あんな、情熱的に抱き合うなんて…エ、エッチですわ…!」

 

 「えぇ…?あれぐらい同姓なら普通じゃない?確かに、カノンは、そんなこと普段はしてなかったケド…」

 

 こそこそと話し声が聞こえ、周りを見るとガタッと揺れるドアから顔だけを覗かせている二人の姿があった。

 

 恥ずかし!?ちょっ、ちょっと良くない、こんな羞恥プレイは、勘弁だぁ!! 

 

 「カノン、カノン!もういいから、早く離して!それに!そこの二人!覗いてるのバレてるからなぁ!?」

 

 「え、え?…わっ、もう…!二人とも、下で待っててって言ったじゃない…!」

 

 「あ、バレた!ゴメンね~?ちょっと、荷物が多くてさぁ、早くこっちに置きたかったんだよぉ~」

 

 「わ、私は…ミノンに見に行かないかって誘われただけよ!私は悪くないわ!」

 

 「ちょっ、万結それ…覗きに行かないって私が誘ったのバラしてるじゃん!」

 

 「ミノン~?ちょっ~と下でお話ししましょうか…大丈夫よ、痛くはしないから…」

 

 「あ、あちょっと、タンマ!カノン、顔がマジになってるから!ちょっ、ちょっ!!」

 

 カノンにミノンは引きずられながらバタンと、乱暴に扉が閉じられる。どうやら、カノンの堪忍袋の緒が切れたみたいだ。

 

 うぅ、まだ顔が赤い…。普段あんな姿は、カノン以外に見せないから、余計に恥ずかしかった…。

 

 いや、そんなことよりも!!まずは、今さっきの夢について考えよう!

 

 まず、ミニュルの闇落ちのスチルについてだ。

 

 そも、なんでミニュルの闇落ちを阻止するとかなりの原作改編に繋がるかというとな?

 

 …なんと、なんと!妖に操られた闇落ちミニュルが、主人公の目の前で大虐殺を繰り出し、最後にミニュルが涙ながらに主人公に手を掛けようとして、その涙と心に触れた主人公が覚醒するからだ!

 

 まぁ、自分のお姉ちゃんみたいな人が自分の血のせいで誘き寄せられた、妖に囁かれたせいで闇落ちさせられて、苦しみながら人を殺しているんだから、覚醒するよね。

 

 そして、血ミドロの戦いの末、妖を半殺しまで追い込むんだけど…最後に振りかざした刃をミニュルがその身体で受け止めるんだ。

 

 まぁ、その理由はその妖が死んでから発動する憑依型のスキルを持っていて、それで人を闇落ちをさせるからっていう何とも後味の悪いものでねぇ?

 

 というか、何でそのスキルをミニュルが知っていたかっていうと、元々聖女と崇められたミニュルのお母さんがこの狐型の妖に操られて殺されたって過去があるからなんだよね。

 

 で、ミニュルがどんな聖人でも操られてしまうくそくそ能力から主人公を守るだけのために一瞬でも逆らうっていう感動的なシーンでねぇ…。

 

 うぅ、あの最期のシーンは、涙が止まらないんだよね…だってさ?

 

 孤児院に馴染めなかった主人公にミニュルが声をかけ続けて、だんだん心を開いていった時に渡した手作りのロザリオを託してこう言うんだよ?!

 

 「わたし、君に会えて…良かった。君といた、あの時間…私には、宝石みたいだった。…ねぇ、きっと…君は復讐に走るんだと、そう思うの。だけど、だけどね…君の、その太陽は…沈めちゃダメだよ…?…私みたいに、なっちゃ…ダメだからね…?…約束、してくれる?」

 

 もうさぁ!メインヒロインだろこれ!?…うぅ、思い出したらまた涙が…。

 

 そして、主人公はこの約束と最期に託されたロザリオのお陰でこの妖を討伐することに成功するんだ。

 

 で、最期の妖のスキルを防いで燃えていくロザリオを見て、泣きながらもうこんなことが世界中の何処でも起きないようにって頑張っていくんだ。

 

 その心にはずっと、ずーっと!ミニュルがいるの!

 

 だから、ミニュルを助けることイコール、主人公が覚醒しない及び、この世界を救うきっかけを失うことになるのさ! 

 

 つまりは、多分…彼女の闇落ちを防ぐことは出来ないと思う。

 

 ただ、あの夢…あれが現実になるんだとしたら…ミニュルの闇落ちを防がなきゃ、カノンを守ることは出来ない。

 

 ミニュルの闇落ち後は、本当に洒落にならない強さをしているから、それこそ主人公みたいに特別な力がないと勝てないぐらいに…ね?

 

 だから、多分俺に出来ること、それは主人公を覚醒させるほどの何かを得た上でミニュルの闇落ちを防ぐことだと思う。

 

 まぁ、今の俺なら死んでも過去に戻って生き返れるらしいし、無茶は出来るし、一応…宛がないことはないんだ。

 

 主人公の力が覚醒する原理も、ミニュルが闇落ちしてしまう過去も知っているのだから…出来なくはない筈…うん。

 

 とりあえずは、後2ヶ月のタイムリミット迄にフラグを立てよう。

 

 ええっと、そしたら…まずはミニュルと仲良くなるところからかな。

 

 それに、主人公とも…。

 

 …はぁぁ、先が思いやられる…まぁ、でも…推しに会えるし?なんなら、推しを助けることも出来るかもしれないし?

 

 役得かもねぇ…。

 

 「……ねぇ、ウィズちゃん?そろそろ降りてきてくれると助かるんだけど…」

 

 「うひっ…!どっ、どったの?そんなげっそりして」

 

 扉の軋む音と元気の無さそうな声に振り向くと、ドライアドとかに生気でも吸われたかのようなミノンがいた。

 

 ─なんで、死にかけてるん?カノン、もしかして妖術でも使った?

 

 「…いや、カノンがね…そのカンカンでさ、ずっと説教されてたから…。今はなんとかプリンあげて落ち着かせてるの、だから早く助けて…?」

 

 「あ~。なるほど、まぁ覗きに来た二人が悪いんだし?…俺としてもあんな姿見られたし、もう少しカノンのありがたーいお話で、反省してほしい…」

 

 「そんなぁー!?お願いだよぉ!もう私には無理なんだよ~!」

 

 すがりついて涙を溢しながら離れないミノンは、情けなくてちょっと、ゾクッとしてしまった。

 

 ─あぁ!良くない、良くなぁい!!美少女が泣きながら抱きつくとか良くない!その…えっち、えっちだからぁ!

 

 「離れて…!分かったから、ほら、離れろー!」

 

 「わわっ!ちょっ、力つよっ…!?」

 

 慌てて無理矢理どかそうと踠いたせいで、ベッドの上でミノンを押し倒すような形になってしまった。

 

 俺を見上げるミノンの涙で滲んだ目が、何処か妖艶で唾を飲んだ。

 

 「え、え…?ウィズ…ちゃん?…うぅ、優しくして…?」

 

 ─へっ、へぇっ!?うわっえっど!?って、違う違う!!これ、これ…どうしよ!?てか、これ…カノンに見られたら…ヤバくない??は、早く退かないと!

 

 急いで退こうと身体を起こした瞬間、不吉な音が扉から走った。

 

 振り替えると何だかどす黒いオーラを纏いながら脳が破壊されたような顔をしているカノンが見えた。

 

 ─お、終わった…俺は、俺は…もう、終わったんだぁぁ!!

 

 「ウィズ…?なんで、ミノンを押し倒しているのかしら…?」

 

 「あの、あのぉ…抱きつかれたから反射でね?踠いたらさ、なんかこうなっちゃったの…ほんとだよ?」

 

 涙ながらに、ゆっくりと俺に今の状況を問うカノンは端から見たら浮気現場を目撃した愛人のように見えるだろう。

 

 「そ、そうよね!ウィズは、そんなことしないもの!ええっ!だって…私ともまだ、そんなことしてないもん。他の子とそんなこと、しないわよね…」

 

 「えっ、何て言ったの?ちょっ、カノンさん?おーい?戻っておいで~?」

 

 ぶつぶつとなにかを言いながら、顎に指を当て考え込むようにカノンは頭を伏せた。ただ、どんどんと良くなる顔色から誤解は解けたみたい。

 

 「あぁ、カノンが壊れた!ふふふ…じゃあウィズちゃん、カノンはもう妄想の中に引きこもっちゃったから、続き…しよっか?」

 

 「…えっ?えっ…?」

 

 「こらぁ!ミノン!?またカノンの顔が壊れたから!冗談は言わないで!大丈夫、大丈夫だからね、カノン?ちょっ、戻ってきて!!?」

 

 プカプカと浮かぶカノンの魂をカノンの身体に押し込めながら、悪戯に笑うミノンに怒る。

 

 平穏な日常が、ここにあった。




めっちゃ久しぶりに書いた!多分これからも不定期に更新すると思うのでゆっくりお待ちください。
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