バトルスピリッツ 輝けるステラ   作:赫牛

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宇宙より来たる龍

「ねえ母さん、父さんはどこにいるの?」

 

 僕がそう聞くと、母さんはとても悲しそうな顔をした。

 

「そうね……お父さんはね、色んな世界を、ううん、皆の事を守っているの」

 

「色んな世界?それってグラン・ロロって事?」

 

「勿論それもだけどそれだけじゃない。もっともっと、ずっとたくさんの世界に行って、そこで人助けをしているの。だから忙しくて帰って来れないのよ」

 

 そう語る母さんの紫の瞳には大きな悲しみと、そしてそれ以上の誇りがあったのを今でも覚えている。ただ帰って来れないと言うだけで、そんなに悲しいものなのかと思った事も。

 

「じゃあ父さんには会えないの?」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。(せい)が会いたいと思い続ければ、いつかは会えるかもね」

 

「そっかぁ」

 

 きっとその通りなんだ、信じ続ければ、父さんに会えるのだと、子どもの僕はそう信じていた。

 今は分かる。そんな言葉は気休めでしかないと。希望にすらならない、ただの嘘であると。

 こんな話をした夜から10年が経ち、僕は16歳になった。

 そして父さんには、まだ会えていない。

 

 

 

 

 

 閉じていた瞼を開く。西日が容赦無く教室に降り注ぎ、顔の左半分はほんのりと熱を帯びている。こんなに眩しいのによく微睡めたと自分に感心し、知らぬ間に多くの文字で埋め尽くされた黒板を見てげんなりする。時計によると授業時間はもうすぐ終わりを告げ、全てを書き写す余裕など無い事は明らかだ。ここは潔く諦め、後で誰かに写させてもらう事にするとしよう。

 

 チャイムが鳴り、この日の全ての授業を終えた生徒達は次第に浮足立つ。担任からの連絡が終われば早々に帰路に向かう者、それぞれが所属する部活動に勤しむ者、皆一様にこの教室と言う空間から解き放たれたいと思っている。そしてそれは僕も例外ではない。

 

 教室を出て僕が向かうのは図工室。放課後は僕が所属する部活の活動場所になっている。

 その部活とは……。

 

「タイフォームでアタック!」

 

「くそっ、ライフで受ける……俺の負けだ」

 

 その宣言と共に机を取り囲んでいた生徒達から歓声が上がる。勝った生徒を褒め称える者もいれば、負けた方の肩を叩いて励ます者もいる。

 

「あー、今度こそ勝てると思ったんだけどなー」

 

「残念、俺のデッキの敵じゃなかったみたいだな」

 

 彼らが囲む卓上に広がっているのは様々な絵が描かれた複数枚のカードと、幾つもの青い結晶……コアだ。そう、彼らはカードゲームで対戦していたのだ。

 そのカードゲームの名は『バトルスピリッツ』。そしてここはバトルスピリッツで遊ぶ同士が集まったバトルスピリッツ部、通称バトスピ部だ。部活でカードゲームを?と思うかもしれないが、それが許されるくらい、バトスピは僕達の生活に溶け込んでいる。

 

「おっ、来たか星。良いタイミングだ。バトルしてくれよ」

 

 僕を見かけるなり勝負を挑んできたのは勝った方の生徒、一ノ瀬隼人(いちのせはやと)。ここで二番目に強いカードバトラーだ。気の合うやつで、こいつとはかなりの頻度で対戦をしている。

 

「良いよ。なんだかご機嫌だね」

 

「新しいデッキの調子が良くってさぁ。昨日から数えて5連勝だ」

 

 確かに隼人が持つデッキは今まで見た事が無い。そしてかなり強力なカードがふんだんに採用されている。これは部内最強としては負けてられないな。

 

「あ、それ緑デッキじゃないか。おいおい、最初から全力で来いよ」

 

「まあまあ、これに勝ったらいつもので相手してやるから」

 

 デッキをシャッフルし、相手に差し出して互いにカットする。自分から見て右側にデッキを置き、左側に青いコアを5つ並べてライフとし、その下に青いコア3つと少し大きな赤いコア……ソウルコアをリザーブの位置に置く。デッキの上から4枚を引き、これでバトルの準備は整った。

 

「先攻どうぞ」

 

「良いのか?後悔すんなよ。じゃあスタートステップ!」

 

 この数分後、彼の連勝記録は華々しく散ったのだった。

 

 

 

 

 

 下校時間ぎりぎりまでバトルを楽しみ、仲間と別れてすっかり暗くなった帰り道を一人で歩く。こうしているとどこかで起こっているのであろう争いも、遠いものに思えて仕方ない。母さんは戦争で居場所を追われた難民の援助活動をやっているから、完全に他人事とは言い切れないのだけど、逆に言えば僕と戦争はそれくらいしか関わりが無いのだ。

 

『埼玉南部まで魔族(まぞく)の侵攻が進んでいますが、堀田さんはこの現状どうお考えですか?』

 

『そうですね、政府も止められていないと言うのが現状ですので、やはり……』

 

 建物に映し出されたニュースによると、今日は珍しく魔族関連で動きがあったみたいだ。今でも目に付くが昔はもっと頻繁に報じられていたらしい。

 魔族、正式には異界(いかい)魔族。29年前に起きた異界グラン・ロロと地球の融合、そして分離の際に地球に紛れそのまま住み着いた、異界人の中で最も魔術の扱いに優れ、最も残忍と言われる種族。彼らは18年前から地球を侵略し始め、世界各国でその領地を確実に広げていた。

 その侵攻はどうやらお隣の埼玉まで及んでいたらしい。思ったより他人事ではないみたいだけど、この街は平和そのもので戦争の気配など微塵も……。

 そう考えた瞬間に、そう遠くない場所から爆発音が聞こえた。

 

「なんだ……?」

 

 煙が空へと昇っていく。建物が崩れ、そして微かに悲鳴が聞こえる。街が燃えている。

 逃げた方が良いのは見て分かる。だけど何が起こったのか好奇心が抑えられず、そこに向かって駆け出す。

 

 

 

 

 

「人間よ!今からこの地は我ら魔族が支配する!異論がある者はいるか!?」

 

 崩壊した街の中心には人だかりができ、そしてその中心には装甲車に乗った何者かが民衆に呼び掛けている。ここからでも見える頭部の角、あれは魔族の象徴だ。

 つまり来たと言う事だ。この街にも魔族が侵略の手を伸ばしてきたのだ。

 

「無理だよ……ニュースで見たから知ってる。俺じゃあいつに勝てない」

「俺もだ……」

「私も……」

 

 数人のカードバトラーが呟く。誰も彼に挑もうとしない。どうやら戦意を喪失させるくらい、こいつは強くて有名らしい。

 魔族は領地を拡大する際、バトルスピリッツで勝敗を決める。古くからの異界の習わしで、敗者はどんな要求にも従うのがルールとされている。戦争なのだから銃器を使うのではと思うかもしれない。しかし魔族の魔術の前に人間の兵器はことごとく歯が立たず、そのままだと敗戦は必至であった。そこで政府は魔族のルールに従う事で、勝率を0から5分まで引き上げたのだ。

 魔族は項垂れる民衆を見下ろし、満足気に笑う。後ろに控える多数の魔族達も同様だった。

 

「誰もいないのか?ではここは今から俺の領土と……」

 

 

 

「僕が相手だ」

 

 

 

 僕の言葉に反応した民衆が一斉に振り向く。歩き出すと自然と道が開き、僕は魔族の前に立ちはだかった。

 自分でも何故声をかけたのか分からない。ただ勝手に口から言葉が出て来た。

 

「なんだ小僧……ふん、本当に小僧じゃないか。威勢は良いな」

 

「相手をするって言ってるんだ。僕が勝ったらこの街から出ていってもらう」

 

 魔族は少し考え、そして懐からデッキを取り出す。

 

「良いだろう、その条件乗った……貴様、バトルフィールドに行った事はあるか?」

 

 バトルフィールド。魔術によって展開される異空間の事だ。そこでは机の上での遊びなど比べ物にならない、本物のバトルが繰り広げられる。そう聞いている。

 

「無い。初めてだ」

 

 魔族はニタリと笑う。獲物を見る捕食者の目だ。きっと僕の事をなめているんだろう。逆の立場なら僕だってそう思う。

 

「名乗っておこう、俺はゲドス。死霊のゲドスとは俺の事よ」

 

柴乃宮(しのみや)星だ」

 

 睨み合い、張り詰めた空気を破る様にゲドスが口を開く。

 

「最初のコールは知っているか」

 

「勿論」

 

 それについての話は、母さんから何度も聞いていた。

 

「そうか、では行くぞ……!」

 

 すうっと息を吸い、僕達は同時に叫んだ。

 

 

 

 ゲートオープン、界放(かいほう)

 

 

 

 

 

 何色にも輝く光に包まれながら、自分が立っているステージが上昇していくのを感じる。静止した時に見えた空は赤く焼け、目の前には四方を山脈に囲まれた戦いの場が広がっている。

 

「それが貴様のバトルフォームか。勇ましいな」

 

「バトルフォーム……?」

 

 そう言われて初めて体を覆う何かに気付く。上が紫、下が赤に染まった、龍の顎を模した鎧が制服の上から装着されていた。背中には一対の突起があり、龍の翼の様にも見える。そして星座の様に配置された5つのコアが青く光る。自分のライフを表しているのだろうか。

 思い出した。バトルフィールドでは、カードバトラーをスピリットの攻撃から守るための鎧が装着されるのだと母さんは言っていた。それがこのバトルフォームか。

 ゲドスがデッキをテーブルに置く。僕とゲドスが立っているステージにはテーブルが備え付けられ、そこからステージを囲む様に手すりが伸びている。

 デッキをセットし、そこでコアが無い事に気付く。記憶を辿り、母さんが言っていた事を思い出した。バトルフィールドでは、望む事でコアが現れるのだと。心の中で念じると、所定の位置にコアが出現した。デッキから4枚引き、僕もゲドスも戦いの準備ができた。

 

「先攻は俺が貰おう……スタートステップ!」

 

 ゲドスが宣言すると、テーブルが光ってターンの開始を告げる。

 

「ドローステップ」

 

 ゲドスがデッキから1枚ドローする。これでゲドスの手札は5枚になった。そしてメインステップ。スピリットの召喚等、カードを使用するフェーズに入る。

 

「メインステップ!ボーン・バードをレベル1で召喚!」

 

 ゲドスがテーブルにカードを置き宣言する。するとコアが独りでに動いてそれぞれトラッシュとスピリットの上に置かれ、フィールドに輝く宝石……紫のシンボルが出現する。そしてそれが砕け、その煌めきの中から白骨化した鳥の様な怪物が生まれ出た。

 カードは大まかにスピリット、ブレイヴ、マジック、ネクサス、アルティメットと言う分類がある。今ゲドスが使用したスピリットカードは、自分の仲間であるスピリットを呼び出す事ができるのだ。そしてスピリットにはレベルがあり、カードの上に置いたコアの数に対応して最大レベル3まで変動する。

 

「本当にスピリットが出た……」

 

 これも母さんから聞いた通りだ。バトルフィールドではスピリットは実体を持ち、生きているのだと。

 

「召喚時効果、自分のデッキを上から3枚破棄し、1枚ドローする」

 

 驚く僕を後目にゲドスはカードの効果を発動する。スピリットの中にはこの様な召喚した時の他、アタックやブロックした時等様々なタイミングで発動する効果を持つものもいる。

 

「ターンエンド。さあ小僧、貴様の番だ」

 

 ゲドスはターンエンドを宣言し、僕にターンが回ってきた。ここでのバトルは不思議だけど、バトルはバトル、いつも通りやれば良いのだ。

 

「スタートステップ!……コアステップ」

 

 後攻の最初のターンから、スタートとドローの間にコアステップと言う手順を踏む。ボイドと呼ばれるゲームに直接関与しない場所から、1つずつコアを供給できるのだ。先程と同じ様に望むと、リザーブにコアが1つ出現する。このリザーブにあるコアが、僕が今使う事ができるコアの数になる。

 

「ドローステップ……メインステップ、ゴッドシーカー・アルファレジオンを召喚!」

 

 カードには左上に数字が書かれており、それがそのカードを使用するためにかかるコストになる。その分だけリザーブからコアを払い、一度使用したコアはトラッシュと呼ばれる場所に置かれ、そのターンは使用できなくなる。

 コストに3つとスピリットの維持コストに1つ、僕がイメージした通りにコアが自動で動き、アルファレジオンが召喚される。ボーン・バードの時と違って今度は赤い宝石、赤のシンボルが出現し、その中から炎の様に赤いドラゴンが現れた。

 

「召喚時効果、デッキを上から3枚オープンし、その中にある『創界神(グランウォーカー)アポローン』と、系統『界渡(かいと)』か『化神(けしん)』を持つ赤のスピリットカードを手札に加えて残りはデッキの下に戻す」

 

 系統とはそのスピリットが所属する種族の様なものである。そして赤をはじめとしたカードの色は6種類、赤、紫、緑、白、黄、青があり、一部のカードには複数の色を持っているものもある。

 デッキの上3枚が表向きになり、その中にある創界神アポローンと、系統界渡を持っている太陽皇(たいようおう)ヘリオスフィア・ドラゴンを手札に加える。

 

「そのままネクサス、創界神アポローンを配置!」

 

 ネクサスはフィールドに配置する事で他のカードを補助するカードであり、その中でもアポローンは『創界神』と言われる、創界神ネクサスを対象とした効果しか受けない、他のネクサスとはまた違った特殊なネクサスである。ネクサスはスピリットと同じく、リザーブやフィールドの中から自由にコアを上に置く事ができるが、創界神は自身をはじめとしたカードの効果でしかコアを置いたり、取り除くことができない。

 本来アポローンのコストは2であり、元々5つあったコアの中からコストに3つ、スピリットはフィールドに留まるために最低でも1つコアを上に置かないといけないのでそれで1つ。計4つのコアを既に使っているため、そのままではアポローンは配置できない。しかしカードにはコストの右に軽減シンボルと言うものが描かれており、軽減シンボル1つに対して同じ色のシンボルがフィールドにあれば、その数だけコストを少なくしてカードを使用する事ができる。スピリットは大抵自身と同じ色のシンボルを持っており、アルファレジオンが赤のシンボルを持っているので、アポローンの軽減シンボルが適応され1コストで配置できたのだ。

 僕の背後に赤い光が集まり、それは煌びやかな鎧を纏い大きな弓を持った男に変わる。これが創界神アポローンの姿だ。

 

「アポローンの『神託(コアチャージ)』発揮、対象のカードは2枚なので、アポローンにコアを2つ乗せる」

 

 神託とは系統やコスト等の条件を満たすスピリットカードを召喚した時に発揮される効果であり、召喚した数だけボイドからコア1つを効果を発揮した創界神ネクサスに直接置く事ができる。そして創界神ネクサスは配置した時に同じ名前のネクサスが無ければ、デッキの上から3枚をトラッシュに置きその中の対象の数だけコアを乗せる事ができる。アポローンの条件は系統星竜(せいりゅう)、界渡、化神のどれかを持ち尚且つコストが3以上である事。トラッシュに置かれたカードの中にその条件を満たすものが2枚あったため、アポローンにコアが2個置かれたのだ。

 これでコアを全て使いきり、このメインステップにできる事はなくなった。そしてメインステップを終えると、後攻1ターン目からはその後にアタックステップに移る事ができる。スピリットを相手にアタックさせる事で、相手のライフを削ったりスピリットを破壊するフェーズだ。

 ここでアルファレジオンをアタックさせる事もできる。しかし破壊されたライフのコアはリザーブに移動し、それは即ち相手が使えるコアが増えると言う事になる。まだこちらの盤面が整わない内に不用意に攻撃を仕掛けるのはリスクが大きい。なのでここはまだ攻めない。

 

「ターンエンド!」

 

「ほう、攻めてこないか。では遠慮無く貰うとしよう。スタートステップ!コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ!」

 

 リフレッシュステップはドローとメインの間のフェーズで、トラッシュに置かれたコアをリザーブに移動させてまた使えるようにしたり、横向きに置かれて疲労状態と言うアタックもブロックもできない状態になっているスピリットを縦向きの回復状態にする事ができる。ゲドスの宣言と共にトラッシュのコアが自動的にリザーブに移動し、そのままメインステップに移行する。

 

「ボーン・ジェヴォーダン、並びにクリスタニードルを召喚」

 

 今度は紫に染まった骨の犬と、小柄な紫の竜が現れる。低コストスピリットを並べてきた。

 

「そしてバーストをセット」

 

 一部のカードにはバーストと言う、特定の相手のアクションに反応してコストを支払わず即座に使用できる効果がある。ライフの上にあるバーストエリアにセットする事で待機状態にする事ができる。

 ゲドスは僕を見て口角を吊り上げる。

 

「小僧、バトルフィールドは初めてと言ったな?」

 

「……それがどうした」

 

「お前に教えてやろう。真のバトルとは何かを!」

 

 ゲドスはカードに手を当て、縦の状態から横に傾ける。スピリットを疲労状態にした、即ちこれは攻撃の合図。

 

「アタックステップ、ボーン・ジェヴォーダンでアタック!」

 

 幾度か吼えた獣が剥き出しの牙を光らせながら駆ける。

 

「アタック時効果、系統無魔(むま)を持つスピリットがアタックした時、自分の手札が5枚以下なら、デッキから1枚ドローする」

 

 スピリットにはBPと呼ばれる、ライフを削るシンボルとはまた別の攻撃力が設定されている。レベルと共に変動し、スピリット同士がバトルする際はBPを参照して負けた方が破壊される。ボーン・ジェヴォーダンのBPはアルファレジオンと互角。ライフはまだ5つあるし、いたずらにスピリットを減らす必要も無いだろう。ここは……。

 

「ライフで受ける!」

 

 ボーン・ジェヴォーダンが跳び上がり、牙で僕に噛みつこうとする。直撃する瞬間に透明な障壁の様なものが浮かび上がってその攻撃を防ぎ、火花が散る。攻撃と防御がせめぎ合う僅かな瞬間の中で僕の中の何かが危険信号を出し、咄嗟に右手が手すりを掴んだ。

 そして接触部分から紫の光が溢れ、一直線に僕目掛けて降り注ぐ。

 

「っ!」

 

 バリアを貫通したエネルギーがバトルフォームのコアを砕いた瞬間、鋭い痛みが僕を襲った。そうだ、ライフは文字通り命。このバトルには命を削られる様な痛みが伴う事も、僕は知っていた。

 これがバトルフィールド。これが本当のバトル。

 

「続いてクリスタニードルでアタックだ!」

 

 空を飛び迫るクリスタニードル。スピリットでブロックしなければ、またあの痛みを味わう事になる。

 それでも。

 

「ライフで受ける!」

 

 さっきと同じ様にクリスタニードルの攻撃をバリアが受け止め、それから溢れ出したエネルギーがコアを撃ち抜く。

 

「あの痛みを知ってもなおブロックしないとは。肝が据わっているじゃないか」

 

「この程度……」

 

「ターンエンドだ」

 

 ターンが回ってくる。痛みでチカチカする頭を動かしながらスタートの宣言をする。コアを増やし、ドローし、コアを回復させ、そして……。

 

「メインステップ、ウィンター・トライアングル・ドラゴンをレベル2で召喚!」

 

 再び現れた赤のシンボルから銀の鎧を纏ったドラゴンが生み出される。同時にコスト3以上の星竜が召喚された事により、アポローンの神託が発動しコアが1つ乗る。

 

「召喚時効果、このスピリット以外の系統星竜を持つスピリットがいる時、BP5000以下の相手のスピリット2体を破壊する。ボーン・バードとクリスタニードルを破壊!」

 

 ウィンター・トライアングル・ドラゴンが放った炎が三角形を形取り、それがボーン・バードとクリスタニードルに命中し爆散させる。破壊されたスピリットカードはトラッシュに置かれ、ゲドスのフィールドには疲労状態のボーン・ジェヴォーダンが残るのみ。

 

「マジック、ソウルドローを使用。デッキから2枚ドローし、コストにソウルコアを使用したので、更にもう1枚ドローする」

 

 マジックは使用する事で即座に効果を発揮し、使った後は基本的にはフィールドに残らないカードだ。今使用したソウルドローの様にデッキからドローする効果、相手のスピリットを破壊する効果、アタックステップを終了させる効果等、様々なものがある。

 相手のフィールドはがら空き。こちらの手札には保険もある。ここは攻める!

 

「アタックステップ!ウィンター・トライアングル・ドラゴンでアタック!」

 

 ウィンター・トライアングル・ドラゴンが空を翔け、ゲドスに迫る。

 

「ライフで受ける」

 

 尻尾の攻撃がゲドスのバリアとせめぎ合い、貫通したエネルギーがゲドスのライフを破壊する。

 

「この痛み……なかなかやるようだな」

 

 エネルギーが当たった所から立ち昇る煙を見て、ゲドスは関心した様な素振りを見せる。

 

「続いてアルファレジオンでアタック!」

 

「ライフで受ける」

 

 アルファレジオンが吐く炎がバリアを焼き、ゲドスのライフは残り3つになった。その瞬間……。

 

「ライフ減少時、バースト発動!大甲帝(だいこうてい)デスタウロス!」

 

 セットされたカードが裏返り、効果を発揮する。しかも大甲帝デスタウロス、レアリティが高く強力な効果を持つ切り札級のカード、通称(エックス)レアだ。

 

「疲労状態の相手スピリットを全てを破壊し、その数だけボイドからコアをリザーブに置く……貴様のスピリット2体を破壊!」

 

 紫と緑の風が僕のスピリットを包み、巻き込まれたスピリットは光となって消える。

 

「そして自分のライフが3以下なら、このスピリットをコストを支払わずに召喚する!レベル3だ!」

 

 スピリットを破壊した風がゲドスの元に集い、その中から緑の甲殻を持ち、悪魔の翼を持った禍々しい巨人が誕生した。腕の先端は剣の様に研ぎ澄まされ、眼光が僕を捉える。思わず身がすくんでしまうようなプレッシャー。これがXレアなのか……。

 

「良い顔だな、小僧」

 

「……ターンエンド」

 

 そしてターンはゲドスに渡る。

 

「メインステップ、2体目のボーン・ジェヴォーダンをレベル2で召喚。バーストをセット……そしてアタックステップ!」

 

 体勢を整えたゲドスがカードに手をかける。その目に宿った獰猛な光が僕を捉える。

 

「ボーン・ジェヴォーダンでアタック!アタック時効果で1ドロー!」

 

 スピリットがフィールドを疾走する。死の足音が近づいてくる。しかしまだだ、今はまだ。

 

「ライフで受ける!」

 

 ボーン・ジェヴォーダンの体当たりがバリアを直撃し、ライフが砕かれる。残りライフは2つ。そしてデスタウロスは緑と紫、2色のシンボルを1つずつ持つ、ダブルシンボルのスピリット。一度の攻撃でライフを2つ破壊できる。

 

「これで終わりだ、デスタウロス、やれ!」

 

 デスタウロスが進軍する。剣の切っ先が煌めき、緑のエネルギーが剣に集中する。そしてそれが振り下ろされる、その瞬間。

 

「フラッシュタイミング!マジック、リミテッドバリア!」

 

 スピリットがアタックした時、フラッシュタイミングと言う瞬間が発生する。そのタイミングで発動できる効果を持つカードを、メインステップと同じ様に使用する事ができるのだ。

 

「このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックでは、自分のライフは減らない……ライフで受ける!」

 

 剣は大きな白いバリアに阻まれ弾かれる。デスタウロスのコストは9。リミテッドバリアの効果が適用され、攻撃がライフに届く事は無かった。

 

「持っていたか……ふん、ターンエンドだ」

 

 ゲドスのスピリットでブロックできるのは回復状態のボーン・ジェヴォーダン1体のみ。しかし余裕があるのはバーストがセットされており、手札も潤沢にあるからだろう。どれだけ僕が攻めようとも、凌ぎきる自信があると言う事だ。残り3つのライフが、果てしなく遠く感じる。

 防御マジックはもう手札に無い。そしてデスタウロスはBPを比べて相手のスピリットを破壊した時、相手のライフを2つボイドに置く事ができる。つまりデスタウロスより強いスピリットでなければ、事実上ブロックは不可能。このターンで攻め切るしかないが、果たしてできるか。

 

「ドローステップ……っ!」

 

 その瞬間、指先に熱を感じた。カードの鼓動が聞こえ、僕の心臓も高鳴る。

 来た、僕の切り札(キースピリット)……!

 

「メインステップ!煌星竜(こうせいりゅう)スター・ブレイドラ、スプリング・トライアングル・ドラゴンをレベル1で召喚!」

 

 星の欠片の様な翼を持つ小さな竜と、銀の鎧を纏う人型の竜がシンボルから出現する。

 

「更にこのカードは、自分が系統星竜を持つスピリットを召喚した時、コストを4にして召喚できる。太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴンをレベル3で召喚!」

 

 空から降る太陽のエネルギーが一か所に集まり、拡散した中心に現れるは赤い鎧を纏いし龍。眩いエネルギーが内より溢れフィールドを焼く。

 これが今できる限界。僕はこのスピリット達、そして切り札を信じる!

 

「アタックステップ開始時!ヘリオスフィア・ドラゴンの効果で、トラッシュのコアをヘリオスフィア・ドラゴンに置く……そしてヘリオスフィア・ドラゴンでアタック!」

 

 エネルギーを業火に変えたヘリオスフィア・ドラゴンが突撃する。そしてヘリオスフィアの身体が輝き、効果を発動する。

 

「ヘリオスフィア・ドラゴンのアタック時効果、このスピリットのBP以下の相手のスピリット1体を破壊する。回復状態のボーン・ジェヴォーダンを破壊!」

 

ヘリオスフィアが炎を纏い、その突撃がボーン・ジェヴォーダンを吹き飛ばして爆散させる。そしてその瞬間、アポローンの効果が発動する。

 

「アポローンの『神域(グランフィールド)』発動。系統星竜を持つ自分のスピリットが相手のスピリットを破壊した時、相手のライフのコア1個をリザーブに置く!」

 

 創界神ネクサスには一定数以上のコアが乗っている状態で発揮される神域と言う効果がある。スプリング・トライアングル・ドラゴンとヘリオスフィアを召喚した事により神託が発動し、神域の発動条件を満たしたのだ。

 アポローンが弓に炎の矢をつがえ、放ったそれがゲドスのバリアを撃つ。ライフが減ったゲドスは、しかし待っていたとばかりに笑う。

 

「このライフ減少時、バースト発動!絶甲氷盾(ぜっこうひょうじゅん)!」

 

 ゲドスの前に氷の結晶を模した巨大なバリアが出現する。それは白く光り、今まさに効果を発現しようとしていた。

 

「自分のライフを1つ回復し、コストを支払う事でアタックステップを終了する!貴様のターンは終わりだ!」

 

 勝利を確信し嗤うゲドス。このままではゲドスの言う通り、僕のターンは終わる。

 しかし。

 

「いいや、終わらない、終わらせない!……手札にあるこのカードは、相手がバーストの発動を宣言する時、1コスト支払って召喚できる!」

 

 掲げたカードが光り、放たれたエネルギーが天を()す。赤い空は星が瞬く宇宙に塗りつぶされ、そこから一筋の光が降り注ぐ。

 

「星を束ねし龍の使徒、宇宙(そら)の彼方より来たれ!超星使徒(ちょうせいしと)スピッツァードラゴンを、レベル2で召喚!」

 

 虹色に光る鎧を纏い、輝く翼を持ち、鋭く光るねじれた角を持った龍が舞い降りる。他の竜達とは一線を画す神々しさを持つ龍こそ、僕のキースピリット。

 

「不足コストはスター・ブレイドラとスプリング・トライアングル・ドラゴンから確保……そしてこの効果で召喚した時、そのバーストを破棄し、ボイドからコア2個をこのスピリットに置く。あんたのバーストは発揮させない!」

 

 スター・ブレイドラとスプリング・トライアングル・ドラゴンが消滅すると同時にスピッツァードラゴンが輝き、神秘の光が解き放たれる。その光は氷のバリアを破壊し消し去った。

 

「何だと!」

 

「そしてレベル3にアップ!」

 

 スピッツァードラゴンの身体が一層輝き、その横でヘリオスフィアの炎が再び燃え盛る。

 

「ヘリオスフィア・ドラゴンの攻撃は続いている!アタックだ、ヘリオスフィア・ドラゴン!」

 

 咆哮したヘリオスフィアが飛翔し、炎を纏いゲドスへと向かって行く。

 

「フラッシュタイミング、マジック、アサシネイト!疲労状態のヘリオスフィア・ドラゴンを破壊だ!」

 

 相手もただ驚くだけではない。ゲドスの使用したマジックから放たれる斬撃が、ヘリオスフィアを切り裂く。だが僕のスピリットはまだもう1体いる。

 

「行け、スピッツァードラゴン!アタック時効果で、BP7000以下の相手のスピリットを破壊し、そして回復する。もう1体のボーン・ジェヴォーダンを破壊!」

 

 右腕に炎、左腕に煌めく星のエネルギーを纏ったスピッツァーが両手を合わせ、放たれたレーザーがボーン・ジェヴォーダンを撃ち抜いた。そしてその破壊に反応してアポローンの効果も発動する。

 

「アポローンの神域の効果で、ライフを1つ破壊する!」

 

 ライフを破壊され苦悶の表情を浮かべるゲドスは、しかし手札から1枚をかざす。

 

「フラッシュタイミング!マジック、ピュアエリクサー!スピリットを回復させる……そして回復したデスタウロスでブロック!」

 

 膝をついていたデスタウロスが立ち上がり、スピッツァーの前に立ちはだかる。振り下ろした剣とスピッツァーが出すエネルギーの刃がせめぎ合う。

 

「BPはデスタウロスの方が上、スピッツァードラゴンを破壊して、貴様は終わりだ!」

 

 叫ぶゲドス。スピッツァーのBPは12000、対するデスタウロスのBPは16000。その現状に対して僕もカードをかざして応える。

 

「フラッシュタイミング!マジック、オフェンシブオーラ!このターンの間、アタックしているスピリットのBPをプラス5000する……よってスピッツァードラゴンのBPは17000、デスタウロスを上回る!」

 

 マジックから発せられたオーラがスピッツァーを包み、赤く激しく輝く。空に向かって飛び、再びレーザーを発射する。その間にもスピッツァーは鎧から、翼から光を取り込み、その輝きを増していく。そしてレーザーを撃ち切った瞬間、デスタウロスに向かって突撃する。レーザーに耐えていたデスタウロスが顔を上げた瞬間には、スピッツァーはもう目の前にいた。喉元を掴んで押し倒したスピッツァーが右腕を掲げ、その手のひらに火球が生成される。その火球を勢い良く押し当て、それが必殺の一撃になる。デスタウロスが爆発し、フィールドに煙と炎が舞う。

 そしてその瞬間、最後の効果が発動する。

 

「アポローンの神域、最後のライフを破壊する!」

 

 煙が晴れゲドスが顔を上げた先に、それを見下ろす様にスピッツァーが佇む。アポローンから供給されたエネルギーがスピッツァーを満たし、より赤く燃える火球を生み出す。振り上げた右腕で火球をバリアに押し当て、そしてバリアごとゲドスのライフを打ち砕いた。

 叫び声を上げながらゲドスはステージから吹き飛ばされ、そしてバトルフィールドから姿を消した。

 

 

「勝った……」

 

 勝利の余韻も束の間に、バトルフィールドが白い光に塗りつぶされていく。気が付いた時には、燃える街に戻って来ていた。立っている僕と膝をつくゲドス、その構図を見て勝利を悟った人達が歓声を上げる。

 

「俺の負けだ……ルールに従い、今日は撤退する……覚えておけよ」

 

 他の魔族に支えられながら立ち上がったゲドスが、魔族達と装甲車を引き連れて街を去って行く。その後ろ姿を見てほっとため息をついた僕を、民衆が取り囲む。

 

「勝ったんだな、あんたすげぇよ!」

「君のおかげで街が守られたんだ!」

 

「あ、あー、別に大した事は……」

 

 僕の態度なんて全く気にせずに人々は僕を賞賛する。そして……。

 

「君は英雄だ!英雄柴乃宮星だ!」

 

 星!星!人々は口々に僕の名を叫ぶ。

 

「あの、僕は、えっと……それじゃあ!」

 

 鳴り止まないコールに押しつぶされそうになって、僕はその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 誰もいない路地裏まで逃げて、思わず重いため息が漏れる。精神が擦り減る様なぎりぎりのバトルでどっと疲れているのに、どこかふわふわとした高揚感に包まれている。それが決して称えられたからではない事は、はっきりと分かっていた。

 

「あれが、本当のバトル……」

 

 そしてもう戻れない事も、なんとなく分かっていた。

 

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