赤い空、殺風景なフィールドに吹きすさぶ乾いた風。そして生きたスピリット達と体に走る痛み。全てが鮮明だった。あの時体験したものは夢などではなく、全て現実だと理解していた。
だから、目の前に立ちはだかる黒い影も現実なのだろう。
何かが僕を見下ろしている。その視線は無機質でありながらも明らかな敵意を感じる。その何かは駆動音を鳴らしながら得物を持ち上げ、銃口を僕に突きつける。銃口の熱が僕に伝わり、そして眩い光が僕を包み……。
僕はいつもの様に目を覚ました。時間も大体いつも通り、普段と何も変わらない朝だった。
「夢じゃん……」
現実感溢れる夢だった。あの内容は、昨日の出来事があったからに違いない。バトルフィールドに立つと言うのは、それくらい刺激的な体験だった。
幼い頃は母さんから聞かされた事を想像して、勝手な夢を描いていた事もあった。友達とくだらない事を言い合いながらスピリット達をぶつけ、勝った負けたを繰り返す楽しいお遊戯の場。つらい事も聞いていたはずだけど、僕は楽しい事しか考えていなかった。
現実は母さんの言っていた通りだった。コアが砕ける音、体に走る痛み、身も心も削る激しい「本当のバトル」。普通ならもう二度とやりたくないと思ってもおかしくない。
それでも。それなのに僕は、あのバトルが忘れられなかった。
家に帰る時も、ご飯を食べる時も、ベッドに入った時も何度もリフレインした。あの感覚をもう一度味わいたいと、そう思ってしまった。
顔を洗い、視線を正面に戻すと父親譲り、らしい赤い瞳が鏡の中から見つめてくる。先端が濡れた、これは母さん譲りの紫の髪を少し弄り、さっとドライヤーで乾かした。
トースターにパンをセットし、冷蔵庫からジャムを幾つか適当に引っ張り出した所でチャイムが鳴る。何か通販で頼んだ覚えも無いし、こんな朝っぱらからうちを訪ねてくるのは経験上一人しかいない。
「おそーい!緊急事態なの分かってる!?」
ドアを開けると想像よりも大きな声が僕の脳を揺らす。金髪をショートに切り揃え、僕と同じ学校の制服を着た女の子が腰に手を当ててぷりぷりしながら立っている。
「朝からうるさいんですけど。てか何用?」
「やっぱり知らないんじゃん!ほら来て!」
「ちょっと……」
麗華は僕の手を引いてそのままずかずかと上がり込もうと……する寸前で靴を脱ぎ、それから僕をリビングまで引っ張っていった。そしてテレビのリモコンをひったくり電源を点ける。
「どうしたんだよそんな怖い顔して」
僕の呼びかけには応えず麗華はぽちぽちとリモコンを操作し続ける。
「おい、無視しないで——」
「あった!」
何度かチャンネルを変えた麗華が指をさす。映っているのは朝のニュース番組で、街が燃えている様子を収めた映像を流している。どこか見覚えがあるその光景を見た瞬間嫌な予感が頭をよぎった。
『……の繁華街での魔族の侵攻に対し、学生服を着た青年が立ち向かう様子が収められています。その後、青年は魔族とバトルスピリッツで対戦し、勝利したようです。これにより魔族は撤退し……』
「ほらこれこれ!一体どう言う事よこれは!」
近年のカメラの性能には目を見張るものがある。その映像には魔族と話している青年……間違いなく僕の、モザイク越しでも分かる紫髪がばっちりと映っていた。
「この髪と制服、絶対星じゃん!てかSNSでも『シノミヤセイ』って名乗ったって書いてあるしトレンドにもなってるし!これほんとなの、ほんとにバトルしたの!?」
ここまで証拠が揃っている、そして長年の付き合いのこの子に嘘は通用しないだろう。
「あーえと、はい、そうです……」
「そうですじゃないでしょ!何でこれ見てそんな呑気でいれるのよ!」
「いや、言うても顔ぎり分からない感じじゃん?まあ大丈夫かなーって……」
「いーや、星はネット社会舐めすぎ。こんなのすぐに特定されちゃうんだから」
お説教モードに入った麗華は迫力があるが、今日は平時の3倍増しのプレッシャーを感じる。下手すれば昨日のXレアよりも凄いかもしれない。
「まあまあ落ち着いて。朝ご飯もう食べた?トーストならご馳走できるけど」
「あ、そう言えば食べてなかった……って星、もしかしてパンとジャムだけで済ませようとしてない?」
「え、あー、あはは……」
麗華の目がぎらりと光る。そう言う所目ざといと言うか、しっかりばれている。
「朝はちゃんと食べろって何回言ったら分かるのよ!もー、適当に何か作るから……あ、手洗ってくる」
洗面所に向かう麗華の後ろ姿を見てため息をつき、テレビの電源を切る。一旦話題は逸らせたようだが、いつまた詰問されるか分からない。今日一日麗華の前では言動に注意しないと。
僕はそう考えていた。そしてそれは甘い考えだと思い知らされるのだった。
図工室のドアをそおっと開け、誰もいない事を確認してほっとため息をつく。隅っこの席に座って机に突っ伏し、でかいのをもう一つ。
今日は通学路でも教室でも他の生徒からの視線を感じた。教室に入るなり待ち構えていた先生に連れていかれ、職員室で昨日の事について質問責め。教室に帰ってからも友達からあまり話した事の無い女の子まで質問責め。授業中はずっと見られている様な気がして居心地が悪く、スマホを見ると知人友人からの心配や好奇のメッセージの通知がいっぱい。
「疲れた……」
教室移動のタイミングを見計らい、こうして部室にさぼりに来たと言う訳だ。授業も無いみたいだし、一時間分くらいはここでゆっくりと……。
「あれ、柴乃宮君?」
顔を上げると眼鏡をかけた女性教師とばっちり目が合った。不思議そうに僕を見るこの人は
「あー、五木先生こんにちは。先生はここで何してるんですか?」
「次の授業の準備だけど。ていうか柴乃宮君こそ何やってるの?さぼり?」
「え、あーっと……はい、さぼりです」
「ふーん、いけないんだー」
しかしそれ以上先生は何も言ってこなかった。
「授業に戻れとか言わないんですか?」
「柴乃宮君は普段からさぼるような子じゃないし……事情も分かってる、朝から疲れたよね。多分誰も来ないからゆっくりしていきなさい。私は作業してるから、何かあったら言って」
「……ありがとうございます」
先生の優しさが心に沁みる。お言葉に甘えて、取り敢えず仮眠でも取るか。
「ねえ、どんな感じだったの?バトルフィールドって」
「……そっとしといてくれるんじゃないんですか」
「だって気になるじゃない!バトルフィールドなんて、いちカードバトラーとして黙ってられない。ちょっとだけで良いから、ね?」
うきうきな様子の先生を見てると少し可笑しかった。単純にその様子が可愛らしかったのと、この人は何も分かってないんだって思ったから。
「そんな良いものじゃないですよ……痛いし怖いし、それにもし負けたら街が魔族のものになるって考えると、それも怖いじゃないですか」
五木先生は少し考え、それから顔を上げる。
「それでも最後まで戦った、のね。頑張ったんでしょ、流石バトスピ部のトップ」
先生の手が伸び、頭を撫でられる。優しい手つきに、ずっと沈んでいた心がほんのりあたたかくなった気がした。
「そんな歳じゃないです、高校生ですよ僕」
「高校生でも、偶にはこう言うのも必要。じゃあ今度こそ準備に戻るから」
ひらひらと手を振って先生は準備室に入っていった。目を瞑って微睡みを待つ間も、頭を撫でられる感覚が妙に残ったままだった。
今日は部活には顔を出さずに帰る事にした。バトスピ部の熱量は凄まじいものがあると予想され、今はそれを受け止めるだけの体力が残ってないと思ったからである。下駄箱で靴を履き替えていると、朝も見た顔を見つけた。
「あれ、麗華。部活は?」
「今日は休み。折角だから一緒に帰る?」
「まあ、良いけど」
「何その反応……まあ良いけど」
昔は家が近い事もあり登下校は一緒だったが、部活の関係や人の目を気にして最近はそう言う機会がめっきりなくなってしまっていた。
一緒にいる時は大抵麗華から話が始まる。部活の大会がどうだとか物理の授業が分からないだとか今日の夕飯がなにだとか、他愛無い話が続く。麗華は昨日の件に触れてこなかった。朝の続きが来ると思っていた僕としては意外な展開だった。もしかしたら、麗華も僕の学校での様子を見ていたのかもしれない。
だからこの時間は、心の平穏が保たれると思っていたのだけれど……。
「そうだ、今度あそこ行こうよ。新しく出来たパンケーキ屋。もー滅茶苦茶気になっててさー」
「良いよ……ねえ麗華」
「なに?」
「こっち行こうか」
いつもの帰り道から逸れて人通りの多い道に出る。この人通りの多さなら誰かを追いかけても見失うと思っていたが、どうやら相手にとってはそうでもなかったらしい。
「ねえ、何でこっち?どっか寄り道……」
「さっきからね、誰かが僕達の事つけてるんだ。だからどうにかして撒けないかと思ったんだけど……」
「え、ええ!?」
驚き振り向こうとする麗華を制し、兎に角人通りの多い道を選んで歩く。しかしどれ程入り組んだ道を選んでも相手はついて来ている。それも複数人が。
そして遂に前からも、僕達を追ってきた奴らと同じ黒スーツを着た奴らがやってきた。全員帽子をかぶって隠しているが、身体的特徴から明らかに魔族だと分かる者が混じっている。もしかしたら全員がそうかもしれない。
困惑する麗華の手を引いて走り出す。しかしいつの間にか近くにいた黒スーツの男が麗華の腕を掴む。
「きゃっ……」
「麗華!」
「おやおやおや、魔族相手に逃げようなんて思わない事ですよ」
僕達を囲む黒ずくめの集団が割れ、緑がかった黒のスーツを着た魔族がゆったりと歩いてくる。オールバックの黒髪と額から生える立派な二本の角、尖った耳、そして上品な振る舞い、おそらくこの中のトップだ。
「あんたら一体何者だ。こんなに堂々と人を付け回して」
「勿論用があるのですよ、シノミヤセイ君」
「僕に?魔族が一体何の用が」
手を後ろで組んだ魔族はこれまた上品な笑みを浮かべる。
「ゲドスとのバトル、実に見事だったと聞いております。それで貴方に興味が湧いてしまいまして」
と言う事はつまりこの男も……。
「貴方も分かるでしょう?強い相手と戦いたいと言う、カードバトラーの
男が懐から取り出したのはデッキ。僕とバトルがしたいと言う意思表示。それもバトルフィールドでの。
「嫌だと言ったら?」
「言わせませんよ、そのためにこの娘といる所を狙ったのですから」
怯える麗華の首元に魔族の鋭い爪が突きつけられる。僕達の様子に気付いた人たちが立ち止まり騒めく中、麗華と目が合う。そして僕のやるべき事は決まった。
「良いだろう、受けて立つ」
「駄目よ星!」
「よろしい、それでこそですよ、英雄殿……申し遅れました。私はメルター、疾風のメルターと呼ばれております」
丁寧に一礼したメルターは、打って変わって獰猛な笑みを浮かべた。
「そうですね……人質もいる事ですし、ついでと言っては何ですが、私が勝てば貴方を従者とさせていただきましょうかね」
「分かった。僕が勝ったら麗華を解放しろ」
合意し、そして深く息を吸って、叫ぶ。
「ゲートオープン、界放!」
こうして僕はバトルフィールドに戻って来た。赤い空に乾いた風、それらは昨日と同じだった。しかし昨日と違っていたのは……。
「今日は観客もいますのでね、良きバトルにしましょう」
「麗華……」
フィールドの外に球体の様なものが4つ浮遊しており、その中に麗華と黒スーツの魔族達がいるのが見える。心配そうに僕を見る麗華を安心させるよう、客席に向かって微笑んで見せる。
「先攻はお譲りしましょう」
「そうか。では……スタートステップ!ドローステップ」
ターンを開始し、デッキからドローする。手札は悪くない。
「メインステップ、煌星竜スター・ブレイドラを召喚!」
白い小さなドラゴンが赤いシンボルから出現し、一声鳴く。
「ネクサス、創界神アポローンを配置。神託発揮、対象のカードは1枚なので、アポローンにコアを1つ乗せる」
赤い光が集まって弓を持った男になり、効果を発揮する。
「更にネクサス、アポローンの
空から龍の翼が生えた大陸が降りてきて僕の背後で浮遊する。このネクサスは名の通りアポローンの神殿、アポローンをサポートする効果を持つ。
「ターンエンド」
「では参ります。スタートステップ」
メルターのテーブルが光り、ターンの開始を告げる。
「コアステップ、ドローステップ……メインステップ、創界神ヘルメスを配置!」
緑の光がメルターの背後に集まり、それは曲がった剣を持った男に姿を変える。
「神託発揮、対象のカードは3枚、ヘルメスにコアを3つ乗せる」
創界神ヘルメス、と言う事は相手のデッキは系統「
「続いてパキラフォックスを召喚。その時神託で更に1つコアをヘルメスに」
緑のシンボルから尻尾が木になったキツネの様なスピリットが出現し、またヘルメスにコアが乗った。
「パキラフォックスの召喚時効果、ボイドからコアを1つリザーブに置き、更に自分の手札が3枚以下なのでデッキを5枚オープン、その中の「
メルターのデッキが5枚表向きになる。そしてその中には……。
「『
「一気に2枚も……」
手札が増えるのは、即ち選択肢が増えるという事。一気に手札を稼いだメルターが次のターン何をしてきてもおかしくない。
「ターンエンド。どうしました?まだ始まったばかりですよ」
「っ……スタートステップ!」
そうだ、手札が増えたとは言え、相手が加えたのは高コストのスピリット。まだ余裕はある。まだ慌てなくて良い。だから落ち着け。
「メインステップ、スプリング・トライアングル・ドラゴンをレベル2で召喚!アポローンの神託発揮……アタックステップ、スプリング・トライアングル・ドラゴンでパキラフォックスを指定アタック!レベル2のアタック時効果で、BPをプラス5000する!」
通常スピリット同士がバトルするのは、アタックに対して相手がブロックを選択した時のみ。しかしこのスプリングのように一部のカードには相手を指定してアタックする効果を持つものがある。自分が相手のスピリットを選び、ライフをねらいに行くのではなく直接バトルさせる事ができるのだ。
ライフを減らして相手のコアを増やさせず、尚且つフィールドのシンボルを減らす。切り札級のスピリットの召喚を遅らせるには良い手のはずだ。
「パキラフォックスでブロック」
スプリングが放つ炎がパキラフォックスを焼き、パキラフォックスは緑の光に還っていく。フィールドはがら空きになったが、相手の手札が分かっている以上、ここでアタックするのは得策ではない。
「ターンエンド!」
「おやおやおや、もっと攻めてきても良いんですよ?」
メルターの挑発には乗らないつもりだが、のんびりターンを重ねればその分コアが増え、いつかは切り札を召喚されてしまう。どこかでアタックしなければならないのも事実だが、果たしてそれはいつか。
「メインステップ、英雄獣ペイリトゥースをレベル2で召喚」
植物を鎧の様に纏った獣がシンボルの中から現れ、一鳴きして僕を威嚇する。
「召喚時効果、相手の手札をランダムに選び、表向きで手元に置かせる。この効果でスピリットかアルティメットを置いた時、ボイドからコア2つをこのスピリットに置く」
手元は手札とは違ったカードの置き場所であり、手札と同じ様に使用はできるがこのように表向きに置かれてしまうと相手に手の内がばれてしまう。メルターの宣言と同時に僕の手札の1枚が緑の光に包まれ、勝手に手を離れてテーブルに表向きに置かれた。そのカードは……。
「ほう、スピッツァードラゴンですか」
「くっ……」
スピリットカードが置かれた事で相手のコアが2つ増えたのも不味いが、何よりスピッツァーが手元に置かれてしまったのが状況を悪化させた。スピッツァーがバーストに反応して召喚できるのは手札にある時だけ。即ちスピッツァーでの奇襲ができなくなったことを意味していた。
「まあ私、バーストは使いませんけどね……では続けて、英雄獣
メルターは更に弓を背負ったパンダの様なスピリットを召喚する。
「召喚時効果、相手のスピリットを疲労させる。スター・ブレイドラを疲労状態に」
パンダロ・クロスの咆哮がスター・ブレイドラを怯ませ疲労状態にさせる。そしてメルターはカードに手をかける。
「来ないならこちらから行きますよ……アタックステップ!パンダロ・クロスでアタック!」
パンダロ・クロスが弓をつがえ、僕に狙いを定める。しかしその前に……。
「フラッシュタイミング!アポローンの
創界神には神技と言う、自身の上にあるコアを指定数ボイドに戻す事で発揮できる効果がある。アポローンから放たれた矢がパンダロ・クロスを撃ち抜き爆散させる。しかしメルターは攻撃の手を緩めない。
「続けてペイリトゥースでアタック!」
僕の場にブロックできるスピリットはいない。ライフで受けるしかない。
「ライフで受ける!」
ペイリトゥースの爪がバリアを何度も引き裂き、衝撃が僕のライフを1つ削る。小さな体躯からは考えられない衝撃を受け、思わず後退る。
「星!」
麗華の声が聞こえる。麗華からはどんな風に見えているのだろう。明らかに心配している声だからそう言う事なのだろうけど。
「大丈夫、このくらい……」
「ターンエンド。強がりもいつまでもつか、見物ですね」
そして僕のターン。相手のデッキタイプからして手元のカードが増えるのは良くない結果に繋がる。つまりここは……。
「星を束ねし龍の使徒、宇宙の彼方より来たれ!超星使徒スピッツァードラゴンを召喚!」
宇宙からスピッツァーが降りてくる。しかし手元を減らすために無理矢理召喚したためコアが足らず、レベル1の為アタック時の効果は使えない。ここは一先ず次のターンを凌がなければ。
「バーストをセット。ターンエンド……」
「キースピリットを出しておきながらターンエンドとは。いささか臆病過ぎるのでは?」
「御託は良いから、ターンを進めろよ」
「つれませんねぇ……スタートステップ!」
メルターのターンが進み、そしてメインステップ。
「タケノコーギーを召喚……そして見せてあげましょう。私のキースピリット」
獰猛な笑みを浮かべたメルターが持つカード、その内の一枚が強く光る。
「駆け抜けろ、光速の化神!七大英雄獣 光速神王オデュッセイバーをレベル2で召喚!」
フィールドに風が巻き起こる。それが集まった中から輝く鎧を纏うクロヒョウの様なスピリットが風を切り裂いて現れた。これがメルターのキースピリット、Xレア。
「アタックステップ、オデュッセイバーでアタック!アタック時、『
界放は創界神の上のコアを自身に置く事で発揮できる効果である。ヘルメスのコア1つがオデュッセイバーに置かれ、オデュッセイバーが巻き起こす風にスピッツァーとスプリングが攫われて2体がフィールドから消滅し手元に置かれる。
「更にヘルメスの神域!系統剣獣を持つコスト4以上のスピリット全てをBPプラス10000し、バトル終了時にターンに1回、回復させる!さあ、この攻撃どう受ける!」
今ここでブロックしないとオデュッセイバーが回復し、次のアタックでスター・ブレイドラまでもが手元に置かれてしまう。そしてオデュッセイバーは相手の手元のカード2枚につき、シンボルを一つ増やす効果がある。ダブルシンボルの2回攻撃で、僕のライフは0になってしまう。
「スター・ブレイドラでブロック!」
勇敢にも立ち向かったスター・ブレイドラは、オデュッセイバーの爪に引き裂かれて消滅する。そしてヘルメスが光り輝き、オデュッセイバーは回復する。
「そのままオデュッセイバーでアタック!」
オデュッセイバーがフィールドを疾風の如く駆け抜け、一瞬で僕に迫る。僕を守るスピリットは、もう存在しない。
「ライフで受ける!」
「ダブルシンボル、ライフを2つもらいます!」
風を纏ったオデュッセイバーの一撃がバリアを強く打ち、貫通したエネルギーがコアを破壊する。
「星!」
そして麗華の声が聞こえた。
その時麗華は気付き、そして恐怖に襲われた。あんなに痛そうなのに、あんなにつらそうなのに。
「なんで笑ってるの……?」
目の前で戦っている幼馴染は、微かに口角を吊り上げていたのだ。
「タケノコーギーでアタック!」
メルターは続けて攻撃する。スピリットの牙が迫る。
「ライフで受ける!」
ライフがまた削れ、残り1つ。そう、この圧倒的有利な状況、アタックしない訳が無いと思っていた!
「ライフ減少時、バースト発動、
ペイリトゥースが炎の嵐に包まれ消滅する。そしてこのバーストには更に効果がある。
「コストを支払ってメイン効果を発揮。デッキから2枚ドローしてその後デッキを1枚オープン。それが赤のスピリットカードだった時手札に加える!」
デッキから2枚引き、そしてデッキの一番上のカードがオープンされる。そのカードは……。
「これは……」
「何を引いても同じ事、ここからライフを一気に削れる手段などあるはずが無い。ターンエンドです」
オープンしたカードを手札に加える。メルターはこう言っているが、今引いたカードなら、一気に逆転できるかもしれない。
「メインステップ、太陽皇ヘリオスフィア・ドラゴンをレベル3で召喚!」
太陽から降り注ぐ炎が一か所に集まり、赤い鎧を纏った竜に姿を変える。そして……。
「手札からこのカードを『
煌臨とは、自分のソウルコアをトラッシュに置く事で、条件を満たすスピリットの上に重ねて新たなスピリットをフィールドに出す事ができる効果。これによりヘリオスフィアは、更に強いスピリットに生まれ変わる。
これが僕の、2枚目の切り札!
「燃え盛る太陽の化神、
空から太陽が降りてくる。それに向かってヘリオスフィアが飛び、そしてその炎と一体化する。灼熱の炎が拡散し、アポローンの物に似た鎧を纏う赤き龍が誕生し咆哮する。
「煌臨だと!?」
「アタックステップ!アポロヴルムでアタック!アタック時効果で、BPの最も高いスピリットを破壊する。オデュッセイバーを破壊!」
アポロヴルムの翼から幾つもの光線が放たれる。オデュッセイバーはフィールドを駆けてそれを躱すが、アポロヴルムは更に炎を吐く。光線に追いつめられたオデュッセイバーは、炎をまともに受け爆発する。
「くそっ、オデュッセイバーが……しかしたかが一体、無駄な足掻きだ!」
「まだだ!フラッシュタイミング、マジック、バーニングサンを使用!自分の手札にあるブレイヴを1つ、コストを支払わずに『アポロ』と名のつくスピリットに
ブレイヴとはスピリットの様にフィールドに召喚するカードであり、その最大の特徴はスピリットに重ねて文字通り
赤のシンボルから二つの砲塔を背負った小さな竜が現れ、それが跳び上がると頭と手足が収納されアポロヴルムの背中に合体する。力を増したアポロヴルムが咆哮し、炎が一段と燃え盛る。
合体した
「煌臨したスピリットに合体だと……くっ、ライフで受ける!」
口調の崩れたメルターが宣言し、アポロヴルムが背負う砲塔から火球が2つ発射される。メルターのバリアに直撃しその熱波がライフを2つ砕く。
そしてまだ、僕の攻撃は終わらない。
「アポローンの龍星神殿の効果、相手のライフが減ったので1枚ドロー……そしてアポロヴルムで再びアタック!アタック時効果『界放』!トラッシュのコア2個をこのスピリットに置くことで、系統星竜を持つスピリットを回復させる。アポロヴルムを回復!」
アポロヴルムが赤い光を放ち、回復する。そして今度はバル・ガンナーの効果だ。
「バル・ガンナーの
三度砲弾が発射され、タケノコーギーを爆散させる。アポロヴルムは再び火炎を放射し、それがメルターに迫る。
「ライフで受ける!」
バリアが防ぎきれなかったエネルギーがメルターのライフを更に2つ破壊する。そして僕のフィールドには、回復状態のアポロヴルムが残っている。
「行け、合体アタック!」
アポロヴルムの持つ弓、そして砲塔に光と熱が集まる。それらはただ一点、メルターに残されたライフに照準が合わされる。
「ライフで……受ける」
諦めたメルターが宣言すると同時に光と炎の槍が放たれ、メルターのバリアを打ち砕き最後のライフを破壊した。
メルターと僕、そして麗華と黒スーツの魔族達は街に戻って来た。
「この私が負けるなど……いや、貴方は強かった、それだけの事。約束通りこの娘は解放します」
負けを認めたメルターが指を鳴らすと、麗華を拘束していた魔族が手を離した。
「今度は街をかけたバトルでもやりましょう。ではまた」
メルターと仲間達が去って行く。正直色々抗議したいところではあるが、素直に引き下がってくれているのだからむやみに刺激しない方が良いだろう。それよりも。
「大丈夫、麗華?」
「え、あ、うん……」
「……ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だから……」
結局最後まで、麗華は僕と目を合わせようとしなかった。
「うわぁ……」
お風呂に入って落ち着いた僕を、世間はそのままにはしてくれなかった。SNSには「シノミヤセイ」について大量の投稿があり、中には僕の顔がばっちり写っている写真付きのものまである。こりゃ明日はいよいよ大変な事になりそうだ。
まあだからと言ってできる事がある訳でもなく。
「寝るか……」
半ば思考を放棄して睡眠を選ぶ。ベッドに寝転がり、煩わしい光を放つ機械をそっと伏せて目を閉じる。
意識が沈む前に頭に浮かんでいたのは学校での事でも、バトルの事でもなく。
バトルが終わって帰る時の、麗華の顔だった。