「いいかお前ら!やるからには半端なところで満足しねぇ!!」
「「「「おう!!」」」」
「テッペンだ、目指すは頂上」
──最強だ!!!!
あの日。
L/Roarsの旗揚げとなったレース直前。チームメンバー達と円陣を組んでポッケが宣言した言葉。
最強。
宣言通り、そのレースで初白星を上げたL/Roars。
だが最強への道は、険しかった。
『チームSCORD、またしても勝利し最強の名を保持しました!!新鋭のL/Roarsもよく粘りましたが……』
L/Roarsは現在最強と謳われているチームに敗北。エースであるポッケと、グレンが出場する中距離レースですら後塵を排し今後の活動に大きな課題を残した。
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「あと一歩のとこだったんだけどなー……くっそー……」
「だから言ったんだよいきなり最強チームに挑む奴があるかって」
「そういうお前だってノリノリでレースに出てたじゃねえかよ!」
「はいはいそこまで。ポッケもグレンも、少し落ち着けよ」
歪み合うポッケとグレンの間に割って入り仲裁したのは参謀役に収まっているメイである。
グレン達は現在、いつもトレーニングをしている運動公園で作戦会議─というより反省会といった方が本質に近い─を行なっていた。
ルーとシマがいないのは、先日のレースでシマのスタミナの少なさが致命的なレベルであることが露呈したため、ルーの付き添いの元─ルーはL/Roarsの中でも随一のスタミナを持っている─シマがスタミナをつける特訓をしているからだ。現に遠くの方でヘロヘロになっているシマの口にルーがペットボトルの水を流し込んでいるのが見える。
「やっぱ最強チームの名は伊達じゃねえな……」
完敗と言っていい結果に終わったレースを思い返しながらポッケは芝の上に寝転んだ。
ポッケはメンバーの中でも特に"最強"の称号にこだわっている。それだけに今回のレースはこたえたのだろう。
「いい勝負は出来ると思ってたんだけどな……」
ポッケ程ではないがグレンもまた意気消沈した様子で芝を弄っている。そんな2人のしょぼくれた耳を眺めながらメイは呟いた。
「多分単純なステータスは互角だと思うんだ」
「「え?」」
ピン、と立ち上がった分かりやすい耳達を引き続き眺めながらメイは核心をついた。
「勝敗を分けたのは多分、トレーナーの有無だと思う」
チームSCORD。
フリースタイルレースにて最強と目されている。現在猛威を振るっているかのチームは専属のトレーナーを有しており、フリースタイルレースを走る中で珍しいチームでもある。
だが身を起こしたポッケが微妙な顔をする。
「けどよぉ……たかがトレーナー1人だろ?いるいないでそんなに変わるかぁ?」
メイは懐から携帯を取り出し、グレン達に向かって差し出した。見ると画面には先日のSCORDとのレースと思われる映像が再生されている。
件のレースはグレンが先行、ポッケが追い込みという作戦で挑んだ。対するSCORDは3人が出場し先行が1人、差しが2人という堅実な構成であった。
序盤、中盤は悪くなかった。グレンは周囲のウマ娘に囲まれることなく良位置をキープし、ポッケも外側につけたことで最後の直線勝負へ打って出る準備は出来ていた。
「問題はここからだ」
終盤、ポッケとグレンはそれぞれバ群に呑まれ思うように動けずなんとか抜け出した頃にはSCORDの面々がゴールラインを走り抜けていた。
「どうしてだと思う?」
「どうしてって……」
「周りよく見てなかったから……とか?」
「よく見ろよ」
メイは映像を数十秒前へ巻き戻した。
それを繰り返す。
何度も見返しているうちにグレンは違和感に気づいた。
「……SCORDの奴らがちょっとおかしい?」
映像の中のSCORDのメンバー達は左右に動いているように見える。
「私も何回も見返したから気付いたんだけど」
SCORDは自分たちがワザと左右に動くことによってバ群を動かしている。そして乱れたバ群を誘導することによって他のチームの走りを妨害している。
メイはそう言った。
「……それってアリなの?」
グレンはフリースタイルレースを走り始めて日が浅い。
自身よりも経験の多いポッケとメイに聞くと何やら唸り声を上げているポッケに変わってメイがグレンの問いに答えた。
「ここは勝てばなんでも許されるって世界だからな。流石に直接手を出すのは御法度だけど」
「そうかぁー!アイツらかぁ!!」
座りながら地団駄を踏むという器用な芸当を披露したポッケ。そのポッケはグレンと比べて遥かに長くフリースタイルレースを走っている。
歴戦のポッケですら気付かないSCORD達の動きとは──
「あっ」
そこで得心がいったグレンは手を叩いた。
「それがトレーナー云々に関係あるのね」
メイが頷く。
「あのポッケにすら気取られない動きは、フリースタイルレースを走っているウマ娘には習得は無理だ」
恐らくは走りの技術に精通したトレーナーの指導によるもの。
「だったらよ!もっとトレーニングすりゃいいだろ!?アイツらを簡単にぶち抜けようになるまでさ……」
「1度レースを走ったんだからもう対策されていると思うよ」
SCORDは1度勝った相手に対しては負けたことがない。それは彼女らのトレーナーの分析と、その情報のチームへのフィードバックが完璧故だろう。
ましてやポッケは以前から豪脚によってその名を轟かせていた。先日のチーム戦では、ポッケへの対策と作戦をガチガチに固めてきていたに違いない。
単純な力押しは相手の思う壺だ。
「……」
ポッケは口を折り曲げて黙り込んでしまった。
「つまりSCORDに勝つには私たちもトレーナーを仲間にする必要があるってことだ」
メイはそう締め括った。
「つってもよぉ……。トレーナーってのはムズカシイ試験を合格した奴がなれるんだろ?」
トゥインクルシリーズが国民的スポーツになっているこの世界において、ウマ娘のトレーナーとは高難度の国家試験を突破した者だけがなれる花形の職業である。
「そんなやつがオレらみたいなフリースタイルレースを走ってるだけの小さいレースの顧問なんかになってくれねえだろ」
「それなんだよなぁ……」
メイは腕を組んで難しい顔をしている。
「引退したトレーナーを探すとか」
「どうやって?」
「……」
今度はメイが黙り込む番だった。
「物好きか、何か事情持ちのトレーナー……とか」
「いねえだろそんなやつ」
「いるな」
「いるのかよ!?」
間髪入れずツッコミを入れたポッケに対してグレンはニヤリと笑った。
「仲間にするには面倒臭いだろうけど」
「お久しぶり」
「帰ってくれ」
バァン!!
挨拶も言い終わらないうちに叩きつけるように閉められたドア。
ため息を吐くグレンと別にポッケ達は唖然とした様子でドアを見ていた。
「な、面倒臭いだろ?」
「ていうか、本当に今のやつなのか?」
「とてもトレーナーには見えなかったんだが……」
「元、ね」
阿笠の態度は予想の内だったのでグレンはめげずにドアをゴンゴンと無遠慮に叩き始めた。
「オラー!出てこい阿笠ー!!早よ開けんかいコラー!!」
返答はない。
だが意に介することなくドアを叩き続けるグレン。
そのまま数分が経った頃
「うるさいなぁ!!」
根負けした阿笠が顔を出した。
「何の用!?」
「俺チームに入ったんよ」
「あっそ」
「でチームを指導してくれるトレーナーを探してるんよ」
「あっそ」
「お願い♡」
「断る」
再び閉められようとしたドア。
だが今度はグレンの脚が差し込まれる方が早かった。
「そう言わずに!お願いだから!」
「ええい危ないから脚を出しなさい!」
阿笠とグレンによるドアの開閉を賭けたささやかすぎる攻防は数分に渡って続いた。辺りにガチャガチャというやかましい金属音が響き渡る。
自分たちは何を見せられてるんだろう……とポッケ達が真顔になるのも仕方のないことであった。
「だいたい、僕はお役御免になっただろう!」
「何言ってんの?」
急に真顔になったグレンに阿笠は嫌な予感を覚えた。
「俺まだ一度も勝った事ないから」
「自慢げに言うことじゃねえな」
背後からポッケのツッコミが飛んできたが今は黙殺する。
約2週間前、阿笠は言った。
──きみが勝てば僕はお役御免だからね。
「な?」
「くっ、屁理屈を……!」
歯軋りする阿笠に対してグレンは両手を合わせた。
「頼むよ、俺阿笠以外にトレーナーの知り合いいないんだよ」
「けどねぇ……」
「うんって言うまで俺たち全員ここに居座るからな」
「それって脅迫じゃないのかい!?」
「つかおい待て、そんな話は聞いてねえぞ」
ポッケの声を再び黙殺したグレンは阿笠の顔を見つめた。
見返す阿笠。
──やがて阿笠はため息をついた。
「……分かったよ、やればいいんだろ。見るだけだからね」
「やったぜ」
こうして非常に雑なノリでL/Roarsは専属のトレーナーをゲットしたのである。