トウカイテイオーVSトウカイテイオー   作:イモ天屋

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#13 開戦 ─get set go─

 

 

 都心から少し離れた寂れたレース場。普段は物静かなこの場所も今日は違う。詰めかけた観客達によって席は埋め尽くされている。

 

 グローリーチャレンジャーレース。

 

 今年もまた、栄光ある挑戦者達の祭典が幕を開けようとしていた。

 

─────

───

 

「これちゃんと着れてる?」

 

「おう、着れてるぜ」

 

 現在、グレン達は選手控え室にいた。

 

「しっかしポッケがお揃いの衣装でレースに出ようって言い出した時はどうなることかと思ったけどなぁ」

 

「ホントだよ、よく間に合ったもんだ」

 

「お前らオレのお袋に感謝しろよ?」

 

「1番しなくちゃならないのはお前だよ。いやまぁ、するけども」

 

 メイ達に聞くところによるとポッケの母親はダンス教室を営んでいるらしい。ダンスに使う衣装の作成も行なっているとか。このスピードで人数分の衣装の採寸、作成が実現したのはそのおかげだろう。

 だからこそ、グレンの言う通りポッケは彼女の母親に感謝の言葉を伝えなくてはならない。

 

「照れ隠しとかしたら私たちがシバくからな」

 

「……おう」

 

 そんなポッケの母親の尽力もあって実現したL/Roarsのレースを走るための衣装。

 昭和の(もちろんグレンがいた世界での昭和の)暴走族が着ていそうな白一色の特攻服。しかしながら肩の辺りにはメンバーそれぞれの特徴を捉えた意匠が施されており、バリエーションが形作られている。

 

 ポッケの肩には、歯を剥き出し、まるで叫び声が聞こえてきそうなほどの形相を浮かべる鬼。

 

 メイの肩には、太陽を反射し、穏やかな風にそよぐポピー。

 

 ルーの肩には、何故かカンフーの構えをとるウマ娘。

 

 シマの肩には、ルーと同じくウマ娘を模したエンブレムだが、こちらは走る体勢をとっている。

 

 ドゥラメンテの肩には、赤いバツ印を背景に、翼を模したエンブレム。色は白地に黒。

 

 そしてグレンの肩には、両翼を広げ、勇壮に空を駆ける鷹。

 

 それぞれパッと思い浮かんだものを伝えただけなのだが、それをポッケの母親は見事に形にしてみせた。彼女の卓越したセンスが光る逸品といえよう。

 

「あ、そうだ、ドゥラメンテちゃん」

 

 グレンがドゥラメンテを呼ぶ。トトト、と駆け寄って来たドゥラメンテにグレンが何かを手渡した。

 

「はいこれ」

 

 グレンの手には顔の上半分が隠れる程度の大きさの二つの白い仮面。

 

「ありがとうございます」

 

 ドゥラメンテは仮面を受け取ると、早速自分の顔にはめた。グレンも同じようにした。更衣室に並ぶ2人の仮面を付けたウマ娘。顔面の下半分は見える作りとはいえ、正直シュールな光景であった。

 

「なんだそれ?」

 

「ドゥラメンテちゃんは顔バレすると後々面倒になったりするかもしれないからね」

 

「ああ、なるほどな」

 

 ルーが納得したように頷くが、それを聞いていたシマが首を傾げた。

 

「え?じゃグレンさん付ける必要あります?」

 

「1人だけ仮面つけてるやついたら逆に目立つじゃん」

 

 あらかじめ考えておいた言い訳を口にしてメンバーたちを納得させることに成功したグレンは密かに胸を撫で下ろした。

 これほどの大舞台で走ることになるなど想像もしていなかったグレンにとって自身の顔を隠す方法を探すことは急務であった。ドゥラメンテがいたことは自身の仮面を付ける理由にもなるので非常に助かった。

 グレン達が自分のエンブレムを眺めたり、その場で跳ねたりして特攻服の具合を確認していると、控え室のドアからノック音がした。

 

『入っていいかな』

 

 阿笠だった。メイがドアを開けると、よれたコート姿の阿笠─ジャージで来ようとしていたのを全員でシバいた─が入ってきた。

 

「へぇ、よく出来てるもんだね」

 

「おう、俺のお袋が作ったんだからな!当たり前だろ!」

 

「ちゃんとお母さんにお礼言っときなよ」

 

「うるせぇ」

 

 チームメイトだけならず阿笠にも同じことを言われたポッケはヘソを曲げてそっぽを向いてしまった。

 

「さて、レース前だけどね」

 

 その言葉に何か激励でもくれるのかと阿笠に視線が集まる。

 

「僕から言うことは特にない」

 

「ないのかよ」

 

 思わずグレンが突っ込んだ。

 

「お前トレーナーなんだろ。なんか言えよ」

 

「元、なんだけど……」

 

 ルーが肩を小突くと非常に嫌そうな顔を浮かべる阿笠。渋々といった様子で口を開いた。

 

「まー……。怪我なく、無理なく、無事に帰ってきてね」

 

「普通だな」

 

「普通だね」

 

「おもんな」

 

「君たちさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターフに続く地下バ道をL/Roarsは横一列になって進む。周囲に人気が無いことから、どうやらターフ入りは最後になってしまったようだ。

 

「もうちょっと急げば良かったかな」

 

「いいだろ別に。主役は遅れて来るもんだぜ?」

 

「お前なぁ……」

 

 大舞台であるにも関わらず平素と変わらない態度のポッケに、グレンは呆れつつも頼もしさを感じていた。本人には言わないが。

 

「緊張してる?」

 

 隣を歩くドゥラメンテに話しかけるグレン。

 

「してません」

 

 即答。そういえば返事をする時はいつも即答だな、とどうでもいいことに気づいた。

 

「見栄張んなくていいんすよ〜?」

 

 ドゥラメンテのグレンとは反対側の隣を歩くシマが煽る。

 

「張ってません。シマさんこそ手が震えてるようですが」

 

「うぇっ!?こ、これは〜……医者奮いっす!」

 

「武者奮い、な」

 

 謎の間違いを披露するシマにメイが冷静に突っ込む。ポッケの次に長くフリースタイルレースを走っているだけあって、彼女に緊張している様子は見られない。

 

「ルーは?」

 

「あ?私か?そうだな〜」

 

 う〜ん、と歩きながら腕を組んで唸るルー。

 

「楽しみだな!」

 

 ただひたすらにレースを楽しむ。ポッケ達との付き合いの中で知った彼女の長所を思い出した。

 

「楽しみ、楽しみか〜。そうだなぁ!」

 

 拳を合わせ、鳴らせるポッケ。

 

「SCORDの奴らから最強をぶん取る瞬間が……楽しみだぜ」

 

「悪役みたいなこと言ってる」

 

 ルーのそれとはだいぶ方向性の違う『楽しみ』を口にするポッケにコイツを敵に回さなくて良かったとグレンは思った。

 

「お前はどうなんだよ」

 

 自分に番が回ってきた。両隣から自身の声に耳を澄ませる気配を感じる。

 

「そうだなぁ」

 

 ここは下手にカッコつけずに正直に言うことにした。

 

「緊張しすぎて吐きそう」

 

 一瞬の間。その次の瞬間、地下バ道に笑い声が響いた。

 

「ハハハハハ!まぁ確かにな!」

 

「こんな大舞台なら無理もないよな」

 

「気持ちはよく分かるぜ!」

 

「あ、あたしは〜、全然そんなことはないっすけど」

 

 笑いながら歩くポッケ達を横に、ドゥラメンテが幾分か声を顰めてグレンに言った。

 

「その割には落ち着いているように見えますが」

 

「ん?そう?緊張してるのは本当だよ」

 

 だがそれ以上に。ルーとポッケが言ったように。

 

「走るのが楽しみだな」

 

 こうして仲間と一緒にターフに向かって歩く。初めての体験だが、グレンはそれに、心地よさを感じていた。

 

「なんかそう考えるとさ、緊張するのも悪くないって思うよ」

 

 多分、武者震いと同じ類の何か。

 

「悪くない……?緊張するのが、ですか」

 

 ドゥラメンテは首を傾げていた。

 

 そんな話をしているうちに、一向は地下バ道のターフに続く出入り口に着いた。外からはレースのスタートの瞬間を待ち望む観客たちの歓声が聞こえる。

 

「……行くぞ!」

 

「「「「「おう(はい)!」」」」」

 

 決戦の時だ。

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

 フリースタイルレースのチーム戦は短距離戦、マイル戦、中距離戦の三つに分かれ、その順番で進行する。それは大舞台であるグローリーチャレンジャーレースでも変わらない。

 

「シマー!気張れよー!!」

 

 というわけでL/Roarsの先鋒を務めるのは短距離戦担当のシマだ。選手の控え場所兼、レース観戦場所でポッケが声を張り上げている。そのシマは現在ゲート入りを果たしたところだ。グレンの見た限りでは調子は上々、気合いも充分、いい走りをしそうだった。

 ゲートに収まるウマ娘の数は6人。少ないように感じたがフリースタイルレースの大会かつ短距離部門だとこんなものだろう。シマの他にSCORDのメンバーが1人、他チームメンバーが4人。

 警戒すべきはやはり──

 

「SCORDのドルドルブ、か」

 

 双眼鏡を覗き込みながら阿笠が呟く。その視線の先には青毛に三白眼が特徴的なウマ娘がいる。

 

「SCORDって目つき悪いやつしかおらんのか」

 

 大会開始前に横並びしていたのを見たグレンが、そう思わず呟くほどSCORDは人相の悪いウマ娘揃いだった。

 そのSCORDのチーム構成は短距離とマイルを走るウマ娘が1人ずつと、中距離を走るウマ娘が3人。中距離にメンバーが偏っている訳だが、中距離に注力しているのかそれとも他の距離レースを侮っているのか……。

 そんな中レース開始の時間がやってきた。ファンファーレが鳴る。トゥインクルシリーズさながらの力の入れよう。改めてこのグローリーチャレンジャーレースの規模の大きさを実感する。

 

「気負うなよ、シマ……」

 

 隣のメイが呟く。

 

 レース場が静まり返る。

 

 沈黙。

 

 そして。

 

 ──ガコン。

 

 ゲートが開いた。

 

 ウマ娘達が一切に飛び出す。

 

『さあ押し寄せた観客たちが見守る中始まりました、第10回グローリーチャレンジャーレース!』

 

「シマはどこだ?」

 

「えーっと、いた、前から4番手」

 

 L/Roars先鋒は前めにつけることを選択したようだ。

 

「にしても、本当になんか作戦とか考えなくて良かったのか?」

 

 レース開始前、阿笠はこう言った。

 

〔流れで走れ〕

 

 何かSCORDをあっと驚かせるような奇想天外な作戦立案を期待していただけにL/Roarsの面々は拍子抜けしてしまった。

 ルーの懸念に対してしかし、阿笠は飄々とした様子を乱すことなく言い返した。

 

「無理に作戦を立てて、それを遂行しようとすれば返って実力が制限されることになる。逆効果だよ。」

 

「そういうもんかなぁ……」

 

 そうこうしてるうちに早くもバ群はレース半ば地点に入った。

 

「良いぞぉ、トレーニングの成果が出てるな!」

 

 前回のレースでは、すでにバテ気味になっていたシマが今は先頭集団に追い縋っている。ルーの日頃の指導の賜物と言えるだろう。

 

「ん、」

 

 始めに違和感に気づいたのは双眼鏡を覗き込んでいる阿笠だった。

 

「どうしたの?」

 

 隣のグレンが聞くと、眉を顰めた阿笠は数秒、バ群を観察した後口を開いた。

 

「シマのところ……やけにウマ娘が固まってるな」

 

「その言葉で嫌な予感してきたわ」

 

 阿笠に双眼鏡を貸してもらいシマの周辺を見てみると、確かにシマを囲むように他チームのウマ娘がバ群を構成し始めていた。

 

「自然とあーなった……ってわけじゃねーよな」

 

 ポッケが顔を険しくして呟く。

 

「あー、十中八九ドルドルブの仕業だろうな」

 

 現にあの三白眼のウマ娘はバ群に邪魔されない、走りやすい位置をキープし続けている。

 前回、SCORDとの初戦ではあのような動きは見られなかった。今回初めて行動を起こしたのは──

 

「前回は無視した癖に脅威になった途端、潰しにかかってきやがるのかよ……!」

 

 ルーが吐き捨てる。

 

 今、先頭にドルドルブが立った。ゴールまであと200m。

 

 ──厳しいか……!

 

「頑張れシマ──!!」

 

「根性だ──!!」

 

 それでも勝利を信じて声援を送るのがチームメイトというもの。

 

「頑張れ──!!」

 

 ポッケ達と同じく声を張り上げるグレンの隣から

 

「頑張ってください!!」

 

 聞き慣れない大声が響いた。思わずそちらに目を向ける。声の主はドゥラメンテ。普段は口数の少ない彼女が、今はチームメイトのために叫んでいる。

 その声が届いたのかシマが加速した。最後の力を振り絞り、先頭に迫ったシマだったが──

 

『ドルドルブが1着でゴ─ルイ──ン!』

 

 あと少し、届かなかった。

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

「悔しいっす!!!!」

 

「見れば分かるくらいって凄いな」

 

 チームの元に戻ってきたシマは唸り声とも取れる泣き声を上げながらメイに抱きついていた。

 

「おいシマ、せめて鼻かめ。私これから本番なんだが」

 

「メ゛イ゛さ゛ん゛せ゛っ゛た゛い゛に゛か゛っ゛て゛く゛た゛さ゛い゛ね゛! !」

 

「分かったから鼻……鼻水ついちゃったじゃねえかお前!ふざけんなよ!ああ、もうほらハンカチ!!」

 

 メイがシマの鼻にハンカチを押し当てると、メイがズビーッ!と鼻をかんだ。

 

「既視感よ」

 

「なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもない」

 

 腕をぐるぐる回しているルーに声を掛けられたが、別に答えるほどのことでもないかと判断してグレンはうやむやにした。

 本番に向けて柔軟運動をしているルーに、阿笠が声を掛けた。

 

「ルーに、それとメイ。ちょっといいかな」

 

「ん?」

 

「なんです?」

 

 阿笠はメイとルーと呼びよせ、小声で何かを話し始めた。

 怪訝な顔をしていたメイとルーが、やがてニヤァ……と怪しい笑みを浮かべるのを他のメンバーは首を傾げて眺めていた。

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