都内某所。
というか府中。
国内最大規模のウマ娘養育施設。
中央トレセン学園。
「こちらス◯ーク、潜入ポイントに到着した」
その正面門から少し離れた建物の陰にグレンの姿はあった。姿といっても、髪は鹿毛に戻して目に青のアイコンタクトを入れた完全トウカイテイオーモードである。目は寝てる間に元に戻らなかった。グレンは気が利かねえと鏡の前でボヤいていた。
服装はトレセン学園指定のジャージ。……に見せかけた市販のジャージである。メ◯カリに不要になったジャージをトレセン学園卒業生が売りに出してないかなと漁ってみたが流石になかった。前世よりネットモラルがしっかりしている。
というわけでそっくりのジャージを赤色に染めて即席のトレセン学園指定ジャージを作成した。パッと見では分からないが、マジマジと見られると多分バレる。故にトウカイテイオーと瓜二つの容姿だからと安心も出来ない。
スピード勝負、バレる前に沖野トレーナーの元に行き、グレンのデータを預けるのだ。正直彼がこんな怪しさ満点のデータを活用してくれるかは分からないが、そこはもう祈るしかない。
腕時計を見やると午後の4時。そろそろ授業が終わり、ウマ娘たちがトレーニングをしに出てくる頃か。この時間帯ならば校内はジャージ姿のウマ娘で溢れ返る。グレンのエセジャージ姿も多少は目立たなくなるはずだ。テイオーかスピカのメンバーと出くわす危険性も増すがそこは割り切ってどうにか避けていくしかない。
周囲を見回す。誰もいないことを確かめたグレンはトレセン学園内に向かって飛び出した。
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正面門突破。緑の帽子は見えない。テイオーやスピカの面々に見つかるのも怖いが1番怖いのは駿川たづなとエンカウントすることだ。彼女ならばこの偽物ジャージも一眼で見抜くだろうし、短距離で凄まじい強さを誇ったタイキシャトルを苦もなく捕まえるほどの脚を持っている。絶対に見つかってはならない。
「あ、テイオーじゃん。やっほー」
「や、やっほー」
トレセン学園内は、思った通りジャージ姿のトレセン学園生で一杯だった。精神の安定を得つつ、次の問題にグレンは頭を悩ませていた。
沖野トレーナーがどこにいるかわからない。
中央トレセン学園は広い。べらぼうに広い。東京ドーム何個分というあの謎のカウント法を使わなければならないほど広い。そんなトレセン学園で1人のトレーナーとたまたま会える可能性は低い。
故に第二のプラン。スピカの部室に行って沖野トレーナーの机辺りにこの書類を置いてくる。そうなると別の問題が浮上する。
スピカの部室の場所が分からない。アニメでも描写されたことはなかったししょうがない。
「あ、ごめんちょっといいかな。スピカの部室ってどこだったっけ?」
「え?スピカ?そこの角を曲がって……」
どうしようもないので手っ取り早くその辺を歩いていたウマ娘に聞くことにした。すごく怪しみながらも説明してくれている。
「ありがとーっ!」
部室の場所を聞き出したグレンはボロを出す前に駆け出した。トレセン学園の子がいい子ばかりでよかった。
スピカの部室は少し離れたところに位置しているようだ。このまま他のウマ娘たちに紛れながら……
「「おっ!テイオーじゃーん!ヤッホー☆」」
爆逃げコンビに捕捉された。
「……ヤッホー」
「どしたん元気ないじゃん」
「もっと気分アげてこうぜー!フー!↑」
前世隠の者だったグレンにとってメジロパーマーたちの陽の気は激毒だった。ダイタクヘリオスに至ってはもう太陽である。溶ける。
「ふ、フー↑ごめん、俺急いでるからまたね〜!」
「はいよ〜……ん?」
「ボクモウイカナキャー‼」
危ないところであった。この調子でテイオーの知り合いと出くわしてばかりだとスピカの部室に辿り着く前に正体がバレてしまう。
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幸い、スピカの部室はすぐに見つかった。校舎の裏に位置しているせいで見つけるのに時間を要してしまった。猶予はない。
注意深く辺りを見回して日本総大将や先頭民族や黄金船がいないことを確認し一気に部室に走る。窓から覗くと中は無人。
「しめた!」
やるんだな!今ここで!
「ああ!やる!!」
脳内のベルトルトに返事を返しながらドアノブに手をかけ開け放つ。そこにはアニメで見慣れたスピカの部室が広がっていた。
「おお……」
壁際に設置されたロッカーにはスペシャルウィークやサイレンススズカなどのお馴染みの名前がある。
「本当にウマ娘の世界にいるんだな俺……」
今までパン屋で働いたりフリースタイルレースを走ったりしていてすっかり忘れ去っていた事実を思い出した。とはいえ感慨にふけっている場合ではない。
ロッカーから目線を外し、反対側にあるパソコンの置かれた机。恐らく沖野トレーナーのもの。そちらに近寄り、手に持っていた封筒をそっと置いた。ついでに手も合わせておく。
「どうか沖野トレーナーがこのデータを活用してくれますように……」
用事は済んだ。一刻も早くこの場から脱出しなくてはならな
──ガチャ。
「ガチャ?」
何の音だろうか。決まっている、ドアノブが回る音だ。スピカの部室に誰かが入ってきている……!
ブワッと吹き出た冷や汗もそのまま、振り返るグレン。開いていくドア。そこにはいたのは──
「お?はえーなテイオー」
ゴールドシップ。
「さてはゴルシちゃんの漬けマグロ狙ってるな?」
入り口は彼女が仁王立ちしており、通れそうにない。だが先ほどのマックイーンのセリフから察するに、恐らくグレンのことをトウカイテイオーと勘違いしている。
「漬けマグロ……?」
「おう、この前活きのいいやつを獲ってきたからよ。晩飯に食おうぜ!」
ツッコミたいのはやまやまだが今は漬けマグロのことなんぞを気にしている余裕はない。
「……アッ、ボクキョウシツニワスレモノシチャッター、チョットトッテクルネー」
「声どうした?」
ゴールドシップが入り口を開けてくれた。よし、逃げれる。と、部室から出たその瞬間である。
「そういえばはちみーの新ブレンドが来月から発売されるそうですよ!」
対面からやってきた二人のウマ娘。一人はスペシャルウィーク。アニメ一期の主人公を務めた名ウマ娘。
「フフフ、ごめんねスペちゃん。実はパパの伝手でボクもう飲んだんだ」
その隣にいるやたら半角カタカナが似合いそうな声に鹿毛をポニーテールにまとめたウマ娘。
トウカイテイオー。
──考えられる中で最悪の展開!!
「あっ、テイオーさん!こんにちはー」
スペシャルウィークがグレンに気づき挨拶をする。そのあまりに自然になされた所作に釣られて横のトウカイテイオーもグレンに挨拶した。
「テイオーさんこんにちはー……………………え?」
流石にそのままスルーなんてことは無く。ついにグレンはトウカイテイオーと邂逅を果たしたのである。