トレセン学園に不審者が侵入した。その事実に、学園内に激震が走った。ウマ娘と言えど多感な年頃の少女と何ら変わりもないのだ、当然だろう。しかも不審者はまだ捕まっていないとのことだった。
そのため、トレセン学園では夜間のトレーニングは実質禁止となり日没前には寮に帰らされるようになった。しかし今は冬、日没前と言ってもそれは五時や六時である。普段は七時、遅ければ八時までトレーニング、その後は入浴や食事を済ませて十時までには就寝するのが常日頃の流れなのだが……要するにウマ娘達は時間を持て余していた。いつもは身体を動かしている時間、ただ部屋でじっとしているのも落ち着かず、用もなく寮の談話室で雑談をする生徒がほとんどだった。その広い談話室の片隅、大きなクッションが置かれ、寝そべったりも出来るスペースにて。
「うにゅ……」
端末ゲーム機を見つめ、複雑そうな表情を浮かべるウマ娘はナイスネイチャ。画面には大きく『LOSE』の文字が表示されていた。その対面にはだらけきった体勢のトウカイテイオー。おそらくトウカイテイオーと何かの対戦ゲームをやっていたのだろう。
「ネイチャさ〜、アイテムに固執しすぎ。あんな一直線に走ってたら的だよ?」
「せっかく出てきたアイテム使わないともったいないでしょうが!」
憤慨するネイチャ。だがテイオーはクッションに背中を預けて完全に脱力した様子で右から左に聞き流した。そこからも変わらずテイオーとネイチャの勝負──ほぼテイオーによる嬲り◯しだが──が続いていたところに、
「おっ、テイオー。ゲームやってんのか」
やってきたのはテイオーのクラスメイトのウオッカだった。髪が湿っておりホカホカしているところを見るに入浴を済ませた直後なのだろう。
「ウオッカ〜、良かったらやる?」
ネイチャが自分のゲーム端末を差し出した。
「ん?いいのか?」
「負けすぎて飽きてきちゃった」
「よし来た、仇はとってやるぜ」
「ふっふーん、返り討ちにしてやるもんねー」
ウオッカに端末を預け、ネイチャはゴロンと横になった。そこからはテイオーとウオッカの対戦が始まった。が、そこに今度は眉を吊り上げたダイワスカーレットがタオルを握りしめてテイオー達の元にやってきた。
「ウオッカ!アンタちゃんと髪乾かしなさいって何回言ったら分かんのよ!」
怒りを露わにするスカーレット、しかしウオッカは端末から顔を上げ面倒くさそうにスカーレットを見た。
「うっせーなぁ、ほっときゃ乾くんだからいいだろ」
「良くないわよ!髪が痛むの!」
「いいだろ別に……あ」
ウオッカからゲーム端末が取り上げられた。取り上げたのはネイチャだ。
「そういうことならやっぱりゲームはいいでーす」
「なんだよネイチャもかよ」
「綺麗な髪なんだから大切にしなー」
「そういうことよ」
「わぶっ!」
スカーレットは手に持っていたタオルをウオッカの頭に押しつけふき始めた。それを横目に端末の画面に目を映すと、テイオーのキャラクターの体力がほぼ互角にまで削られているのを見てネイチャは自身のゲームの腕の無さを自覚し若干凹んだ。
そして再び始まるネイチャとテイオーの勝負、その横でウオッカの世話を焼くスカーレット。のんびりとした時間が過ぎていく。
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そんな中、ドライヤーまで持ち出してきたスカーレットに辟易としていたウオッカがこんなことを言い出した。
「そういやテイオー」
「ん、何?」
「この前の不審者、お前のドッペルゲンガーだったってホントかよ」
「なぁにそれ?」
ウオッカの口から飛び出た奇妙な話題にネイチャは食いついた。テイオーは逃げたな、と思ったが黙っておいた。
「スペ先輩に聞いたんだよ、この前の不審者がお前にそっくりだったーって。あれマジ?」
「マジだよ」
「……マジ?」
「本当にボクと瓜二つだったよ」
与太話としか思えないウオッカの言葉に、テイオーが頷いたのを見てネイチャ達は震え上がった。
「怖っ!」
「ドッペルゲンガーって会ったら死ぬんじゃなかった!?」
「今んとこ死ぬ気配はないけどなー」
「確かにお昼ご飯もおかわりしてたくらいだしね」
ではドッペルゲンガーではないのだろうか。だとしたらなんなのか。
「そういえば最近さ、ライスにそっくりな子ちょくちょく見るんだけどあの子と何か関係あるのかな」
「スプリンクルソルトのこと?あの子はライスが双子の妹だって言ってたから多分違うんじゃないの」
「てかテイオー、お前やけに落ち着いてるな」
「普通自分と瓜二つの知らない人がいたら怖がると思うけど」
「いや怖いは怖いよ?」
「テイオーとそっくりな子ねぇ……」
うーん、と考え込むネイチャ。その時ネイチャの脳裏を何かが掠めた。ガバリと突然起き上がったネイチャに、テイオー達は驚いた。
「どうしたのネイチャ」
「いや……ねえテイオー、アンタ去年の四月頃に商店街に行った?」
「え?あの抽選とかやってる商店街?……多分行ったと思うけど」
ネイチャは思い出した。そういえば去年の四月ごろ、自分はテイオーと商店街に向かう道の途中で出会っていたと。
あの時のトウカイテイオーは何か様子がおかしくはなかったか。今が何年の何月何日か、という誰でも知っているようなことをわざわざ聞いてこなかったか。あの時の自分は何と答えた?
「……去年の四月二十日に商店街に行った?」
「四月二十日ってボクの誕生日じゃん。その日は家でパパとママと一緒にケーキ食べてたよ」
ネイチャは全身の毛が逆立つのを感じた。青ざめるネイチャをテイオー達は不思議そうに見ていた。