トウカイテイオーVSトウカイテイオー   作:イモ天屋

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なんか筆がのったのでもうしばらく投稿続けようと思います。

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#2 誕生 ─Rebirth─

 

 Aは呆然と鏡に写る己の姿を見つめた。

 

 鹿毛の髪の毛に尻尾、蒼色の瞳。

 

 寸分違わずトウカイテイオーのそれだった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「え!?あ、大丈夫デス!」

 

 ベリーに話しかけられたことで我に帰ったAはこの惨状をどう誤魔化そうかと思案を巡らせていると

 

「虫でも出たか?古い家だからな、ちょこちょこいるんだよ」

 

「なるほど……」

 

 虫だということにしてその場は切り抜けた。

 

「鏡勝手に使ってごめん……」

 

「ん?あー、気にすんな。どうせ使ってなかったしな」

 

 鏡をチラッと見やってからAに向き直ったベリーはおお、と声を漏らした。

 

「なかなか似合ってんな〜、顔がいいやつが着るとなんでも映えるぜ」

 

「……ありがとう?」

 

 その顔が他人のものだから反応に困る。

 

「言い忘れてたけどその服、捨てる予定のやつだったから好きに着てくれ。それと飯が出来てるから来いよ」

 

 ベリーが行ってしまい、一人残されたAは再び鏡の前に移動した。

 

「……」

 

 鏡の中からは先ほどと変わりなく、トウカイテイオーがこちらを見返していた。

 

 Aが首を傾げると鏡の中のトウカイテイオーも同じように首を傾げる。

 

 手で頬を摘むとやはりテイオーも同じようにする。

 

 そのまま頬をつねった。

 

「痛い」

 

 夢ではないらしい。

 

 鏡のテイオーも痛みに顔を顰めていた。

 

「……飯食わせてもらうか」

 

 Aは思考を放棄し、鏡を元のように布をかけて部屋を後にした。

 

 部屋を出ると廊下があり左を見ると行き止まり、右を見ると奥に部屋があり大きな机が見えた。

 

 机の上には箸や茶碗が並べられており、そちらが食卓なのだろうと当たりをつけてそちらに向かう。

 

「飯食う前に顔洗ってきな〜?」

 

 目をやるとベリーがエプロンを身にまとい、手慣れた様子で台所を右へ左へ移動しているのが見えた。

 

「洗面台はそっちだ」

 

 ベリーに言われるがまま、部屋を出て指し示された方向に行くと洗面台の鏡が目に入る。

 

「……」

 

 鏡に写るAの姿は先ほどと変わりなくトウカイテイオーのそれで

 

「は〜……」

 

 思わず鏡にしがみついてためつすがめつ見た。トウカイテイオーなのだから当たり前なのだが凄まじく美少女だ。

 

 顔を眺めるのもほどほどにして洗面台で顔を洗う。蛇口を捻り迸った水流に少し驚きながら両手をお椀にして受け止めたAはそれを顔に軽く打ちつけた。

 

 ひんやりとした水が顔に当たる感触がとても心地いい。

 

 混乱しきりだった頭が冴えていく感覚にAは思わず身震いした。

 

 顔を洗い終えてダイニングに戻ると食卓の上にはいくつかのパンが置かれた大皿、湯気を立てている黄色のスープとサラダが盛られたお椀たち。

 

「先に食ってていいぞー」

 

 Aが声が聞こえた方を見るとキッチンらしき場所で何かの作業をしているベリーが見えた。

 

「いや、何か手伝うこととか……」

 

「だいたい終わってるしいいよ。コーンスープでも飲んでろ」

 

 実際食卓には食べ物が一通り並んでいるしスプーンもフォークも添えられている。Aが出来ることは無さそうだ。

 

 じゃあ……、と一番近かった椅子を引いて座りスプーンを手に取る。

 

 それでコーンスープと判明した黄色のスープをひとさじすくって口に運ぶ。

 

 口内に温かいスープがじんわりと広がっていく感覚に思わずため息つく。

 

「美味しい……」

 

「そうか?そりゃ良かった。それアタシの手作りなんだよ」

 

「マジか」

 

 甘い、かといって砂糖の甘さではない。とうもろこしの素材を活かした上品な甘さ。そしてとうもろこしのかけらを一切感じないさらさらとした喉越し。

 

 これをベリーが作ったというのは驚きだ。

 

「悪いけどテレビつけてくれないか」

 

「あ、うん」

 

 食卓のすぐそばに高さを合わせて設置されたテレビは黒い画面のままだ。リモコンは、と探すとテレビの下に白と黒の二つが置いてある。

 

「これどっち?」

 

「黒いほう」

 

 黒いリモコンを手に取ったAが電源ボタンと思しき赤いボタンを押すとピッ、と音を立ててテレビが光る。

 

 映し出されたのは何処か見覚えのあるニュース番組の画面。左上を見ると前世でもお世話になった国民的ニュース番組である。

 

「こっちでもN◯Kなんだ……」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもない」

 

「?……チャンネルも回してくれるか。8番」

 

「はいはい」

 

 8と書かれたボタンを押すと再び画面が切り替わった。画面いっぱいに広がったのはオールバックに赤を基調とした奇抜なデザインの衣装に身を包んだ中年の男。

 

『全国の皆さんおはようございます!今日も張り切っていきましょう!デャッス!!』

 

「なんだこのおっさん」

 

「あれ知らねえの?ぐれぐれぐれん、っつー芸人。何年か前からテレビによく出るようになったろ」

 

「テレビあんまり見ないんだよね」

 

「あ……そっかー……最近の子はテレビ見ないんだっけか……」

 

 ジェネレーションギャップ……と呟いてるベリー。

 

 適当に誤魔化しただけなのだが思わぬダメージを与えてしまったようだ。見る限りベリーの年齢はジェネレーションギャップを感じるほどに達してないように見えるが。

 

「と、ところでベリー」

 

 空気を変えようとAは声を上げた。

 

「あん?」

 

「他にも誰かいるの?」

 

 食卓にはAの分の他に二人分の食事が用意されていた。一人はベリーだとしても計算が合わない。

 

「ああ、それマスターの分。食うなよ」

 

「マスター?」

 

「そ、今は仕事場で仕込みの途中かな。そろそろ戻ってくるはずだぜ」

 

 飲み終えたコーンスープの名残を惜しんでスプーンで器をつついていると

 

 ガチャリ

 

 どこか遠くの方でドアノブの回る音がした。

 

「お、マスターだ。帰ってきたな」

 

 廊下の床が軋む音が徐々にAとベリーのいる部屋に近づいてくる。

 

 果たしてベリーの言うおやっさんなる人物とは──

 

「ただいま〜遅くなって悪いわね」

 

 廊下の奥から現れたのはスキンヘッドに筋骨隆々の肉体をTシャツに窮屈そうに押し込めた偉丈夫。

 

 それだけならまだいい。

 

 Aの目に咄嗟に止まったのは唇に薄く引かれた紅のピンク色であった。

 

 Aの前に現れたおやっさんなる人物の特徴

を端的に表すならば。

 

 筋肉モリモリマッチョマンのオネエ。

 

「変態だぁー!!」

 

「なんですってぇ!?」

 

 未だ白んでいる明け方の空にウマ娘と甲高い男性の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えー改めて」

 

 口火を切ったのは食卓についたベリーだ。

 

「マスターだ」

 

 ベリーは左手でAの向かいに座る男性を示した。

 

「吉田蓮よ。よろしくね♡」

 

 バチコーン、とカっ飛んできた身長180cmはゆうに超えている偉丈夫のウィンクをAは引き攣った笑みで受け止めた。

 

「ここのパン屋の店主をやってる人だ」

 

「パン屋!?」

 

 この見た目で!?

 

 の言葉だけはかろうじて飲み込んだAであった。

 

「パン屋の名前は『ショウ南ノ風』だ」

 

「渋っ」

 

 パン屋なのに名前が和風。

 

「ウチはありきたりなパン屋だからねぇ。名前だけでも特徴的にってね」

 

「はぁ……」

 

 店主がすでに特徴的すぎるのだからその配慮は必要がないのでは……。

 

 これも口には出さない。

 

「……そういえばお前の名前まだ聞いてなかったな」

 

「え?」

 

 マスターの存在感に圧倒されている横からいきなり危機が投げ込まれた。

 

「名前だよ、お前の。まさかないってんじゃないだろうな」

 

「人の名前は聞いて自分は名乗らないは礼儀がなってないわよォ?」

 

「おぉん……」

 

 どうしよう。

 

 今まで便宜上Aと呼んできたがそれも彼女は預かり知らぬもの。

 

 咄嗟に思考を巡らせなんとか切り抜ける術を考えるA。

 

(いっそ前世の名前を名乗るか!?)

 

 いやテイオーの身体で前世の冴えない自分の名前を名乗るのは気が引ける。

 

 窮地に陥ったAが打開策を求め部屋の中を見回すと

 

『ではお次!天気予報に行って見ましょう!春とはいえまだまだ冷え込むこの時期、皆さんもお気をつけください!デャッス!!』

 

 先ほどつけたテレビの中で例の芸人が謎の掛け声と共に珍妙な決めポーズを決める様子が目に入る。

 

 ぐれぐれぐれん。

 

(ぐれぐれ……げれげれ、ゲレゲレ?いや違うぐれぐれん……ぐれん)

 

 ぐれん。

 

 グレン。

 

 Aの頭の中でカチリと何かがハマる音がした。

 

「グレン!」

 

「「え?」」

 

 

 

「俺の名前はグレンって言います!!」

 

 

 

 トウカイテイオー瓜二つの容姿を持つウマ娘が叫ぶ。

 

 A、改めグレン。

 

 府中に位置する小さなパン屋の中で

 

 この物語の主人公はこうしてひっそりと誕生したのである。

 





 自分オカマキャラ好きなんすよね。クレしんのマカオとジョマとか大好き。
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