トウカイテイオーVSトウカイテイオー   作:イモ天屋

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#8 組成 ─raising the flag─

 口を開きそれを頬張ると、前世で慣れ親しんだ味がそのまま味覚に蘇りグレンは思わず顔を綻ばせた。

 

「オメーホント美味そうに食うな……それただのチーズバーガーだぞ」

 

「俺のソウルフードと言っても過言ではある」

 

「それただの過言じゃねーか」

 

 横から飛んできたツッコミを受け流しつつそちらを見やると、隣に座るウマ娘が侍の名がついたハンバーガーを豪快に齧り取るところだった。

 

「お前は相変わらず乙女らしからぬ食い方だなポッケ」

 

「……あむ。乙女だのお淑やかだのはトレセン学園のお嬢サン連中に期待するんだな」

 

 ジャングルポケット。

 

 阿笠の教えを受けたグレンがフリースタイルレースへのリベンジに挑んだ際に接戦を繰り広げたウマ娘その人である。

 そのジャングルポケットがなぜグレンと並んで座ってハンバーガーを食べるほどに親密な仲になっているのか。

 

 事の発端は2ヶ月前に遡る。

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

 グレンは顔面に叩きつけられた封筒を繁々と眺めていた。

 表には『果たし状』の文字。

 

「すいませんが誰かと間違えてませんか?」

 

「間違えてない!お前宛だ!!」

 

 視線を幾分か下げて差出人のウマ娘を見返す。ツインテールにまとめられた髪がゆらゆらと揺れている。

 

「忘れたとは言わせないぞ……ルーさんの仇だ……!」

 

「ルー?」

 

「前にお前に負かされたおかっぱのウマ娘だ!」

 

「あー……?」

 

 そういえば一つ前に走ったレースでそんなウマ娘がいたような気がする。

 

「じゃなんでそのルーさんがリベンジに来ないの?」

 

「お前に負けた悔しさでやけ食いしてお腹壊してる」

 

「何してんだよ」

 

 ていうか俺悪くないじゃん。

 

 と思ったのだが目の前のウマ娘はヤル気満々である。それでなし崩し的に同じレースを走ることになったのだが

 

「ま゛け゛た゛〜゛!!」

 

 普通に勝ってしまった。いや、グレンは3着だったためレースに勝ってはいないが件のウマ娘は最下位だったため勝負には勝った。距離はマイルだったにも関わらず最後の方ではバテていた。スタミナが足りないのとちゃうか。

 

「今まで短距離しか走ったことないから……」

 

「賢さも重点的に鍛えろ」

 

 思わず某緑の人のようなアドバイスを投げつける。なぜ果たし合いの場に始めて走るマイルを選ぶのか。

 とはいえ泣きべそをかいているウマ娘を放っておく訳にもいかないので彼女の鼻をハンカチで押さえつけつつグレンは密かにため息をついた。

 だがこれは始まりに過ぎなかったのである。

 

──数日後、ショウ南ノ風。

 

 厨房で菓子パンに使うフルーツの仕込みをしていた時のことである。

 

「グレンちゃんちょっといい?」

 

 マスターが厨房に顔を覗かせて名前を呼ぶのでグレンは手を止めて返事を返した。

 

「なに?」

 

「あなたにお客さんが来てるけど……」

 

「俺に……?」

 

 グレンはその容姿ゆえに人目を忍ぶ日々を送っている。そんなグレンに来客とは奇妙なことだった。首を傾げながら店に出ると、

 

「よう」

 

 いつぞや、同じレースで1着を競い合ったウマ娘がいた。その後ろにも3人のウマ娘がいる。よく見るとその中の1番小さいウマ娘は先日グレンに果たし状を叩きつけて来たウマ娘だった。

 小さなウマ娘がアッカンベーをグレンに向かって繰り出している前でジャングルポケットは拳を鳴らした。

 

「ウチのが世話になったらしいな」

 

 グレンは彼女らの来店の目的を察したのだった。

 

 

 

 

 

 あれよあれよという間に厨房服を剥ぎ取られ、連れて来られたのは最寄の運動公園だった。

 

「帰っていいですか?」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

 ダメ元で聞いたがやっぱりダメだった。念入りに柔軟をしているジャングルポケットの様子を見るに一戦やるのは避けられそうにない。

 とはいえ、仕事をしていたところにいきなりイチャモンをつけられて連れ出されたのだ。ただ言われるがままに相手に付き合うのは癪に触る。

 

「だいたいレースに勝ち負けなんて当たり前なんだから何が世話だよ」

 

「シマから聞いたぜ〜、お前俺らのことバカにしたってな。フリースタイルレースにしか居場所のない負け犬どもってよ」

 

「は?」

 

 シマというらしいウマ娘の方を見るとあらぬ方向を向いて下手くそな口笛を吹いていた。

 

(クソガキ……!)

 

 心の内で拳を握りしめていると柔軟を終えたらしいジャングルポケットがグレンに向かって歩いてきた。

 

「ぼ、暴力反対!」

 

「あ?レースに決まってんだろ」

 

 相手がウマ娘で良かった、と安心した。

 

「俺はそっちでもいいけどな」

 

「レースしましょうレースはい決定!」

 

 そういうことになった。

 

──数分後。

 

「じゃルールを説明するぞ」

 

 ジャングルポケットを含めた4人のウマ娘の中で、唯一グレンと面識のないポピーを模した髪飾りをつけたウマ娘がグレンとジャングルポケットの間に立った。

 

「距離は1600m、左回り、芝。ルーがいるゴールラインを先に超えた奴が勝ちだ」

 

 大元の原因であるおかっぱのウマ娘が向こうで手を振っている姿が見えた。

 

「じゃ、位置について」

 

 グレンとジャングルポケットが走りの構えをとる。

 

「よーい」

 

 鳥の囀りが聞こえた。

 

「ドン!」

 

 合図と同時にグレンとジャングルポケットは飛び出した。

 

 ハナを掴んだのはグレンだった。

 

 ジャングルポケットは2バ身後ろからグレンを追う展開となった。

 このレースは1600m、マイル。短い勝負の中で決するスピード勝負。

 先を行くグレンが僅かに有利と言えるが

 

(あの末脚は脅威だな……)

 

 以前のレースでその鋭さは充分味わった。ゴールラインが近づく中、グレンは思考を巡らせる。

 

(直線勝負じゃこっちが不利……となるとそれより前のコーナーで差を広げて追いつかれる前に逃げ切るのが)

 

 

「なんだ行かねえのか」

 

 

 その思考を至近距離から聞こえたジャングルポケットの声が妨げた。

 

 咄嗟に振り返ると2バ身あったはずの差がない。

 

(いつの間に……!?)

 

 まさか今の一瞬で一息に差を縮められた!?

 

「じゃお先に」

 

 口角を釣り上げ八重歯を剥き出したジャングルポケットが脚をターフに叩きつける。それを見てグレンは思わず呟く。

 

「こいつ正気か……!?」

 

 今グレン達がいるのは最終コーナー手前。彼女らはおよそ時速70kmものスピードで走っている。ここで加速するとカーブで曲がりきれずに明後日の方向に飛んでいってしまうだろう。だがそんな事などお構いなしにジャングルポケットが加速する。

 弾丸となり飛び出す黄色い影。グレンを追い越し、そのままコーナーに突っ込んでいくジャングルポケット。

 ……だがその身体は吹っ飛ぶどころかグレンの目前で正確にカーブを曲がっていく。よく見ると身体は若干ターフの内側を向いており脚には血管が浮いている。

 

(こいつ……!)

 

 このウマ娘はターフの外側に膨らもうとする身体と遠心力を脚で踏ん張る事で無理やり相殺している……!

 

「力押しにも程があんだろ!?」

 

「ハハハハハハハハハ!!」

 

 勝ちを確信したのか笑い声を上げるジャングルポケット。

 

「やべえ!」

 

 このままでは負ける。訳の分からない言いがかりをつけられた上に屈辱的な泥をつけられるのは目に見えている。

 

──俺何も悪くねえだろ!!!!

 

 負けたくない。

 

「ちきしょうやってやらあ!!」

 

 今ジャングルポケットが行った力任せの芸当。彼女に出来てグレンに出来ない道理はない。

 ターフを蹴り上げコーナーに突っ込む。外側に膨らもうとする身体を無理やり押さえ込んで前に突き進む。

 

「んぎぎぎぎぎ……!」

 

 顔面に叩きつけられる風、無理やり押さえ込んでいるが故に軋む脚。

 ブレる重心のバランスを必死に取り、風に煽られて乱れる脚をがむしゃらに動かす。歯を食いしばり、前へ、前へ、前へ、前へ……

 

 コーナーを抜けた。前を行く背との差は──3バ身か。

 

 ここから先は、

 

「根性勝負だぁ!!」

 

 

 

 前を行く鹿毛の背に向かって脚を回転させる。

 

「……へぇ」

 

 その追い縋る気配を感じ取ったジャングルポケットは小さく笑った。

 

 そして。 

 

 頭一つ分先にジャングルポケットがゴールラインを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いい勝負をしたと思うが負けは負けである。

 

「オラァ煮るやり焼くなり好きにしろやぁ!!」

 

 へたり込みながら半ばヤケクソに叫ぶグレン。

 

「おー、じゃ好きにさせてもらうぜ」

 

 勝者となったジャングルポケットがグレンに近づく。だがその後の展開はグレンの予想を大幅に裏切るものだった。

 胡座をかいて座り込むグレンに片手を差し出したジャングルポケットは

 

 

 

「お前、俺らとチーム組まねえか?」

 

 

 

 グレンは差し出された腕とジャングルポケットの顔を交互に見た。

 

「……は?」

 

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

 

「とういうわけでフリースタイルレースのチーム戦に出ることになりました」

 

「何がというわけでだよ」

 

 夜。

 

 夕食の席で報告するグレンにベリーが突っ込んだ。その横でも箸も手に取らず腕を組み顔を顰めているマスターがいる。

 

「突然連れていかれてたんだから心配してたのよ?」

 

「それは本当にすいませんでした」

 

 深々と頭を下げるグレン。

 

 その身体に外傷は見えないことから、まあそんなに大したことはなかったのだろうと推測し、ベリーとマスターは箸を手に取り夕食の焼き魚に手をつけた。

 

「……で、なんでそいつらとチーム組むことになったんだ?」

 

 器用に魚の骨を取り分けながらベリーが聞く。

 

「あぁ、それはね……」

 

 

─────

───

 

 

「いやー、前からチーム戦に出たいって思ってたんだけどさー。俺ら4人だろ?あと1人足りないんだよ」

 

 フリースタイルレースのチーム戦はメンバーが最低5人までという制限がある。

 

 あと1人のメンバーを探す際、そこでジャングルポケットは以前レースで接戦を繰り広げたグレンのことを思い出したという訳だった。

 

「つっても俺とお前走ったのあの一回きりだろ?」

 

 そこで得心がいったグレンが指を鳴らした。

 

「つまり今のレースは俺の力量を図るためのものだった?」

 

「そうだぜ」

 

「ってことはこの前のシマちゃんの件も……?」

 

「そうだぜ」

 

 道理で無理のある果たし状だと思った。

 

「じゃルーさんも」

 

「それは関係ねぇ」

 

「ないんかい」

 

 それだとルーというウマ娘はただレースに負けて腹壊しただけになってしまうが。

 

───

─────

 

 

「強引なやつだなそのジャングルポケットってのは」

 

「まあ確かに」

 

「それにしても昼間のあの連れ出され方でよくそのチームに入ろうと思ったわね」

 

「まぁ……悪いやつらでは無さそうだし」

 

 走り終わった後、彼女たちからはスポーツドリンクを頂いていた。現金と言われても言い逃れできない判断の仕方である。

 

「で、明日チームを結成するに当たって色々決めるらしいからちょっと出かけるね」

 

「おー、行ってら」

 

「グレンちゃんにもついにお友達が出来たのねぇ」

 

「親か」

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

──翌日。

 

 運動公園に集合したグレンとジャングルポケット達はトラックの中央に座り込んで話し合いをしていた。

 

「まずリーダーだが……ま、俺だな」

 

 勝手に決めようとしたジャングルポケットに割って入ったのはルーである

 

「なに言ってんだ、あたしがやる」

 

 次にグレンが手を挙げる。

 

「いやいや俺がやる」

 

 今度はシマが片手を垂直に挙げた。

 

「はいはい!アタシやります!」

 

「えっ?」

 

 焦ったのは唯一手を挙げていないシマである。

 

「じゃあ私も……」

 

 

「「「「どうぞどうぞ」」」」

 

 

「真面目にやれお前ら」

 

 青筋を額に浮かべたシマに凄まれ、一向はすぐさま真面目モードに移行した。

 

 で。

 

 リーダーだが

 

「俺が1番強いから俺でいいよな?」

 

「異議はないが……」

 

 二戦続けて敗北したグレンが文句を言えるわけもなく。ルーシマメイの3人組もジャングルポケットがリーダーで文句はないようだ。

 次は誰がどの距離を走るかについてである。

 

「グレンは得意距離なんなんだ?」

 

「マイル以外走ったことがないからなんとも言えないなぁ……」

 

「なるほどな」

 

 ノートほどの大きさのホワイトボードに黙々と書き込む就任したてのリーダー。

 

「こんな感じでどうよ」

 

 書き終えたジャングルポケットがホワイトボードを掲げる。それによると

 

 ポケット:中距離

 

 グレン:中距離

 

 メイ:マイル

 

 ルー:マイル

 

 シマ:短距離

 

 となっていた。

 

「俺中距離?」

 

 グレンが疑問を呈するとジャングルポケットは頷いた。

 

「お前のあの走りなら中距離でも通用すると思うぜ。あとはメイとルーがマイル得意だから固定にしてえ。ってわけでこれ以上マイルが増えるのはな……」

 

「なるほど」

 

 そういうことならば身を引き締めて中距離を走らせてもらおう。

 

「ところで長距離走る人いないけどいいの?」

 

「フリースタイルレースに長距離はねえぞ?」

 

「あっ、そっかぁ……」

 

 仮にあったとしても長距離を走れる気は無いのだが。中距離もまともに走れるか分からない現状、長距離など絶対ごめんだとグレンは内心思った。

 リーダーも決まり、各々の走るレースも確定した。あと決めるのは

 

「チーム名、だな」

 

「はいはい!『ホットサマー』がいいです!」

 

「『ゼラニウム』にしようぜ!」

 

「私は『チャーマー』がいいな」

 

「『にんじんぷりん』」

 

「一気に喋んなお前ら。あとグレンはなんだ、腹減ってんのか?」

 

 ちなみに上からシマ、ルー、メイ、グレンの順である。

 

「けどな、お前らには悪いがチーム名はすでに決めてあんだよ……」

 

「何!?横暴だぞ!!」

 

「ヘッヘー!リーダー特権ってなぁ!」

 

「シマ!メイ!グレン!やるぞ革命だ!」

 

「「おう!」」

 

「政権崩壊早いな」

 

 巻き込まれるのは嫌なので取っ組み合いを始めるジャングルポケットとルーシマメイの4人からすぐさま距離を取るグレンであった。

 

「まぁ待てって。我ながらいい名前だしよ、それに文句を言うなら名前を聞いた上で言ってくれよ」

 

 ジャングルポケットの言い分にも一理あるのでその場は一旦収まった。

 

「で、どんな名前?」

 

「それはな……」

 

 先ほどのホワイトボードにペンを走らせるジャングルポケット。ペン先がホワイトボードと擦れて立てる甲高い音がしばらく続いた。

 

「……よし」

 

 満足そうに頷いてジャングルポケットがホワイトボードをグレン達の方へ見せる。そこに書かれていたのは

 

「……L/Roars?」

 

「ロアーズ、な」

 

 roarとは叫ぶ、唸るを意味する英単語だったはず。先頭のLの意味は分からないが……

 

「いいんじゃない?」

 

 Roars。叫ぶ者達。

 

 フリースタイルレースのチーム戦へと名乗りを挙げる彼女らにピッタリの名前である。

 

「まぁ……悪くはねえな」

 

「ロアーズ、か。響きもかっこいいしな」

 

「流石ポッケさん!」

 

 へへ、と鼻の下を人差し指で擦るジャングルポケット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──後に

 

 東京最強として恐れられることになるL/Roars。

 このチームは初期メンバーであるジャングルポケット、グレン、メイ、ルー、シマ達と新たに加わるメンバーも合わせて6人から構成される精鋭チームとして名を馳せることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、それはもう少し先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─※─※─※─※─※─※─※─※─

 

 場面は戻り、冒頭。

 

 チーズバーガーの最後の一口を嚥下しコーラで流し込む。向かいの席ではチームメイトの3人もちょうど食べ終えたところだった。

 

「よし、行くか」

 

 チームリーダー、ジャングルポケットの声にグレン達は頷く。

 これから彼女らが赴くのはフリースタイルレースのチーム戦が開催される東京某所のレース場。

 

 L/Roarsの旗揚げとなる一戦だ。

 

 チームは集って歩いていく。

 

 レース場に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでソースついてんぞポッケ」

 

「ウェッ!?ホントじゃねーか!早く言えよお前!!」

 

「しまんねえなー……」




 次回、新章突入。

 と行きたいところなんですが書き溜めが終わったり身が忙しかったりするので更新はしばらくおやすみします……許して。半年後くらいに再開予定ですのでどうかそれまでお待ちくださいませ。
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