ヘヴンリーロマンス   作:If_i_were_you

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ウマ娘 プリティーダービーの二次創作です。

「もしも競走馬のヘヴンリーロマンスがウマ娘だったら」という空想のもと書かせていただいています。概ね史実準拠となりますが、改変も含まれます。
ヘヴンリーロマンスの勝ち鞍の天皇賞・秋および名馬の肖像にインスパイアされています。
書きたいシーンの書きなぐりです。空気感を感じ取っていただけますと幸いです。

⚠️メインは元ネタありのオリジナルウマ娘/オリジナルキャラクターにつき、苦手な方はご注意ください。
⚠️デリケートな題材なため、問題が発生した/発生しそうな空気感を察知した場合、予告無く削除させていただく可能性がございます。

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今作には出てきませんが、ウマ娘化も発表された、同期で牝馬三冠馬のスティルインラブと同じ新馬戦に出て惨敗し、以降対戦は少なかったもののスティルインラブには全て先着されて負けている、牝馬三冠未出走の牝馬のヘヴンリーロマンス。そんな彼女が、スティルインラブの栄華の終わりに取って代わるように人気薄で札幌記念→秋天と勝ち上がった姿といい、繁殖に上がってからのこの2頭のそれからといい、この2頭には見えなくも確かな縁のようなものを感じる気がします。



The Fall of Romance

 

 優美な花々にはなれなかった。華麗な女王にもなれなかった。

 何者にもなれない者を見る者などいない。そう思っていたのは、他でもない私自身だった。

 晩夏の風に乗ってひらりと届いたのは、百年に一度催される、特別な秋の舞踏会の招待状。

 ――なんの皮肉だろうか、誰も私なんて見やしないのに。

 破り捨ててしまおう。手をかけた瞬間、一人の男がそれを阻んだ。

「君にも資格がある」

 そんな言葉とともに。その真剣な声は、希望に溢れたまっすぐな表情は、一つのきっかけとなって、私の縮こまった背中をはじめに押した。

 

 彼の差し出す手を取り、ひとつ、ふたつと順にステップを踏む。笑われてしまうくらいにひどくゆっくりなテンポでも、無駄なく着実に、間違えないように。

 ターンを重ねる度にあの勇敢な英雄が、気鋭の魔女が、艶美な踊り子が視界の端に映る。

 ああ、なんて眩しいの。輝きに目を細めて、逸らしてしまいそうになるその度に、リードする手は私に「今踊っているのは誰でもない、君だ」と、目の前のみを見つめるよう促す。ただ前を、前のみを見つめて、目の前の彼にだけ身を、心を委ねて‪――‬

 突然、バンと強い光がその場を照らす。体感にしてわずか二分、秋の訪れを歓ぶ円舞曲が、天地をも震わす万雷の喝采に変わった。

 ああ、私も、と思ったとき、溢れかえる音たちを耳が拾ってふと気づく。その喝采を送られているのが、煌びやかなホールの中央にいるのが、他の誰でもない自分自身であることに。

 奥に見える玉座には、こちらを見ながら優しげな表情で拍手をされる、美しい佇まいの主賓の御二方。

 都合の良い夢でも見ているかのような光景を前に、上がった息もそのままに呆然と立ち尽くしていると、彼に再び手を引かれる。宝物に触れるかのように緩やかで麗しく、極めて丁寧なそれはリードではなく、正にエスコートであった。

 おずおずと握り返した彼の手に導かれ、その先にたどり着いたのは、叡覧あらせらるこの舞踏会の場に据えられた玉座、そのすぐ真下。

 喜ばしげな両陛下の前で、彼は胸に手を当て膝を折り、恭しく頭を垂れた。ふわふわと浮き足立ったまま、その美しさと格好の良さに傍で思わず見とれていると、繋がれたままの手が軽く握られた。「さあ君の番だ」。そう伝えるかのように。

 私の番。意識した途端、非現実的だった感覚が現実味を帯びだして、身体がかたかたと震え出す。膝が笑いそうになるのを叱咤しながら、私は足を引き、スカートの裾を軽く持ち上げ、膝を曲げ、腰から深く頭を下げる最敬礼をした。きっとお披露目することなど金輪際ないだろうと思いながら何度も練習した、異国の血を引く私の馴染んだ最大級の敬礼、カーテシーを。

 彼と私が揃って挨拶をしたことで、ホールは再び大きな喝采と祝福の言葉でいっぱいになった。光栄極まりなくも想定外な現状に、頭の上げどきが分からずちらりと彼の方に助けを求め目を向けた、そのとき。

「ほら、言った通りだ」

 彼は同じくまだ頭を垂れたまま、目線だけでこちらを得意そうに見つめて笑いながら、私にだけ聞こえる声でささやいた。

 ――本当だ。本当にこの人の言った通りになった。

 本当に私にも資格があった。百年に一度の舞台で、古くは神々にも通づる御方々の前で、誰よりも輝くことができた。

 何者にもなれなかった私を信じて手を引いた、彼のエスコートで。

 ――ああ、もう。ずるい。

 実直で、丁寧で、優しくて、……格好良くて。まるで神様の加護を受けているかのように聡明で、眩しい人。

 堰を切ったかのように感情が溢れ出て、知らないふりで見逃し続けたそれが何なのか思い知らされる。頬の温度が急上昇していって、あまりの恥ずかしさに彼から目を逸らす。冷たさを帯び始めた秋風がかっかと火照る頬を掠めたけれど、宿った熱を奪うには優しすぎた。

 

 その日、拍手喝采のいつまでも鳴り止まぬこの場所で。優美な花々にも華麗なる女王にも、何者にもなれなかった私は、天の御座すこの舞台で『舞姫』になった。

 そしてその日、百年に一度の神聖なるこの場所で。私は手を引き続けてくれた彼に――神様に愛されたエスコート役の騎士に、恋をした。

 

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