【完結】インターネットミームしか喋れないTS強化人間 作:むにゃ枕
12 都市伝説、街談巷説、道聴塗説
アクシズ内乱を経て、地球圏へ帰還したシャア・アズナブル。名をクワトロ・バジーナと改め、不正に連邦軍籍を得た彼が、まず行ったことは地球圏の情報収集だった。
反スペースノイド組織であるティターンズが成立したことや、デラーズ・フリートの残党がアクシズへと合流したことはアステロイド・ベルトでも手に入った情報だった。しかし、赤い彗星とネオ・シーマ艦隊の噂はそうではなかった。
赤い彗星がシーマ・ガラハウと組みネオ・シーマ艦隊を結成し地球圏を荒らし回っている。そんな奇妙な噂が巷でもちきりなのだ。
当然、その赤い彗星はクワトロ本人ではない。偽物か僭称であることは間違いない。
ネオ・シーマ艦隊と称される艦隊は、ザンジバル級一隻とチベ級二隻で構成される高速巡洋艦隊であり、艦載MSはゲルググで統一されている。
連邦軍はザンジバル級をリリー・マルレーンと同定した。シーマ艦隊とは戦術に違いが有ったために、その艦隊を推定新シーマ艦隊、新シーマ艦隊などと呼称していた。そしてその艦隊はいつからか報道で、ネオ・シーマ艦隊と呼ばれるようになった。
ちなみにリリー・マルレーンのクルーはそんな艦隊名を名乗ったことは無い。単に、この艦隊とかリリアンとリリー・マルレーンを掛けてリリー艦隊とか呼んでいただけである。
赤い彗星の由来は、リリアンの乗るガーベラ・テトラだった。ゲルググよりも速度が速い。赤いMS。つまり赤い彗星、もしくは真紅の稲妻ではないか。メディアや人々は短絡的にそう結論付けた。
スペースノイドの間に有った、ティターンズへの反発心がそうさせたのか、赤い彗星が地球圏で暴れているという噂は簡単に広まったのである。
それが真相なのだが、リリー・マルレーンのクルーも、赤い彗星の偽物となったリリアンも世間から追われる身分であり、巷の噂に疎かった。彼らに問いただしても本気の困惑しか得られないだろう。
クワトロ・バジーナが掴んだ情報は、偽物の赤い彗星とネオ・シーマ艦隊なる艦隊が地球圏で暴れている。その艦隊はザンジバル級リリー・マルレーンと、チベ級二隻で構成され、アナハイムが背後にいるのではないかといった程度の情報だった。
「アポリー、連邦宇宙軍は僅か三隻の艦艇すら沈められないほど弱体なのか?」
「まさか。奴らがやり手なだけですよ。高速艦艇で纏めているしアナハイムがバックに付いている。連邦にとっちゃやりにくいでしょうね」
「シーマ・ガラハウが、そこまで優秀だとは思えんが」
「リリー・マルレーンはシーマの乗艦です。なら指揮官はシーマ・ガラハウと考えるのが普通でしょう。シーマは一年戦争でもエースでした。戦略家の才も有ったんでしょうな」
クワトロは少し考え込んだ。だが、はっきりとした答えは浮かばなかった。判断材料が足りないのだ。精度の高い情報を得ることは現状の立場では難しい。
現状クワトロに、有力な連邦軍内部のコネクションは無い。また、アナハイムとの繋がりも薄かった。つまるところ彼らは単なる地球連邦軍の下級将校でしかないのである。
「連邦軍人とのコネを作る必要が有るな。このブレックス・フォーラという准将は、優秀な男なのか?」
「はい。大尉。奴には利用価値があります。ティターンズへのカウンターパートを担う組織。その柱になるだろう人物です」
「そうか。彼との接触を図る。私の偽物はその後で対処するとしよう」
クワトロ・バジーナ大尉はブレックス・フォーラ准将を軟禁状態から解放したことで、彼の右腕となる。そして反ティターンズ組織、エゥーゴを立ち上げるのだった。
エゥーゴ設立後、月面都市フォン・ブラウンにてメラニー・ヒュー・カーバインはブレックスとクワトロにとある人物を紹介した。
「我々に紹介したい人物、それが彼女だと??」
「君は……!?」
クワトロは無意識に内股になった。強烈な蹴りを股間に放たれたことを忘れてはいなかったからだ。
少女は、人を駄目にするソファに埋まり、ヘッドフォンをしながらゲームのコントローラーを握っていた。とても他人に会うような態度ではない。彼女はブレックスとクワトロを一瞥すると直ぐにモニターに視線を戻した。
「リリアン、客人だ。そんな態度を取ったらレクト大尉が悲しむぞ」
「それって、あなたの感想ですよね? なんかそういうデータあるんですか?」
「社会常識の話だ。君は単なる兵器や部品ではないんだろう、人間として見て欲しいなら人間としての振る舞いをするべきだよ」
「チッ、うっせーな。反省してまーす」
渋々といった様子で、少女はソファから立ち上がる。ラフな格好をしているが、濡れた犬の匂いはしない。軽くペコリと頭を下げた。それから、メラニーの表情を伺う。
「この子はリリアン・ブーステッド。ジオンの開発した強化人間だ。性格に難は有るが、これでもマシにはなったらしい。戦闘能力は高い。私は、ニュータイプなどというオカルトを信じてはいないが、世間はそうではないらしい。
クワトロ大尉、いやシャア・アズナブル。ニュータイプと言われたこともある君なら彼女をどう評価するかな?」
クワトロは、リリアンの変わり様に驚いた。獣のような破天荒さが薄くなり、渋々だが他人に頭を下げるようになったのだから。
気がつくと、彼女の手がクワトロの手を握っていた。
「オラ! 催眠!」
「なにをッ」
――突如、クワトロの脳内に溢れ出す存在しない記憶。
実験装置、採血、そして鏡に映った光を失った瞳。眩い光の向こう側へと渡った少女の魂が消えるところ。そして彼女の身体に紛れ込んだツギハギだらけの壊れかけの魂。
クワトロをいざなった少女が、口を開くが言葉は出てこない。
それからは、戦争が有った。何機も何機も、何隻も敵を屠る。ゲームの画面のようで現実感はそこになかった。
そして、少女の手に温もりが与えられた。彼女の固まった表情がゆっくりと溶けようと……
――そこでクワトロの意識は浮上した。
「……私は、何を」
「クワトロ大尉、ニュータイプには感応という現象が有るそうだね。それで、君は彼女から何を感じたかな?」
メラニーは笑みを浮かべていたが、その瞳までは笑っていなかった。
「雪解けを、人の成長を感じました」
「そうか。興味深い。さて、余興は終わりにして商談に移ろうか。良い取引が出来ることを期待している」
メラニー・ヒュー・カーバインはエゥーゴへの支援を約束した。そして乏しいエゥーゴの戦力を補填するために、強力な部隊を送るとも伝えた。
萌芽はもうすぐそこだった。