【完結】インターネットミームしか喋れないTS強化人間 作:むにゃ枕
レクトの目に映ったのは、不愉快な光景だった。彼の傑作であるリリアンが、懲罰房の御世辞にも綺麗とは言えないベッドで寝ているのだ。
ア・バオア・クー要塞の懲罰房は汚い。これは、要塞以前の資源小惑星であった頃の設備を使っているためである。その他の部分は新しく、なかなか綺麗だったりする。
「レクト技術大尉、その、あの子は悪い子じゃないんです。でも、手癖が悪くて力も強いしちょっとうちの船では扱いきれなかったというか……」
「ミレイ伍長だったか? リリアンは何をやらかしたんだ?」
ミレイの頬に朱が差す。
「その、…………わ、私への、セクハラです」
「……は???」
椅子からずり落ちそうになったレクト。リリアンが、愉快な性格をしていることは承知していたが、同性へのセクハラということはデータに無かった。
「詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
「ぷ、プライバシーの侵害です。私は喋りません。それにあの子の所属も裏取りができません。これは異常です」
「命令だ。俺はフラナガン機関の人間だ。一般兵が知ることの無い部隊だからな」
ミレイは渋々といった様子で口を開く。
「あの子、私のぱ、パンツを頭に被ったり匂いを嗅いだり胸を揉んできたり、お尻触ってきたり、パンツ脱がせようとしてきたりしたんですよ!! それをやめさせようとした船の皆がボコボコにされたんです!」
天を仰ぎ、こめかみを押さえ、レクトは謝罪をした。
リリアンがモゾモゾと動き、緩慢に目を開いた。
「起きたか。 何か言うことが有るんじゃないか?」
「記憶にございません」
「目を逸らすな。彼女に謝罪をしろ。全く、こんなことはデータに無かったぞ」
「許し亭ゆるして」
「この馬鹿が。所詮は強化人間か。俺に面倒をかけやがって」
レクトはミレイに向き合い、真剣な表情を浮かべる。軽くヘッドロックをされたリリアンは大人しく転がっている。
「ミレイ伍長、ここからは機密になる。リリアンはニュータイプに勝つべく産み出された強化人間だ。識字能力が欠如していて、読み書きができない。それに発語能力も異常だ。今回の件を見るに、善悪の区別も曖昧らしいな。
彼女を実験動物として扱ってきた俺だが、情が移ったらしい。彼女を頼む。あの子は、安定しているし薬剤も必要ない。この戦争に勝とうが負けようが、一生モルモットか解剖されるかしか未来がない。リリアンを単なる女の子として扱って欲しい。俺のエゴと軍の歪みが産み出した、哀れな彼女をよろしく頼む」
「ちょっ、ちょっと待ってください!? 情報量が多いんですけど!?」
「時間が無いからな……ほら、始まったぞ」
けたたましいアラートが、要塞内に鳴り響く。
「えっ?? て、敵ですか?」
「それ以外に何が有る?」
「うぅ……そんなぁぁ、せっかくソロモンで生き残ったのにぃ」
ムサイ級軽巡洋艦ジャーヴィスは、ルウムに参加し、ソロモンから戻ってきた歴戦の艦である。ミレイの母艦であり、レクトが生命をかけてまで守りたいリリアンが乗っている艦でもある。
「こちらG01、帰投した。敵はまだこちらを見つけていないようだな。ジャーヴィス隊は戻ってこないか……」
「うちの連中ならどこかで油売ってますよ。そういう奴らです」
「なら、良い。リリアンは良く眠っているか?」
「えぇ、お転婆お嬢様はすやすやです」
「問題はないか。まったく。強化人間を秘匿することで、彼女の存在を連邦ジオン両方に掴ませないなど、我ながら愚かだとしか思えん」
「大尉が人間だった。それだけのことです」
「はっ、俺が人間ねぇ」
ゲルググのモノアイが、このフィールドが崩れはじめたのを捉えた。
「ジャーヴィス、頃合いだ。ケラマ・ポイントへ離脱しろ。ジャーヴィス隊は俺が拾う」
「あんた死ぬ気か? うちのMS隊のことは良い。あんたのお姫様を守ってやれ」
「どいつもこいつも、人が良すぎる……」
「あんたもだろ」
グワジン級を中心としたギレン親衛艦隊が離脱したことで、連邦軍の攻勢は勢いを増していった。その結果としてジャーヴィスは、殿の一部に組み込まれることとなっていく。
「敵の数が多い!! クソ! 親衛隊の臆病者め! これだからギレンシンパは嫌いなんだ」
「MS隊を援護する。孤立させるな」
生き残りから構成された臨時のMS隊を指揮するレクトは、罵詈雑言を吐きながら戦闘を継続していた。
レクト隊はよく支えた。だが、多勢に無勢だった。 一機、また一機とMSが落ちていく。ゲルググは撃ち尽くしたライフルを捨て、ビーム・ナギナタを構える。
「停戦だと?? この状態でか??」
オープンチャンネルで流された停戦命令。それは、レクト機に一瞬の硬直をもたらし、彼の生命を奪うのには十分な隙を連邦のジムに与えた。
「ナニカッテニイッテンダヨオレガゼンゼンキモチヨクネエダロウガ」
「リリアン、出てきたのか……」
レクトの命運を変えたのはリリアンだった。強化人間に睡眠薬はあんまり効かない。
「おちんちんはさぁ、ご褒美なんだよ!」
少女の口から出るには似つかわしくない言葉を吐きながら、リリアンはジムを落としていく。一騎当千。たった一人の絢爛舞踏。
ジャーヴィスは虎口を脱し、カラマ・ポイントへと逃げ延びたったのだった。