今回は人間がオリジナル主人公です。そして今まで扱ったことのない「剣術以外で鬼を狩る人間」という設定で行きます。
まぁ、序盤から結構重い設定を披露してますけど。
テーマは「〝剣の才能〟以外に恵まれた鬼狩り」です!
全ての事柄に例外が存在するように、全ての事柄には「偏り」が存在する。
技量は最高位だが筋力が足りない者。
一つの型しか使えない者。
必要不可欠な呼吸法が使えず、必要な才能自体が低い者。
人間には長所と短所が必ずあるが、それと上手く付き合うことで彼ら彼女らは強く逞しくなる。
そして中には、偏りの極致としてこんな人間もいる。
何でもできるが、周囲が最も求める〝一番大事で必要な才能〟が全くない者。
これは、日本一慈しい鬼退治に巻き込まれた、剣の才能だけがない男の物語。
*
生きてさえいれば何とかなる。
死ぬまでは負けじゃない。
地面に頭をこすりつけようが、家がなかろうが泥水をすすろうが、金を盗んだことを罵られようが。
生きてさえいれば、いつか勝てる勝ってみせる。
そう信じて進んできた。
寺の金を盗んだことを責め立てられ、危険な夜に追い出された少年・
恐怖に固まりながら、獪岳は土下座をして命乞いをする。
地面に額を擦り付け、震えを堪えながら言葉を絞り出そうとした時だった。
「おっ、今日は運がいいな」
「「!?」」
不意に第三者の声が聞こえ、ザッと獪岳と鬼は同時に声の方へ顔を向けた。
刹那、鬼の身体を長い何かが貫いた。先端に包丁が括りつけられた竹の槍だ。
「な……!?」
「お前ら鬼は頸が硬いが、それ以外はそんなに硬くねんだよなぁ」
獪岳と鬼は、目の前に突如現れた子供の姿に目を見開く。
現れた子供は、着流し姿で手製の槍を手にしている。見た目は獪岳と同い年ぐらいで、顔には額の左側から側頭部を覆う炎のような痣が目立つ。
明らかに人間、それも非力なはずの子供なのに、歴戦の強者のような堂々たる佇まいだ。
「な、何だお前は!? 鬼狩りか!?」
「俺か? 俺はしがない狩人さ」
不敵に笑う子供に、鬼は「野盗か……!?」と顔を歪めた。
獪岳としては状況は最悪だ。人喰い鬼だけでなく野盗の子供もいる。どっちも「狩り」が得意なのはひしひしと感じる。
鬼だけでも最悪なのに、野盗も相手にして生き残れるのか……獪岳は絶望的な状況下で必死に頭を動かした、その時だった。
「あぇ……?」
「おっ。テキトーに作ったが効いてきたみたいだな」
不意に、鬼が胸を押さえて苦しみ始めた。
獪岳と鬼が驚いている間に、子供はその隙を逃さず、手製の槍で心臓を一突きした。
「かはっ!?」
「こいつにも塗ってあるぜ、藤の毒。気持ちいいか?」
子供はニヤリと笑う。
竹槍の先端と槍の穂先には、藤の花と莢、豆を擂り潰して水で溶かした液体が塗られていたのだ。
頸を斬れないなら、毒で殺せば良いというわけだ。
「な、何でだ……鬼狩りでもねぇ、ただの子供が……」
「俺にとっちゃ、人も鬼も獲物なんだよ。俺の狩場で悪さ働くバカは殺さねぇとな」
子供は、獪岳と鬼を見据えて言う。
鬼狩りではないと言ったが、その目は間違いなく狩人のそれで。浮かべる笑みは、まるで獲物を見つけた肉食獣のような獰猛さを秘めていた。
すると鬼は、子供に取引を持ち掛けた。
「お、おい人間の小僧……取引と行こうじゃねぇか……」
「……一応聞こう」
「このガキをくれてやるから、俺にあの寺の人間共を寄こせ。こいつは寺の人間を俺に売ったんだ、別にいいだろ? お互い狩人だ、仲良くいこうぜ……それと藤の毒をどうにかしてくれ」
そんな鬼の甘言に対し、子供は答えを出した。
――槍を引き抜き、竹槍を押して鬼を崖から突き落とす形で。
「さっき言ったろ、俺の狩場で悪さ働くバカは殺すって」
「――うぎゃああああああ!!」
鬼の断末魔の悲鳴が響き、グシャッという嫌な音が獪岳の耳に届いた。
崖下を覗くと、地面に叩きつけられた鬼が苦悶の表情を浮かべながら倒れていた。藤の毒に侵された以上、もう助からないだろう。
すると、縄張りを荒らした愚か者を葬った子供が獪岳に向き直った。
「……で? お前はどうする? 仲間を売ろうとした理由と証拠はなくなったぞ」
「こ、殺さねぇのか……?」
「まぁな…俺は人間を狩る趣味はない」
子供は手製の槍を担ぎ、背を向けた。
「人生は重要な選択の連続だと、ある人が言った。古寺に戻るのもよし、このまま消え去るのもよし。どうするかはお前が決めろ」
子供は「じゃあな」とだけ言い残して歩き出す。
もう獪岳を気にする素振りはない。まるで関心を失ったと言わんばかりに。
立ち去っていく子供の背中を見つめながら、獪岳は悩んだ。得体の知れない奴だが、彼がいなければ鬼に殺されていたし、今はあの化け物と遭遇して生き延びる術もない。それにこのままここにいても、飢え死にするか別の鬼に殺されるかの二択だろう。
寺に戻るのもアリだと思ったが、なぜかあの寺には戻りたくないと思った。
獪岳は、手製の槍を担ぐ子供の背中を追いかけた。
「……おい!」
「ん?」
子供は足を止めて振り返る。
獪岳は緊張で顔を強張らせながら、言葉を絞り出した。
「俺も……一緒に行く! 行かせてくれ!」
「……」
獪岳は「頼む……!」とその場で土下座したが、子供は止めていた足を進め始める。
やはりダメなのか。もう一度泥水を啜る生活に戻るのか。
そう思った時。
「何してんだ、来いよ」
「は?」
「ついて来な。俺は遠慮しねぇぞ?」
顔を上げると、子供はニヤリと笑う。
獪岳は迷わず頷き、子供について行った。
「そういや聞いてなかったな。名前は?」
「獪岳」
「そうか。俺は
「は?」
槍を背負う子供――槍木の言葉に獪岳は思わず聞き返した。
「相棒って……俺はまだあんたと会ったばかりだぞ?」
「関係ねぇさ、運命の出会いってのにはな」
槍木はそう言うと、懐から桃を一つ取り出した。
「ほらよ。俺の家までは一里あるからな。腹の足しにすると良いぜ」
「……」
獪岳は差し出された桃を受け取ると、歯を立てた。
すると瑞々しい甘い汁が口内に流れ込み、一気に空腹を思い出した身体は瞬く間に桃を完食してしまった。
「……美味い」
「そうか、そりゃ良かった」
槍木の試すような視線に、獪岳は深々と息を吐いた。
そして手の中の食べかけの桃を見つめる。
(……こいつについて行けば、少なくとも鬼には殺されずに済むな)
この出会いが運命なら仕方ない――そう自分に言い聞かせ、獪岳は槍木と共に歩き出した。
翌日の朝。
古寺で孤児達と暮らす盲目の青年・
獪岳がいないことに気づき、寺の子供達に問い質したところ、獪岳が金を盗んだからと夜中に外へ追い出してしまったのだと涙ながらに謝った。
悲鳴嶼は背筋が凍る思いだった。確かに金を盗んだのは悪いことだが、だからと言って鬼の脅威の伝承が残るこの地で夜に追い出すのは、鬼の餌になれと言っているようなものだ。
悲鳴嶼は獪岳を探そうと山の中を歩き回ったが、獪岳の姿はどこにもなかった。
「獪岳……一体どこへ……」
行冥は不安に思いながら、寺への帰路についた。
するとそこで猟師と遭遇し、事情を説明すると、彼は気になる言葉を口にした。
「お前さん、知らんのか? この辺りで
「槍の子…?」
猟師曰く。
この近辺では数ヶ月程前より、手製の槍を持った子供が度々目撃されており、夜中に縄張りの見回りをするかのように山の中を歩き、時折
子供が何者なのかは不明で、伝承に伝わる鬼なのか、それとも野生児なのか、真相は定かでない。
「実は山の向こうの村でも目撃情報があってな……その獪岳という子は襲われたのかもしれんぞ」
「そんな……では、獪岳は……」
「それはわからん。だが普通の人間、ましてや身を守る武器もない幼子が夜山で無事であるとは考えにくいな……」
猟師はそう言って立ち去った。
悲鳴嶼は呆然と立ち尽くし、獪岳の生存が絶望的であることに打ちひしがれた。
「獪岳……」
悲鳴嶼は静かに涙を流し、寺への帰路についたのだった……。
*
話は変わるが、槍木國広は転生者である。
平成4年に生まれ、令和4年に不慮の交通事故で命を散らした彼は、何の因果か
槍木はいわゆる〝アニメ派〟であり、原作漫画を履修してはいない。しかもアニメは遊郭編までしかチェックしておらず、その先の物語については全く知らない。なので鬼殺隊と鬼の始祖・鬼舞辻無惨との1000年以上にも及ぶ死闘の結末も、鬼殺隊の主要人物達がどうなったのかも全く知らない。
そんな彼だが、風習や迷信が根強い「
「な、何だよそれ……」
獪岳は國広の出生の秘密に、思わず声を震わせた。
盗みを働いた孤児と、実父の慰み者となった三女から生まれた子供とでは、世間からの風当たりの強さは雲泥の差だ。露見すれば間違いなく差別対象となり、幸せに暮らすことはまずできないだろう。
もしかすれば、たった一人で山暮らしをしているのは、自分の出生の秘密を誰にも知られたくないという思いが強いからなのかもしれない。
「……それから何年かして、屋敷の敷地から出ないことを条件に座敷牢から出ることを許された。久しぶりの外の空気は美味かったが、俺はいつ鬼に襲われてもいいように体を鍛え始めた」
「それを村は許したのかよ?」
「むしろ知った途端に色々勧めてきたよ。気味が悪いくらいにな」
忌々しい当主と親族、そして村人達は國広の鍛錬を手助けし、その過程で色んな武器の扱いを指導した。
村八分同然の扱いから嫡男のような待遇に手の平返しをした村に、強い違和感を覚えつつも、國広は生き残るために熱心に鍛え続けた。
山梔子村の真実を知るまでは。
「山梔子村はな、鬼と手を組むことで私腹を肥やしてたんだ」
「……は?」
「正確に言えば、命からがら逃げてきた雑魚鬼達を匿い、汚れ役を担わせたって話さ」
それは、母の冴子が親族との会話を盗み聞きして知った、悍ましい真実。
何と一族だけでなく村全体が、私腹を肥やすために鬼を助け、あまつさえその鬼に人を襲わせる手助けをして見返りを得ていたというのだ。しかも生贄は村の掟に背いた者や村に不要な子供、挙句の果てには人買いから買った子供を捧げたという。
大勢の人々を犠牲に暮らす、信じられないくらい醜悪な村。村全体がいい想いをして暮らすために鬼をも利用するという非道ぶりに、獪岳は「村ぐるみでイカれてやがる…!」とドン引きした。
「あのカスジジイ、自分にとって
「いらない身内って……じゃあ、お前も……?」
獪岳の問いかけに、國広は無言で頷いて話を続けた。
母の冴子は時治が「あの忌み子を差し出す」と自分以外の親族に宣言したのを盗み聞きし、母として我が子に嫌われる覚悟で涙ながらに真実を明かした。
國広は母親の心中を察し、すぐにでも村を脱出するべきだと主張。冴子も息子の覚悟を受け止め、共に村から出奔した。しかし二人の逃亡を察した時治がせっかくの上等な生贄を逃すわけに行かないと追手を放ち、追い詰められた冴子は國広を逃がすために囮となり、村人達の手によって殺された。
――生きて、國広!!!
その最期の叫びを、國広は昨日のように憶えているという。
「その後俺は、近くを通りかかった猟師に拾われてな。村のことを話して半年だけ匿ってもらい、山での生き方を教わって出てって今に至るんだ」
「……」
「結局、どこに行っても弱い者がいつも食い物にされるんだ。人も鬼も関係ねぇし、才能の有無もお構いなしだ。だから、俺はそれが嫌で今のような平穏な暮らしをしている。……出生もあるけどな」
お椀に注いだ汁を啜る國広に、獪岳は何と声をかければいいかわからなくなり、黙って俯いた。
極悪非道な村のせいで、自らの人生を生まれた頃から滅茶苦茶にされ、母の尊い命が奪われた。それと比較すると、自分がいかにマシな暮らしをしていたかが身に染みてわかった。
「獪岳、後ろ指を差される点では俺とお前は同類だ。だからここで静かに暮らそう。自分の時間を自分の為に使い、自分の為に生きるんだ。俺はそれで良いと思っているし、そうするつもりだ」
「國広……」
「じゃあ、俺は寝る。藤の花の香炉を焚いてあるから、安心して寝るといい」
そう言って、國広はさっさと寝てしまった。
獪岳もお椀の汁を全部かき込むと、香炉から漂う藤の花の香りに誘われるように眠りについたのだった。
同時刻、山梔子村。
鬼に助力することで私腹を肥やす悪徳の村を統べる齢八十の当主・槍木時治翁は、酒盛りをしつつ鋭い眼で頭を垂れる村人達を見やった。
「あの忌み子はまだ見つからんのか?」
「は、はい……申し訳ありません……」
「ふんっ…・・・親子共々、余を手間取らせおって。だから生き汚い人間はこの上なく愚かで醜い。人間、ああはなりたくないのう」
フンと鼻を鳴らし、酒を呷る。
時治は冴子が嫌いだった。長女と次女は喜んで身を捧げたというのに、末の三女は自分を化け物のように恐れ続け酷く癪に障った。忌み子だと村人から恐れる國広も、鍛錬に集中するあまりに自らの洗脳教育が通用しなかったため、國広も慰み者にしようかと考えた程に苛立った。
そんな二人が村から逃げた時は肝を冷やした。自らの村ぐるみの悪事が露見すれば、山梔子村ごと一族が破滅する。ゆえに追手を放って二人を始末しようとしたが、冴子が自らを犠牲に國広を逃したことで、あの忌み子は行方不明となってしまった。
「まぁ、よい。どの道カスのような人生を送って惨めに死ぬじゃろうよ」
「では、打ち切るおつもりで?」
「いや、國広の捜索は続けよ。この時治、いや山梔子村にとっての不穏分子じゃからな」
「御意…」
時治翁の言葉に従い、村人達は静かにその場を後にした。
第一話はここまで。
オリ主は「数多の人間を犠牲にして私腹を肥やす悪徳の村に生まれ、慰み者だった母の自己犠牲で生き延びた」という壮絶な出自ですが、自身の出生が世間には受け入られないと自覚してるので、ひっそり山暮らししてます。
そして時治は文字通りの吐き気を催す邪悪で、半天狗や玉壺がドン引きするくらい醜悪極まりない性格をしてます。老害ってレベルじゃないです、マジで。
ちなみにオリ主を拾って半年だけ面倒を見た猟師って、又造って名前です。