その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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今回は一足早くヒョヒョッとした奴を登場。


第十話 硫黄と木炭と土間の土

 遊撃隊を組織した國広は、隊士の質の低下に悩む鬼殺隊を補助するように鬼を撃破していった。

 呼吸の型を全て覚えられない者、身体能力が劣る者、適性が薄く使いこなせているとは言い難い者……隊の中でも見劣りする面々の受け皿として遊撃隊は機能し、その首領たる國広は剣士として無能でありながら柱に匹敵する戦闘力を有していることもあり、その信頼は徐々に高まっていた。

 

 

「ハァ……ハァ……くそ、何なんだあいつら!?」

 ある夜、森の中を一体の男の鬼が逃げ惑っていた。

 彼はこれまでにも数十人もの人間を誘拐してその肉を喰らってきた鬼であり、血鬼術を扱うことはできないが鬼殺隊士をも仕留める程の腕っ節を誇り、鬼の中の精鋭集団・十二鬼月の座を狙っていた。

 が、國広遊撃隊に目を付けられたのが運の尽きだった。

「畜生、日輪刀以外の武器も使うとか聞いてねぇぞ……しかもあいつら、卑怯にも毒使ってやがる……!!」

 鬼は自分のことを棚に上げて悪態を吐く。

 そう、國広遊撃隊は通常の鬼殺隊と違って毒は使うし爆薬は使うしで、とにかく手段を選ばない。

 武器も刀だけでなく槍や弓矢、挙句の果てには銃を持ち出す始末。柱とは別の意味で恐ろしい集団なのだ。

「早くしねぇと夜明けが……」

「心配ねぇよ、すぐ終わる」

「っ!?」

 嘲るような声色に、鬼はハッとなる。

 振り返ると、視線の先には首に勾玉の首飾りを付けた獪岳が嗤っていた。

「このガキ――」

「〝弐ノ型 稲魂〟」

 鬼が攻撃するよりも早く、自身を中心として半円を描くように刃を振るう。

 高速五連撃で不死身の身体を斬りつけ、すかさず〝肆ノ型 遠雷〟で斬り込む。

「ぐあっ……!!」

「よくやった相棒」

 怯んだ一瞬の隙を突き、獪岳の上を跳んで國広が十文字槍を振るう。

 穂先に藤の毒が塗られていることをすでに感じた鬼は、攻撃ではなく退散を選ぶ。

 それすらも見抜かれてると知らずに。

「フン!!」

 

 ドシュッ!

 

「!?」

 不意に、中性的な顔立ちの小柄な少年が飛び込んできた。

 その手には日輪刀が握られており、その刃からはあの匂いが漂っている。

 今すぐにでも頭を砕き割ろうと、少年を振り払おうとするが、自分の頭に衝撃と痛みが走ったことに気づく。

「天明さん、ありがとう!!」

 さらに女の剣士の声が響く。

 一体何がどうなっているのか。

 その疑問に答えが出る前に、鬼の頸は胴体と泣き別れし、ボロボロと消滅していった。

「ふぅ……これで六体目だね」

「おぅ真菰、お疲れ。てめぇらもよく頑張った」

 納刀する女剣士――真菰に、國広は気さくに声を掛ける。

 それを皮切りに、獪岳と天明らも合流する。

「思ったよりも楽に狩れたな……」

「鬼は人間と違って集団戦ができねぇし、()()()()()()と違ってあまり頭脳戦を仕掛けてこねぇ。徒党組んでちょいと策を講じれば、この通りだ」

 小声で呟く天明に、國広は得意げに言う。

 ほとんどの鬼は人間を下等な餌と舐め腐り、戦闘もごく一部を除いて力押しか異能頼り。その認識ゆえに、緻密に策を練って上手く罠に嵌めれば簡単に狩ることができる。それに毒や爆薬、仕込み武器に長柄武器、銃砲類を持っていれば、血鬼術で近づけなくても攻撃できる。

 まさに、千年に及ぶ鬼殺隊と鬼の戦いの常識を根底から覆すような戦術だ。

「……それと新入り。片腕の割にはいい筋だぜ」

「……ふん」

 二ィッ…と笑う國広に、隻腕の少年剣士は不服そうに鼻を鳴らす。

 名は(とき)(とう)(ゆう)(いち)(ろう)――産屋敷家が度々接触していた一家の生き残りである。彼はある夜に鬼の襲撃に遭って左腕を失う重傷を負ったが、産屋敷家に頼まれて嫌々訪れた國広達に救助されて一命を取り留め、紆余曲折を経て國広が面倒を見る事になったのだ。

 ちなみに彼には双子の弟・()(いち)(ろう)がいるが、弟の方は次期柱候補にまで上り詰めてるので國広が面倒を見る必要はない。

「……で、いつまで十二鬼月を狙わない活動続けるんだよ」

「そうだね、有一郎の言う通り、そろそろいいんじゃないかな」

「……敵の幹部は早めに潰すべきだ」

 有一郎の言葉に、他の皆も賛同するように頷く。

 鬼舞辻無惨を倒すに先駆けて十二鬼月の首を討ち取らなければと思っていた中で、國広はそれを頑なに拒み続けた。

 その理由について國広はずっと「今じゃない」の一点張りであり、その真意は相棒の獪岳を以てしても理解できなかった。何の考えもなく拒むわけはないと判断していたが、流石に年単位でやられると問い質したくなるのも自然な流れだ。

 つまり、いい加減しびれを切らすということである。

「仕方ねぇな、じゃあ教えてやるよ。俺が十二鬼月を狙わねぇ理由を」

「怖いとか言ったらぶっ飛ばすぞ」

「バーカ、ちゃんとした理由ぐれぇあるさ。……都合のいい条件が揃ってねぇからだ」

 その言葉に、全員が首を傾げる。

 一瞬の間を置いて、國広は話し始める。

「今の柱は空席が多く、討ち取った十二鬼月は下弦ばかり……それが今の鬼殺隊だ。ここまではいいな?」

「あぁ、それはわかる」

「都合のいい条件ってのは二つ。一つは柱が全員揃っていること……もう一つは下弦が全滅していること」

 そこまで聞いて獪岳がハッとなり、他の者達も察したように國広の顔を見る。

 その反応を見て満足そうに頷きながら、國広は話を続けた。

「勘づいたな? 要するに上弦討伐に集中できる状況が揃ってから、一気に叩く。それが俺が十二鬼月を狙わねぇ理由だ」

「……成程」

 思ったより深い理由に天明は納得し、獪岳は溜め息交じりにボヤいた。

「それに俺たちのことを舐め腐った状態で総力戦に持ち込みたい。まぐれであっても上弦の壱や弐を早々に撃破しちまうと、残った連中は柱以外の隊士……下手すればほぼ非戦闘員の隠にすら警戒しかねない」

「警戒心が強い相手を責めるのは容易じゃねぇから、あくまで上弦も弱い方から順番に倒して、全部の柱が揃ってる状況で無惨と残りの上弦を殺す……ってことか?」

「その通りだ、相棒。それが一番勝率が高い」

 獪岳の要約に、國広はニカッと笑って答えた。

 十二鬼月を全滅させるのは愚策であり、数体残した状態で鬼の始祖を倒しに行く――その考えは鬼殺隊中枢の反感を大いに買うことになるかもしれない。しかし鬼との全面戦争である以上、何の犠牲もなく全て終わらせるのは不可能であるのも事実である。

 その考えに同意したのか、獪岳はそれ以上何も言わなかった。

「さて、話がまとまったなら移動して情報収集だ。嫌がらせするのもありだが、下手に追い詰めると強くなるからな」

 國広は十文字槍を担ぎ、全員に指示を出す。

 その時、真菰が気づいた。

「ねぇ國広、あれ…」

「あ?」

 真菰が指差す先には、壺がポツンと置かれていた。

 なぜこんな深い森の中にあるのか。この壺は何なのか。それを置いたのが何者なのか。

 次々と疑問が湧き上がるが、明らかに怪しいことだけは確かだ。

「……忘れ物にしては妙だ」

「どうする? 國広」

「……」

 天明と有一郎に問いかけられ、國広は考え込む。

 一方、()()()では……。

(ヒョヒョッ…鬼狩り共が別働隊を作っていたとは…!! これはいい情報だ……)

 やはりと言うべきか、壺の中には鬼が潜んでおり、國広たちの会話を盗み聞きしていた。

 鬼の名は玉壺(ぎょっこ)――十二鬼月の中でも強者たる上位六体の一角で、〝上弦の伍〟の数字を与えられた上級の鬼だ。

(それにしても、中々珍妙な連中……槍使いが首領とは。鬼狩りは剣士ではないのか?)

 玉壺は國広たちの会話を聞きながら、彼らの素性について考えていた。

 槍を使うのは珍しいが、鬼狩りに変わりはないだろう。しかしその取り巻きの面子も生粋の鬼狩りとは言い難い人間もいる。

 もしや鬼狩りは、人材不足なのか…? そんなことを考えていると、無謀にも國広が近づき、壺を持ち上げた。

「……よし、決めた。持ち帰るぞ」

(何だとぉ!?)

 まさかの言葉に、玉壺は驚く。

 しかし、これは鬼狩りの重要拠点に忍び込める絶好の好機。この別動隊から情報を得れば、()()()()も喜んでくださるに違いない。

 そう考えて玉壺はほくそ笑んだが……。

「おい、何に使う気だ?」

「決まってんだろ、硫黄と木炭と土間の土をぶち込むんだよ」

「――お前は私の壺で何をするつもりだアァァァァッ!!?」

 予想だにしない発言に、玉壺は激怒して壺から飛び出た。

 突然の鬼の登場に、國広は「うをっ!?」と驚いて後退る。

「上弦の鬼!?」

「ウソだろ、おい…!!」

 國広以外の面々は一斉には日輪刀を構え、警戒を強める。

 しかし玉壺は意に介さず國広を罵倒する。

「貴様の目玉は腐っているのか!? 審美眼のない猿め、私の芸術作品に異物を入れようとするな!!!」

「いいだろ別に、俺にとっちゃ有効活用なんだしよ」

「全然よくないわァ!! そもそも硫黄と木炭と土間の土を入れて何をするつもりだ!?」

 上弦の鬼の的確なツッコミに、獪岳たちは思わず頷く。

 他の皆も同じ気持ちのようだ。

「あ? 何って、爆弾にするんだよ。土間の土には硝石が含まれるから、硫黄と木炭をうまいこと混ぜると黒色火薬になるんだぜ?」

『正気かお前!!?』

 國広の爆弾発言に、仲間から怒号が飛んだ。

「お前何つーもん作るんだよ!!」

「鬼一匹狩るために町ごと消し飛ばす気!?」

「仲間も市民も巻き込む気満々じゃねぇか!!」

 あまりにぶっ飛んだ思考に、國広への非難が集中する。

 しかもそれは敵からも……。

「仲間や民衆を巻き込んででも殺しに来るとは…何という非道!! 貴様それでも鬼狩りか!!?」

「いや、おめーにだけは言われたかねぇよ壺野郎」

 國広は至近距離で十文字槍を振るい、玉壺を奇襲。

 ギャリリッ! と刃がぶつかる音がして、玉壺の頸が僅かに斬れる。

「ちっ、流石は上弦ってところか」

「貴様……!!」

 ――〝血鬼術 (せん)(ぼん)(ばり) (ぎょ)(さつ)〟!!

 玉壺は金魚鉢のような絵柄の壺を取り出し、そこから巨大な2匹の金魚を生み出す。

 金魚の口からは無数の針が発射されるが、國広は手首を軸に十文字槍を高速回転させて防ぐ。

「くっ!! 小癪な……!!」

「どうした、俺はまだ死んじゃいないぞ」

 苛立ちを隠せない玉壺を嗤う國広。

 そこへ天明が次々と藤の毒を塗った苦無を投擲。玉壺はそれを避け、苦無は木に刺さる。

「〝(すい)(ごく)(ばち)〟!!」

 玉壺は波の絵が描かれた壺から、大量の水を放出。

 國広を閉じ込めて水攻めを画策するが……。

「残念だったな、俺は森の中で暴れたら三千世界で一等賞なんだよ!!」

「何ぃ!?」

 國広は鞭を取り出し、枝に巻き付けて跳び上がる。

 今まで出会った鬼狩りとは明らかに戦い方が違うことに、玉壺は驚愕する。

 このまま木々の間を縦横無尽に動き回ってしまうと、攻撃の狙いが定まらないため仕留めることができず、夜明けを迎えてしまう。それに下手に血鬼術を扱えば、相手にも情報を与え対策を練られてしまう。

 ここは戦略的撤退だ――そう判断し、玉壺は逃走を選んだ。

「ええい、今回は見逃してやるが次はないぞ!! 私の壺に硫黄と木炭と土間の土を入れたら簡単には喰い殺さんからな!!」

「わかった。バレないようにやるよ」

「黙れぇぇ!!」

 捨て台詞を吐いて玉壺は逃走。國広はそれを木の上から見送り、ポツリと呟く。

 先ほどの会話から察するに、あの鬼……どうやら芸術とやらにうるさいようだ。

「……あれが、上弦の鬼……」

「何て禍々しい気配……あれを隠し切れるのも恐ろしいな」

「まぁ、向こうは全力じゃなかったようだけどな」

 國広は木の上から降り立つと、鞭を仕舞いながら言う。

「全力で殺しに行くと、訊きたいことも訊けなくなる。死人に口なしだからな。連中も探し物してるって点じゃあこっちと同じだ、偵察任務中なら迂闊に相手を殺せねぇってこった」

「……その気になればいつでも俺たちを殺せたと?」

「それは知ったこっちゃねぇ。だが、いつの世も勝敗は意外な形で決まるもんさ」

 獪岳の問いを適当に流して、國広は歩き始める。

「さ、行こうぜ。夜明けも近いしな」

 何事もなかったかのように、國広は平然としていた。

 その顔に浮かび上がった表情は、悪巧みを思いついた悪戯っ子のようであった。

 後日、上弦の鬼と遭遇したために緊急柱合会議に引っ張り出されることになるのだが、その際に産屋敷邸の土間の土を寄こすよう要求して一同からドン引きされたのは言うまでもない。

 




鬼滅小説はこれで三作目ですが、玉壺の真の姿を見た人間、実は柱だけじゃなくて葛飾北斎もそうではないかと思うようになりました……何かあり得そうですし。(笑)
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