鬼殺隊VS.鬼の戦いは予想外の形で決着をつけようと思います。
鬼殺隊の新しい柱・恋柱の
彼女が訪れた理由は、敬愛するお館様からの推奨だった。
――蜜璃の戦い方は、國広と似ているところがあると思うんだ。彼から学ぶべきことは多いだろう。
「……という訳なの!」
「ちっ! マジかよ」
(やだ、舌打ちされた!!)
事情を説明すると、國広の右腕である獪岳が盛大に舌打ち。
甘露寺はあからさまな拒絶の態度に絶句した。
「フーン……別にいいぜ。自己責任でな」
「!? おい、いいのかよ!!」
國広の決断に、獪岳は反発する。
だが、 國広は獪岳にニヤリと笑って見せた。
「あのおかっぱの腹は読めねぇが、せっかく全員柱が揃ったってのにここで死んじまうのは俺たちの
國広は語り続ける。
「予想だにしない事態、突然の悪天候に敵の増援、未知なる兵法……戦は様々な要因であっという間に様変わりする。鬼との殺し合いも例外じゃねぇ」
『……』
國広の言葉に、一同は耳を傾ける。
「当然、鬼にも性格がある。
つまり、柱も極めて終わりでは無意味ということだ。
剣技と呼吸を極めたとしても、戦術は無限にある。國広は、それを柱の全員に理解させたいのだ。
「……そこまで言うなら、好きにしやがれ」
「何だ、嫉妬か? 心配せずとも、俺はお前以外を相棒にしねぇよ」
「なっ!? 誰がんなこと言った!!」
「お前の言葉なんざ丸分かりなんだよ。俺はお前という人間をお前より理解してるんだぜ」
國広はニヤニヤと笑みを浮かべる。獪岳は顔を赤くした。
相思相愛という訳ではないが、絶対的な信頼関係をにおわせる二人に、甘露寺はキュンとなった。
(國広君と獪岳君、互いに絆で結ばれてるんだわ。ああ、キュンキュンしちゃう!)
「……それで、この後どうする」
「んー……とりあえず十二鬼月の情報がねぇからな、ボチボチ狩るしかねぇ。でも油断すんな、こないだみたいに上弦と鉢合わせってのもあるしな」
國広は十文字槍を担ぎ、獰猛に笑う。
「早速暴れると言いたいが、少し会いたい奴がいる。付き合ってくれ」
『会いたい奴?』
「まぁ、昼間の内じゃなきゃ会えねぇ奴って
「むっ!! 君は槍木か!!」
「よう、炎柱殿。元気そうで何よりなこって」
國広が会いたい人物――それは、新しい炎柱・煉獄杏寿郎だった。
彼はやさぐれた父親の槇寿郎に代わって担当区域を警備しており、その
「甘露寺が一緒か。お館様から何か指示があったようだな」
「まぁな。あのおかっぱは何の考えもなく割り振ることはねぇだろうよ」
「むっ!! お館様と言うように!! 慎みを持て、槍木!!」
「生憎、今の俺は猿山の大将なんでな」
顔を顰める杏寿郎に対し、不敵に笑う國広。
國広は産屋敷家及び現当主の耀哉に対する忠義が限りなくゼロなので、無理もないが。
「……ところで、そちらに動きは?」
「前の会議で今は様子見だっつったろ、序列の通りに崩さねぇとズラかられちまうって」
「そうか……」
その言葉に、煉獄は少々神妙に考える。
先の柱合会議で、國広は「下から順番に倒さないと無惨は逃げるから、上弦と会ったら逃げろ」と公言した。大半の柱は反対したが、杏寿郎はその意見に賛同した。上弦一体に対し柱三人が理想である以上やみくもに戦うのはよくないし、何より國広の考えは当たっていると直感的に感じた。
下手に鬼殺隊が優勢になれば、無惨は自分たちの寿命が尽きるまで隠れる可能性は否定できないからである。現にそれが千年も鬼と戦い続ける原因と思えるし、もし上弦の鬼たちも無惨に従って身を潜める事態になったら最悪だ。
結果、杏寿郎・甘露寺・無一郎が國広に賛同し、柱のまとめ役である発言権も大きい悲鳴嶼が中立の立場で理解を示したため、最終的に「上弦と会ったら人命救助を優先」という形で落ち着いたが……今思うと、國広こそ未来を視ているようにも思える。
「まぁ、お互いくたばらねぇように頑張ろうぜ。必ず機は訪れる」
「……ああ。そうだな!」
二人は互いの健闘を祈り合った。
*
その日の夜。
「ハァ……ハァ……!!」
夜の街を駆ける、一匹の鬼。
赤い着物を着用した二角を持つ娘といった風貌の鬼で、左目には「下肆」の文字が刻まれている。
十二鬼月の内の下弦の鬼――下弦の肆・
「な、何なのあいつ!? 藤の毒の弓矢なんて聞いてない!!」
必死に逃げ惑いながら、零余子は悪態を吐く。
彼女が運悪く遭遇したのは、國広遊撃隊。通常の鬼狩りと違い、鬼を狩るためなら日輪刀に拘らない集団。剣士という枠組みから大きく外れた別動隊だ。
そしてその首領に鉢合わせし、圧倒的な強さを目の当たりにして逃走を選んだわけである。
「ハァ…ハァ…!!」
ドガッ!!
「ギャッ!?」
不意に、背後から衝撃が走り、刹那の瞬間に激痛が襲い掛かった。
自分の胸を、十文字槍の穂先が貫いていたのだ。
「もう逃げられねぇぞ。観念しやがれ」
零余子を追い詰めたのは、やはり國広だった。
國広はそのまま押し込み、壁に縫い留める。
「あ…あぁ……」
「ようやく捕まえたか」
「ちっ、逃げ足の速い鬼だぜ」
國広が零余子を捕らえたところに、抜刀した天明と獪岳が近づく。
二人は首領の命令を待ちつつも、殺気立った眼差しで零余子を見据える。
「おい、鬼。ちょっと情報を吐け」
國広はそう尋ねると、零余子は顔を青ざめた。
鬼狩りが欲する情報は、鬼の始祖である鬼舞辻無惨に関するもの。もし、その情報を鬼狩りに渡せばどうなるか……答えは一つしかない。
ゆえに零余子は、それを悟って口を噤んだ。
だが、國広は違った。彼が欲する情報は、全くの別物だった。
「お前の前に現れる時の無惨の服の色は?」
『――は?』
あまりにも意外な國広の問いに、零余子はおろか仲間の獪岳たちも呆然とした。
無惨の居場所を知りたいのではないのか? そんなものを知って何になるのか?
困惑する一同に対し、國広は不敵に笑って零余子に迫った。
「正直に吐け。吐かないなら殺すまでだ」
「い……言わない!!」
「おいおい、俺は服の色を訊いてるんだぜ? 別に服ぐらいどうってことないだろ」
國広は呆れたように肩を竦める。
あの御方の服の色がどうしても気になる鬼狩りに、零余子は口を割った。
「あ……あの御方の服は黒よ!!」
「ちっ、こいつも
『……!?』
舌打ちする國広に、敵も味方も戸惑う。
どうやら國広は、誰か探し人ならぬ探し鬼がいるようで、その情報に期待していたらしい。
しかし、彼が無惨よりも優先して探す鬼とは一体何なのか。そして無惨の服装とどういう関係があるのか。
全ては國広のみが知っているが、それを口にはしない。
「ま、いいさ。もうお前を生かして帰す理由はねぇ」
國広は槍を引き抜くと、咄嗟に穂先を零余子の頸に当てる。
「待って!! 私を殺したら、もっと大勢の人間が死ぬわよ!? そ…そういう血鬼術を仕掛けたんだから!!」
零余子はそう脅すが、國広は目を一瞬背けたことを見逃さず、笑いながら一蹴した。
「――いいや、嘘だ! お前さっき俺から目ぇ逸らしたろ? ダメじゃねぇか、命懸けの交渉でそんな初歩的な
國広の指摘に、零余子はガタガタと震える。
「や、やめ……」
「……じゃあな。てめぇら、あとは任せたぜ。毒で弱ってるから狩りやすいはずだ」
國広はそう告げると、零余子に背を向けてその場を去った。
そして残された獪岳たちは、容赦なく零余子の体を斬り刻んだ。
「ねぇ國広……いつもあんなこと聞いてるの?」
零余子討伐後、真菰に問われた國広は「それがどうした」とあっけらかんと返す。
國広は生粋の鬼狩りではない。山の中で静かに暮らしてたが、その規格外の強さと武器作りの技術を持つゆえ、鬼に囲われる前に鬼狩りとして召し抱えられた。しかも彼は鬼憎しの隊士ではなく、むしろ生まれ故郷の村の人間と親族によって母を殺された〝忌み子〟であり、人間も鬼も大差なく本質的には変わらないという思想を持つ人間だ。
当然、彼は鬼殺隊現当主の耀哉及び産屋敷家への忠誠心は皆無であり、文字通りの雇われ鬼狩りである。それゆえに鬼殺隊の常識が通じないのだ。
「俺と産屋敷のやり方は違う。鬼との争いに終止符を打つという点では同意だが、どう
「……國広、お前まさか!?」
「おっと相棒、そっから先は言うなよ」
何かを察した獪岳に、國広は笑って制止する。
彼の鬼との争いの終わらせ方は、
「國広君、まさかお館様を差し出すとかしないよね!?」
「あんな半分死んでるような人間差し出して何になるんだ、恋柱さんよ。言ったろ、無駄な血を流さないって点で名案だと思うって」
恋柱・甘露寺の懸念を、國広はあっさりと否定する。
だとすれば、彼は一体何を企んでるのだろうか?
「俺の頭ん中で描く終戦、楽しみにしてな。俺にとっての敵は無惨だけじゃねぇんだ」
「それって、どういう……!?」
「まぁ、そいつを倒す方がこの国の為になるとだけ言っておく。だから無惨とは早く決着をつけなきゃならねぇ。どんな結果であろうとな」
國広はそう告げ、「そろそろ行くぞ」と他の皆に呼び掛けた。
今はまだ語れない國広の構想。果たしてそれは、いかなる結末を導くのだろうか。
ちなみに本作は短めに終了させようと思います。