一応「我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!」「鬼は鬼殺隊のスネをかじる」の二作とは異なるエンディング構成となってます。
珠世という鬼舞辻無惨と敵対する鬼と出会った國広遊撃隊は、彼女からの依頼を請け負った。
その依頼というのは、無惨を倒すための毒や薬の研究のため、十二鬼月の血の採取をしてほしいというものであったのだが、それに加えて……。
「俺の血なんか、何の意味が……」
「黙れ!! 珠世様の頼みを断るのか鬼狩り!!」
「別に断る気はねぇがよ……」
珠世が要求したのは、國広の血の採取だった。
曰く、近親相姦で生まれておきながら常人を凌ぐ能力を有していることに、何か特別な血液をしているのではないかという仮説を立てており、採取して詳しく調べたいということだった。
すでに採取済みなので結果待ちなのだが……不気味なくらい静かだ。
「……随分静かだな」
「おいおい、もしかして何かあったのか?」
「あれだろ。漬物石みてぇなデッケェうん――」
「言わせんぞぉーーーーっ!!!」
明らかに言ってはいけない言葉を口にしかけた國広に、愈史郎が血相を変えて止めに入った。
すると、そこへ國広の血を診終わった珠世がやってきた。
「おう、噂をすれば影が差すってか」
「そんな…こんな、ことが……!?」
「……珠世、様…?」
愈史郎は珠世の様子から、困惑を隠せないでいた。
彼女は顔を青ざめており、その面持ちは今にも消え入りそうな程に弱々しい。
どうにか國広の前に座ると、恐る恐る口を開いた。
「……すみません、取り乱してしまいまして……」
「別にいいけどよ…大丈夫か?」
「ええ……國広さん、皆さん。心して聞いてください」
珠世は一つ間をおいてから、やがて語り始めた。
國広の血が、いかに特殊で特異なのかを。
「――そんなバカな!」
珠世の語った内容を聞いていく内に、愈史郎はそう言わずにはいられなかった。
何故なら……國広の血が、鬼に対する薬となり得る可能性が浮上したからだ。
「愈史郎は私の手によって鬼になった子。それと同じ要領で、あなたの血に私の血を垂らしてみました。通常なら私の血にあっという間に蝕まれてしまうのですが……」
「そうならなかった」
「はい……そうならなかったどころではありません、何の変化も無かったのです」
つまり、國広の血は鬼の血に変化せず、人の血のままだったということだ。
言い方を変えれば、鬼に対する薬となり得る人間の血が存在するということ。稀血という言葉では済まない、新たな存在。
これを研究すれば、鬼を人間に戻すことも……!
「……國広さん、申し訳ありませんが、もう一度採血をさせていただきます。少し多めに取りますので体調が優れなければ早めにお伝え下さい」
「あ、ああ……」
「では、愈史郎」
珠世の指示で、國広は愈史郎に連れられ別室へと移動していった。
そんな彼の後ろ姿を見送りつつ、獪岳が呟く。
「……あいつの血が、薬になる?」
「まだ仮説の段階ですが……」
「しかし出自が出自だろう」
天明の言葉に、一同は頷いた。
人間としての禁忌によって生まれた國広は、鬼という人類の天敵に対する薬となり得る、唯一の血を持つ人間。
それが事実なら……國広は鬼を滅ぼし得る血をその身に宿すという、極めて特異な存在であると言えよう。
「まさか國広が鬼と人の争いに終止符を打てる唯一の存在だなんてね」
「真菰、それは大袈裟だろ」
「そう? でも、もし本当にそうなら……私は嬉しいな。これ以上誰も死なずに済むかもしれないじゃん」
真菰の言葉に、天明と獪岳と有一郎は何も返すことができなかった。
死と隣り合わせの世界で、これ以上の犠牲を払わずに済む方法が見つかろうとしている。だが、同時に……。
(もし本当にそうなら、國広は鬼の始祖に狙われる)
天明はそんな予感を覚えていた。
それは真菰も獪岳も同様で、不安な面持ちのまま國広が戻ってくるのを待っていると、別室から國広がやってきた。
「おう、どうしたそんなシケた面して。俺が無惨にあんなことやこんなことをされる想像でもしたか?」
「変なこと言うんじゃねぇ!!」
「あっはっはっは! 冗談だ、冗談」
國広はゲラゲラと笑うと、珠世に向き合った。
「……珠世さん、とんだ寄り道だったが、いい出会いだった。手を組んで下らねぇ喧嘩を終いにしようぜ」
「……あなたにとって、鬼舞辻も取るに足らないと言い切るのですね。我ながらとんでもない方と関わってしまいました」
「それは褒め言葉と受け取っとくぜ」
國広と珠世は互いに笑い合う。
鬼殺隊と鬼舞辻無惨の戦いに、新たな転機が訪れた瞬間だった。
*
「――ってことがあってな。こっちの持ってる情報を共有させといたから、それだけ言っとくわ。あとこれは俺に一任してくれ」
「んな訳行くかァ!! 好き勝手しすぎたテメェはァ!!」
軽いノリで報告する國広に、実弥がブチ切れる。
半年に一度の柱合会議に参上した國広は、事の顛末を産屋敷に報告しに行ったのだが……案の定この有様である。
しかも明らかな事後報告で、鬼と手を組むだけに飽き足らず、鬼殺隊の情報を勝手に流したのだ。いくら何でも見過ごせない。
「……國広、そういうのはこちらにもっと早く伝えてほしかったな」
「思い立ったが吉日ってヤツさ。いつでも判断は一瞬だ、相手に囲われる前にこっちの味方にしといた方がいいだろ? それに情報漏洩は予測不能の危機を呼ぶ。鴉を使うより
「……そうか。でも次からは、事前に私に言ってね」
國広の有無を言わさぬ物言いと態度に、輝哉は穏やかな口調でそう返した。
しかし、柱たちは違う。特に風柱と蛇柱は。
「貴様、俺たちに鬼の手借りて無惨を倒せとでも言いたいのか? ふざけるのも大概にしろ」
「鬼を滅してこその鬼殺隊だァ、テメェのやり方は隊の在り方に反するだろォ!」
「おいおい、俺ぁ「鬼を利用して鬼を倒してはいけない」なんて一度も言われなかったぞ? 言われないってことは、
問い詰める二人に対し、國広は不敵な笑みで反論する。
「さっきも言ったろ? 俺に一任してくれって。そうすりゃあお前らに責任が飛び火することはないし、こっちはこっちで独自の動きができて奴の裏をかける。何より共同戦線にすりゃあ先方しか知らない知識・技術も共有できるんだぜ、どこに不満がある?」
そう答える國広に、その場にいる全員が唸った。
鬼を庇ったり見逃したりすることは隊律違反だが、國広は「鬼舞辻無惨と敵対する別勢力とは共闘し、共通の敵を倒す」という戦略的観点で判断したのであり、決して同情や憐れみといった私情ではない。むしろ彼女たちを味方戦力に引き入れなければ、無惨以外の鬼の一派が巻き込む三つ巴の戦となり得る。
國広はそれを理解しているからこそ、こうした大胆な提案をしているのだ。
「今までのやり方が通用しないから、新しいやり方を模索・実行する。それのどこが悪い?」
「そ、それは確かにそうね……」
「使えるものは何でも使って鬼を滅するってのは悪くねぇとは思うがな」
「だろ? 向こうもまさか鬼と共闘するなんて思わねぇだろうから、意表も突けるぜ」
甘露寺と天元が賛同したことに、國広は我が意を得たりと頷いた。
「向こうは不死身で怪力で異能も使えるんだぞ? 最初っから卑怯なんだ、こっちが鬼と手を組んでも罰当たりゃしねぇよ。むしろ何で思いつかねぇんだよって話じゃねぇか?」
「……國広、鬼殺隊は鬼に幸せを奪われた者が多いんだ。鬼と手を組んで戦うのは受け入れ難いんだよ」
「かもな。だが時代が変わり、人の生き死にも変わってきた。隊士も使命感や復讐心じゃなく、生活の為に剣を取るようになった。殺し合いをしてるのに変わりはねぇが、戦う理由が変わってきたんだ。無惨と敵対する鬼と協力しますってなっても、下の連中は意外と受け入れると思うぜ?」
「なるほどね……」
輝哉は笑みを浮かべたまま、光を失った目を細めた。
「俺は俺のやり方でこの戦を終わらせる。この提案はその第一歩……死地へ赴くのは俺みてぇなので十分だ、適材適所ってヤツさ」
「……君は、何を急いでいるんだい?」
その言葉に、國広は目を見開いた。
「……何を言っているんだ?」
「何か、焦っているように思えてね」
「……こんな下らねぇ喧嘩、とっとと終いにしねぇとな。俺ぁズラかるぞ」
國広はそう言うと、そのまま踵を返した。
先程の不敵で大胆な態度とは違い、まるで心ここに在らずといった調子で、彼はその場を去っていく。
彼は明らかに輝哉の指摘に動揺し、そして焦っていた。その理由はおそらく――
「……君が生まれた故郷は、そんなにも悍ましいのかい」
直後、國広の足が止まった。
それは肯定を意味していた。
「その反応からすると……やはりそうなのかな」
「……てめぇ相手じゃあ隠し事はできねぇか」
観念したように、國広は口を開いた。
「あの村の人間は……あのクソジジイは、人間も鬼も
「國広……」
「とっとと滅んでほしいってのに、しぶとい連中だ。悪人ほど世の中生き残りやすいってのは、言い得て妙だな」
國広は殺気立ちながら、そう吐き捨てる。
彼の故郷の悪徳は、それほどまでに酷いのだろう。
「……
そう言い残すと、國広は再び足を動かし始めた。
そんな彼の後ろ姿を、柱たちは無言で見送っている。
「……お館様」
「彼が生まれた村については、こちらで調べようと思う」
「ならお館様、俺にやらせてください。諜報活動なら一番俺が向いている」
「そうだね。天元、苦労を掛けて済まない…よろしく頼むよ」
敬愛するお館様の頼みに、天元はすぐさま「御意」と返した。
それからは鬼の動向の調査も含めた半年間の報告などの話し合いが始まったが……どうにも國広の発言が気に掛かってしまい、終始複雑な心境でその話し合いに参加する柱たちなのであった。
次回はとうとう炭治郎たちの登場。そして物語は急展開を迎えます。
お楽しみに。