その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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この話でちょうど本作の折り返し地点です。


第十四話 運命の邂逅

 珠世と接触をして、二年が過ぎた頃。

 國広は悲鳴嶼からある依頼を受けた。

「鬼喰いの隊士?」

「ああ。不死川(しなずがわ)(げん)()という」

 遊撃隊の面々と共に、悲鳴嶼から事情を聞く。

 今回の最終選別の合格者五人の内の一人・不死川玄弥は、鬼を喰らうことで一時的に鬼の能力を得られる逸材だと判明した。しかし鬼喰いの能力は持ち主の身体に相当の負担をかけており、鬼化中は理性や判断力も下がってしまう諸刃の剣でもあるため、万が一の場合も起こりうる。

 悲鳴嶼は継子としてではなく弟子として迎えているが、教えるのはあまり上手くない上、呼吸抜きの戦いの経験も浅いため、関係は悪くないが中々うまく行かない時もあるという。

「そこでお前に白羽の矢が立ったのだ」

「事情はわかった。その玄弥ってのはウチで預かろう。兵力は一人でも多い方がいい」

「確かに良い提案だ……が、それは承知しかねる……」

 悲鳴嶼の言葉に、國広は片眉を上げた。

 玄弥はいいのだが、問題なのは彼の実兄が風柱・不死川実弥だという点。実の兄弟でありながら折り合いが異様に悪く、下手すれば弟を手にかける勢いだという。しかも國広は鬼殺隊、特に産屋敷家に対してこれと言った恩義も忠義もなく、ある種の利害の一致で手を組んでいるにすぎず、恩人が鬼殺隊にいるわけでもなく、産屋敷家のために命をかけて戦う理由もない。

 外様の人間――それもお館様を尊敬していない人間が柱の身内を預かるというのはある意味で危険だと、悲鳴嶼なりに気を遣っているのだ。

「別に取って食いやしねぇってのに。最悪テキトーに言いくるめてやるよ。産屋敷の命令だとでも言やぁ引き下がんだろ」

「しかし……」

「まぁまぁ、いいじゃねぇかよ。現状維持ってのもよくねぇだろ? 未来(さき)を見据えて行動しねぇとな」

「……わかった。玄弥のことはお前に任せよう。不死川には私の方から説明する」

 悲鳴嶼は説得に応じ、國広が玄弥の面倒を見ることになった。

 

 

           *

 

 

 翌日。

 國広遊撃隊は、ガンを飛ばすモヒカンの隊士を出迎えていた。

「お前が玄弥か……。この遊撃隊を率いる槍木國広だ、よろしくな」

 國広は不敵に笑うと、値踏みをするように玄弥を見る。

 悲鳴嶼の話によると、玄弥は兄と違い呼吸の才能は無く、得物も脇差くらいの刃渡りの日輪刀と銃口が二つある水平二連式の大口径南蛮銃という異色の武器。鬼殺隊士にとって全集中の呼吸を使えないことは致命的であるが、見た事のない武器や藤の毒などを操る國広にとっては些事でしかない。

 むしろ鬼を倒せるなら手段を選ばない姿勢である遊撃隊にこそ、玄弥は必要な人材だ。

「……ひとまず、お前を知らなきゃな。真菰、相手してやれ」

「私が?」

「ああ。お前のような戦い方をする相手は苦手そうだからな。それにさっきからお前と目を合わせようとしないし」

「んなっ!?」

 國広の指摘に、玄弥の顔がボンッ! と赤くなる。

 思春期に突入したためか、異性を前にすると緊張するようになり、國広はそれを利用してあえて戦いにくい相手と手合わせさせて潜在能力を図ろうというのだ。それに正面からの力押しより、軽やかな動きで敵を翻弄する相手に慣れておく必要性もある。

 真菰も自分に白羽の矢が立った理由を察すると、玄弥と向き合って木刀を構える。

「まずは()()()()と行こうか。ほれ、お前に合わせて小さいの用意したぞ」

 國広は短い木刀を玄弥に投げ渡す。

「行くよ玄弥君。死ぬ気で頑張ってね」

「っ…上等!!」

 玄弥は木刀を構え、地面を蹴って突撃。

 しかし真菰はひらりと躱し、すれ違いざまに胴を薙ぐ。玄弥は咄嗟に防御するが、真菰はすかさず足払いをかけて体勢を崩すと、玄弥の顔面に木刀を寸止め。

 僅か数秒で、真菰は玄弥を圧倒してしまった。

「……!!」

「実戦だったらもう死んでるよ?」

 愕然とする玄弥に、真菰はニッコリと笑う。

 その様子を國広は目を細め、そして不敵な表情を浮かべる。

 これが、槍木と風柱の弟・不死川玄弥の最初の邂逅だった。

 

 

           *

 

 

 その後、玄弥は國広の下で修業を重ねていき、遊撃隊でも徐々に実力を認められるようになっていった。

 当初こそ粗暴だったが、國広や真菰のベタ褒めが功を奏し、次第に本来の素直で真面目な性格を露わにし、少しずつ成長している。遊撃隊の中ではまだ弱い方だが、それでも意外性や将来性を國広は高く買っていた。

 そんな時、ついに國広遊撃隊は運命の邂逅を果たした。

「鬼を連れた隊士ってのはお前か? 中々いい根性じゃねぇか、気に入ったぜ」

「初めまして! 俺は竈門(かまど)(たん)()(ろう)です!」

「槍木國広だ、よろしく」

 互いに笑顔を浮かべ、固い握手を交わす二人。

 竈門炭治郎なる少年は、水の呼吸の使い手――水柱を二人輩出した鱗滝一門の剣士。その背中の箱には、あの噂の鬼が眠っているのだろう。

 その後ろには、たんぽぽみたいな頭の剣士と猪の頭部を被った二刀流の剣士がいる。

「後ろの二人は?」

「こっちは(あが)(つま)(ぜん)(いつ)、それと(はし)(びら)()()(すけ)です」

 善逸は國広にペコリと頭を下げ、伊之助はふんぞり返った。

 國広は「俺たちも自己紹介しねぇとな」と遊撃隊の隊員を紹介する。

「こっちから真菰、宇髄天明、不死川玄弥、そして俺の相棒の獪岳だ」

「炭治郎、義勇と錆兎、鱗滝さんから聞いてるよ」

「義勇さんたちから?」

「真菰は鱗滝の出だからな」

 真菰が知り合いだったことを知り、國広は安堵した。

 同門がいると会話や情報共有がしやすいので、仲が良いことに越したことはない。

「……で、背中にいるのが禰豆子か」

「はい。義勇さんと錆兎さんからですか?」

「超が付くくらい極秘だがな」

 國広は炭治郎に事情を説明する。

 炭治郎と禰豆子の処遇に関しては産屋敷家が一任してあるが、鬼に対する恨み憎しみの強い者が大多数の鬼殺隊においては、すぐ情報共有すると余計な混乱を生み、柱を含めて独断で処罰する可能性があるため秘匿されてる。

 つまり、鬼殺隊中枢と外様である國広遊撃隊、そして鱗滝一門と炭治郎の仲間二人のみが知る秘匿案件なのだ。

「外様だが俺はそこそこ地位がある。困った時は俺の名前を出せ、そうすりゃどうにかなる」

「ありがとうございます、助かります」

「いいってことさ」

 國広は「さて……」と話を切り出し、本題に入ることにした。

「多分鴉から言われてるだろうが……目的地の()()()()(やま)はここから南西に約四里だ」

「はい、聞いています」

「実はさっき鴉から聞いた話なんだが、討伐隊が俺たちより先に行って大損害を被ってるらしい。俺の推測が正しければ複数の鬼…それも十二鬼月が混じってる」

 國広の言葉に、緊張が走った。

 十二鬼月とは、鬼舞辻無惨の血が濃い上位の十二体の鬼を指す。下弦は別として、上弦は鬼舞辻の血をより多く与えられた強力な鬼であり、柱が三人がかりで挑んでようやく討伐できるであろうと称されるほどの強敵だ。

 初耳だった炭治郎は顔を強張らせ、善逸は号泣手前、伊之助は闘志を燃やす。

 そして、國広は更に続けた。

「少なくとも上弦じゃねぇだろう。上弦だったら鴉ごと殺されてるから、まず情報自体が出回らない。そう考えると、下弦の鬼ってなる」

「じゃあ、真っ先にそいつを――」

「ケッ、そんなんだからてめぇは脇も詰めも(あめ)ぇんだよ」

「はぁん!?」

 勇む玄弥に、獪岳は毒づいた。

 いがみ合う二人に、天明が仲裁に入って「真菰の説教を食らいたくなければ大人しくしろ」とドスの利いた声で制し、國広は「気持ちはわかるが相棒の言う通りだぞ」と玄弥を宥めつつ告げる。

「群れている鬼だとすると、信頼関係はともかくある程度の役割分担があるはずだ」

「各個撃破か」

「そうだ。俺たちが取るべきは戦闘力を集中させること…一体の鬼に対して全員でぶっ潰す」

 天明の言葉に、國広は頷く。

 全ての物事には等しく例外が存在する。人喰い鬼は基本的に群れないとされているが、利害の一致や()()()()()()の命令などがあれば話は別だ。

 そして今回の場合、那田蜘蛛山を支配する鬼が十二鬼月の下弦の鬼で、その支配下に置かれるいくつかの鬼によって討伐隊が壊滅に追い込まれたと考えられる。無策で挑めば手酷い返り討ちに遭うだろう。

「だからすぐ鬼を見つけてもすぐ攻めに回るな。出方を伺い、癖や動きを見切ってから攻めろ」

「はい!」

「……というわけでだ、真菰。お前は戦力を二分化させる必要がある状況になったら、炭治郎たちと行動してくれ」

「わかった。でも、いいんだよね? 私、一応遊撃隊所属だけど」

「構わんさ。それにお前ならいざという時にも対応できるだろうからな」

 國広は真菰に炭治郎たちの援護を頼み、真菰もそれを引き受けた。

 この炭治郎一行と共に向かった那田蜘蛛山での任務が、後に鬼と人の戦いに終止符を打つ決定的な出来事となることを、彼らはまだ知らない。

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