その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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ここからは今まで執筆した小説とは別ベクトルで進めます。
やっぱり、無惨は累が一番大事だったんじゃないかなって今でも思います。


第十五話 捕虜、下弦の伍

 那田蜘蛛山に入山した國広たちは、遭遇した鬼を悉く撃破していった。

 

 最初に遭遇した鬼は、小さい蜘蛛を操り、蜘蛛の糸を結んだ相手を操り人形のように使役させる血鬼術を使う妖艶な女性の姿をしている鬼。血塗れの隊員たちを糸で操り、同士討ちをさせるという悪辣な手口だった。

 初見の血鬼術であったが、白く小さな蜘蛛が糸をつけて回っていると知るや否や、國広は槍を回転させて蜘蛛を吹き飛ばし、優れた触覚を研ぎ澄ました伊之助が発見。直後に襲い掛かった人形を一人一体ずつ足止めし、炭治郎が〝水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨〟で頸を落とし、十二鬼月と他三体の鬼の存在を把握した。

 

 次に遭遇したのは、蜘蛛の胴体に白髪で左右の目の色が異なる人間の頭が付いている異形の鬼。小さな蜘蛛を介して毒を相手に打ち込み四半刻――現在の時間で換算すると30分程――で相手を自分に隷属する人面蜘蛛に変えてしまう血鬼術、そして溶解性の毒を含んだ痰を口から大量に噴き出す血鬼術を有する厄介者だ。

 しかし蜘蛛の巣で浮く小屋の中に居ることを利用し、國広が自身が作製した火薬を使った焙烙火矢を放ち、小屋を破壊炎上。小屋事落下し火に包まれて藻掻いている隙に、なぜか眠った状態で()る気になった善逸が本気を出したことで討伐された。

 

 山をさらに進むと、白い着物を着た可憐な少女の鬼と顔面が蜘蛛そのものに変貌しているので異形の鬼と遭遇。

 しかし上弦との戦闘経験がある國広は一切怯むことなく二槍流で特攻。槍を用いて異形の鬼には眉間を、少女の鬼には左目を串刺しにして穂先の毒を注入。苦しみ藻掻く内に獪岳と天明が頸を斬って解決。残るは十二鬼月となった。

 

 

 そして、その十二鬼月についてだが……。

「いやー、すまんな。君みたいに話のわかる奴だったらお兄ちゃんも暴れずに済んだんだがなぁ」

「別にいいよ、あんなの死んでも構わない。あなたが僕のお兄さんになってくれるんだからね」

「いや、何やってんだよ!?」

 和気藹々とする國広と十二鬼月の下弦の伍・累に、玄弥が叫ぶ。

 何と國広は、累と対峙するや否やその場で寛ぎ始めたのだ。まぁ、この山に入るまでも長旅といえば長旅ではあったが、それにしても豪胆すぎる。

 まさかの行動に炭治郎たちはおろか遊撃隊の面々も固まっている。

「実はね、お兄ちゃんは君のご主人様との戦争は望んでないんだよ」

「あんた何言ってんの!?」

「バカ、ここは口裏を合わせろカス」

 爆弾発言をする國広に善逸は食ってかかるが、獪岳は彼の真意を察知したのか拳骨を落として制止した。

 そんなやり取りを余所に國広は続ける。

「もういい加減さ、落としどころを見つけてぇんだよ。人間と鬼の事情が並び立たねぇ以上は引いた方が負けだが、いつまでも意地張ってると巻き添え喰ってる奴らが気の毒でしゃあねぇ」

「それは、そうかもだけど……」

 國広の言葉に真菰は頷く。

 鬼と鬼殺隊の戦いは、常に無関係である民衆の方が巻き込まれる危険を多く孕む……そういう意味では、彼の語る理屈は筋が通っている。

 どこぞの柱が人間と鬼が仲良くなれればいいのにと言っていたが、國広は口だけでなく行動でも示すのだ。

「他の十二鬼月にも遭遇したが、お前は少し違うな。珠世さんの言ってることが合ってれば、破格の待遇だ」

「どういうことですか?」

「鬼ってのは無惨の奴隷みてぇなもんだ。鬼殺隊と産屋敷が滅ぶまで死ぬことを許されずこき使われる…そして無惨の許可なく群れたり力を分けるのは許されない。俺が遭遇した上弦もそうだった。だが累は、今まで会った奴らとは扱いがまるで違う。群れを作って、力を分け与えてることを見逃されている。明らかに一定の自由を許している。――それがどういう意味かわかるか?」

「……鬼舞辻にとって、下弦の伍は息子みたいなものだと言うのか!?」

 ハッとなって叫ぶ天明に、一同は驚愕した。

 自分を慕う者にも非道な仕打ちをする鬼の首魁が、目の前の少年の姿の鬼にだけは特別扱いする。それは無惨にとって累は息子同然の存在であり、ただのお気に入りとは一線を画しているということでもあるのだ。

「根拠もあるぜ。……累、無惨はお前と会う時いつも何色の服だった?」

「……白だけど?」

「それは初めて会った時もか?」

「それが何なのさ」

 國広は確信を得たように笑みを深めた。

「やっぱりか。吉報だぜ相棒、天は俺たちに味方してくれた」

「服の色でかよ?」

「ガキの頃に母さんから聞いたんだ、白は「友好的な色」だって。最初っから白服で会いに行くってことは、友好的な意図があるってことだ」

 獪岳は意味が分からずに訝しむが、國広は構わず続ける。

「無惨にとって配下の鬼はみんな駒だが、累だけは奴なりの善意があったはずだ。そうすると累の存在は、もしかしたら人にとっても鬼にとっても、そして無惨にとっても救世主になるかもしれねぇ……嗤うか?」

 國広は周囲に目を配るが、誰も彼を嗤わなかった。

 破格の待遇、累の記憶、無惨の態度…それらが点と点で結び付き、一本の線となる。

 そして一つの答えに辿り着き……炭治郎たちは國広が累に対してやけに融和的な姿勢である理由をすぐ理解した。

「まさか――」

「そういうことだからよ、累」

 

 ――お兄ちゃんの為に捕虜になってくれ。

 

 そう國広が言い放つと、累の胸元に深々と注射針が突き刺さった。

「カ、ハッ……!?」

「悪いな、これもお互いの為だ」

 注射器を介して何かを注入された累は、そのまま意識を失い地面に倒れ込む。

 倒れた累を國広は抱え、背負い箱を獪岳に預ける。

「よし、退くぞ! 珠世さんと合流して、累にはある役目を果たしてもらう」

「珠世さんに、下弦の伍を託すんですか!? 危険すぎます!!」

「心配するな、到着する頃には試作品ぐれぇ出来てるはずだ」

 あっさりと意味深な言葉を言い放つ國広に、一同は首を傾げる。

 國広は人と鬼の殺し合いを終わらせようとしているようだが、それがどう累と結びつくかがわからない。

 しかし、彼なりに描く道筋は、既にあるようだった。

「あとは無惨が食いついてくれるか――」

「あらあら、一体どういう事ですか? 國広君」

 そこへ、予期せぬ相手が舞い降りた。

 蟲柱・胡蝶しのぶだ。

「蟲柱様!」

「おうおう、随分遅い登場だな。こいつ以外の鬼は全員狩り尽くしたぜ? 負傷した連中をどうにかしろよ、お前医者だろ?」

「いえいえ、鬼を二体、それも片方は十二鬼月でしょう? それを庇い立てるようなマネを見過ごす程、腐ってませんので」

「悪いな、俺は〝外様〟なんだ」

 鯉口を切るしのぶだが、國広は堂々とした様子で受け流している。

 しかし、しのぶは國広が抱えている累に視線を移すと、笑いながらその顔にくっきりと青筋を浮かべた。器用な女傑である。

「これは明確な隊律違反ですよ?」

「そうか? 俺は全くそんな認識ねぇなぁ」

「伝令!! 伝令!!」

 不意に、上空で鎹鴉が言葉を発した。

「炭治郎、鬼ノ禰豆子、十二鬼月ノ累ヲ拘束!! 本部ヘ連レ帰リ、國広ハ出頭スベシ!!」

 旋回しながら山中を飛び回る鴉。

 それは、産屋敷耀哉の勅令であった。

「全員で来ると(せめ)ぇから、当事者と一番偉いのを呼び出すってか」

「抵抗しないでくれるのなら、手荒な真似はしません。お館様のご命令ですから」

「到着してからは手荒だよな」

「余計なこと言わないでください」

 いい加減シバき倒そうかと、しのぶはちょっぴり思ったのだった。

 

 

           *

 

 

 鬼殺隊本部にて。

 炭治郎・禰豆子の竈門兄妹と遊撃隊隊長の國広、そして國広が捕虜として捕らえた累は、隊律違反者として裁判に掛けられた者の審議を問う「柱合裁判」に出頭した。

 産屋敷邸の中庭には柱たちが集結に、屋敷の縁側には当主・耀哉が鎮座している。

「いやー、ホントお疲れさんなことだな。で、何だっけ? 炭治郎と禰豆子のこと? 知ってたよ、まぁしばらく様子見でいいかって。それに二人に対して二年間一度も刺客送ってこなかったんだから、耀哉は知ってたんだろ?」

「うん、二人の育手の左近次からも聞いてるからね」

「ちゃんと情報共有しなって、柱だけでも。義勇と錆兎以外知らされてねぇってことは、知ったら耀哉の言うこと無視して二人を始末しに行くバカな柱がいるって言ってるようなもんだぞ」

「お前マジで勘弁してやれよ」

 ズバズバと物怖じせずに話す國広に、天元は引き攣った笑みでツッコミを入れる。

 他の柱たちは一斉に風柱の不死川を見つめ、彼は居心地が悪そうに目をそらした。

「君が炭治郎と禰豆子を庇うのはわかるし、その狙いもわかるから咎めないよ。ただ十二鬼月の下弦の伍に関しては、申し開きはあるかな?」

「そりゃあな。鬼ってのは無惨の奴隷みてぇなもんだが、累は奴にとって息子同然の存在なんだ。だから奴のお気に入りである累を、無惨が無碍にするとは思えねぇ」

「つまり、君は下弦の伍を人質にとると?」

「そういうことだ。だがまだ完全に仕上がっちゃいねぇ…この後の対応が大事なんだ」

 耀哉の問いかけに対して、國広は不敵に笑って返す。

 そして彼は、衝撃の計画を口にした。

「俺の狙いは、累を人間に戻し、鬼との繋がりを断つことだ」

『!?』

 その発言に、誰もが度肝を抜かれた。

 完全に空気は國広に支配され、柱も彼の描く道筋へと引き込まれていく。

「協力者である珠世さんからの情報だと、奴は自分の配下の鬼の視界を掌握してるから、どこに誰がいるかわかるらしい。遠いと認識が困難らしいがな。そして累は今、俺の背負い箱の中に入って、日当たりのいい場所に置かれている。この時点で鬼殺隊の本部の場所はわからねぇ。そもそも見えないからな」

「……」

「それに相当な癇癪持ちらしい。息子同然のお気に入りが鬼殺隊に拉致され、繋がりも断たれたらどうなる? 奴のことだ、全ての部下に捜索を命じるだろう。それで勢力が分散したところに、お前ら柱たちが各個撃破で雑魚と下弦を殲滅……残りの上弦と無惨は、俺が直々に交渉していく」

 國広の語る計画、それはあまりにも突拍子もないものだった。

 無惨と交渉し、彼を説得して鬼の悲劇を終わらせる――傍から聞けば無謀すぎる、まるで絵空事だ。

「テメェ、自分が何言ってるかわかってんのかァ!?」

「わかってなかったらこんな大口叩きゃしねぇっての。こっちだって命懸けてんだからな。この世に不可能なことなんかねぇ、絶対やってみせる」

「國広!! 鬼舞辻無惨と交渉して和睦など、到底現実的とは思えん!! お館様も承知できないはずだが!!」

「やるだけやってみればわかるさ。奴も元は人間、面と向かって話し合えば落としどころも見つかるさ」

 怒る風柱と冷静に諫める炎柱に、國広は不敵に笑う。

 絶対的な自信に満ち溢れるそれだが、果たして本当に出来るのだろうか? 彼は本当に、この凄惨な殺し合いを終わらせることが出来るのだろうか?

 言葉には言い難い不安に駆られる一同であったが、耀哉は「産屋敷邸と刀鍛冶の里以外ならば場を設けることができる」と発言。未来予知に等しい先見の明を有する彼の一言に、一同はこの件を極秘案件とすることを決定した。

 

 

 時同じくして、異空間・無限城。

 事態は國広の目論見通り……いや、それ以上になっていた。

「……下弦の伍が、累が鬼狩り共に誘拐された」

 鬼の始祖にして鬼殺隊最大の敵・鬼舞辻無惨は上弦の鬼を招集し、緊急の会議を開いていた。

 会議といっても、その場で配下たちを叱責するだけなのだが。

「十二鬼月が鬼狩りに攫われるという体たらく。私はお前たちに数字を与えた理由がわからなくなってきた」

 空間を震わせるほどの威圧を放ち、上弦の鬼たちを委縮させる無惨。

 彼の足元には四体の鬼の頸が転がっており、下弦の鬼が粛清されたのが嫌という程に伝わる。

 そして、自分たちもいつかこうなる身だと突きつけられる。

「鬼狩り共から居場所を吐かせるのだ。累を取り戻せ」

『御意』

 上弦たちは一斉に姿を消す。

 無惨は苛立ちを抑えられないまま、一人思案する。

「累を攫うなど…何を企んでいる、産屋敷」

 今までの鬼狩りが絶対にしなかった行動。

 度々報告が上がる、謎の遊撃隊とその首領の痣の青年。

 この二つの事案が無関係ではないことは、火を見るよりも明らかだ。

「……地獄を見せてくれる」

 それが単なる快・不快なのか、それとも累を取り戻したい一心からの怒りか。

 無惨自身にも理解が出来ない複雑な激情に駆られながら、彼の胸の内は未だかつてないほどに煮えたぎっていた。




次回、更なる混沌が……。

あ、ちなみに炭治郎と禰豆子はこの後蝶屋敷で休息を取ってます。
さねみんの血液テストもあります。
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