その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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第十七話 大博打

 鬼による被害が極端に減る一方、山梔子村の魔の手が忍び寄る中。

 とうとう時は満ちた。

「……國広、本当に大丈夫なのか?」

「人選の失敗は取引で予測不能の危機を呼ぶ。こういうのは年長者がいた方がいい」

 おにぎりを頬張る國広に、悲鳴嶼は「そうか……」と静かに呟いた。

 この日は、鬼殺隊にとって運命や未来を左右する重要な一日。もしもの事があれば、間違いなく全員死ぬ。

 いつも通りに気丈に振る舞う國広も、どこか緊張しているのか雰囲気がピリついていた。

「……國広さん」

「本来なら、君と行冥に関わってほしくなかったんだけどね…」

「今更帰れはナシだぜ、俺が言い出しっぺなんだからよ」

 國広がおにぎりを平らげたところで、急に空気が重くなった。

 それと共に珠世と悲鳴嶼の顔が強張り、こめかみに汗が伝う。

 そう……()が来たのだ。

「……産屋敷…それと珠世もか」

「おいでなすったな、始祖様」

 外套をなびかせて現れる鬼の始祖に、國広はニヤリと笑う。

 その背後には、柱をも屠り続けてきた上弦の鬼たちが控えていた。

「貴様が槍木國広か」

「いかにも。おたくの大事な累君を保護してる」

「累はどこだ」

 無惨は威圧感丸出しの声色で國広を詰めた。

 あの徹底して利己的な臆病者が……? 過去に無惨の部下となっていた珠世は、今まで見た事ない彼の様子に驚き戸惑った。

 そんな彼に対し、國広は……。

「まぁ、立ち話もなんだから上がっていけ。おーい、誰か人数分の座布団お願いできる?」

「おい! 私は今、貴様に聞いているのだ。累はどこだ!」

「まぁまぁ、そう急かすなって。別に死んじゃいねぇし犯してもいねぇから」

 國広が完全に寛ぎながら無惨と応対するので、一同はさらに戸惑った。

「く、國広さん……」

「大丈夫大丈夫。あからさまに賢いと警戒されるから、こういうのはアホっぽい方がいい。人間は大なり小なりアホが好きなんだ」

 小声で珠世とそんなやり取りをすると、産屋敷家の子供たちが無惨たちの座布団を用意し終える。

 すると無惨は渋々といった様子ではあるが、部下の上弦たちと共に上がって座布団の上にそれぞれ楽な姿勢で座った。

「……ようやく会えた、というところだね」

「っ……」

「……南無阿弥陀仏……」

「おいやめろよ念仏唱えるの、誰か死ぬの確定しちまうだろ」

 國広は悲鳴嶼にツッコミを入れると、無惨が口を開いた。

「私は心底興醒めした。千年の間、私を妨害してきた一族の長がこんな有様とは」

「おいやめろよ鬼舞辻さんよ…俺も言わないようにしてたんだから」

「それ一番失礼だよ?」

 無惨の辛辣な一言にさらにキツい言葉を重ねる國広に、耀哉は苦笑いすると張り詰めた空気が少し和らいだ。

 そこからは、國広の独壇場だった。

「いやいや、わざわざお越しいただいて恐縮至極。本当ならこちらから鬼殺隊総出でおたくらの屋敷に向かうのが筋なんですがね……」

「いや、それやったら確実に無惨様の頸狙うでしょ」

「……無惨様を倒すのは……叶わぬことだがな……」

「っつーかお侍さん、喋んの遅いね」

 ここで國広が爆弾を投下。

 十二鬼月最強の鬼――上弦の壱・黒死牟の喋り方を本人の前でイジるという命知らずな行為に、他の上弦たちも思わず固まってしまった。

「……無惨様……」

「黒死牟、気にするな。小僧の戯言だ」

「しかし……」

 黒死牟が何かを言おうとしたところで、無惨は手で制した。

 ――笑いを堪えながら。

「何だよ、あんたも笑いかけてんじゃねぇか」

「國広、黒死牟殿を貶めるのは止しなよ」

「童磨、口元を隠すな」

 プルプル震えながら扇で口元を隠し苦言を呈す童磨を、上弦の参・猗窩座は注意する。

 上弦の肆・半天狗は無表情を貫いているが、上弦の伍・玉壺はクネクネと身体をくねらせながら口を開いた。

「ヒョヒョッ!! これは愉快ですねぇ」

「ちょっと待て、それ誰に対して言ってるん?」

 國広が口を挟んだ瞬間、笑っていた玉壺はハッとなった。

 その直後、ズモモモモモ…という効果音が聞こえそうな圧を放ちながら黒死牟が睨んだ。

「玉壺……」

「ち、違いますぞ黒死牟殿!! これはあの人間の小僧に対して言ったもので……」

「じゃあ最初っからそう言えよ、俺の名前バレてんだし」

「容赦ないわね……」

 追い打ちをかける國広に、上弦の陸・堕姫は呆れた様子でため息をつく。

 そんなやり取りを、無惨は咳払いしてから続けた。

「貴様らのくだらんやり取りはどうでもいい。本題を言え、槍木國広」

「そうだな……じゃあ、ひとまず訊こう」

 ついに始まる、鬼舞辻無惨との交渉。

 再び緊張が走る中、國広は問う。

「とりあえず、そちらは何を望む?」

「まずは累を返せ。その後は産屋敷の殲滅だ」

「何と、では鬼狩りを殺し尽くすと?」

「その通りだ」

 無惨はそう断言すると、國広は嘆息した。

「あーあー、これじゃあお前らも惨めな余生を送ることになるなぁ」

「なに?」

 急に國広が訳のわからない事を言い出したので、無惨は思わず訊き返した。

 すると、國広はこう続けたのだ。

「では少し話を逸れようか。そこのお侍と刺青まみれ。お前らは鬼か? それとも武道家か?」

「……いきなり……何を言う……?」

「結構大事なところだぞ。何の罪もない命を貪り続ける害悪か、それとも道を極めんとする求道者のどっちなんだと言ってるんだぜ? 難しい質問じゃねぇはずだが」

「「……」」

 國広の言葉に、黒死牟と猗窩座は言葉を詰まらせる。

 人喰い鬼であると同時に武の道を極めんとする強者の二つの側面を持つ両社にとって、どちらか一方を選べと言われると答えに困る。

 そんな二人を見て、國広は「ま、そりゃそうか」と軽く笑った。

「どちらの肩書きを選ぶにしろ、アンタらは鬼殺隊が滅んだ途端に惨めになるぞ。挑んでくる敵がいなくなるということは、それ以上強くなれないということなんだぜ? 鍛え抜いた強さをぶつけられないからな」

「「!!」」

「これから先、拳や刀は不要になる。長い年月をかけた鍛錬が不要である銃火器が主軸の戦いが全てになるだろう。そうなると、二人が討ち取られる時は強者との一騎打ちじゃなくて弱者の袋叩きになる。……惨めだと思わねぇか?」

 國広の言葉に、黒死牟と猗窩座は押し黙ってしまう。

 そこへ畳みかけるべく、國広は懐からある物を用意した。

「それは……」

「電球?」

「科学の力は日々進歩してると聞いたんだ。今まで人間は光を生み出せなかったが、生み出せるようになった。――さてここで問題だ、電球という形で光を生み出せるようになった人間は、何を目指すと思う?」

 突然の問いかけに、誰もが首を傾げる。

「何を目指す……?」

「答えは「太陽光を生み出す」さ」

『!!?』

 その一言に、敵も味方も愕然とした。

 人間がいつの日か、太陽光を生み出すようになる。それはあまりにも荒唐無稽に思える言葉だった。

「な、何よそれ!?」

「……太陽を……生み出す……?」

「そんなことができるはずが……」

「世迷言だと? そんな訳ない。現に電球が生み出されたんだ。太陽と同じ光を出せるようにしたいと願い実験を重ねるのは、別におかしな話じゃない」

 話を聞いていた一同は半信半疑といった様子だが、國広は構わず続ける。

「もしそうなってみろ。どこの馬の骨とも知れない輩に電球近づけられただけで死ぬんだぞ? 何の鍛錬も重ねてない奴に息の根止められるって、どうなん?」

「っ……嫌に決まってるだろう!」

「……極めた技が……意味をなさないのは……無情だ……」

「だろ? 永遠の命も美貌も、照明向けられただけで全部終わる世界……生きる価値あるか?」

 國広の問いかけが、上弦の鬼たちの心を支配していく。

 すると、上弦の壱――黒死牟は気がついた。

「つまり……鬼狩りが滅びようとも……いつかは我らも滅びると……?」

「そうだ。まぁ、もって100年。早ければ70年80年ってところか」

「っ……」

 黒死牟は徐に無惨に目を向けると、彼は明らかに動揺していた。

 産屋敷家と鬼狩りを殲滅しても、人間がいる限り鬼は遅かれ早かれ滅びる――それは根拠こそ乏しいが、人間社会と関わりがある彼は心当たりがあるようで、その顔が強張った。

「これから先、夜も昼のように明るくなる。そうなれば、今までのような人喰いはできなくなるのは明白。ましてや見た目が人間とかけ離れていれば、表に出ることすら危険になる。すぐ世間にバレて情報が拡散されるからな」

「ひぃ! 恐ろしい恐ろしい……」

「さらに、これからのこの国の方針次第じゃあ、あんたらも奴隷同然になるだろう。何せ強い上に不死身なんだ、戦争用の対人間兵器として悪い意味で重宝される。そしていつかお前らの血を搾取して不死の妙薬の精製を始める」

 恐ろしい未来を語る國広に、全員が押し黙ってしまう。

 鬼を糧に発展する人間社会など、鬼舞辻としても見逃せない。だが主食が人間だけである以上、鬼が国を滅ぼすことはできない。

 産屋敷家としても弱者を踏み躙って発展する日本は許せない。だが鬼殺隊が国を相手取って争うなど、断じてあってはならない。

 あれ程憎いしつこいと対立していた双方の親玉が、迷い悩み始めるのを見て、國広は提言した。

「復讐を果たす、厄介な障壁を排除する……それも確かに大事かもしれないさ。だが二人共、何より大事なのは争いの芽を摘んで未来を繋いでいくことじゃないか?」

「「……」」

「現にこうやってな。おい、相棒! どうせみんないるんだろ? 連れてきな」

 襖の向こうに國広が声をかけると、ゆっくりと開いて一人の子供が現れた。

 累だ。

「累、か…?」

「無惨様…」

 無惨は驚きを隠せなかった。

 なぜなら、彼は下弦の伍としての姿ではなく、無惨が初めて出会った日と同じ人間の頃の見た目をしていたからだ。

 それに、鬼としての気配がほとんど薄い。まるで鬼が人間に戻ったようだ。

「っ…珠世、一体何をした!?」

「……鬼を人間に戻す薬を開発し、成功しただけです」

「バカな……」

 珠世が告げた衝撃の言葉に、無惨だけでなく上弦の鬼たちも絶句した。

 無惨は人間を鬼にすることはできるが、その逆はできない。だが珠世は、研究を重ねた末に鬼を人間に戻す薬の生産に成功したのだ。

「実は……今から10日程前、炭治郎さんの妹の禰豆子さんが太陽を克服したのです」

「本当か!?」

 珠世の言葉に、思わず立ち上がる無惨。

 無惨は他の鬼を吸収できる。天敵である陽光を克服した禰豆子を取り込めば、自分も太陽を克服できる可能性が高い。

 すかさず禰豆子の居場所を問おうとしたが、國広に遮られた。

「そんで、珠世さんがすぐ禰豆子と累と俺の血を使って新薬作りして、完成してすぐ二人に打ち込んだんだよ」

「今からちょうど一週間前です」

「くっ……!」

 すでに手遅れと悟り、無惨は悔し気に腰を下ろした。

 そんな無惨を見て、國広は懐から石を取り出し累に投げ渡した。

「兄さん?」

「それ、握り潰してみろ」

「……うん」

 累が拳を強く握った途端!

 

 バキン!

 

「なっ!?」

「石が……!?」

 人間に戻ったはずの累が、石を握って砕いたのだ。

 それを見せつけた上で、國広は提言した。

「なぁ無惨、薬打って人間に戻らねぇか? あんたが人間に戻れば、鬼殺隊があんたを追う理由が無くなる。累を見たろ? 鬼の名残か常人よりも強靭な肉体になってる。どんな病気にも罹りづらくなるだろうし、どんなケガも負いにくくなる。それに昨日の昼間は一緒に飯も食ったもんな?」

「うん、とても美味しかったよ、炭治郎のご飯」

「人を喰う必要もない、色んな飯にありつける。日光もへっちゃらだ。老いはどうかわからねぇが……まぁ人より長生きできるんじゃねぇか?」

 國広が並べる事実に、無惨は思い悩んだ。

 自分が累と同じ薬を打てば、しつこい鬼狩りに追われる必要はなくなり、鬼殺隊は自然解体される。永遠の時を生きることはできないが、少なくとも自由になれるし、落としどころとしても申し分ない。

 だが、肝心の探し物を放棄するのも、非願成就まであと一歩というところで妥協するのはいかがなものか。

 かつてない重大な選択を迫られる無惨に、累は優しく語りかける。

「無惨様……僕……無惨様と幸せになりたい……!」

「累……」

「どうせ死ぬなら、無惨様と一緒に()()()()死にたいよ! 置いてかれるのは嫌だ!」

 累の心の叫びに、無惨は……。

「一日だ」

「!」

「時間をくれ、槍木國広」

 無惨の出した答えは「保留」だった。

 ある意味で予想通りと言える展開に、國広は耀哉に目を配った。

「……わかった。次の丑の刻まで待とう。それまでは上弦の鬼にも累にも、勿論君にも一切手出ししない。もしもの時は私が責任を取ろう」

「お館様!」

「行冥、君からも頼む。子どもたちに必ず周知させておくんだ」

「……御意」

「ありがとう」

 耀哉の願いを行冥が聞き入れたのを見て、國広は交渉を一度切り上げた。

「今日はここで一旦お開きだな。いい答えが出ることを楽しみにしてるぜ」

 鬼殺隊史上初、鬼の始祖との交渉はひとまずこれで幕引きとなった。

 

 

           *

 

 

 予想外に次ぐ予想外により、鬼との交渉が順調に進む中。

 國広は蝶屋敷で炭治郎と話し合っていた。

「禰豆子はどうだ?」

「今、善逸たちと遊んでます。國広さん、ありがとうございます」

「おっと、礼を言うのは珠世さんにしな。あの人がやらなきゃダメだったんだぜ」

 國広は水筒の茶を啜りながら答える。

 すると炭治郎は、鬼殺隊を揺るがすであろう()()()に触れた。

「鬼舞辻と話してるって……」

「随分悩んでるぜ。鬼のまま地獄の果てまで追われるか、人に戻って真の自由を手にするか……今まであいつは、なりふり構わず生きてきたんだろう」

「……でも、人を鬼にするのは――」

「それには俺も思うところはあるさ。だが鬼にされた人間の中にも、無惨と会わなければ死んでた命だったのかもしれないし、鬼がいたからこそ鬼殺隊士としてあぶれ者が救われたこともある」

 國広の言葉に、炭治郎も考え込んでしまう。

「あいつにもあいつなりの事情があるんだ。ちょっと言葉交わせば、意外な真実に辿り着ける。それに俺はあいつの罪を裁けるような偉い存在でもねぇ」

「國広さん……どうしてそこまでするんですか?」

「お前にとっては家族の仇だろうが、奴は自分の意志であんな化け物になったんじゃない。善悪っていうのは、その時の状況や立場によって簡単に変わる。良い奴がろくでなしになる時もあれば、悪い奴が善行を重ねることもある」

「……それは…………」

「一歩下がって俯瞰すると、違った景色も見える。仇とか敵とか、そういうのナシで見てみるんだな」

 國広はそう言うと、産屋敷邸へと向かっていった。

 鬼の始祖の答えは、果たして――




実はこの交渉、陰で遊撃隊と柱たちが待機してました。
ただ、國広とお館様の指示が下りない限りはいかなる手出し口出しも無用と言明されてたので黙ってただけです。

この調子だと、あと三話で終わりそうなので頑張ります!
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