その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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次回で最終回になるので、その前に回収できてないネタを回収しておきます。


第十八話 潰える老害の野望

 そして、運命の夜。

 約束の一日の猶予が終了し、鬼舞辻無惨は國広たちの前に姿を現した。

「國広と交わした約束の時間になったね……返事を聞こうか」

「……」

 耀哉は穏やかに、それでいて圧力を掛けるように問いかける。

 國広も、珠世も、柱たちも、上弦の鬼も、そして累も……全ての者が、鬼の始祖の答えに注目する中。

「…………ここで終わらせよう」

「いや、どっちの意味だよ」

 無惨の言葉に、青筋を浮かべながら國広は口を出した。

「主語がねぇんだよ、主語が。薬を打つか打たねぇかを聞いてんだよ、何でそんな曖昧な返事なんだよ。義勇かお前は。この大事な瞬間に冨岡語の翻訳しねぇといけねぇなんて最低すぎるわ」

「と、冨岡語……!」

「胡蝶!?」

 吹き出すのを必死に堪えるしのぶに、義勇は「心外!!」と言わんばかりの表情で彼女を見た。

「で、結局どうなんだよ。鬼舞辻無惨。薬を打つか、打たねぇか」

「……勘違いするな。私は貴様らに屈したわけではない。終わりにしたいと懇願したから――」

「要は打つんじゃねぇか、まどろっこしい」

 呆れてものも言えないと言わんばかり國広に、無惨は青筋を浮かべる。

「貴様……!」

「まぁ、そうこなくっちゃな。珠世さん」

「……はい」

 珠世は持参した箱を開け、中から赤い液体が入った注射器を取り出す。

 あの中に、鬼を人間に戻す薬が……!

「……この薬は、鬼舞辻の前に上弦の皆さんに打ってもらいます。鬼舞辻だけだと、上弦の皆さんも同じ体質になるかは別問題になるので」

「ふぅん……誰から打つんだい?」

「お前が一番肝据わってそうだから、お前からな」

「もうちょっと勿体ぶろうよ」

 ムスッとする童磨だが、全員の視線は彼に向けられている。

「では、手を出してください」

「……」

 珠世は童磨の腕に注射針を刺し、薬を入れた。

 次の瞬間!

 

 ――ドクン!

 

「ぐっ…ああ……!」

 突如、胸を押さえて苦しみ始める童磨。

 脂汗を浮かべ、息を荒くし、燃えるように熱さを感じながら床に倒れ伏した。

「童磨!?」

「珠世、貴様謀ったか!!」

「何をビビってんだよ、累も禰豆子もこれを耐えたんだぜ」

 腕を組みながらやれやれといった様子を見せる國広に、鬼たちは凝視する。

 要は、薬を体内に入れることで生じる副作用だ。ある意味、人間に戻る上で必要な過程であるのだ。

 しかし、國広はここまでの反応は累になかったと言及した。

「もしかして、これってあれか? 人間を喰った分だけ苦しむってヤツか?」

 その言葉に、無惨たちは肩をビクつかせた。

 鬼は強ければ強い程、より多くの人間を喰っている。そしてこの薬は、傾向上「喰った人間の数と苦しむ時間の長さは比例する」という副作用がある。

「……珠世さん、すぐにでも全員に打とう。早く打って終わらせたい。私たちにかけられた呪いも解きたいからね。大丈夫、すぐ終わるよ無惨」

「何で満面の笑みで言うんだよ」

「異常者め…!!」

 散々自分たちを苦しめてきた鬼たちの阿鼻叫喚を聞きたい耀哉に、さすがの國広も顔を引き攣らせ、無惨は万感の思いを込めた悪態を吐く。

 しかし珠世は淡々と薬を次々と投与。無惨たちは文字通り地獄の責め苦に遭っていた。

「ぐっ…げほっげほっ!!」

「ひ、ひぎゃぁぁ…!!」

「熱い……熱いよぉ……!!」

 薬の副作用は想像以上に堪えていた。

 それこそ、ここで頸を刎ねた方が楽なんじゃないかと思う程に。

「…………修羅場だな」

「確かに目も当てられねぇな」

「ハッ! いい気味だぜェ」

 その様子を見守る柱たちの反応は様々。

 ある者は憐れみ、ある者は顔を引き攣らせ、ある者は清々すると言わんばかりに嗤った。

 鬼舞辻を人に戻して生かすという形での終戦は不本意ではあるが、結果的に鬼に殺される人々がいなくなるのだから……。

 

 

 3日後。

 無惨たちは見事人間に戻り、太陽の光の下でも元気に動ける体を得た。

 同時に耀哉の爛れた皮膚は元に戻り、失った視力もあっという間に回復。ようやく、本物の幸せを取り戻すことができたのだった。

「人間に戻った気分はどうだ?」

「――正直言うと悪くない」

 皮肉を込めるように問う國広に、無惨はそう答えた。

「もう鬼に怯えることなく暮らせる。もう誰も理不尽な目に遭って殺されることはない。……まさか、こういう決着になるとは思わなかったけど」

 耀哉は微笑みを浮かべる。

 それを見ていた國広は、構わず切り出した。

「いや、まだ決着は付いちゃいねぇ」

「何だって?」

 耀哉が目を見開くと、國広は倒さねばならない敵がいると言葉を続けた。

「俺の戦いがまだ終わってねぇんだ。お前らは終わったかもしれねぇが――」

「どうやら、一足遅かったようです。時治翁」

 そこへ、突如として新手が現れた。

 全員が振り返ると、そこには齢九十になるのではないかという老境が、屈強な山伏たちを引き連れて乗り込んでいた。

「産屋敷に鬼舞辻無惨……死に損ないと化け物を丸め込むとはしてやられたわい。さすが我が倅じゃ」

「時治……とうとうおいでなすったな、このクソジジイが」

「黙れ! 口の利き方を気をつけろ、小童め」

 老境――時治は國広に向かって怒鳴りつける。

 その名を聞き、炭治郎たちはハッとなった。

 時治といえば、確か……!

「國広さんの母親を殺した……!」

「ほう、冴子のことを知っておったか。〝赫灼の子〟もいるとは運がいい」

 炭治郎を品定めするように、ねっとりとした視線を送る。

 鋭いが欲に塗れた眼に、炭治郎は鳥肌を立たせた。

「……槍木家の現当主、槍木時治翁ですね」

「いかにも。分を弁えてる小僧は嫌いではないぞ」

 耀哉を見据え、どこか小馬鹿にするような声色で時治は応じる。

 時治のあまりにも不遜な態度に、柱たちの額にビキビキと血管が浮き出た。

「一体、何の御用でしょうか。ここは鬼殺隊士以外には教えてないはずですが」

「はっはっは! ……ここへ来れたのは簡単な事。貴様の言う子どもたちを脅しただけ。そして余の目的は――」

 時治が徐に手を上げる。

 すると山伏たちは一斉に武器を構えた。錫杖に仕込んだ日本刀を抜き、中には小銃を携える者もいた。

「貴様らをここで始末する事だ!!」

「いかんっ!!」

 山伏の一人が、耀哉に銃口を向けて発砲。

 すかさず悲鳴嶼が割って入り、鉄球を振り回して弾丸を弾いた。

 しかし、それが時治の陽動だった。

「きゃっ!!」

「ぐっ!?」

「胡蝶!! 伊黒!!」

 しのぶと伊黒が山伏たちに取り押さえられ、その頸に刃を突きつけられる。

 義勇と錆兎はそんな二人を助けようと身を翻したが、別の山伏たちに足を狙撃され、その場に崩れ落ちた。

「義勇さん! 錆兎さん!」

「テメェらァ……!!」

 蛮行に激怒する実弥が抜刀するが、リーダー格の男が立ちはだかり、 受け止められてしまう。

(っ……こいつ……!!)

「残念だが、〝風の呼吸〟の太刀筋は知っているのでね」

 そうこうしている間に、手の空いている山伏たちが続々と動き出し、半天狗と堕姫、玉壺も拘束。迂闊に動けない状況に陥ってしまう。

「人間に戻る機を伺ってたようだな、狸が」

「はっはっは! 余としても賭けであったが、天は…神は余に味方したのだ。鬼にも鬼狩りでもない、大正の世の天下人である余にな」

 時治は高笑いする。

「一体、何を狙ってる」

「知れたこと。鬼であった人間と、産屋敷家の全てを奪うためよ」

 天元の問いかけに、堂々とした佇まいで時治は答えた。

「鬼であった人間の血は、常人のそれを超える。それを血液製剤にし、この国を強くするのだ。当然、その資金は莫大なもの……故に余としても目障りな産屋敷の財産で賄うのだ」

「貴様……!!」

「産屋敷の先見の明も、血筋によるものなら是非搾り取らねばならんな。その直感で財を成したのだ、民衆もさぞ喜ぶだろう」

「その為に、こんな事を……!?」

 時治のあまりにも不埒な野望に、甘露寺は唇を戦慄かせた。

 産屋敷も鬼舞辻も生贄に、国を富ませ強くしようというのだ。鬼狩りたちが守ってきた「人」が、甘い汁を啜ろうと牙を剥いた。

「今までの戦いは無意味ではないぞ。余の為になったのだからな。貴様ら柱の血もしっかり搾り取って利用して、その忠義に応えねばな」

「人の命を何だと思って……!」

 無一郎が怒りで身を震わせながら糾弾すると、時治は口元をにやけさせた。

「貴様らの使命はただ一つ。余に飼われることよ。相手が鬼とはいえ、殺しに身を捧げてた身……お天道様の下ではやりづらかろう。鬼どももどうせカスのような命じゃ、世の為社会の為に同じ道を辿るのが筋であろう」

「時治翁……あなたは……」

「貴様……!!」

 耀哉と無惨は同時に歯ぎしりし、怒りを露わにした。

 そんな二人を見て、時治は嘲笑う。

「……ここまでの事態になって、他の鬼殺隊関係者が黙ってると?」

「黙っておるとも。余の配下は何もこの場にいる者が全てではない。それぞれの拠点に今頃襲撃しておるはずじゃ」

「何っ!?」

「女子供からもじっくり搾取せねばな。まぐわえば國広のような優れた力を持つ者も産まれるやもしれんしな」

 時治の言葉に、しのぶは背筋が凍り付くような感覚を覚えた。

 他人だけでなく身内であっても、自分の欲望を満たすためならば道具同然に使い捨て、元鬼であった人間を家畜扱いにする。まさに人間の持つ欲望の醜さだけを煮凝りにしたような、醜悪極まりない人物だ。それこそ、鬼の方がまだマシに思えるような男だ。

 こんな人間に、自分の大切な人たちの生殺与奪の権を握られるなど、決してあってはならない。

「……っ! この、外道!」

「しのぶちゃん!」

 怒りで我を忘れたしのぶが時治に向かって駆け出そうとする。

 しかし、その足は山伏に取り押さえられた。

「うぐっ!!」

「ほう、威勢のいい娘だ。余の配下になれば、貴様の姉や妹も手厚く保護してやらんでもないぞ?」

「っ!?」

「なぜ知っておるのかと言いたげだな? 答えは一つ……余に不可能な事はないのだ」

 傲慢に高らかに、時治は嘲笑う。

 鬼だった者たちは、血鬼術をもう使えない。柱たちは産屋敷家を守らねばならない上に人を殺めてはならないため、思うように動けない。珠世もすでに人間に戻った身なので、幻覚を扱うことはできない。

 まさに絶体絶命の状態だ。

「一つでも多くの物を刈り取る時だ。全員、村に連れていくぞ」

「はっ……皆の者、奪い尽くしたら火を放て。この土地に用は無い」

『おうっ!』

 完全に時春の支配下に置かれた産屋敷邸。

 もうどうすることもできないのか……? 全員がそう感じ始めた時だった。

「おいおい、まだ勝負はついてねぇぞ?」

 この緊迫した空気の中、國広が口を開いた。

「國広……冴子に似た悪い子じゃ。余に従うことがどれ程の幸せ化、未だにわかっておらん。それとも冴子の教育がいけないか」

(ちげ)ぇよ。鬼殺隊が柱と隊士で完結する組織じゃねぇっつったんだ」

「……?」

 その言葉に、時治は首を傾げた時だった。

「ギャッ!!」

「うぐっ!?」

「ぐあっ!!」

 あちこちから悲鳴が上がり、山伏たちが倒れ伏した。

 現れたのは、遊撃隊の面々――天明と獪岳だ。二人が隙を突いて山伏たちを次々に倒していったのだ。

「なっ――」

()()()()が出揃ったと言った覚えはねぇぞ」

「っ!!」

 時治は目を剥き、怒りに震える。

 そんな彼の背後から、さらに一人の剣士が現れる。

「義勇、錆兎、炭治郎……皆大丈夫かな?」

「真菰……!」

 現れたのは真菰だった。

 彼女は半天狗たちも解放し、こう告げた。

「あなたたちが送り込んだ刺客は全員、私たちで始末したよ」

「何っ!? バカな……奴らも全集中の呼吸を会得したのだぞ!!」

「大方の予想はつく。そこの山伏の首領格、貴様は元鬼狩りだろう?」

 天明の言葉に、誰もが驚いた。

 すると首領の男は、「気づかれていたか」と笑いながら認めた。

「元鬼狩りとまでは言ってなかったはず。そちらだって独学で全集中の呼吸を会得した新参者がいるでしょう?」

「型まで同じとなれば、誰かが教えているとしか思えないからな。推測が当たったようだ」

「成程……でも知ったところでどうにもなりません、よ!」

 首領は一瞬で移動し、斬りかかる。

 天明は軽く受け流し、獪岳と真菰も参戦するが、三人を相手取っても互角以上に渡り合う。

 それだけではない。倒れていた山伏も立ち上がり、手負いながらも武器を構えた。

「仕方あるまい……逆らう者は殺せ!! 産屋敷一族と鬼だった者は動けなくさせればよい!!」

 時治は非情な下知を下した。

 それに呼応するかのように、耀哉は宣言した。

「ならこちらも、最後の命令だ」

『!!』

「この時をもって鬼殺隊は解散する。……みんな、もう自由にしていい」

 耀哉の宣言に時治は怒りを露わにした。

「貴様!! この期に及んでまだ余に逆らうか!!!」

()()()()()()()()()()からね。子どもたちを自由にさせないとね」

 そう、鬼殺隊が解散すれば、鬼狩りは命を懸けて万人を護る必要がなくなる。

 不平等に人を救うことができ、人を排除することができる。

 この混乱の場において、その命令は時治たちを一気に窮地に追いやる。

「……ならば……我々も好きにさせてもらう……」

「血鬼術は扱えないが、鍛え抜いた強さはまだあるからな」

 同時に、人に戻った黒死牟と猗窩座も動き出す。

 二人は他の元上弦と違い、鬼の不死性を長年の修練へと充ててきた。人に戻った今、血鬼術を二度と使えない反面、数百年に及ぶ戦闘経験は健在だ。そんな二人が、山伏たちに牙を剥いた。

「童磨……お前達は無惨様と累を護れ……傷一つでもつけた時は……」

「頸と胴が泣き別れ、でしょ? わかってるよ」

 鬼と鬼狩りの共闘に、時治は狼狽える。

 こんなはずでは、こんなことになるはずではなかった。

 しかし現実は、時治の思い描いた未来をことごとく打ち砕いていく。

「形勢逆転だな、ジジイ」

「國広……!!」

「母さんの敵討ち、ここで成し遂げるのも悪くねぇ」

 いつの間にか槍を手にした國広に、時治はハッとなった。

 その殺意に満ちた眼差しに、時治は叫んだ。

「やめろ!! もうやめるのだ、國広!! お前は余の可愛い息子なのだぞ!!」

「……俺に親父はいねぇよ」

 時治の懇願を、國広はバッサリと切り捨てた。

 槍を携えながら歩み寄ると、時治はみっともなく命乞いをした。

「や……やめろ!! 来るな忌み子め!!」

「安心しろよ、殺しはしねぇよ」

 國広は槍を回しながら、時治の頸に刃を向ける。

「ただまぁ……牢屋の中が似合いだと思っただけさ」

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 時治の断末魔が、山中に響き渡るのだった。

 

 その後、時治と山伏たちはあっという間に返り討ちに遭い、そのまま御用となった。

 それから程なくして、山梔子村は壊滅し、住民が全員死亡するという報せが全国に伝わった。

 公には発表される事は無いのだが、住民たちは何かに喰い殺されたような状態であったらしいが、真相は闇の中である。




新作の投稿を早くしたいので、急ピッチで最終回に突入します!
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