その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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鬼滅ネタ三作目である本作でも、獪岳は味方ifのスタンスです。
それと國広は基本的に独学で戦闘術を会得してます。伊之助の上位互換だと思ってください。


第二話 藤の山と雷親父

 壮絶な出生の秘密を抱える國広と共に過ごすこととなった獪岳は、あっという間に山暮らしに順応した。

 ここでの食事はジビエや川魚、山菜が中心。水は山の湧き水を使い、米や塩、味噌は近くを通る行商人から買っている。寺暮らしと違って倹約を心掛ける必要はあまりなく、腹一杯食べられる。それが獪岳には嬉しかった。

 過酷な山で暮らすようになれば、山菜取りや狩り、水汲みなど、体を動かす仕事が多くなり、自然と体力がつき体格も良くなる。山暮らしを始めてたったの2年で、獪岳は随分と逞しくなった。

「……ちぐ、しょ……」

「ハッ! ノコノコと突っついてくるお前がいけねぇんだろうが、カス」

「身の丈を過ぎたな。ここは俺達の山だ」

 藤の毒を塗った槍に貫かれた鬼を獪岳は鼻で笑い、國広は岩の上で胡坐をかきながら木苺を頬張る。

 二人が暮らす山は、時折どこからか鬼がやって来ては山中を荒らしにくる。人間を主食とする鬼は生態上、動物の肉でもある程度代替は可能であり、どうしても人間の血肉を狩れない時は山に棲む動物を食らうのだが、山暮らしの國広にとっては「縄張りの侵害」であり迷惑千万だ。

 ゆえに彼の縄張りを荒らす鬼は、例外なくその命を奪われるのである。

「鬼さえ来なければ本当に穏やかな生活なんだが……まあ仕方ない」

 國広は木苺を食べ終えると、獪岳に向き直ってから鬼から槍を引き抜く。

「相棒よ、藤の花が残り僅かだ。明日調達に行くぞ」

「は? 調達って、どこ行く気だよ」

「少し遠いが、「藤襲山(ふじかさねやま)」という一年中藤の花が咲いている山がある。麓に生えている藤は質がいい代物でな…俺が使っている毒は、そこで採ってきた藤の花をすり潰して、加工したものだ」

 岩から飛び降り、獣道を歩く國広に獪岳はついていく。

 藤襲山という山に聞き覚えはない。しかし國広がわざわざ採りにいくのだから、貴重な収穫場所であることは間違いない。

 何より一人で小屋に待つよりも、國広と共に行動した方がいい。

「……いいぜ、付き合ってやる」

「そうか…よし、少し休んだら行くぞ」

 毒に蝕まれ風前の灯火となった鬼を放置し、二人は小屋へと戻った。

 

 

 翌夕。

 二人の少年は町には一切立ち寄らず突き進み、日の入り前に藤襲山の麓へ辿り着いた。

 ちなみに國広は愛用の槍を背負って帯に一本鞭を提げ、獪岳は自衛用として木刀を腰に差している。

「着いたぜ相棒」

「……!」

 山道に自生する藤を見上げ、獪岳は言葉を失った。

 麓を薄紫に染める木々はまさに圧巻で、美しさもさることながら、その量に圧倒させられる。

「とりあえず、袋一杯に詰め込むか。獪岳、俺が摘んだ藤を入れてくれ」

「おう」

 國広は花だけでなく、豆と莢、樹皮も採取。獪岳が持つ麻袋にどんどん詰め込んでいく。

 傍から見れば少年二人が泥棒をしているようにしか見えない光景だが、幸いなことに人どころか動物の気配もない。この山に近寄る人間はそうそういないし、近寄ったとしても鬼をも仕留める國広ならば薙ぎ倒すことなど造作もない。

 黙々と作業を続け、袋一杯に大量の藤の花を詰め込んだところで、二人は山を下りることにした。

「これぐらい取れれば、まぁ三ヶ月は持つな。さて、帰るぞ」

「おう」

 踵を返そうとした、その時だった。

「いたぞ! ()()あいつだ!」

「〝最終選別〟の場で盗みなんて、どういう神経してるのよ!?」

 現れたのは、黒い詰襟を来て刀を腰に差した7人の男女。

 抜刀はしていないが、柄を掴んで迎撃の構えを取っている。

「俺は人間を狩りの対象とはしない。そこをどいちゃあくれませんかね」

「ならその袋を置いていけ! この山は〝最終選別〟の為に管理されている山……そして自生している藤は山に閉じ込められた鬼を外に出さないためだ!」

「部外者が勝手に山の藤を採取するなんて許されないわ!」

「そうかい。じゃあ交渉決裂だな。俺も生きるために必要なんでね」

 國広は帯に提げていた鞭を手に取る。

 しかし7人の男女は、間合いを測りつつも刀を抜こうとはしなかった。

「来ないならこっちから行くぞ」

 國広はそう言うや否や、鞭を振るった。

 しなりながらも凄まじい速さで放たれた鞭は、7人の中心にいた男の頬がキレて血が出た。

 鞭は振るうことで先端が音速を超え、空気を切り裂いて衝撃波を発生させる。その切れ味は非常に鋭く、熟練者であれば鞭で大根を切断することができる程だ。

「っ……!!」

「刀を抜かねぇならどけ。邪魔だ」

 國広の眼光に、七人の男女は怯んだ。

 すると、まとめ役であろう女性が刀の柄から手を放し、道を開けた。

「……ここは通します。でも、二度とこの山に立ち入らないで下さい」

「最初っからそうすりゃいいんだよ、そうすりゃあ」

 鞭を仕舞い、國広は獪岳を伴って道を譲る7人の横を通りすぎようとした。

 だが、まとめ役の女性が國広に話しかけてきた。

「それ程の腕なら……鬼殺隊士として、鬼狩りに協力する気はないの?」

「……」

 その言葉に、國広は立ち止まる。

 鬼殺隊――日輪刀と呼ばれる特殊な刀を携え、宵闇に紛れて惡鬼の手から只人を護り続けて来た、血の災厄を狩る剣士が集う組織である。

 実を言うと、國広は何度か鬼殺隊にその腕を見込まれ、協力を求められたことがある。鬼殺隊は人材不足や鬼との戦いの過酷さ、所属する隊士達の殉職率は非常に高い。國広のような在野に埋もれた強者は喉から手が出る程に欲しいのだ。

 しかし國広はその全てを断ってきた。その理由は……。

「世の中、組織にいねぇ方がいい人間もいる。俺がそうだ」

 それは、國広なりの鬼殺隊への配慮だった。

 鬼殺隊に属する者は、何も鬼に対して憎悪を抱いている者だけではない。孤児であった者や特殊な生い立ち、生まれ持った資質によって一般社会に馴染めず居場所が無かった者などの受け皿になっている面もある。

 だが國広は、近親者でつくられた子という人間社会が拒否するような出生……極端に言えば〝非道徳的存在〟だ。鬼殺隊が受け皿となっても、その出生が明らかになれば隊士達が國広を鬼と同等に忌避する恐れが十二分に考えられる。鬼殺隊は完全実力主義だが、人間が本能的にも理性的にも嫌悪感を覚える者を受け入れられるかどうかは別問題である。

 それに、あの忌まわしき山梔子村を牛耳る当主・時治の底知れない野望と強欲に、鬼殺隊が食い物にされる可能性だってある。鬼と戦う者達を、人喰い鬼すら己の欲を満たす道具にする外道の生贄にさせるわけにはいかなかった。

「産屋敷にこう伝えろ…「俺のことを把握してるならやめておけ」ってな」

「っ……!? それって、どういう――」

「じゃあな」

 呆然とする七人を残し、國広と獪岳は藤襲山の麓を離れたのだった。

 

 

           *

 

 

 翌昼。

 國広は藤襲山から採ってきた藤で特製の毒作りに、獪岳は昼食の支度をしていた時だった。

「――どわああああああっ!?」

「「?」」

 どこからか、雷鳴のような大声が木霊した。

 二人は顔を見合わせ、小屋を出る。

「國広、今の声……」

「どっかの馬鹿が罠に引っかかったらしい」

 声がした方へ向かうと、そこには落とし穴に落ち、体を竹槍に貫かれる前に四肢を壁に張り踏ん張っている老人がいた。

 しかしよく見ると、右足が義足になっている。若い頃に大怪我でもしたのだろうか。それなのに落とし穴でそこに落ちないよう耐えてるあたり、只者ではないようだ。

 いや、それ以前にどうしても國広に言いたいことが獪岳にはあった。

「くっせぇ!! おま、何を仕掛けたんだよ!?」

 そう、文字通り鼻が曲がりそうなくらいに酷い異臭がするのだ。

 それこそ、鼻の利く獣達がここに寄り付かないような。

「ああ、この罠は糞まみれなんだ。他の落とし穴よりも深めに作ってあるんだよ」

「ハァ!?」

「鬼でも破傷風になるんかなって」

「お前の方が鬼だろうが!! 誰か死んだらどうするんだよ!?」

 國広の恐ろしい罠にドン引きしつつも、ひとまず老人を救出。

 臭いがついていたので小屋に招き入れ、風呂を貸してやった。

「いやはや、風呂を借していただいて申し訳ない!!」

 ひと風呂浴びてきた老人、(くわ)(しま)()()(ろう)は丁寧に頭を下げる。

 彼は鬼殺隊における最高位の剣士集団「柱」をも務めた凄腕であり、現在は「育手(そだて)」という鬼殺の剣士の育成者をしているという。

 それを聞いた國広は、目を細めた。

「……昨日、藤襲山に来た見回り連中に「俺のことを把握してるならやめろ」と伝えたばっかなんだが?」

「いや、お主ではなくもう一人の方に用事があってな」

「あ?」

 桑島が言うもう一人とは、言わずもがな獪岳のことであった。

「この桑島慈悟郎、無理を承知でお願い致す!! この子を儂の弟子にしてくれぬか!?」

「……()()()()()()()()……」

 頭を下げる桑島に、國広は意味深に呟きながら条件を提示した。

「俺と戦って、勝ったらの話だ。相棒を他人に預けるわけにはいかねぇんでな」

「ほう…随分と自信家じゃな? 儂も義足とて元柱。甘く見るでないぞ」

「おい國広、いくらなんでも……!」

 國広が提示した条件に桑島は不敵に笑う一方、自分を打ち負かせば預けるとの話に獪岳は口を挟む。

 間違っても國広が負けるとは思えないが、もしもということもある。

 しかし、國広は獪岳を手で制する。

「心配すんな相棒。俺は負けねぇよ」

「……っ……」

 その自信に溢れた言葉に、獪岳は押し黙るしかなかった。

 

 

「さて……では始めるかの?」

 小屋から少し離れた、まるで練習場のように開けた場所で少年と老人は対峙した。

 國広は槍の代わりに六尺棒を構え、桑島は真剣の代わりに獪岳の木刀を借りて構える。

「では……始め!」

 獪岳の掛け声と共に、國広は先手を打った。

 距離を詰めて六尺棒を上段から振りかぶると、桑島はそれを難なく回避。懐に潜り込み木刀を横に振るうが、その一太刀は六尺棒で完璧に受け止められる。

 すかさず距離を取って斬り上げるが、真後ろに國広は後退して突きを繰り出して牽制。桑島は何とか防いでやり過ごす。

「どうした爺さん、もうへばったか?」

「……いや、面白い! これは久々に滾るわい!」

 桑島は不敵に笑うが、それは強がりなどではない。老いた体には似合わぬ程の闘争心を掻き立てられ、気が高まっている。

 一方の國広も、久しぶりの戦いに熱が入ってるのか、口角をつり上げて笑みをこぼす。

「ハッ!」

 國広が振り下ろした一撃を桑島は下段で受け止め、鍔迫り合いに入る。

 それを振り払いつつ跳び下がると、桑島は大きく踏み込んだ。

 

「〝雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃〟!!」

 

 ドンッ! と落雷のような音を立て、地面すら抉る猛烈な踏み込みで飛び込む桑島。

 まさに雷光の如き速さで通り過ぎ、國広の六尺棒を両断した。

 あまりの速さに、獪岳は言葉を失った。

「フフン、どうじゃこぞ――」

「爺さん、棒をへし折った程度で勝ちを確信するようじゃ甘ちゃんだぜ」

「!?」

 次の瞬間、國広は真っ二つになった六尺棒の片方を投げつけた。

 桑島は反射的にそれを回避すると、國広はもう片方の棒で義足を狙って突きを繰り出すが、それを桑島は跳んで躱す。

 棒術から杖術に切り替えた國広は、三尺になった棒で素早く 打ち・突き・払いを変幻自在に繰り出す。へし折られ短くなった棒による攻撃は、六尺だった時よりも間合いは短いが速度が早いため、桑島は防戦一方となってしまう。

 そしてついに桑島は防ぎきれなくなり、木刀を手放してしまった。

「っ……!」

「終わりだな」

 桑島の喉元に、國広の棒が突きつけられる。

 余力を十二分に残した國広は、不敵な表情を浮かべた。

「俺の勝ちだ」

「……見事じゃ!」

 桑島は大きく息をつき、豪快に笑いながら負けを認めた。

 老齢や義足といった不利な要素(ハンディキャップ)こそあるが、それでも元柱であるので一本取れるだろうと自負していた。しかし、國広の実力は予想を遥かに凌駕していた。

 棒術の高い技量は勿論のこと、得物を折られてもすぐさま杖術に切り替えて戦闘を続行する冷静さと対応力、そして桑島の動きを見極め勝利をもぎ取る判断力と正確さ。

 桑島は改めて、國広の実力と才覚の片鱗を肌で感じた。それは獪岳も同様だった。

「勝負ありだ。約束通り帰ってもらうぞ」

「ぐぬぅ……!」

 桑島は悔しげに唸るが、やがて諦めたのか大きく息を吐いた。

 そもそもそういう約束の上で成り立つ手合わせだったのだ、ここで引かない方がおかしい。

「しかし、これ程の逸材が在野に埋もれておったとはのう……。やはりお主も儂の下に来い!!」

「嫌だっつってんだろ」

「それこそ嫌じゃ!!!」

「「フザけんなジジイ!!!」」

 ついに駄々を捏ね始める桑島に、國広と獪岳は同時に怒鳴り散らした。

 その後、しつこく食い下がってくる老人に堪忍袋の緒が切れたのか、國広は折れた棒で何度も引っ叩いて追い出したのだった。




次回は獪岳が原作通りの展開に。
そしてあのモヒカン君と出会います。
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