原作で死ぬキャラです。
國広と獪岳が同居するようになり、さらに幾年月が経ち。
山暮らしで鍛えられた二人は、十代前半でありながら鬼殺隊士と謙遜ない実力を身につけていた。
しかし地力の差は、やはりあった。剣術こそ無能の至りだが、それ以外の才覚に恵まれた國広は、鬼の頸を斬れないにもかかわらず圧倒的な実力差を鬼に見せつけた。獪岳は彼の強さに惹かれる一方、「このまま守られる存在でいいのか」と焦りを覚えていた。
そんなある日、獪岳は國広に申し出た。
「……國広。俺、あのジジイんトコで少し修行してこようと思う」
「!」
「ずっと思ってたんだ。俺だってもっと強くなって、お前の力になりてぇ」
獪岳は真っ直ぐな眼差しで國広を見つめる。
勿論、この申し出には裏がある。國広が剣術を使えないことに目をつけ、自分が剣術を修めることで彼の右腕という立ち位置を確固たるものにしたいという打算だ。強い承認欲求を抱える彼にとって、國広は唯一無二の〝居場所〟で、自分の才能を正しく評価されることは最重要事項であるからだ。
「俺はお前を裏切る気はねぇってのに、信用できねぇか?」
「そんなんじゃねぇよ……でもな、俺はお前に守られたくないんだ」
「……そうか」
國広は獪岳の意思を汲み取り、彼の修行を認めることにした。
「まぁ、無理はすんなよ。怪我とかしたらすぐ帰ってこい」
「ああ。ちょっとの間、修行してくるぜ」
その日、獪岳は山を降り、元鳴柱・桑島慈悟郎の門下に入ったのだった。
獪岳が桑島一門に身を投じ、再び一人となった國広はまた藤襲山を訪れていた。
しかし今回は、山に自生する藤を摘み取りに来たわけではない。気分転換に来たのでもない。
この山に巣食う大物を、討ち取るためである。
「あの野郎、今度こそ仕留めてやる……」
山の中を歩き回る國広の足取りに、一切の迷いはない。
この山には、巨大な体躯に何本もの太い腕がまとわりついた異形の鬼――その見た目から〝手鬼〟と呼称する――が潜んでおり、國広にとっては三度の敗北を喫した因縁の相手である。
最初に遭遇した時は、狐の面を着けた少年が刀を折られた隙を見て攻撃するも、丸腰のクセになお戦おうとするため、目の前の敵に集中できず負傷したことで撤退。二度目の対戦は、雨が降ってきたことで足場が悪くなり、追撃すら困難と判断して山を下りた。三度目の対戦は、途中で死体を食らって体力を回復したことで徐々に劣勢となり、体力切れで逃げた。
そして今回で四度目となる、國広と手鬼の戦い。意地に突き動かされた忌み子は、因縁の相手との決着に臨んだ。
(確か、前回はこのあたりだったな)
藤襲山の頂上付近まで進むと、山のような巨躯の影が目に入った。
ついに宿敵・手鬼を見つけたのだ。
「…また来たな。俺の可愛い狐が!!」
「……居やがったな。
手鬼は眼前で刀を構える、見覚えのある面を着けた花柄の着物を着た少女に釘付けで、木陰で機を伺う國広に全く気づいていない。自分一人の時は待ち伏せすることもあったのに、今回は完全に眼中にない。
まさに千載一遇の好機。國広は藤の毒を念入りに塗った槍を二本用意し、息を殺す。
「ヒヒヒ、
クスクスと手鬼は醜悪に笑う。
どうやら手鬼は、鱗滝なる人物によってこの山に幽閉され、その恨みで弟子となった少年少女を片っ端から喰いまくってるらしい。鱗滝の弟子は決まって「厄除けの面」なる狐の面を着けているため、それを目印にして弟子を見分けては喰い殺すことで復讐しているという。
その事実を知り、鱗滝を父親同然に慕っているであろう少女は、涙目で呼吸を乱れさせ怒気を溢れさせている。一方の國広は「野郎、あんな小賢しいマネできたんだな……」とボヤき、手鬼に気づかれる程ではないが驚いていた。
「だが……この前のはデカかったな……國広のせいで宍色の髪のガキを喰えなかった…!!」
「國広…?」
「あぁ、そうだ!! それ以来、あいつが憎くて仕方ない!! 何度喰おうとしても裏をかかれた!! 悪運の強いガキだ……!!」
「何だ、あいつも
意外にも自分のことを覚えていたことに國広は驚いた。
「だが、まずはお前だ!! あの宍色の髪のガキを喰えなかった分、お前で晴らす!!!」
手鬼は、目の前の少女を喰うために無数の手を伸ばす。
それを皮切りに、國広は木陰から飛び出して槍を投げた。狙いは頸……ではなく、異形化・大型化したことで比例するようにデカくなった目玉。手鬼の視界を奪うことだった。
完全に少女に注意が向いていた手鬼は、國広の不意打ちに気づくことなく槍を食らった。
「ギャアァァッ!?」
「久しぶりだな。山奥で逢瀬なんていい趣味じゃねぇの」
「國広ぉぉぉ!!!」
もう片方の槍を担ぐ國広が現れ、手鬼は殺気立ちながら左目に刺さった槍を引き抜き再生させる。
藤の毒が効いてるのか、手鬼は動きが多少鈍り脂汗を滲ませている。相対していた少女は、見る限りは刀の摩耗も体力の無駄な消耗もなく、自分が介入したことで落ち着きを取り戻している。戦況はかなり有利になった。
だが、ここで慢心する國広ではない。過去に戦闘中に雨が降って中断したことがあるため、最後まで気は抜けない。
「……あなたが、
「錆兎? …………ああ、あいつね。悪いけど
國広はそう言いながら槍を構え、少女も続くように刀を構える。
「私は
「槍木國広だ。利害の一致だ、手を組んでやる…よっ!」
國広は跳び、槍で手鬼の右眼を穿つ。
手鬼は悶絶するも、國広を握り潰さんと手を伸ばすが、彼が突然姿を消したことに戸惑う。
一体どこに消えた……!? 辺りを見回すと、國広は左手に持った鞭を枝に巻き付けながら木々を移動しているではないか。
(クソッ、木が邪魔で動きを追えない……!!)
手鬼は苛立ちを覚える。
木々の間を縦横無尽に動き回ってしまうと、地面の下に手を潜り込ませて奇襲することは難しく、攻撃の狙いが定まらない。地面が降り立った瞬間に攻撃を仕掛けようとすると、死角から真菰が斬りかかるため、決定打を与えることができない。
このままでは埒が明かない――その焦りから、手鬼の攻撃に粗さが目立ち始める。
「俺は剣術に関してのみ無能だから、トドメは頼む」
「任せて!!」
「クソガキ共ぉぉ!!」
初対面でありながら、二人は連携して手鬼を追い詰める。
手当たり次第に伸ばした手を真菰に斬り落とされ、國広の槍が眼や脇などの柔い部分を穿ち、藤の毒の効果も含めて確実に手鬼を削っていく。
すばしっこい動きの真菰と、戦況に応じて変幻自在に戦う國広。手鬼にとって、今までで一番面倒臭い相手だった。
そして、ついにその時が訪れた。
「うおらぁ!!」
國広が高く跳び上がり、真正面から突きを繰り出す。
散々翻弄された隙を突かれ、手は全て出し切っている。完全に懐に潜り込まれ、もう手鬼にはどうすることもできない。
國広の槍は、苔色の巨体の頸に刺さった。しかし鬼は頸を斬らねば倒せない。刺さった槍は確かに食い込んだが、致命傷には至らなかった。
(これで終わりだ、頭を握り潰してやる!!)
勝利を確信した手鬼だったが……國広の背後から聞き覚えのある呼吸音が。
真菰が飛び込んできたのだ。
「何っ!?」
「脇が甘いんだよ、バーカ」
國広は槍を引き抜いて離脱。
真菰を視界に捉えた手鬼は、かつて自分をこの山に閉じ込めた鬼狩りと同じ型で斬りかかる彼女に向かって叫んだ。
「鱗滝!!!」
「〝水の呼吸 壱ノ型 水面斬り〟!!」
次の瞬間、手鬼の頸が宙を舞う。
技を出し切った真菰は、そのまま落下して地面へ落ちる……と思いきや、國広に抱きかかえられていた。
何が起きたかわからず、真菰は目をパチクリさせて國広を見た。
「あ、ありが、とう……」
「おう」
國広はそれだけ言って真菰を下ろし、手鬼の頸とボロボロと崩れるのを見届ける。
「……負け、たのかぁ……俺は、負けたのかぁ……」
「あぁ、これで終わった…」
國広が万感の思いを込めて告げると、手鬼は幼子のように大粒の涙を零し始めた。
一方的な恨みを抱き、その執念だけで生き延びてきた怪物は、風に乗って塵となっていく。人の道を外れて命を貪り続けたこの鬼は、誰の記憶にも残らず、山の一部として還ることも許されず消え失せるのだ。
だからこそ、討ち取った者としてその最期を見届ける義務がある。たとえ邪悪な人喰い鬼であっても、命の奪い合いをしたのは変わりないのだから。
「じゃあな。次に会う時は、あの世だ」
「……」
手鬼は最後に國広と真菰を瞳に映し、恨み言や呪いの言葉を吐かず、安らかに消滅した。
長い因縁に終止符を打ち、終わったことを悟った真菰は國広に話しかける。
「あなたも、あの鬼に……?」
「いや…俺はただ意地になってただけさ」
國広は踵を返し、槍を回収しながら山から去ろうとする。
真菰は、そんな彼を呼び止めた。
「待って!!」
「?」
「ありがとう、私達の敵討ちを手伝ってくれて」
「そっちの事情は知ったこっちゃない。俺は奴と
國広は首根っこをポリポリと掻きながら、素っ気なく返す。
真菰はそんな國広に、あることを尋ねた。
「國広って、最終選別の参加者なの? あの場にいなかったけど……」
「いや、俺は少し離れた山で暮らしてる。ここには藤の花の調達とかで来るぐらいだ」
「えっ!? じゃあ最終選別の参加者じゃないの!?」
「たまにフラッと寄る部外者さ。お前も早めに山を下りるんだな。ここは刀一本で来ちゃいけねぇ場所だぞ」
國広は忠告を残して山を下りていく。
真菰は國広が何者なのか気になったが、今は最終選別中。いつ殺されてもおかしくないので、気持ちを切り替えて残り僅かな期間を生き抜くことを優先したのだった。
というわけで、本作のヒロインは真菰ちゃんです!
今まで連載した二作では錆兎と真菰は故人でしたが、本作では生存ルートで参ります。
ある意味では一番の救済ルートかもしれません。
感想お待ちしております。