その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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本作は月一で更新しますけど、ネタが切れないように努めますので、ぜひご覧ください。


第四話 邂逅

 とある山。

 かつて鬼殺隊で元鳴柱として鬼狩りをしていた老人・桑島慈悟郎の下で、獪岳は修行に励んでいた。

「はぁ、はぁ……」

「うむ…だいぶ参っておるようじゃな」

「……糞じ…先生」

「今、糞爺って言おうとしたじゃろ? 言いかけたじゃろ?」

 桑島は弟子にツッコみつつも、目を細めて笑いかける。

「1人でよく頑張ってるの。強くなっておるわい」

「…………」

 桑島の言葉に、獪岳は無言で顔を背けた。

 修行を始めて数年。真面目でひたむきに修行をしてきた甲斐があり、メキメキと実力を付けていた。

 だが、それでも彼はどうしてもできないことがあった。

「霹靂一閃、やはり習得できんのじゃな…」

「……」

 そう、彼はどんなに修行しても習得できない技があるのだ。

 獪岳が教わっているのは、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で瞬間的に身体能力を大幅に上昇させ、鬼と互角以上の剣戟を繰り出す「全集中の呼吸」の一種である〝雷の呼吸〟。呼吸の力を全て脚に集中させる事で、強烈な踏み込みから文字通り雷光の如き速さで斬撃を繰り出す神速の剣術だ。

 その中でも基礎にして奥義と言える〝壱ノ型 霹靂一閃〟が、獪岳はなぜかできないのだ。これに関しては師である桑島もお手上げ状態に等しい状況で、彼は「これからできるようになっていけばいい」と諭したのだが、獪岳はさらに自分を追い詰めて修行に没頭するようになったのだ。

「……お主と共にいるあの小僧も、無理が祟るのを望まんはずじゃ。あまり急ぐでない」

「……!」

 その言葉に、獪岳はハッとなった。

 自分を拾った國広は、剣術ができないからとできるまで修行しようとはせず、剣以外のあらゆる武器を使った武術を独学で習得することで、人喰い鬼とも互角に渡り合う実力を身に付けた。

 型一つができない自分に対し、國広は根本からできない。それでも鬼と戦えるのは、才能や努力の差ではなく、物事の捉え方の違いだった。

「……」

 獪岳は、自分の掌を見つめた。

 國広は完璧である必要などないと、常に思考の切り替えができる人物だ。もしも自分が霹靂一閃が習得できずにいても、彼なら「斬れりゃあいいんだよ、キレイに勝とうとする必要なんかねぇんだ」と言うだろう。

「……先生、俺は少し…()()()()()()()()()()()()

「そうか」

 その言葉に、桑島は微笑を浮かべた。

 才能に偏りがある人間でも、できることはある――國広と過ごした日々を思い出した獪岳に安堵したかのようだった。

 

 

           *

 

 

 その頃、國広はというと。

「おいおい、猪も鹿も野兎も随分見かけねぇなぁ…」

 手製の霧雲杉の背負い箱を背負って、食料調達の為に山の中を歩き回っていたが、その足取りは重い。

 理由は簡単。ここ最近、動物が異様に減っているのだ。

 獪岳が桑島一門に入ってからの出来事ゆえ、山には自分以外住んでないという状況から、当初は餌場を変えたのだろうと思っていた。だが月日が流れる内に山から魚も減り始め、今の環境が異常事態に陥っていると判断。引っ越しの下見も兼ねて、付近の山を手当たり次第に探索していた。

(まあ、いつか引っ越ししなきゃなんねぇとは思ってたが……)

 どこか引っ掛かる國広は、ふと立ち止まった。

 微かにだが、血の臭いが漂ってきたのだ。

「……」

 愛用の槍を構え、國広は神経を研ぎ澄ませながら歩を進め、血の臭いの出処を探る。

 そして、その出処はすぐ近くだった。

「……」

 國広の視線の先にいたのは、二人の剣士と一体の鬼だ。

 一人は、宍色の髪を持つ白い羽織を着た青年。もう一人は、右半分が無地・左半分が亀甲柄である片身替の羽織を着用した青年。

 そして、その鬼はというと、國広がこれまで見てきたどの鬼よりも醜悪な姿だった。

「うひひひッ! 往生際の悪い鬼狩りだ」

「義勇、連携だ!! 二人で同時に行くぞ!!」

「わかった!!」

 片身替の羽織の青年――冨岡義勇が、日輪刀を構えて鬼に突撃した。

 その刃は、まるで水流のような美しい軌跡を描きながら鬼に迫る。だが、鬼も黙ってやられるわけではない。

「ヒヒッ! 血気術〝千本針〟!!」

「!」

 無数の針と化した鋭い毛髪を繰り出し、義勇の攻撃を相殺する。

 その隙を突いて今度は宍色の髪の青年が斬りかかるが、鬼は義勇の攻撃を防いだ時と同じように無数の針を生やして応戦する。

「うひひっ! お前らじゃあ俺は斬れねぇよ!!」

「ぐっ!?」

「錆兎!!」

 鬼の針は、とにかく数が多い。二人がかりでも全てを捌き切るのは難しく、義勇も錆兎も徐々に傷が増え始めていた。

 國広は冷静に状況を見て、槍の穂先に藤の毒を塗って息を殺し、鬼の死角に回り込む。

 そして――

「トドメだ!! 血鬼術――」

 

 ドスッ!

 

「何っ!?」

「っ…!?」

「あいつは……!!」

 國広の存在に気付いた義勇と錆兎が目を見開くと同時に、彼は藤の毒を塗った槍で鬼の背中を貫いた。

「ぐ……アッ……!」

 直後、藤の毒が回り始めたのか、鬼の動きが鈍る。

 だが國広はすかさず次の行動に移り、一度槍を引き抜いて今度は正面に回り込み、眉間に槍の穂先を滑り込ませた。

「ガ……!」

「義勇、今だ!!」

 國広の槍を引き抜こうと、鬼が柄を握った瞬間を錆兎は見逃さず。

 体力的にまだ余裕がある義勇が、すかさず日輪刀を振りかざして鬼の頸を斬り落とした。

「バ、カなァ……!?」

 断末魔を上げる間も無く、頸と体が分離してしまった鬼は地面に倒れ込み、ボロボロと崩れ始めた。

 そして数秒と経たぬ内に消滅し、鬼は消えてなくなった。

「……ったく、危なかったな」

「お前は……あの時の!」

 錆兎は國広の姿を見るや否や、驚いた様子で刀を納め歩み寄ってきた。

「錆兎…まさか」

「あぁ、最終選別の時に助けてくれたんだ」

 錆兎の返答に義勇は目を見開くと、國広に深々と頭を下げた。

「ありがとう……助かった」

「あ? あぁ…気にすんな、あれはハズミだ」

「俺は鱗滝錆兎。こっちは親友の冨岡義勇だ」

「槍木國広。よろしく」

 互いに軽く自己紹介をすると、不意に新たな気配が近付いてくるのを感じた。

 同時に流れてくるのは、血の臭い。

 それぞれが得物を瞬時に構え、その方向に目を向けると、三体の異形の鬼がこちらにやって来ていた。

「フッフフ、どうやら俺達は随分と人気者らしい」

「そのようだな」

「だが、誰であろうと障害は斬る!」

 錆兎が二人より一歩前に出ると、日輪刀の切っ先を鬼達に向けて構えた。

「義勇、國広!  二人で一体ずつ狙え!! 俺が奴らを引き付ける!!」

「バカタレ」

 

 ゴンッ

 

「あだっ!?」

 國広は呆れながら槍の石突で錆兎の頭を殴った。

 突然のことに錆兎が戸惑っていると、國広はジト目で睨みつけた。

「俺は長柄武器だぞ。射程で言えば俺の方が有利なんだから、わざわざ庇おうとすんな」

「だ、だが……」

「それに俺は剣術がからっきしなんだ、囮や陽動は俺に任せとけ」

「國広、待て!」

 義勇が呼び止めるよりも早く、國広は霧雲杉の背負い箱を背負ったまま鬼の群れに突っ込んで行った。

 まず手始めに一番近くにいた一つ目の鬼の胴体を貫き、隙を突くように襲い掛かった二体目には帯にぶら下げていた鞭で対応。しなる鞭は右足を的確に巻き付き、そのまま力業で振り回して大木に叩きつける。呆気に取られた三体目には、一体目を刺した槍の石突を右目に叩き込んで視界を潰し、そのまま勢いに任せて三体目を木の幹に叩きつけると、一体目の鬼の胴体から抜いた槍を三体目に突き刺す。

 槍の穂先に塗られた藤の毒の効果により、一度刺された鬼達は徐々に弱っていき、その戦いぶりを見ていた義勇と錆兎は、ただ唖然とするしかなかった。

「……凄いな…」

「ああ、ここまで強いとはな…」

 國広の戦いを目の当たりにした錆兎と義勇は、霧雲杉の背負い箱を背負った状態で槍や鞭を使いこなす彼の実力の高さに感銘を受けていた。

 一方の國広は槍を一旦地面に突き立てると、背負っていた霧雲杉の背負い箱を下ろして蓋を開け、くの字型の形状をした木製の奇妙な武器を取り出した。

「何だあれは…!?」

「初めて見る……」

 二人の疑問に答えることなく、國広は武器を右手にしっかりと握り、鬼に目掛けて投げ付けた。

 その武器は回転しながら飛翔し、鬼の頸を狙ってきたのだが、当然のように躱されてしまう。

 外れたと思っていると、何と例の武器が空中で方向転換して戻ってきたではないか。

「ガァッ!?」

「ヒッ!?」

「な、何じゃあ!?」

 予想外の展開に、鬼達は咄嗟に伏せた。

 武器はそのまま驚きを隠せない鬼達の頭上を通り、國広の手元に戻ってきた。

「あの武器……一体どういう仕組みなんだ?」

「わからない……投げた武器が空中で方向を変えるなど、聞いたことない。だが、あの形状からして恐らく投擲武器だろう…」

 二人がそんな会話をしていると、國広は三体の鬼を睨みつけた。

「この武器には槍に塗ったものよりも強力な藤の毒を塗ってある。切れ味はないが、皮膚を通して体内に吸収されることで効果が出る……次は当てるぞ」

「ヒッ!?」

 鬼達は恐怖で後ずさっていくが、國広はくの字型の武器を容赦なく投げつける。

 その直後、國広は二人に発破をかけた。

「二人共、今だ!! 奴らの頸を斬れ!!」

「「!」」

 その言葉に二人はハッと我に返り、日輪刀を抜いて武器に気を取られた鬼達の頸をあっという間に斬り落とした。

 鬼の頸を斬り落としたのを確認すると、國広は武器を再び背負い箱に仕舞って義勇と錆兎の元へ駆け寄った。

 すると二人は、國広に深々と頭を下げた。

「國広、助かった」

「本当にありがとう……恩に着る……!」

「気にすんなって。別に大したこたぁしてねぇよ」

 國広はそう返すと、槍を肩に担いで義勇と錆兎に背を向けた。

「俺ぁもう行くぜ。お前らは?」

「俺達は別の任務がある。だが、また会えるといいな」

「あぁ。じゃあな鱗滝、冨岡」

 二人に別れを告げると、國広は霧雲杉の背負い箱を背負った状態で山の中を再び歩き始めたのだった。

 実はこの出会いが、後に忌み子・槍木國広を鬼殺隊に引き込むきっかけとなってしまうのだが、この時はまだ知る由もなかった。




ちなみに國広の強さは、義勇と錆兎を同時に相手取っても勝てるくらいです。
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