その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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何とここで、思わぬ人物と遭遇。
原作ではあの後どうなったか気になる方です。


第五話 忍びとの出会い

 それは、本当に偶然の出会いだった。

「おーい、生きてるか兄さん」

 現在居住している山で罠に獲物が掛かっているか確認しに来た國広は、その森の中で行き倒れになっている男を見つけた。

 黒い短髪、機動性を重視した和装、人喰い鬼とも渡り合う自分よりも鍛えられた肉体、そして頭に巻かれた額当て……本来なら文明開化したこの時世では絶滅同然の存在――忍者を彷彿させる男だ。

「う、う……」

 男は呻き声を上げて國広の呼びかけに答えた。どうやらまだ生きているようだ。

 しかし、男はそれだけ言って気を失った。

「……ハァ…箱を背負ってなくてよかったぜ」

 國広はそうボヤきながら男を担ぎ、自分の住む小屋へと引き摺って行く。

 男には幾つか聞きたいことができたが、今優先すべきことは、この死にかけの男を死なせないようにすることだった。

 

 

 数時間後。

「う、うぅ……」

 男は目を覚ますと、自分が見知らぬ天井の下で寝かされていることに気付いた。

 そして、その横で自分の顔を覗き込んでいる少年の存在にも……。

「よう、目ぇ覚めたか?」

「あ……ああ……」

 國広は男の意識が戻った事に気付くと、そう声を掛ける。

 男はまだ意識が朦朧としているようで、どこかボンヤリとした表情でそう答えた。

「アンタ、この山で行き倒れてたんだぜ。俺が住んでなかったら死んでたぞ」

「……お前が、俺を……」

「おう、感謝しろよ。アンタをここまで運んでくるのは大変だったんだから」

 國広はそう軽口を叩きつつ、水が入った湯呑を差し出す。

 男はそれを受け取ると、ゆっくりと飲み干した。

「……助かった」

「いいってこった」

 男は國広に感謝の言葉を述べるが、彼はそれを軽く流す。

 そして、とりあえずお互いに自己紹介をすることにした。

「俺は槍木國広……この山で暮らしてる。アンタは?」

「……教える名は無い」

「じゃあ名無しって呼ぶな」

 顎に手を当てる國広に、男は渋々告げた。

「……()(ずい)(てん)(めい)…忍びだ」

「何っ!? マジモンの忍者か……!?」

 予想外の正体に度肝を抜く國広。

 しかしすぐさま気を取り戻し、話を進めた。

「……で、何で俺の山で行き倒れてたんだ?」

「……俺は、山梔子村という村の地主にお前を捕らえろと依頼されて来た」

「うげっ、あのクソジジイ、まだ諦めてねぇのかよ…!?」

 天明の言葉に國広は悪態を吐く。

 あの忌まわしき山梔子村は、まだ國広を狙っていたのだ。

「もうあの村とは縁を切ったつもりだったんだがな……」

 天明の傍で「どこまで業が深いんだ、あの村は」とボヤく。

 そもそも國広が山暮らしするようになったのは、山梔子村の目を欺くためだ。数多の人間と人喰い鬼で肥え太った醜悪極まりない村から逃げ出し、たった1人で生きていくために。その苦労がやっと実を結んだ矢先にこれだ。流石にうんざりする話である。

 その上、あの最低最悪の外道老害が忍びに依頼してまで自分を捕まえようとするとは、國広は考えたくもなかった。

「とんでもねぇ貧乏くじ引いたな、天明……正直言うが、依頼を達成したら次はお前だぞ」

「どういうことだ…?」

「お前からも搾取するんだよ、あの村は。忍びは技を売るから、金さえ貰えればどんな汚れ仕事もやるだろうけど……あの村は違う。村ぐるみでイカレてる」

 國広はあの村の本性を知っている。自分は幼い頃から何度も味わったからだ。

 そして、自分の母もその犠牲者の1人だった。

「部下が皆殺しにされちまったのは気の毒だが……善意で言わせてもらう。これを機に忍びをやめろ。あの村にとってお前も他所から来てくれた生贄に過ぎねぇんだ」

「……少し、考えさせてくれ…」

「おう。しばらく家に泊まってけ、その傷じゃまだ動くのも辛いだろ」

 その言葉に天明は顔を背けた。

 自分の部下が鬼との戦いで死に、生き延びたかと思えば依頼を達成しようがしまいが生け贄にされようとしているという事実に戸惑っているのだろう。無理もない話だ、彼は何も知らなかったのだから。

 國広は彼の不運を気の毒に思いつつも、自分も床についた。

 

 

 それから3日後。天明は傷を治し、出歩けるようになった。

 その回復の速さ、流石は忍びと言ったところだろう。

「……で、まだ答えが出ねぇの? そんな無機質な生き方、つまんねぇったらありゃしねぇぞ」

「……」

 白飯を頬張る國広の声に、天明は一言も発さず黙々と食べ続けている。

 しびれを切らした國広は、強い口調で言った。

「てめぇ、今宿無しの無職だろ。アテはあんのか? 稼業が成り立たねぇ以上、他の食い扶持を考えねぇといけねぇんだぞ。ましてや侍も忍びも滅んだ世の中だ、今のてめぇに何ができるってんだ」

「……それは……」

「その歳で野垂れ死には御免だろ。それでもいいってんなら止めやしねぇけどな」

 國広は箸を置くと、天明にそう言い放つ。

 その言葉に彼は顔を俯かせ……そのまま何も言わなくなった。

「……ハァ」

 ――こりゃあ重症だな。

 國広はため息を吐きながら、その横で黙々と手製の漬物を齧る。

 ひたすら忍びとして生きることに縛られ続けたのだろう、その目はまるで死んだ魚のように濁っていた。

(俺もとんだ貧乏くじ引いちまったな)

 國広とて人だ。前世では不慮の交通事故で命を散らし、今世では悍ましい人間の悪意によって母を殺された。

 そんな國広にとって、座敷牢にいた頃の自分と同じ目をしている天明は放っておけない存在であった。

「……國広」

「あ?」

「俺は、どうすればいい……」

 天明はそう呟く。

 相変わらず無愛想極まりないが、その目は僅かに不安に揺れていた。まるで迷子になった子供のようだと、國広は感じた。

「好きにすれば? お前を縛るものはねぇんだ、お前が決めりゃいい」

「……しばらく、厄介になる」

「そっか。家事ぐらい手伝えよ」

 國広は素っ気なく言葉を返す。しかし、その顔はどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 後に國広達は鬼殺隊と合流する際、天明の存在で波乱を巻き起こすことになるが、それはまだ先の話である。

 

 

           *

 

 

 さらに一週間後、桑島宅。

 雷の呼吸の修行を行っている獪岳の元に、國広が天明を連れて姿を現した。

「おい、何だこのデカいの」

「天明、こいつが俺の相棒の獪岳だ。剣の才覚のない俺の代わりに剣士になろうとしてる」

「……そうか」

「あ゛ぁ? てめぇ、それだけかよ?」

 天明の無愛想さにカチンときたのか、獪岳は彼を睨み付ける。

 しかし彼のことなど眼中にないと言わんばかりの態度のまま、國広に尋ねた。

「……俺も、こいつと同じように呼吸法を得ろと?」

「いや、今日は顔合わせ程度だ。病み上がりを焚きつける程、俺も鬼じゃねぇ。獪岳も問題なさそうで安心したぜ」

 國広はニカッと笑うと、その言葉に獪岳は少しだけ照れたように目を逸らした。

「じゃあ、俺たちは帰る。頑張れよ、相棒」

「……お前の隣は俺だからな、國広」

「はっはっは! お前こそ俺を失望させるようなマネすんなよ?」

 そう笑いながらも、國広は天明を連れて帰っていく。

 獪岳はそんな二人の背を見送ると、雷の呼吸の訓練を再開した。

 

 

 時同じくして、鬼殺隊を統括する一族・(うぶ)()(しき)家の屋敷。

 全ての鬼狩りの最高管理者たる産屋敷耀(かが)()は、大広間で鬼殺隊士の最高位に立つ「柱」一同と御前会議――柱合会議を行っていた。

「――以上が、槍木國広とのやり取りです」

「ありがとう、義勇、錆兎」

 先日、國広と鬼狩り中に遭遇した義勇と錆兎の報告を聞き、耀哉は満足そうな笑みを浮かべる。

「やはり、國広を我が鬼殺隊に入隊させるべきだね」

「お館様、なぜそこまでその槍木國広という少年の事を気にかけるのですか?」

 耀哉のその言葉に、炎柱・(れん)(ごく)(しん)寿(じゅ)(ろう)は疑問を投げかけた。

 確かに、報告から聞いた國広の強さは凄まじい。剣士として無能という致命的欠陥を抱えておきながらそれ以外のあらゆる武術で圧倒し、さらには独学で開発した藤の毒で鬼を殺せており、最近では見たことのない武器を駆使して義勇と錆兎を救援している。これ程の逸材を鬼殺隊に勧誘すれば、隊士の戦闘力の向上や攻撃手段の幅が広がり、それに伴って生存率も高まるだろう。

 しかし耀哉自身は、それ以上に國広には周囲の人間を惹きつける何かがあると感じていた。

「強さや技術じゃない…かと言って人徳というわけでもない。國広は人の心を動かす何かを持っている……私の勘がそう告げているんだよ」

『……!!』

 その場にいる者が、皆息を呑んだ。

 産屋敷家の人間は、未来予知と言える程の勘の鋭さを持っており、その能力を使って代々莫大な財産を築き、家や鬼殺隊の危機を幾度となく回避してきた。特に当代の耀哉はその先見の明が非常に優れている故、彼の勘はたとえ柱でも無碍にはできない。これまでにもそれに従って耀哉が動いた結果、実際に鬼殺隊に貢献してきた例は数知れないからだ。

 そして今回も――

「皆はどう思う?」

「お館様の仰せのままに」

「……是非もありません……」

 全員が一斉に頭を垂れる。

 それは國広を勧誘することへの賛成の意を示していた。

「では、引き続き國広の動向を探ってほしい。他の隊士達にも情報共有しても構わない。私も慈悟郎に話を伝えておく」

「……? 失礼ですがお館様、なぜそこへ桑島の名が?」

「ああ、そう言えば伝え忘れてたね。彼の下で修業している獪岳という少年が、その國広の相棒なんだよ」

『!?』

 その言葉に、全員が驚かざるを得なかった。

 育手の翁が引き取った子供が、思わぬ突破口に繋がっているのだ。

「嗚呼、何という因果……あの子が鬼狩りとして私の前に……」

「そういやあ、あんた鬼殺隊に入る前は坊さんだったな。派手に生き延びていてよかったな」

 どこか嬉しそうな声色で涙を流す岩柱・悲鳴嶋(ひめじま)行冥(ぎょうめい)に、音柱・宇髄(てん)(げん)は笑みを浮かべる。

 何を隠そう、悲鳴嶋はかつて寺で獪岳を育てていた時期があり、あの夜以来安否を気にかけていたのだ。

 それがまさか、共に鬼と戦うことになろうとしているとは夢にも思わなかっただろう。

「では、獪岳という少年が入隊できれば……」

「無論、國広も成り行きで引き入れられるはずだよ。……獪岳の方は私の責で何とかしよう。皆は任務をこなしつつ、國広の行動に注視してほしい。ただ彼はあまり鬼殺隊に入りたがってないから、強引に勧誘するのは遠慮してくれるかな?」

『御意』

 こうして、國広を巡る計画は着々と練られていくのであった。




というわけで、新たに宇髄弟が仲間に加わりました!
オリジナル設定で、本作での名前は天明。中国の歴史で「元」の次は「明」だったので、そこから取ってます。
國広一派がとんでもないことになっていく……。
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