その忌み子、〝ほぼ天才〟につき   作:悪魔さん

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ついにお館様と遭遇。
新戸と一子を足して割ったようなのが國広なので、彼は割としっかり者です。


第七話 産屋敷邸

 東京府内、某所。

 巧妙に隠された鬼殺隊の本部・産屋敷邸に國広たちは呼び出された。

「ここが、産屋敷邸……!」

「デケェ屋敷だな。あのクソジジイの家ぐらいあるぞ」

「……」

 産屋敷邸の門を潜った一行は、庭で待っていた柱たちと合流する。

 そこには、見慣れた二人もいた。

「國広!!」

「来てくれたのか……!!」

「不本意ながらな…俺は静かに山暮らしで人生終えたかったのによ」

 水の呼吸の使い手――錆兎と義勇は、國広を見て思わず駆け寄っていた。

 過去に國広のおかげで命拾いした二人にとって、いつかは共に鬼を滅する同志として迎え入れたいと思っていた。

 それが、こんな形で叶うとは。

「俺達は水柱になった。色々あってな」

「本当なら錆兎が相応しいんだが……」

「いや、俺も未熟な部分がある。義勇の方が――」

「成程、日本人あるあるってか」

 錆兎と義勇のやり取りを見て、國広は察した。

 お互いに遠慮し合って事が前に進まなくなり、埒が明かないと判断されたのが目に見える。

 もっとも、水柱に任じていいのは一人だけとは一言も言ってはいないだろうが。

「獪岳……よく、生きてくれた……」

「悲鳴嶋さん……!」

 一方の獪岳は、かつて自分と共に暮らしてくれた悲鳴嶋と再会を果たしていた。

「悲鳴嶋さん、俺……あの日……!」

「言うな……沙代から全て聞いた。お前が犯したことも、それに対してあの子たちが犯したことも……。それはこれからの行いで償えばいい……とにかく、無事でよかった」

 悲鳴嶋は獪岳の頭を撫でながら涙していた。

 あの寺の一件でお互いに何とも言い難い溝ができていたが、どうやらそれがなくなったようだ。

「……兄者」

「お前、何で……」

 そして天明は、兄の天元と想定外の再会を果たしていた。

 金輪際会う事もないと思っていただけに、お互いに動揺を隠せない。

「鬼によって壊滅させられたところを、國広に助けてもらった。それ以降は彼に身を寄せている」

「……そう、か……」

 天明が事の経緯を語ると、天元は戸惑いを隠せないまま返答する。

 自分は女房三人と共に抜け忍となってから鬼殺隊に身を寄せたが、その後にまさか一族が鬼の手によって滅ぼされ、生き残ったのが弟だけとは。

 これもまた運命の巡り合わせなのか。

「……さて、世間話はどうやらここまでみたいだな。産屋敷」

『っ!?』

 國広が不意に放った言葉に、一同は屋敷に目を向けた。

 直後、二人の子供が姿を現し、大層驚いた様子で「お館様の御成りです……」と声を発した。

「……会いたかったよ、國広」

 少女の手に引かれ、着物姿の男性が姿を見せた。産屋敷耀哉――鬼殺隊の最高管理者たる〝お館様〟だ。

 敬愛するお館様を視界に捉えた途端、柱たちは一斉に跪き、獪岳と天明も場の空気を読んで膝を突いた。

 ……國広は一人だけ、地べたに胡座を掻いて太々しく座っているが。

「てめぇ、何してやがる! お館様に対して不敬だぞォ!」

 國広の様子に、風柱の不死川実弥が怒号を上げるが……。

「俺はまだあのおかっぱの子分じゃねぇだろ」

 鬼殺隊の当主をおかっぱ呼ばわりした國広に、実弥は青筋を浮かべて凄まじい怒気を向ける。

 だが、当の本人はそんなものお構いなしに欠伸をかましている。

「初めましてだね、槍木國広。私は産屋敷耀哉、鬼殺隊をまとめ上げている者だ……早速だけど、國広――」

「言わなくたってわかる……鬼舞辻無惨を打倒するために、協力してほしいってんだろ?」

 國広が先に言うと、耀哉はニコッと笑う。

 まるで協力してくれるよね? と言わんばかりの笑顔だ。

 ここまで関わってしまった以上、逃げ場はないし、縁も切れそうにない。

 となれば……答えは一つだ。

「手は貸してやるさ。どうせ断っても勝手に協力させられるだろうし…」

「國広……!」

「あーあ、せっかく山暮らしで穏やかな余生を送ろうと思ってたのに……」

 溜め息を吐きつつも、國広は了承する。

 それを見届けた耀哉も一安心し、改めて柱たちに声をかけた。

「さあ、気を取り直そうか。半年に一度の柱合会議を始めよう」

 

 

           *

 

 

 座敷に上がった柱たちと國広は、広間に集まり耀哉を待っていた。

 その間、國広は質問攻めに遭っていた。

「日輪刀も無しで鬼を殺し続けたんだってなァ? 何をどうやったらそんな事できんだァ?」

「剣の才覚はからっきしだが、槍や弓とかはすぐ上達できたからな。穂先や矢尻に藤の毒を塗って仕留めてきたぜ。武器は大体が手製だ」

「おいおい、そりゃ本当か? 派手に話盛ってねぇか?」

「俺が生きてることが、その証拠にはならねぇか?」

 不敵に笑う國広に、天元は「そりゃそうだわな…」と呟く。

「日輪刀が無くても鬼と戦い、屠れる……それは素晴らしいことだ……」

「悲鳴嶋さん…」

「たとえ日輪刀を失っても、鬼を屠る手段を複数持っている……今後の鬼との戦いで、國広の戦い方は大いに参考になるはずだ……」

 悲鳴嶋は國広の話を聞いて、彼の技量に感服していた。

 主力にも補佐にもなれる人材は、今の鬼殺隊には貴重だ。その國広が鬼舞辻打倒に力を貸してくれるとは、望外の幸運だ。

 ……もっとも、本人は当初こそ消極的だったが。

「……それより、俺の相棒と天明はどうした?」

「二人には任務に向かってもらったよ」

『!!』

 不意に障子が開き、耀哉が姿を見せた。

 曰く、れっきとした鬼殺隊士である獪岳は任務遂行を優先させてもらい、天明は天元の弟ということもあって戦力足りえるのか見極めるべく、獪岳と同じ任務に同行するよう命じたという。

「大丈夫、天明には日輪刀を渡してあるから、そこは安心してほしい」

「……一報入れてくれてもいいだろ、あの二人は俺の身内だぞ」

「ごめんね、柱合会議の時期は柱の担当区域が手薄になりやすいから」

 上座に座りながら弁明する耀哉に、國広は「人使いの荒い奴…」とボヤいた。

「今回の柱合会議は、皆もわかっているだろう。國広とカナエが遭遇した上弦の弐についてだ」

 耀哉はそう言うと、國広に焼けただれたような痕に侵された顔を向ける。

「まず…先日は本当にありがとう。上弦の弐と戦って、よく生き延びたね。カナエも守ってくれた。やはり國広はとてもすごい子だ」

「別に感謝されるようなことじゃねぇよ。あのまま見殺しにできる程、俺は人間やめてねぇだけだ……それにあの様子だと、復帰は無理だろ?」

「……そうだね」

 國広の指摘に、耀哉は光を失った双眸を伏せる。

 あの一件で、カナエは肺を損傷して全集中の呼吸を扱えなくなってしまったため、柱を引退せざるを得ない。上弦と遭遇して生還できたことは喜ばしいが、これまで花柱として鬼殺隊を支えてきた彼女の損失を考えると、素直には喜べない。

 しかし幸か不幸か、それによりカナエの分の戦力を補える逸材が来てくれたと耀哉は語った。

「國広が上弦の弐と接触したおかげで、対策が立てられる。これは鬼殺隊の歴史上でも類を見ない快挙なんだ。上弦はここ百年、遭遇した報告すらなかったからね」

「単純に戦略的撤退ができてねぇだけだろ、そりゃ」

「何だとてめェ!?」

 國広の発言に、実弥が青筋を浮かべて立ち上がった。

「上弦に会ったら尻尾巻いて逃げろってかァ!? 柱として下の連中に示しがつかねェだろォ!!」

「逃げるのも戦いの内だろ」

「そういう問題じゃねェだろうがァ!!」

「そういう問題だろ。……お前さ、戦い終わらせるつもりあるの?」

 いきなり剣呑な雰囲気を纏い始めた國広に、実弥は僅かにたじろいだ。

 言い争いを始めた二人を宥めようとした耀哉も、國広の真剣な声色に気づき…開きかけた口をあえて閉じ、黙って見守ることにした。

「お前らは、人間と鬼の戦いを終わらせるのが目的だろ? 本気で終わらせたいなら、大局を見て動くのが筋だ。古今東西、戦国乱世で情報は常に重視されてきた。お前だって、鬼が勢いで勝てるような甘い連中じゃねぇのは身に染みてるだろ?」

「っ……」

(成程、在野の人間から見りゃ俺たちはそう思えちまうか)

 天元は腕を組みながらそう思った。

 

 國広は、鬼殺隊士ではない。

 全集中の呼吸も未収得だし、日輪刀も無い。というか、そもそも本人が言ったように剣の才能がない。

 それでも人間を超越した鬼を倒し続けて生きてこれたのは、純粋な実力の向上よりも状況把握や戦況分析を重視していたからだ。戦っている最中に相手の能力を推測し、そこから勝算を導くことに手慣れてるからこそ、上弦の弐を相手にカナエを救助できたのだ。

 

「だ、だがなァ……」

 思いの外しっかりした答えを返され、実弥は口ごもってしまう。

 確かにそうだ。言い方こそもう少しどうにかしてほしかったが、國広の言い分は間違いではない。むしろ正論に近い。

 相手がどのような異能を駆使するのか、何処を縄張りとし何人の罪なき人々が関わってるのか、どれぐらいの戦力なら勝算はあるのか……これらの情報を把握・整理し、戦略を立てなければ迂闊に戦いを挑むべきではないのも紛うことなき事実なのだ。

 どう反論すればいいか悩んでいると、耀哉が先に口を開いた。

「実弥、君の言っていることは正しいよ。鬼を滅してこその鬼殺隊だからね。ただ…上弦の鬼相手では、こちらも万全な態勢で臨むべきなのも事実だ」

「お館様……」

「國広の言ってる通り、これは戦だ。短期決戦が望ましいけど、事と次第では我々が不利な持久戦・長期戦を余儀なくさせられる可能性も十二分にある。最悪、柱の全滅も考えなければならない。……だからこそ、私は國広に上弦の弐の情報を提供して、対策を練りたいんだ」

 耀哉はそう言うと、改めて國広の方に目を向ける。

「些細なことでも情報は情報だ……國広、君の証言と推測から上弦の弐に対する対策を立てたい。いいかな?」

「そうだな……とりあえず率直に言う」

 國広は一拍置いて、とんでもない言葉を口にした。

 

「現時点で敵に動きが無ければ、今の戦力でもあいつは倒せる」

 

『!?』

 その発言に、柱たちは一斉に驚愕した。

 カナエを容易く瀕死手前に追い込んだ上弦の弐を、今の戦力でも倒せると國広は言ったからだ。

「おい、本当だろうなァ!?」

「あくまでも()()()()()()()()()()()()()()の話だ。鬼舞辻が変に異動でもさせない限り、奴の首根っこを掴んだも同然ってだけだ」

 一同が驚きを隠せない中、國広は口角を上げた。

 

 槍木國広という外様の人間が参加する、前代未聞の柱合会議。

 それは、人間と鬼の戦いに新たな旋風を巻き起こすことを意味していたのであった。




次回は柱合会議後編。
そろそろ山梔子村でも動きが……?
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