お相手はおはぎ柱です。
外様の人間――槍木國広が参加する、前代未聞の柱合会議。
彼は自身の推測も兼ねて、鬼殺隊に情報提供をしていた。
「今回対峙した童磨という鬼……奴とは屋外で戦うべきだ」
「國広さん…その理由は?」
國広の言葉に、しのぶが質問する。
その答えは、至極単純なものであった。
「簡単だ。風の影響を受けるからだ」
「風…ですか?」
「ああ。奴の血鬼術を「冷気の発生」と仮定すると、屋内では絶望的な威力を発揮するだろう。だが、屋外ではそうはいかない」
「冷気が風に流されるからか!!」
ハッとなる錆兎に、國広は頷いた。
屋内や密閉空間では、風は吹かずに冷気だけが充満し、逃げ場がなくなる。だが屋外で血鬼術を行使する場合、風の流れを計算した上で発動しなければ、有効に冷気を相手に向けることが出来ない。如何に鬼の血鬼術が凶悪無比でも、環境次第でそれが足枷となるのだ。
当然、それを物ともしない勢いで放つ可能性も十分あるが、鬼とて生物である以上は少なからず消耗はする。そういった要素を加味すれば、屋外での戦闘の方がまだ勝機はあるというわけだ。
「っつーか、そもそも頸を刎ねなくても日光と藤の毒が通じんだ。鬼を殺すのにわざわざ剣術にこだわる必要はねぇだろ? 矢尻に藤の毒を塗った矢で針の筵にするもよし、小銃の集中砲火で蜂の巣にするもよし…鬼を殺す武器なんざ、材料と知恵さえありゃあどうにでもなる。俺はそれでずっと生きてきたからな。そこに金が絡めばもっといい代物が造れる」
「成程な……」
「俺としては槍と銃をもっと増やしてほしいな。槍の長さは恐怖を薄れさせるし、銃に至ってはどの武器よりも訓練が早い。非戦闘員の護身としても申し分ねぇ」
國広は槍と銃火器を推す。
鬼の頸は確かに岩盤のような凄まじい硬度だが、それ以外は人間よりも頑丈な程度で、ある程度腕に覚えのある者なら腕や足を斬り落とすのもそう難しくはない。現に全集中の呼吸を会得していない國広が、手製の槍などで鬼と渡り合っているのが証拠だ。
ならば金にものを言って近代兵器を銃砲店から買い漁り、それを鬼狩りに流用すればいい。鬼殺隊の中には諸事情で鬼を狩れない者も一定数いるため、彼らにも火器類を支給してやればいいのだ。
「産屋敷…あんたがどんだけの財力を持ってるかは知らねぇ。だが鬼との戦いは猟師の狩りじゃねぇ、戦争だ。戦争するには金がいる」
「……國広」
「俺は世俗から離れた暮らしをしてたが……今時の人間は大義より日銭と飯だ。大抵の奴は金を稼げなきゃ飯が食えねぇからな」
その言葉に、一同は押し黙る。
鬼殺隊の構成員は、その多くが鬼に愛する者・大切な者を殺された者たちだ。しかし近年の鬼殺隊は徐々に金銭面を理由とする隊士が現れ始めており、その傾向は徐々に強まっている。
人が増えれば増えるほど、組織は制御統一が難しくなっていく。愛する者を鬼に殺され入隊した者、代々鬼狩りをしている優れた血統の者以外に、それらと同等以上の覚悟と気迫で結果を残すことを求めるのは酷というものだ。
「……國広、鬼殺隊は今後どうするべきだと考えてるんだい?」
「おいおい、人間を統率すんだぞ。我もあれば情も欲もある。そんな奴等を纏め上げるのは並大抵の事じゃねぇ。まぁ、ある程度の頭数なら面倒を見れねぇこともないってとこか」
國広はそう言うと、耀哉は我が意を得たりとでも言いたげに微笑み、こう告げた。
「國広……君には遊撃隊を率いてもらおうかなと思ってるんだ」
『!?』
その言葉に柱たちは瞠目し、國広は不敵な笑みを浮かべた。
「お館様、こんな奴に柱と同等の権限を与えるおつもりですか!?」
「……お言葉ながら、理由をお伺いしても?」
食って掛かる柱たちに、耀哉は優しく口を開いた。
鬼殺隊士の最高位に立つ柱は、広大な担当地区の警備を行い、多数の激務を実質1人でこなさなければならない実力主義の集団。ゆえに殉職あるいは引退で誰か一人でも欠けたら、残された者の負担はとても大きくなる上、後任の柱が生まれ難いという欠点がある。
そこで耀哉は、在野でありながら上弦相手に生き残るどころか重傷を負った
それに上弦の鬼は柱単体で勝つのは非常に困難であり、「上弦に対し柱数人」というのが理想とされる。それは「上弦と思われる鬼がいる」という予測では動けないことを意味する。だが國広が上弦らしき鬼と交戦して生還したとなれば話は別だ。彼を自由に動かせる立場にすることで、相手が上弦かどうかわからなくても差し向けられ、上弦だったとしても足手纏いにならずに戦える。
遊撃隊が後方支援に徹し、最強の鬼殺隊士たる柱と臨機応変かつ変幻自在の戦法が出来る國広で上弦を追い詰める――ということも実現できるかもしれないのだ。
「國広のように剣の才覚がない者、呼吸を覚えられない者、その他の事情で鬼と戦えない者も、戦力として動かすことが出来る……それはとても素晴らしいことなんだよ」
「確かに…」
「ああ。それにこいつ、地味だが引き際を見極めるのが上手い。こいつを頭目に据えて置きゃあ、遊撃隊は立て直しが容易だ」
耀哉の言い分に、義勇と天元は同意する。
「國広さんは槍術や弓術、毒の扱いに加え、見たことのない武器も駆使してます。剣士以外の戦力で鬼と戦うのも、存外敵を翻弄できるかもしれませんね」
「ああ……我々にとっても、國広の戦法は良い意味で型破りだ。それを鬼殺隊で共有できれば、鬼との戦いも有利に進められる」
しのぶと行冥も、國広の戦術に価値を見出したのか、肯定的な意見を述べる。
鬼殺隊士は剣士しかいない――その認識を逆手にとった國広の戦術は、彼自身の努力や才能もあるが上弦相手にも立ち回れることは証明できている。それが隊全体の戦術の幅を広げ、幾許かは鬼との戦いを有利に進めることが出来るだろう。
「……どうかな? 國広」
「ああ…その話、乗った。俺も鬼どもに生活を邪魔され続けるのも困るんでな」
快諾した國広に、耀哉は笑みを深めた。
しかし、それでもなお食い下がる者がいた。風柱である不死川実弥だ。
「おい、待て國広ォ」
「?」
「お館様に任命される以上、相応に強くなきゃ困るぜェ……」
ドスの効いた声で凄む実弥に、國広は目を細める。
だが、次の瞬間には冷笑を浮かべてみせた。
「表、出ろや。テメェのことがハッタリじゃねェか、俺が確かめてやる」
*
というわけで、風柱と在野の強者による御前試合が始まろうとしていた。
一応真剣の使用は禁じられてるため、実弥は木刀を手にしているが、國広は……。
「テメェ、ふざけてんのかァ!?」
「仕方ないだろ、槍がねぇんだから。物干し竿で勘弁してくれよ」
何と、國広は洗濯に使う物干し竿を手にしていた。
木刀対物干し竿という、あまりにも不釣り合いな戦いに、他の面々は笑いを堪えるのに必死だ。
だが無理もない。人間と鬼の千年に渡る戦いの中で、槍を扱う鬼狩りは鬼殺隊に一人もいなかったのだから。
「そんな得物で後悔すんじゃァねェぞォ!!」
そう叫びながら、実弥は凄まじい勢いで駆けた。
〝風の呼吸 壱ノ型
「…いっちょやるか」
國広は小声で呟いてから物干し竿を構えると、目にも止まらぬ速さで突き技を放った。
竿の先端が実弥の顔面へと迫るが、その攻撃を紙一重で躱し、横薙ぎの一閃で反撃。
國広は体を仰け反らせて回避すると、そのまま一回転して距離を取り、凄まじい速さで連続突きを放つ。四肢を狙ったそれは、当たった瞬間に関節を外されて戦闘不能にさせてしまうだろう。
「チッ……〝参ノ型
実弥は自身の周囲を竜巻の様に激しく連続で振るい、牽制を謀る。
すると國広は、何と物干し竿の先端を地につけ、棒高跳びの要領で飛び上がって躱した。
「何っ!?」
まさかの跳躍に、思わず目を見開く。
跳び上がった國広は物干し竿を思い切り振り下ろした。
「ぐっ!?」
咄嗟に木刀で防ぐ実弥。
しかし強度で言えば雲泥の差……木刀を打った物干し竿は真っ二つにへし折れてしまう。
「ハッ! 勝負ありだァ」
そう嗤う実弥だが、それも國広の計算通りであった。
國広は折れた物干し竿の片割れを投擲。実弥の首を狙う。
それを紙一重で避けると……。
「っ!?」
「さっき、一瞬気ぃ抜いたろ? ダメじゃねぇか、勝負は最後までわからねぇもんだぜ?」
気づいた時には、木刀の柄を掴まれてしまい、折れた物干し竿が目の前に突きつけられていた。
そう、國広はわざと物干し竿をへし折ってから投擲することで、相手の一瞬の油断を誘うという策を講じていたのだ。
見事に隙を突いた國広に、風柱は思わず舌打ちをする。
「錆兎…!!」
「ああ、前々から強いとは思ってたが、あの不死川と互角に
「派手にやるじゃねぇか、気に入ったぜ!!」
「まさかこれ程の強者が、在野で埋もれていたなんて……お館様が勧誘するのも頷けます」
柱たちは國広の実力に舌を巻く。
しかも驚くことに、彼はほとんど息が上がっておらず余力を残している。もしかすれば、本当に十二鬼月を打ち破り、鬼舞辻との戦いに終止符を打てるかもしれない。
そして耀哉もこの結果には満足しており、國広の強さは本物だと判断しているようだ。
「ではこれで、國広が君たちと肩を並べられる強さを持っていると証明されたね」
「まぁ、これぐらいやれねぇとな」
「君の強さは、必ず鬼殺隊の助けになってくれる。どうかこれから、よろしく頼むよ」
柱に対して凄まじい実力を見せつけた國広を、耀哉はそう評価した。
こうして國広は、正式に鬼殺隊の新たな戦力として認められたのであった。
次回、ついに國広遊撃隊が始動。
果たして、そのメンバーとは……?