謎のヘルメット傭兵 作:357
殺伐系未来学園都市群キヴォトス。透き通るような青空とは対照的に、地上では発砲や爆発の音が絶える日はない修羅界めいた場所だ。僻地とて例外ではなく、寧ろ争いは苛烈だ。
「オラオラー! 全員血祭りに上げてやれー!」
「元お嬢さま連中に豚みたいな悲鳴上げさせてやるよ!」
「ひ〜ん! 前線が突破されそうです〜!」
「泣き言を仰らないで! とにかく撃つんですのよ!」
二つの不良少女グループが激しい銃撃戦を繰り広げていた。片方の陣営はゲヘナ退学者で構成され悪魔のような角を付けたヘルメットが特徴的なガタガタヘルメット団。対するはトリニティ退学者で構成され、天使の羽を模したペイントがされている白いヘルメットのふわふわヘルメット団。
赤熱した弾丸が飛び交い、合間合間ではグレネードが爆発する。その様はまるで火の嵐。もし両者の間に迂闊にも鳥が飛び込もうものなら一瞬にしてツクネへと変身するであろう。
「いやあああ! ヤマコさんが倒れてしまいましたあああ!」
「ゲッヒャッヒャッヒャ! このまま本丸を潰すぜー!」
戦況はガタガタヘルメット団に傾いていた。装備の質では元トリニティ生ということもあり無駄遣いに迷いのないふわふわヘルメット団の方が上であったにもかかわらずだ。
ガタガタヘルメット団のメンバーがゲヘナから去った理由は「そもそもガッコーとかやってらんねーぜ!」と大勢からの脱却という独立心。しかし一方のふわふわヘルメット団の構成メンバーは元いじめられっ子や派閥争いの敗者、追い出されるようにトリニティを去った者たちが危険なキヴォトスでなんとか生き残るためにより集まった、謂わば負け組の吹き溜まりだ。
同じ退学者の集団であっても戦闘能力やモチベーションには大きな差がある。
「も、もうダメです〜! 逃げましょうよ〜!」
「だまらっしゃい! こうなったら、切り札を使うしかないですわ!」
そう言うと小隊長が懐から煌びやかな装飾が施されたケースを取り出して蓋を開ける。中には真紅のベルベット生地に包まれた金色のグレネードがあった。それが納めてあった箱と同様に煌びやかな装飾が施されている。
「いいですか、まず使い方をおさらいします。
まず主の御心のまま、聖なるピンを抜きます。
そしてすぐに3つ数えます。多くても少なくてもいけません。
4では数えすぎですし、2では少ないのです。5など主の怒りを買うと思いなさい。
そして最後は投げつけます。聖なるピンを抜いて3つ数えてから優しく、しっかりと握りしめ、この主が賜った聖なるグレネードを下劣極まりないゲヘナの落伍者どもに目掛けて投げつけるのです。
そうすれば存在そのものが主の冒涜である腐れ外道のゲヘナどもは木っ端微塵に吹き飛びーーー」
「なんでもいいから早くやってください〜! 前線が突破されました〜!」
倒れ伏すふわふわヘルメット団員を踏みつけながら雪崩れ込むガタガタヘルメット団。
「あ、た、わ、わ、わ。い、いいでしょう。この聖遺物の力を思い知らせて差し上げます」
小隊長は十字架の形をしたピンを抜いてグレネードをしっかりと握りしめる。
「さあ皆さん。主を讃えるべく3つ数えましょう! いいですか? 4つでは多すぎて、2つなら少ないのです。5などもってのほかです。
いきましょう。ひとー」
小隊長が腕を振り上げると同時にグレネードが爆発する。彼女は真っ黒こげになり、割れたバイザーの下から覗く目をパチクリとさせて倒れた。
「うわ〜ん! 小隊長のおバカ〜!」
部下はガタガタヘルメット団へ威嚇する様に発砲しながら小隊長を引きずって後退する。
「ぶっひゃっひゃっひゃ! アイツら何やってんだ!」
「トリニティはテーブルマナーを覚えることしかできないってのは本当だったんだなぁ!」
ガタガタヘルメット団の勝利は目前に迫っている。もはや彼女たちの快進撃を止める者はこの場にはいない。
「ひ〜ん! せっかく見つけた寝蔵なのに〜!」
装備だけは立派なふわふわヘルメット団は他のギャング組織や非合法コーポにしてみれば格好の獲物。さながら肥え太った豚がサバンナに放り出されたのごとし。食われ、食われ、追い立てられ、追い立てられ、辿り着いたのは廃ビルだった。ここを奪われてしまえば明日からは橋の下、或いは公園を不法占拠してテント生活するしかない。
泣きながら小隊長を引きずる団員は物陰に隠れた時、隣の瓦礫の影で正座してペコペコ頭を下げる仲間の姿が目に入った。手には受話器が握られており、彼女の前には煌びやかな装飾が施されたダイヤル式電話が鎮座している。
「そ、そうですか! お近くにいらっしゃるのですね!? なるべく急いでお願いします! それではごきげんよう!」
彼女は受話器を電話にガチンッと乗せるとライフルを物陰から覗かせてガタガタヘルメット団への攻撃を再開する。
「あ、あなた。い、今何をやったんですか……」
仲間の連絡先について嫌な予感がした。家族ではないだろう。ここにいる者たちはドロップアウトと同時に勘当されているからだ。
「お喜びください! もうすぐ援軍がやってきますわ!」
「その援軍ってのは誰なんですか! まさか第三部隊じゃありませんよね!? あっちはこの間の戦闘でほとんどがヴァルキューレに捕まったじゃないですか!」
すると電話の彼女は一旦手を止めてサムズアップを返した。
「傭兵を雇用いたしました! パイソンのお姉さまです! ここを持ち堪えることができれば私たちの勝利は確定しますわ!」
「傭兵はともかくなんでよりにもよってパイソンお姉様なんですかあああああ! うわあああああん! またしばらく野草鍋生活だあああああ!」
彼女は嘆いた。大いに嘆いた。仲間のほとんどは世間知らずもいいところで適切な金の使い方を知らないのだ。今回雇った傭兵は高額の報酬を要求し、支払いを踏み倒そうものなら尻の毛をむしる勢いで苛烈な取り立てを行うことで有名だ。彼女たちの食卓はしばらく緑色で埋め尽くされることだろう。
「アーレー!?」
「よっしゃあ! ガトリング持ちを倒したぞ!」
激化する戦闘。ふわふわヘルメット団の主火力も次々と倒れ、誰もがバイザーの下で涙を浮かべ始めた。
その時、戦場を切り裂くように怪物のようなエンジン音が鳴り響く。
「え?」
ふわふわヘルメット団の頭上をブロンズの閃光が飛び越えた。それはバイクだ。ブロンズカラーのボディフレームを有したオフロードバイクだ。
着地したバイクはガタガタヘルメット団に立ち塞がるようにして停車し、それに跨っていた人物は足を振るようにして降りる。身長170センチ程度と長身で、全身を隠すようにトレンチコートを纏っている。頭にはスズメバチめいて吊り上がったデュアルアイバイザーを備えたブロンズカラーのヘルメット。その頭上で誇らしげに浮かぶ赤錆色のヘイロー。
「き、きたあああああ! パイソンお姉様あああああああ!」
パイソンと呼ばれているその生徒の登場にふわふわヘルメット団が沸き立つ。対してガタガタヘルメット団は狼狽えだした。中には後退りする者さえいる。
「パ、パイソンだ。パイソンが来たぞ」
「え? うそ。パイソンの姐御来てるの? あたしファンなんだ」
「嬉しそうな声してんじゃねーよ! 今回は敵だよ! 敵!」
戦場の空気が明らかに一変した。負けそうな側は勝ちを確信し、反対に勝ちそうだった側の戦意が明らかに低下した。そんな空気を気にする素振りも見せずパイソンは何気ない足取りで前へと進む。
「う、うおおおお! パイソンがナンボノモンジャー!」
「姐御おおおお! 手合わせオナシャあああああス!」
「ちくしょおおおお! 後でサインくださいいいいい!」
ガタガタヘルメット団前衛の団員たちが己を鼓舞する叫びを上げながら銃を構え、引き金を引こうとする。
だが次の瞬間。
「「「「「「ぶへぁっ!?」」」」」」
六発分の発砲音が連続で鳴り響き、六人が後ろへひっくり返った。全員ヘルメットのバイザーが砕け散っており、眉間には赤くて丸い痣ができている。
パイソンを見ればわかるだろう。いつの間にか銃を抜いており、銃口からは煙が立ち込めている。ブロンズフレームのリボルバー拳銃。銃身側面には「Amber Needle」と名前が刻まれていた。
銃は腰の高さに構えられハンマーに左手が添えてある。マシンガンを凌駕するほどの連射速度と恐るべき精密射撃を持ったクイックドロウにより一度に六人が撃ち抜かれたのだ。
「す、すげぇ。あれがウワサの必殺技『一瞬六倒』……」
「本物を見られて感激だ!」
「言ってる場合がアホども! あのリボルバーの装填弾数は六発! 奴は弾切れしている! 今が攻撃チャンスだ!」
銃撃戦において相手に弾数を気取られることは即ち死を意味する。ハッと我に帰ったガタガタヘルメット団は慌てて銃を構えた。
「うおおおお! 姐御を討ち取る絶好のチャンスううううう!」
「パイソンを倒せば名が上がるぜえええええ!」
「今日こそヘルメットの下の顔見せてくださいいいいい!」
憧れと野心が入り混じった無数の銃弾が吐き出される。一般的なキヴォトス生徒であれば一瞬でボコボコにされて気絶していたであろう。
だがパイソンは発砲が始まるより速く地面を蹴っていた。一蹴りで5メートルもの距離を跳び、射線の外へと何なく脱出。ガタガタヘルメット団が慌てて射線を合わせようとすれば更に地面を蹴って跳び回る。その間に素早くリロード。
「「「「「「あべし!?」」」」」」
一発分にしか聞こえない超高速超精密クイックドロウにより更に六人が倒れる。パイソン登場から二分足らずで十二人が倒れた。
「キャー! お姉様素敵ー!」
「お慕い申しておりますううううう!」
「うおおおお! 流石姐御だああああ!」
形勢逆転したふんふわヘルメット団から歓声が上がり、何故かガタガタヘルメット団員の何人かも歓声を上げて隊長に殴られていた。
「こ、こんなバケモン相手にできるかー! アレ持ってこい! アレ!」
たまらず退却し始めるガタガタヘルメット団。
「今ですわー! 皆さん反撃ののお時間ですわよー!」
「二度とわたくし達の宮殿に来れないようにしてさしあげますわ!」
「お頭をお捻じ切ってお玩具にしてさしあげますわー!」
これを好機と捉えたふわふわヘルメット団。瓦礫や廃車の後ろから乗り出し、パイソンに一礼しつつ脇を通り抜けてガタガタヘルメット団の背中を撃つ。その様子を尻目にパイソンは悠々とリロードを行った。
「「「「「きゃああああああ!」」」」」
だが突然追撃に乗り出していたふわふわヘルメット団員が爆発により吹き飛んだ。爆煙に投げかけられる巨大なシルエット、そしてキュラキュラと無限軌道の音が響く。
『思い知ったか! ウハハハハハ!』
煙から出てきたのは一両の戦車だった。車両前面の右側に大口径の砲塔を一門、頭頂部に小口径の砲塔を一門備えた多砲塔戦車だった。側面には「牙堕牙堕地獄目津斗団」「すごくつよい」「車両保険未加入」などと見る者を震え上がらせる文言がペイントされている。
『一応連れてきたけど弾代を節約したいから本当は使う気はなかった。だけどな! パイソンの姐御! あんたを倒せば砲弾の百発や二百発ぶっ放してもお釣りがくるぜええええええ!』
外部スピーカーから発せられる車長の怒号。
「ヒィー! み、みなさん! とにかく戦車に攻撃を集中させて!」
ふわふわヘルメット団が怯みながらも勇敢に戦車に銃撃する。しかし流石に戦車の装甲、全ての弾丸がカンカンと弾かれる。
『ウハハハハハ! そんな豆鉄砲効くものかー! 撃てー!』
「「「「「アーレー!」」」」」
正面主砲から発射された榴弾がパイソンのヘルメットを掠めるように飛び、後方のふわふわヘルメット団を吹き飛ばす。
だがパイソンは動じることもしない。何気ない手首スナップ動作でアンバーニードルのシリンダーを開くと、弾丸を一発抜いて別の弾丸と交換した。
『ウハハハハハ! パイソンの姐御! あんたをノして拉致してやる! ガタガタヘルメット団専属の用心棒になってもらうぞ! そんで、その…………ひ、膝枕してもらったり交換日記をつけてもらったりするんだ!』
恐るべき欲望の鉄塊が次弾装填をしながら照準をパイソンに合わせる。だが驚くべきことにパイソンもまた銃を構えていた。
「決闘するつもりですの!? 戦車と!?」
「無茶ですわお姉様!」
ふわふわヘルメット団が悲鳴のように声を上げる。パイソンが普段使っているのは357マグナム弾。キヴォトス人あっても大抵は一撃で昏倒させられるだけの威力がある。しかし所詮は拳銃弾であり戦車を貫くほどの威力はない。スズメが鷹に勝てないように、それは純然たる摂理なのだ。
『ウ……ウハハハハハ! 勝てないとわかっていて尚も立ち向かう! だからアンタが大好きなんだ! お望み通り正面から吹き飛ばしてやる!』
戦車の砲口が定まった。照準の中心にはパイソン。
『これから毎晩添い寝してもらって朝はちゅーで起こしてもらうんだああああ! 発っしーーーーー』
榴弾が発射されるよりも速くアンバーニードルが火を吹いた。先端の尖った特殊弾頭が炎の尾を引き、空気を切り裂いて飛翔する先は戦車の砲口。その中へ吸い込まれるように入っていく。
そして爆発。
『どわああああああああ!!!???』
戦車の開閉部から炎が噴き出し上部の砲台が真上に向かって吹き飛ぶ。特殊徹甲弾頭が戦車の榴弾を貫通し、内部で爆発。そのまま機関部や他の榴弾を誘爆させたのだ。
「ひええええ! 戦車まで引っ張り出したのにー!」
「みんなでお小遣い出し合って何ヶ月も貯金して買った戦車なんだぞ!」
「いや! 待て! パイソンの姐御に破壊された戦車の部品と銘打って売れば元は取れるぞ!」
完全に足を止めたガタガタヘルメット団。
「なら私たちがいただきますわー!」
「あっ! テ、テメー等! 人の物を奪ろうなんてふてぇ奴らめ!」
「貴女方に言われたくないです〜!」
切り札を失ったガタガタヘルメット団に最早勝機などなかった。勢いづいたふわふわヘルメット団の圧力に圧され、倒れた仲間を引き摺りながら次々にエリアから撤退していくのだった。
「や、やりましたわー! 私たちの勝利ですわー!」
「「「「「きゃー!」」」」」
黄色い勝鬨が上がり、ふわふわヘルメット団は沸き立つ。
「廃品パーツでもお姉様破壊プレミアをつければネジ一本五千、いや一万円でも……あ、でもちゃんとした証拠がないと! お姉様ぁ! お願いですからここの装甲部分にサイン下さい〜!」
会計係がパイソンに飛びつく。
「あ! はしたないですわ! ずるいですわ! わたくしもお姉さまの腕の中にー!」
「抜け駆けはダメですわよー!」
小鳥のように集まってくるふわふわヘルメット団に動じるでもなく、パイソンは銃をホルスターに収めるのだった。
◆◇◆
ゲヘナ自治区の片隅にある荒れた通り。建物は整備や保証の期間が過ぎた違法建築ばかりであり、その建物はどれも「バカ」「スプラトゥーン」「血見毛良」など、猥雑な落書きに埋め尽くされている。
そんなブラックマーケットもかくやというほどのスラムにある建築物の一つ、シャッター付きのそれに一台のバイクが入っていく。パイソンだ。
バイクから降りたパイソンはシャッターを降ろし、厳重に鍵をかけて車庫から出て階段を三階分登る。途中、廊下の真ん中で居眠りしているスケバンに布をかけ直し、「 0 」と薄れたマジックで書かれたドアの前に立ち、鍵を差し込んでその中へ入っていく。
暗い部屋の奥へ進みながらパイソンはホルスターを外して帽子かけに引っ掛け、トレンチコートを脱いでコート掛けに適当に被せる。
コートの下には防弾チョッキを着ている。そしてそれを外してその辺にドサリと落とす。その胸に女性的膨らみはない。単なる持たざる者? 否、そうではないのだ。
パイソンがヘルメットを外す。そこで
「…………だる」
どっと身体が重くなる。風船の中の空気が鉄に変わったかのように。ヘイローのない頭をボリ、ボリとかき、そのままベッドへ倒れ込んだ。
(今日稼いだ額は137万8,532円で、そこから返済額とか弾代とかガソリン代とか色々差っ引いて……残りが3万56円………借金完済まで7,953万247円……………あと何年くらいかかるっけ……………)
ヘイローが浮かぶヘルメットを抱きしめたままパイソン、都状フミオは深い眠りへとついた。
都状フミオ
中学へ上がる時にキヴォトスの学校へ半ば強引に送り込まれ、以降両親と音信不通となった捨て子。
ある日不良生徒にカツアゲされたことをきっかけに不登校児になった。
更に悪い大人に騙されて一億円の借金を背負わされ、返済のために生きるためにアルバイトと売れそうなゴミを探す日々に汗水流して暮らしていた。
ある日、ゴミ漁りの最中に被るとキヴォトス人と同じ力を得る不思議なヘルメットを拾い、傭兵として金を稼ぐことを決意する。